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「賢一さんが犯人でないのならいったい誰が愛莉を殺したの?」


「正直私が犯人でないのなら一番疑わしいのは君だよ」


 賢一さんの言葉にドキッとしたが彼はわたしを見ていない。彼の視線の先にいるのは理玖様だ。


「私がなぜ彼女を殺す? 理由がない」


「伯爵は愛莉との結婚を望んではいなかった。なぜ君が彼女と婚約したのかとても不思議だった。愛莉はとても愛らしい子だったけど君の好みじゃない。君の視線の先にいたのは…」


「愛莉との婚約解消ならいくらでもできた。わざわざ殺す必要などない」


 理玖様が賢一さんの言葉を遮るように言った。

 その通りだ。理玖様は愛莉の素行調査までしている。簡単に婚約解消ができたに違いない。それどころか子爵家に慰謝料だって請求できたのではないかしら。たぶん婚約式をしていないから問題にしなかったのだろう。


「そうよ賢一さん。理玖様が愛莉を殺すはずがありません。理玖様は愛莉に一目惚れして婚約を望まれたのですから」


「「え?」」


 どうして二人ともおかしな顔をしてわたしを見るの? 何か間違えた?


「まあいい。今日は結婚式で時間がない。話の続きは今度にしよう。それと松平さん、もう呪いで殺したとか言うのはやめたほうがいい。真に受ける馬鹿がいたら捕まってしまうぞ」


「愛莉が死んだのは事故だとばかり思っていたから、本当に呪いで事故を起こしたのかと思っていたんだ。だが車輪が細工されて殺されたのなら、私は全力で犯人を見つけなくてはならない。愛莉はきっと悔しい思いをしている。もしかしたら自業自得で殺されたのかもしれないけど…それでも愛莉のために最後にできるだけのことをしたいんだ」


「私もできるだけ協力すると約束しよう」


 初恋だった男性と結婚する予定の男性が握手をしている。わたしは二人を不思議な光景だなと眺めていた。



 その後のことはあまりよく覚えていない。賢一さんが来たことでぐずぐずと悩んでいたことも忘れてしまい、逃げることも忘れ、ハッと気付いた時には結婚式は滞りなく終わっていた。

 結婚証明書にもサインをしたし、もうわたしがずっと望んでいた平民にはなれない。離縁されるようなことになっても、この国では平民として生活することはできない。離縁した妻が平民として生活するのは公爵家の恥になる。決して許してはもらえないだろう。

 伯爵家のメイドたちは優秀でわたしがボケっとしている間にテキパキと動いてくれた。そしていつの間にか大きな大きなベッドに座っている。

 これってここで旦那さまを待つってこと? やっぱり理玖様と一緒に寝るの?

 結婚したのだから当たり前のことだけど、なんでか実感がわかない。だってよく考えたら彼とはキ、キスだってしてないのに、いきなりベッドで待つってどうなの? ハードル高いよね。

 カーサが出て行こうとした時、思わず腕を掴んでしまった。カーサはちょっと困ったような顔でわたしを見た。


「い、行っちゃうの?」


「大丈夫ですよ。理玖様に全てをお任せすればいいのです。どうしても嫌だったら大きな声で呼んでください。理玖様は嫌がる女性に無体なことはしませんから」


 無体なことって何? 余計に怖くなったんだけど…。

 でもカーサの笑顔を見ていたら少しだけ落ち着いてきた。


「本当に呼んでしまったらごめんなさい」


「誰でも未知なことは怖いものです。怖くない人なんていませんから。きっと理玖様も同じ気持ちですよ」


「理玖様がですか?」


「そうですよ。きっと同じようにドキドキしていますよ」


 カーサが出て行って一人になると胸の動悸がさらに速くなったような気がする。

 でもその日、理玖様はベッドには来なかった。王宮に急ぎのようだとかで呼び出されてしまったのだ。

 わたしは「結婚式の夜に呼び出すなんて非常識すぎます」と怒っているカーサに何も言えなかった。ホッとしたような残念なような、なんとも言えない気分でわたしは大きなベッドにもぐった。

 本当に用事があったのかな。もしかしてわたしと一緒に居たくなくて用事を作ったんじゃない?

 頭の中にいろんなことが浮かんでたけど、結婚式とは異常に疲れるものですぐに眠ってしまった。だからわたしは全く気付かなかった。夜遅くに帰って来た理玖様がわたしを呼んだことを。


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