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今日、わたしは妹の婚約者だった人と結婚する。

妹は変わった子だった。浮世離れしているというか、この世の人ではないのではないかと思ったこともある。

彼女が死んだ日、わたしは彼女が神に選ばれたのだと思った。『神に選ばれし娘は早死にする』この地での言い伝えだ。今では誰も信じていない迷信。でも妹は神が愛しても不思議ではないくらいに美しかった。宝石のような緑の瞳に太陽のように輝く金色の髪。色も白く透き通っているかのようだ。唇は紅を塗っていなくても紅く濡れている。妹が現れるだけでその場は光り輝き、誰もが彼女に惹かれていく。妹が生まれるまでのわたしは多分可愛がられていたと思う。優しい声でわたしを呼んでくれていた両親や兄の声をなんとなく覚えているからだ。その時のわたしはまだ二歳位だったから本当ならそんな記憶は残っていないはずなのに、両親や兄との良い思い出が他にないからか時々夢に見るのだ。

誰からも愛されていた妹の死にわたしは悲しむことが出来なかった。皆が悲しんでいるなか、わたしは挨拶回りで忙しかった。両親や兄の分もわたしがしっかりしなければと努力した。でもどれだけ努力してもわたしでは妹の代わりにはなれない。わかっていたことだから悲しくはない。

両親と兄はわたしという存在を長い間忘れていた。

妹が死んでからしばらくして、彼らがわたしという存在を思い出す出来事が起こる。このことがなければ両親はわたしを思い出さなかったかもしれないけれど、その方が良かった気がする。

妹の婚約者だった三千院理玖がわたしとの縁談を望んでいるという、何かの間違いとしか思えない話だった。三千院理玖はわたしには鬼門だ。彼の前では失敗しかしていない。初めてあった日から彼には嫌われていた。それなのになぜ縁談? 間違いとしか思えない。もちろんお断りしてほしいと家族にはお願いした。でも彼らはわたしの意見など求めていなかった。


「こんな良い縁談を断って、他に結婚したい相手でもいるのか? ほら、いないんだろう? こんな縁談はお前には二度とないぞ。愛莉のおこぼれが嫌なのか?」


愛莉は妹の名前だ。そう三千院理玖は愛莉の婚約者だった。それなのにどうして愛莉とは似ても似つかないわたしと結婚しようとしているのだろう。彼に言われた言葉は忘れられない。


「君、本当に愛莉のお姉さんなの? 全然似てないね」


そう可愛い愛莉とわたしは全然似ていない。そんなこと言われなくてもわかっている。

わたしと愛莉を比べて批評する人はいない。でもわたしと愛莉を見比べて首を傾げるので何を考えているのかはすぐにわかる。

だから三千院さんの言葉はショックだった。分かりきったことを面と向かって言われ、哀れむような目で見られたのだから。彼にはそのあとも何度も絡まれた。


「妹を妬んでいても何も解決しない、君ももっと外に目を向けるべきだ」


「少しは小綺麗にすればマシになるだろうに」


「いつまでも本の世界に隠れてはいられないぞ」


会うたびに何か言われるから、なるべく顔を合わさないように隠れていた。それでも何故かわたしを見つけだし嫌味を言うのだ。

会えば妹の婚約者でもある三千院を無視するわけにもいかず、彼の嫌味を黙って聞いていた。三千院は黙って耐えているわたしの姿も気に入らなかったようで、イライラとした表情を隠すこともなかった。それなら放っておいてほしいと何度思ったことか。


「君のことは愛莉も心配している」


最後はいつも同じセリフだ。三千院は愛莉のためにわたしにしっかりしてほしくて小言を言ってるのだ。本当にわたしのことを案じているわけではない。

妹が死んで三千院家とは付き合いもなくなると思っていたのに、彼は何を考えてこの婚約話を持ってきたのだろうか。こんな話、絶対に潰さなくてはならない。誰も幸せにならない結婚なんてあり得ないのだから。

そう思って三千院に何度も婚約を解消してくれるように頼んだけれど無駄だった。彼は笑って取り合ってくれなかった。初めのうちに逃げ出せば良かったのに、警備の数を増やされて逃げることもできなくなった。

そして今日わたしは彼と結婚するためにウェディングドレスを着てここにいる。外には警備のものが数人わたしを護るために立っている。もう逃げることはできない。妹の代わりなんて無理なのにどうしてこんなことになったのだろうか……。


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