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わたしの婚約式なのに主役はわたしではない。

わたしより綺麗な顔をした理玖様の方が絶対に目立っていた。

理玖様は全身白で統一された上下の服をスマートに着こなしていた。胸元のポケットにわたしの瞳の色である緑色のチーフを入れている。婚約式では相手の色を何か一つまとわなければならない。わたしの髪の色はブラウンで地味だからから瞳の色にしたのだろう。

わたしのドレスは理玖様の吸い込まれそうな空色の瞳と同じ色で作られている。理玖様の髪の色は輝く淡い金色。さすがに金色のドレスを着る勇気はない。


「今日の君は輝いている」


「理玖様の選ばれたドレスのおかげです」


褒められることに慣れていないから、気の利いた言葉は出ない。彼の瞳の色と同じこのドレスの裾はフリルで縁取られふんわりと広がっている。腰の後ろにあるリボンは今年の流行だ。


「君によく似合っている」


胸元が開きすぎている気がして落ち着かない。でも今までと違ってお下がりのドレスでないから胸がきつくて苦しくはない。これから食事だけどこれなら残さず食べられそうだ。

最近は食事を抜かれることはなくなったけど、食べられる時にはできるだけ残さず食べておきたい。

理玖様との会話はそれだけだった。理玖様の父にあたる人はわたしをちらりと見ただけで何も言わなかった。愛莉だったらもっと会話が弾んだのではないか。わたしでガッカリしているのではないかと気がかりなまま婚約式は終わった。



「ねえ、カーサ。公爵様は反対だったのではないかしら。ずっと黙っていらしたわ」


帰りの馬車の中でカーサに尋ねると、


「公爵様は家ではいつもあんな感じですから心配ないですよ。それより茉里様も心ここにあらずでしたが、何かありましたか?」


と言われた。長く勤めているカーサでも公爵様の声を聞くのはあまりないそうだ。


「本当だったらここのにいるのは愛莉だったのにってずっと考えてたの」


そう本来の婚約者は愛莉だった。わたしが理玖様の婚約者になるなんて、夢でもあり得ないくらいの出来事だ。


「どうでしょうか。亡くなったって方を悪くいいたくないですが、愛莉様はとても可愛らしい方でしたが公爵夫人になる器ではありませんでした。花嫁教育も進んでいませんでしたし、あのままではいずれ駄目になっていたと思いますよ」


「え? 花嫁教育ってそんなに大切なの? 理玖様が選ばれたわけですから結婚してから勉強していけばいいのかと思ってました」


母様は花嫁教育に行くのを嫌がっていた愛莉に少しだけ我慢していればいいと説得していた。母様は受けるだけで大丈夫だと言っていたのに。


「確かに全てできないといけないというわけではありませんよ。でも愛莉様は努力する気もない感じでしたから、あれでは公爵夫人の賛成は得られません。それでも結婚すると理玖様が言われた場合は公爵家の跡取りは他の方になっていたでしょう」


そうなれば理玖様は三千院伯爵のまま生涯を終えることになる。わたしからしたら伯爵でも十分だなって思うけど、理玖様には耐えれないことかもしれない。

もしどちらかを選ばなければいけなかったら、理玖様はどちらを選んだのだのかしら。将来公爵になることか、それとも愛莉か。


「でもわたしは? わたしは大丈夫なんですか? わたしも公爵夫人になれる器じゃないですよ」


愛莉と違って学問の方は得意だけど、社交やダンスは苦手だ。


「奥様が茉里様は確かに社交やダンスはまだまだだけど、これから教育すれば大丈夫だと言われたそうですよ。愛莉様と一緒に花嫁教育を受けていて良かったですね」


公爵夫人に認めてもらえたことは嬉しいけど、わたしとしては反対してくれた方が助かったのに。ああ、でもその場合は祖父江伯爵の三番目の妻にされるわけだから八方塞がりだ。

今日の理玖様は嫌味もなく、口数は少ないけど優しい言葉をかけてくれた。愛莉という存在がなければ、彼の隣に立つことに迷わなかったかもしれない。それほど今日の理玖様は昔わたしが読んでいた『ツンデレラ』の王子そのものだった。

このまま愛莉のことを忘れて彼のそばにいたい。でもいつまでも理玖様が優しく接してくれるとは限らない。わたしは愛莉の姉に過ぎないのだから……。


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