9 創作系男子なんです
アリシアと俺は、最初に昨日も行った冒険者ギルドに最初に顔を出し、ギルドの詳しい地図で依頼の場所を調べた。そしてアリシアの持っていた白地図に、目的の場所を書き込む。受注自体は昨日してあったけど、渡された地図が漠然としすぎてて分かりづらかったからだ。
冒険者は大体みんな白地図を持っていて、それに自分なりの情報を書き込んでオリジナルの地図を作っていくらしい。たまに冒険者間で、モンスターの分布情報を交換したりもするそうだ。
それから、職人街に向かう。昨日描いたリュックを作ってもらうのだ。何なら道具があるなら自分で縫って作りたいくらいだ。いや、そこまでの道具をもつのは大変だから今回は頼むつもりだけど。
俺は、昔から何でも自分で作る派だ。何しろ他人に自慢できるのが手先の器用さしかなかったからな。だからこれだけは誰にも負けない、多分何を作ってもプロ級である自覚がある。それが大学で一人暮らしし始めてから、時間とお金にあかせて本格化した。
インテリアデザイン科の友人に相談しながら、ベッドや本棚、机なんかも自作した。ガラス工芸部に顔出して自分用のガラスコップも作ったし、彫刻陶芸科の友人に頼んで陶器の食器やコップも焼かせてもらった。……てのは美大生だったらやってる人もそこそこいるはず。俺は卒業してからも陶芸教室に顔を出して自分の焼き物を作ったりしていた。
ちなみに、姉のためにシルバーアクセサリーやとんぼ玉、レジンなんていうアクセサリー類もいっぱい作った。専攻が日本画だったので細かい細工は得意だ。
ちなみにこれも姉のためにだが、被服も通った。姉が持ち込んだミシンで、頼まれたバッグだのワンピースだのを作らされたのも実は結構楽しかった。自分用なら簡単なバッグくらいは作ったことあるし。だから実はミシンさえあれば多少難しくてもリュックくらいは作れてしまうのだよね。ふはは! 勉強ができない分こういうとこで巻き返さないと!(何をだか知らないけど)
あ、実家に戻った時は家の柵だの扉だのも自作した(ちゃんと地面掘り込んでセメント流すとこからやったからね)。父の部屋を測って作り付けの棚も作ったし。
あ、あと借りてるアトリエが畳だったから、全部剥がして根太を張り、フローリングを敷きました。壁も張替えたし、汚い柱なんかサンダーで削って新品同様にしたからな。やっていいって言ってた管理人さんがびびってたくらい徹底的にやった。後悔はしていない。ちなみに家賃が1万安くなった。
何なら俺、編み物だってできちゃうよ。
作るのは何でも好きな創作系男子なんです。
「職人街って遠い?」
「いや、30分もかからない」
「依頼に行くの遅れない?」
「いや、元々依頼の場所は一日で往復できないから、誤差の範囲だ」
「え!? そうだったの?」
「そう。今日は移動で終わる。近くで野営してから明日依頼をこなして、早ければ明日中に、遅くても明後日に帰宅、になると思う」
「そ、そっか。俺、地図見ただけで、距離を把握してなかったわ、ごめんね」
「私が言い忘れていたのだ、こっちこそすまない。まだルイはここの土地に慣れていなかったな」
「うん。でも昨日この街は端の方まで巡ってきたよ」
色々収穫があったわ、そういえば。相談もあったし。
「ねぇアリシア、そういえば貴族地区の入口の屋敷で、すんごい悪どい悪事の書類見つけちゃったんだけど、どうすればいいと思う?」
「悪事の書類?」
「うん、何日までにどこの女性を攫って来いとか、どこどこの宝石を盗んで来いとか。屋敷にかなりの恨みを持ってそうな悪霊がいたから、昨夜気になって調べてたんだ」
「そうか。……うーん、この辺の役所に出すのはまずいな。……そのうち少し調べて、信頼できる場所か人を探そう。今はちょっと私もわからない」
「そっか。じゃあやっぱり後回しだな」
「……すまない、役に立たなかったな」
「いやいやそんなことないよ」
少なくとも「何で勝手に他人の屋敷に侵入してるのよ!」と怒られなかっただけでも助かる。
おもいきり不法侵入だしな。まぁ全くやめる気はないんだけど。
「ああ、ここがロクの鍛冶屋だ。この北の道を行って、十字路の角だったな」
アリシアの声につられて見ると、確かにロクの鍛冶屋と書いてある。この辺は独特の建物が多く、煙突や排気口も多い。建て増ししてるような複雑な建物が多くて、昨夜巡ったときも興味深く思ったんだった。
昨日聞いたとおり、道の先の十字路の右側手前に、皮の下がった工房があった。
店舗ではないようだが、看板が出ていて訪ねて入れるようにはなっている。
「サガンの革工房」となっていた。
ドアをノックして開く。「すみませーん」と声を掛けると、奥からひょろっとした男が顔を覗かせた。背が高くてかなり細い。俺も180センチ弱(サバ読んで他人には180って言ってるけどほんとは数センチ足りない)はあるんだけど、その俺よりもっと高い。
「ああ、はい。こんにちは、お客さんですか?」
「はい。えっと、ここってカバンなんかの制作してるところだと聞いたんですが」
「はいはいそうですよ。何かご依頼ですか?」
「はい。えっと作ってほしいカバンがあって」
俺は手に持った、昨日描いた図面を見せる。男は「拝見します」と言ってから手に取り、まじまじと見つめてから次々と紙をめくった。
見ていくうちに少し顔が険しくなっていく。
「……これ、どこの店の図面ですか?」
「は? いえ、俺が昨日描いたものです」
「貴方が!?」
「はい。背嚢の使いづらさが気になってたんで、この際使い安いものを自分で設計しようと思って……何か問題でもありましたか?」
「いや、あんまり絵が上手だし、図面はわかりやすいしでびっくりです。素人じゃないですよね?」
「いえ、素人です。ただ、えっと……昔、職業が絵描きだったので」
「おお、芸術家さんでしたか。道理で上手な筈ですね。しかし、この図面は作るほうの目線になってますよね」
「俺、えっと故郷ではものづくりが趣味だったので。これぐらい描いておけば、お店の方にもわかるかなと思って」
「ええ、これだけ描いてあれば十分ですよ。これ、布は帆布がいいですよね」
「そうですね。できれば防水布とかになればもっといいんですが」
「なら、スライム液でコーティングすれば何とかなると思います。あ。おかけ下さい。いま生地見本を持ってきますので。申し遅れましたが俺はグレッグと申します。ここの店主サガンの甥っ子です」
「あ、俺はルイ、こっちはアリシアです」
促され座ると、奥から見習いらしい12歳程度の男の子がお茶を持ってきてくれた。お礼を言って受け取る。アリシアを見て頬を赤らめてるのが、やっぱり男の子だな。
アリシアによるとこれは「香茶」という一般的なお茶らしく、香りが香ばしいらしい。飲めないのが惜しい。匂いもわからないのは辛い……。ていうか視覚と聴覚があるだけでもマシなのか?
すぐにグレッグが生地見本を持ってやってきた。
俺はその中から重すぎない黒っぽい緑の帆布を選んだ。アリシアにもどれがいいか尋ねたが、森の中なら俺の選んだ色が最適らしい。というわけで、試作をして貰って、よければ最終的には2つ作ってもらう。
「すごいですね、これ、めちゃくちゃ便利ですよ」
「よければ広めて下さい」
俺が笑って言うと、グレッグがびっくりして俺を見つめた。
「だめですよ、これ、ちゃんと登録したほうがいいです。絶対売れるんで」
「登録って何ですか?」
「ああ、商業ギルドに設計図を持ち込んで、発明者を登録することで、作った店、売った店と代金を折半できます。実物があったほうがいいので、試作ができたら一緒に登録に行きましょう。これなら冒険者ギルドにも卸せますよ!」
うわ、親切。
勝手に作ることもできたのに。と思ったのが顔に出たのかグレッグが苦笑した。
「こういうのはお客さんの信用が第一なんで、勝手に作ったりはしないですよ。プライドがある店ならなおさらです。こんなことで信用を失ったら、その方が大損失ですからね」
「そうですか、すごいですね」
それから金具やボタンなんかの材質を相談して、店を出た。
あーやっぱりこういう物づくりに携わってるのが一番楽しい。俺、プリーストの仕事が駄目になったら職人になろう。
という俺のほくほく顔を見てか、アリシアが呟く。
「ルイはものを作ったり絵を描いたりしてるとき、生き生きしているな」
「そうだね、俺の性質かな。アリシアはコレをしてる時が一番楽しい! ってこと何かある?」
「……モンスターを殺している時だろうか……」
おお、ワイルド。