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 お昼まで眠ってしまい恥ずかしくて顔を上げられないわたしと違って、理玖さんはまるで気にしてない顔でお昼のご飯を食べている。

 そんなわたしたちを生暖かい視線でカーサは見ている。公爵家で一緒に暮らしていなくて良かった。恥ずかしがるのが使用人に対してだけですむのはありがたい。ここにお義母さまやお義父さまがいらっしゃったら穴を掘っていたかもしれない。


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、私たちは新婚なのだから誰も気にしないよ」


 そんなことはない。少なくともわたしは気にする。明日からは絶対に寝坊はしない。わたしの決意に気付いたのか理玖さんは呆れたような顔をしている。


「君の伯母さんについて少しわかったことがある。これは君が知らなくてもいいいことでもあるんだが、君は知りたいかい?」


 聞くのは怖い気もする。母様があれほど嫌っているのだから、わたしと同じ顔をしているという伯母さんはいい人ではないだろう。でもこのまま知らないままで生きていても、いずれ後悔する時が来るかもしれない。だったら今知った方がいい。両親から聞くより理玖さんから聞かされる方が感情がこもっていないぶん楽に聞ける気がする。

 理玖さんから聞かされた伯母さんはわたしに似ているようには思えなかった。容姿が似ているだけでまるで違う人だ。それなのに母様にとってはわたしも伯母さんも同じ人のように見えているのだから不思議な気がする。父様は伯母さんが死んで正気に戻ったから母様と結婚したのかしら。そして母様もやっぱり父様をずっと好きだったのかもしれない。でなければ一度裏切った人と一緒にはならないと思う。


「伯母さんも愛莉と同じで馬車の事故で亡くなられたのね。伯母さんはどうして母様のものを奪っていたのかしら。愛莉は初めから母様に与えられてたの。わたしから奪うことはなかったわ。わたしには愛莉が欲しがるものなんて持ってなかったもの」


 でもわたしが持っていたおもちゃはいつの間にか愛莉のものになっていた。その後は買ってもらうことがなかったから奪われることもなかった。母様は本当に気付いていなかったのかな。もしかして本当は愛莉の性格に気付いていたのではないの? ずっと一緒にいて気付かないなんてあり得ない。母様は愛莉のことばかり気にしていて、ずっと目で追っていた。その母様が愛莉の男性関係にまるで気付いていなかったとは思えない。

 母様は本当に愛莉を愛していたのかしら。


「どうした? 何を考え込んでいる?」


「母様のこと。愛莉の素行のこと気付いていなかったとは思えないの。母様はいつでも愛莉を見てたわ。愛莉のことを愛しているからだとずっと思ってた。でも違ったのかもしれない。母様は愛莉を見張っていたのかも……ってそんなことあるわけないわよね。いつだって母様は愛莉を抱きしめていたのだから」


 誰にも抱きしめてもらえなかったことを思い出す。二歳くらいの頃は確かに抱きしめてもらえていたのにいつの間にかその場所は愛莉だけのものになっていた。

 わたしの言葉が物欲しげだったのか、理玖さんが後ろからそっと抱きしめてくれた。さっきまで確かにメイドがいたのにいつの間にか二人っきりになっていた。気を利かせてくれたようで恥ずかしい。いつかはメイドのことを気にしないでいちゃつくようになるのだろうか。絶対にないと思うけど、メイドを空気のように思えるようにならないといけませんよとカーサに言われたことを思い出してため息をつきたくなった。あれってそういう意味だったのか。まだまだ修行が足りないようだ。


「抱きしめて欲しい時は言ってくれれば、いつだって抱きしめるからそんな寂しそうな顔をしないでくれ」


 理玖さんはわたしを抱きしめる腕に力を込めながら囁いてくれる。両親にさえ抱きしめてもらった思い出の少ないわたしにこれは高度すぎる。嬉しいけど恥ずかしい。アワアワして慌てるわたしに理玖さんはクッと笑う。恋愛経験の少ないわたしをからかうのが楽しいみたい。でもそんな理玖さんを怒ることもせず何故かわたしも楽しんでいる。

 こうやってずっと一緒に笑ってられたらいいなって思う。愛莉のことも両親のことも忘れて理玖さんのことだけ考えて生きていってもいい? 心の中で誰にともなく尋ねるが返事はなかった。


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