プロローグ 『三百年前』
それは、突然のことだった。
地震や津波をはじめとした、すべての自然による災害が同時に地球全体で起こったのだ。
生き残る者はいない、生き残る生物はいないと断言できるほどの出来事。
しかし、生き残った者たちがいた。それも、ほぼ無傷の状態で。
その数は約千人。
何故あれほどの災害に遭ったのに自分は無傷なのか、なにより生きているのか。
生存者全員がその疑問を最初に浮かべたが、それはすぐに消え去ることになった。
人によって差があったが、瞬きをした次に映った場所は知らない空間で、辺りを見渡すと知らない人がほとんどの状況に、生存者全員の頭は何も考えられなくなるくらいにはパンク寸前だった。
「これで生存者全員をこの空間に転送出来ましたよ、っと」
気だるげそうな男性の声が中央の方から聞こえ、全員がその方向を見る。
そこには八人の人がいた。
現実感のない、まるでファンタジーの世界で見るような格好の人もいれば、馴染み深い格好の人もいた。
「ありがとうございます、蛇籠さん」
艶めかしい声の主は一歩、二歩と前に出る。その外見はお嬢様といえる姿だった。
「まずは初めまして。私はローズ・フラワーといいます。魔法使いです」
一瞬の沈黙。そしてざわめきがおこる。
それもそのはずで、魔法使いなんて存在しないというのが一般的な常識なのだから。
常識外の言葉が出てきてざわめきがおこるのは必然だった。
「信じてもらえないというのも分かります。ですが、皆様は信じるしかないのです。実際に体験しているのですから」
その言葉にはざわめきはおこらなかった。
確かに彼ら、彼女らはこの知らない空間に突如として連れてこられたし、転送出来たという言葉も聞いている。
信じざるを得なかった。
「さらにもう一つ、信じられないと思いますが皆様が生きているのも魔法によるものなのです」
誰もが話の続きを待つ。
静かに、耳に意識を集中させて。
「生き残った皆様は無意識のうちに魔法を使いました。……皆様は魔法を使える者として覚醒したのです」
これが新たな時代のきっかけ。
この先、誰もが魔力を持って生まれてくる時代の始まりだった。