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38 理玖side


「確かに母様の言うことは信じられないというのもわかるわ。でも祖父江伯爵が伯母さんに執着していたと言う話は本当ではないかと思うの。祖父江伯爵と初めて出会ったのはわたしの社交界デビューの日だった。さすがに母様もわたしを社交界デビューさせてくれたのよ。社交界デビューしていないと結婚できないから仕方がなかったのかもしれないけど、わたしは嬉しかったわ」


 茉里が話してくれるのを訊きながら、どうして私は彼女の社交界デビューを見逃したのだろうかと悔やんでいた。社交界デビューの時は白のドレスと決まっている。私が見逃した茉里の社交界デビューのドレス姿を祖父江伯爵は見たのか。社交界デビューは何年か前の話だから、まだ少女のように初々しかったのだろう。今まで付き合った女性の少女時代なんて興味はなかったが、茉里の少女時代は見たい。絵姿……はないだろうな。愛莉のならありそうだが茉里の絵姿はないだろう。

 そうだ、今度二人の並んだ姿を絵にしてもらおう。いや、私はいない方がいいか。彼女だけの絵を描かせよう。


「祖父江伯爵は両親に紹介されたのか?」


 あの母親の様子では祖父江伯爵を紹介するとは思えないが一応尋ねる。


「いいえ、両親は社交界デビューには一緒に来てくれなかったから兄様に紹介されたの。初対面なのにジロジロと見る視線が嫌だったけど、兄様に紹介されたので仕方なく挨拶をしたの」


 茉里の両親は社交界デビューにさえ一緒に行かなかったのか。だがさすがに社交界デビュー用のドレスは用意してくれたのだな。社交界デビューはどうしても姉である茉里の方が先だからお下がりはできなかったはずだ。


「それで? まさか踊ったのではないだろうな」


「えっ?」


「踊ったのか?」


「兄様にすすめられたので断ることなどできないわ」


 舞踏会に出席すればダンスの申し込みがあることはわかるし、社交界デビューしたばかりだと上手な断り方もわからないから踊るしかない。だが祖父江伯爵と初めてのダンスを踊ったのかと思うと腹がたつ。自分がこんなにも嫉妬深いとは思わなかった。


「だが最初のダンスは私が踊りたかった」


「そ、それは無理よ。最初のダンスは家族とするものでしょう?」


「君の最初のダンスは祖父江伯爵ではないのか」


「祖父江伯爵としたのは二番目です。兄と先に踊りましたから」


 二番目と聞いて少し溜飲が下がる。だが二番目と覚えているのが嫌だ。私としたのは何番目なのか気になるではないか。


「私とのダンスは何番目だ?」


「えっ? さ、さすがに覚えてません」


 茉里はあまり夜会には出席していないと聞いているが、それでも全く参加しなかったわけではない。私との出会いも彼女の屋敷での夜会だった。だからダンスをした相手が何人かいるのはわかるのだが悔しい気がする。

 私だって数多くの女性と踊っている。茉里と踊ったのが何番目かと聞かれたら困るのは私も同じだ。二番目だと覚えてもらえている祖父江伯爵が妬ましかっただけだ。


「そうか。私とのダンスは何番目か覚えていないのか」


 態とらしいほど沈んだ声を出すと茉里が目を丸くしている。彼女は考えていることがすぐ顔に現れる。そこが可愛らしくてたまらない。だから彼女が祖父江伯爵と浮気をしたなんて思ってはいない。昨日は噂を聞いたばかりで頭に血がのぼってしまい、冷静に考えられなくて傷つけてしまった。茉里が旦那である私を裏切るなどあり得ないことなのに。


「そ、それは仕方がないですわ。わたしはそれほど踊ったことがないですから三十番以内だとは思いますけど…」


 真剣な顔で三十番以内と言う茉里に思わず吹き出してしまった。笑ってしまった私を見て揶揄われたことがわかった茉里は真っ赤になった。真っ赤になる茉里も可愛いな。


「理玖さんこそ、私は何番目なんですか? 答えられないほど多いんでしょうね」


 まさかこう切り返されるとは……。嘘で誤魔化すとさらに機嫌が悪くなりそうだ。かといって三百以内? 五百以内か? 正直な数を答えてもまずい気がする。


「そうだな。好きになった女性と踊ったのは君が初めてだ」


「ええっ! そ、そんなことは聞いてないです」


 さらに真っ赤になった茉里を見ながら紅茶を飲む。大事な話をしていたはずなのに、どうして横道に逸れたのか。茉里といると優先しなければならないことを忘れてしまう。でもそれでいいのかもしれない。たまにはこうしてゆっくりお茶を楽しむ時間があってもいい。やっと結婚したことに実感が湧いて来た。もう茉里は私だけのものだ。誰にも渡さない。


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