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結局わたしが九条公爵家の図書室で三千院伯爵に何故なのか尋ねることはできなくなった。

何故ならその前に妹の愛莉が事故で死んでしまったから。馬車が崖から落ちて遺体の損傷が激しかったそうで、わたしは最後の愛莉の顔を見ることができなかった。

何故、愛莉がその道を馬車で走らせたのか誰も知らない。馬車を走らせていた御者も一緒に死んでしまったから本当に誰にもわからないのだ。

父様と母様は葬式が終わってから部屋に籠ってしまった。ショックが強すぎたようだ。

公爵家から派遣されてる侍女をどうすればいいのか困って兄の小太郎に相談すると「向こうから何か言ってくるまでは放っておけ」と言われた。彼女たちの働きはとても役に立っているので、兄は手放したくないようだ。でも彼女たちは愛莉のために送られてきた侍女だから、このまま子爵家で働いてもらうわけにはいかない。彼女たちの給金は公爵家から出ているし、おそらく子爵家では払えない額だろう。


「三千院伯爵に連絡をしたほうがいいわ」


兄は役に立たないので、本人たちに任せることにした。妹付きのメイドだったエリザの顔色が悪いのが気になる。自分の担当だったのに死なせることになってショックを受けたのだろう。母様が彼女を責めていたからかもしれない。確かに侍女として愛莉から目を離してはいけなかった。でも愛莉にはこの屋敷にはたくさんの味方がいる。愛莉に逃げられたからと言って彼女を責めることはできないと思う。愛莉は舞踏会でもよくいなくなって母様が探すことがあったと聞く。常習犯である愛莉を見失ってしまうのは仕方のないことだ。

三千院伯爵が現れたのはそれから3日後のことだった。婚約までした愛莉に死なれて眠れないのか憔悴しているようだ。

両親は部屋から出ないし、兄は所用で出かけている。

仕方がないのでわたしが三千院伯爵の相手をすることになった。型通りの挨拶をして応接間に通したけど、何から話せばいいのかさえわからない。あれだけ花嫁教育で習っても実践するのは難しいものだ。


「侍女のことですがカーサの方は落ち着くまでこちらに預けましょう」


この家が機能していないと思ったからか三千院伯爵は優しい言葉をかけてくれた。

嬉しいけど甘えていいのだろうか。婚約式を行なっていないのだから愛莉と婚約していたことはあまり知られていない。本来三千院伯爵はわたしたちのことを気にしなくてもいいのだ。婚約した相手が死んでしまったのだからこれからは他人と一緒だ。


「公爵家の図書室へはいつでも訪ねてくるといい」


社交辞令だろうから頷いては駄目だ。読みかけの本もあったけど今まで通りにはいかない。


「ありがとうございます。でもわたしが訪ねていることが噂になるといけませんから」


妹が婚約者だったけどわたしは何の関係もないのだから自重しなければいけない。


「君は…」


三千院伯爵が何か言いかけた時、ノックの音がした。メイドが祖父江伯爵が訪ねてきていると言ってきた。両親が寝込んでいるので会えないと言ってもらう。

祖父江伯爵が何故訪ねてくるのかわからない。彼の目当ては九条公爵との繋がりだったと思っていたけど違うのかしら。もし彼が今でもわたしとの婚姻を望んだら父様は喜んでわたしを差し出すだろう。公爵家との縁がなくなってしまったから、伯爵家との繋がりを持ちたいと考える気がする。兄様だって今度は賛成するかもしれない。

でも心配することはないのかも。だって何の利もないのにわたしなんかを妻にと望むはずがないのだから。


「君はやはり祖父江伯爵と何かあるのか?」


メイドの言葉が聞こえたようで三千院伯爵は不機嫌な顔になった。


「前も言ったと思いますが、祖父江伯爵とは何もないです。それに今日もわたしではなく両親に会いたがってましたでしょ」


「何を言ってる。結婚の申し込みだったら本人ではなく父親に話を通すのは当たり前のことだ」


「け、結婚の申し込みなんてあり得ないです」


「君は本当に祖父江伯爵を好きではないのだな」


わたしが心底嫌がっているのをやっと理解してくれたようだ。


「彼は父様より若いけど同じくらいの年齢です。正直考えられないです」


祖父江伯爵の目が怖いとは言えなかった。さすがに失礼だと思ったからだ。


「そうか。確かに彼は若作りをしているが年寄りだ。それに彼の妻は二人とも悋気が激しいと聞く。君が三番目の妻におさまればいびり殺されるだろう」


祖父江伯爵の妻という人は遠くからしか見たことがない。とても内気で優しそうに見えたけど違うのかしら。

彼は何をしにきたのか延々と祖父江伯爵の妻の話をわたしにして帰って行った。わたしは元々祖父江伯爵と結婚したいと思ったこともなかったが、もしその気だったとしても諦めることにしただろうと思えるほど祖父江伯爵の妻の行いは酷いものだった。祖父江伯爵の愛人だった女性はだれもが怪我をさせられている。お金で解決しているようだけど、話はどこからか漏れてくる。なんて怖い女性なのかしら。でも一番悪いのは祖父江伯爵だ。女の人の気持ちを弄ぶなんて最低な男性だ。


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