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13 理玖side


晩餐会が終わり部屋に戻ると侍女のカーサとエリザが待っていた。エリザの方は子爵家から戻ってきて別の仕事についてもらっている。


「子爵家では茉里の扱いは良くなっているか?」


「いえ、あまり変わりはないです。ただ、私がいるので食事を抜かれることはなくなりました」


「そうか。できるだけ早く引き取りたいが、難しいものだな」


茉里があの家でどんな暮らしをしていたのかを本当の意味で知ったのは侍女のカーサとエリザを派遣してからだった。お下がりという言葉をもっと深刻に聞いていればよかった。知らない事とはいえ、何度も彼女を傷つけることを言ってしまった。


「茉里様が養女であれば引き取ることも難しくなかったでしょうが、彼女の両親は子爵夫妻で間違いありませんでした」


「実の娘にどうしてあそこまで悪意を向ける。愛莉に魅了の力があったことはわかっている。だから彼女の方をより可愛がったのは仕方ないが、だからと言って実の娘を傷つけるというのはわからないな」


今日の晩餐会でも母親の方は苦々しい表情だった。てっきり血が繋がっていないせいかと疑ってしまったほど茉里はあの家で虐げられていた。

あの初めての出会いの時、もっと話を聞くべきだった。一目惚れなんて初めてで、頭に血が上っていたとはいえ彼女を責めるべきではなかった。好きな子をいじめてしまう子供のようだったと今なら思う。

そして私はあり得ない勘違いで彼女の妹と婚約するはめになってしまった。愛莉という少女は確かに可憐で儚げで美しかった。だが私は惹かれなかった。彼女の魅了の瞳も私には通じない。私の両親にも通じないことで、彼女が戸惑っているのがわかった。愛莉が意識して魅了の瞳を使っていたのか、本人が死んだ今知ることはできないが、自分の願いは誰もが叶えてくれるものと思っていたことは間違いない。


「どうしてあなた達は私のいうことを聞いてくれないの?」


愛莉は努力することが嫌いで、勉強はしたくないと何度も言っていた。だが中々、花嫁教育を放棄しなかった。私の方から望んだ婚約だったので、彼女の方から放棄してもらわなくてはならないので、本来なら結婚してから学ぶ外国語や地理についても学んでもらった。我が儘娘だと思っていたが、意外としぶとく学ぶ姿勢は全くないのに花嫁教育をやめるとは言わなかった。

何故、間違えたのだろう。茉里の『お下がり』という言葉。そして誕生日だと言っていたから、彼女が愛莉という娘だろうと勝手に思ってしまった。愛莉という名の娘の誕生日パーティーだと招待状に書いていた。まさか同じ日に生まれた姉がいるとは思わなかった。何しろ招待状には茉里の名前がなかったのだから。まさか姉に妹のお下がりを着せるなんてことがあるとは思わなかったのだ。同じ日に生まれているのに、妹の名しかない招待状。

それでもいつもの私なら調べてから申し込んだはずだ。祖父江伯爵の様子に危険なものを感じて、急いでしまった。そのせいで回り道をすることになった。

私の方から申し込んだとは言え、公爵家と子爵家。断るのは簡単なのだ。だがそんなことをした後に姉の方をもらいたいと言っても上手くいくわけがない。だからどうしても愛莉の方に非があることで婚約を解消したい。

だから最終手段として侍女を派遣することにした。上級貴族では侍女がいるのが当たり前だと言えば、すぐに承諾された。茉里につけることには難色を示したが最終的には受け入れてくれた。

正直に言えば愛莉のついでに付けた侍女だったが、彼女の現状を知ってカーサに行ってもらって良かったと心から思った。

エリザの任務は愛莉の素行を調べてもらうことだった。もちろんそれとなく調べてはいたのだが、中々尻尾をつかむことができなかったので内部からも調べることにしたのだ。彼女には男がいる。清純そうに見えるが、男を知っている身体だとすぐに気付いた。姉である茉里とは明らかに違う、男に媚びを売るかのように上目遣いで私を見た。私が相手にしないとすぐに膨れた。

相手の男を調べて婚約の話を破談にする予定だった。あと少しというところだったのに、とつぜん彼女は死んでしまった。彼女が馬車を走らせていた先に愛人がいたことはわかっているが、それが誰だったのかは未だにわかっていない。あれは本当に事故だったのか? 不可解なことばかりなので、調べはまだ続けている。あれがもし事故でなかった場合、私も容疑者のひとりになってしまう。一番彼女を邪魔に思っていたのは私なのだから。


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