7 お金貰ってて良かったかも
剣の束と、荷物を纏めた背嚢、腕入りの(!)背嚢は俺が持った。アリシアも持つって言ってくれたけど、どう考えても重力操作ひとつで重さに関係なく持てる俺が持った方がいい。
二人で森を抜けて街に向かって歩き出す。アリシアに、靴音をもっと軽くとか体の揺れをもう少しつけてとか、自然に見えるようアドバイスしてもらったので、街につく頃には誰が見ても普通の人間(の体)っぽくなっていた。……ってアリシアが言うんだから間違いない。
やがて人通りの多い場所に出る。俺は内心バックンバックンだ。どうかバレませんようにー!
願いが叶ったか、無事冒険者ギルドとやらに着いた。大きな白い石造りの建物で、入ってすぐの正面にいくつかのカウンターが並んでいる。ファンタジー小説の中では酒場のイメージがあったけど、ここはどちらかといえば役所っぽい。時間的なものかそれほど人もいない。アリシアに目を向ける人はいるけど、テンプレ的に俺に絡んでくる人はいなかった。ちょっと残念。
アリシアはその中の、端から2番目のお姉さんを目指した。お姉さんが気づくと同時に、俺から受け取った腕入りの背嚢をカウンターに置く。
「アリシア!」
「男の集団に襲われた。赤7、オレンジ4。これがプレートと腕だ」
「は? なんですって!?」
受付嬢は顔色を変えてアリシアに詰め寄った。
「これが私のプレートだ。ちゃんと青のまま……」
「そんなのどうでもいいわ! ああ、よく無事で……! 顔を見せて!怪我は、怪我してないのっ!?」
「え、あーー……と、凄腕のプリーストに助けられた。そして怪我も治してくれた、私の恩人だ」
「まぁ! それってそちらの方かしら?」
「ああ」
空気になってようと思ってななめ後に佇んでいたんだけど、俺に話題を振られたのでとりあえず一歩前に出て挨拶しておく。
「はじめまして、ルイと申します」
「ルイさん、アリシアを助けてくれたんですってね、本当にありがとう。私はここの受付嬢をしているリリーよ。私にとってこの子は妹みたいなものだから、本当に感謝するわ」
「いえいえ。助けられて良かったです。俺は世間知らずなので、アリシアに道中色々教えてもらって逆に助かりました」
「良かったわ、本当に。……アリシアを狙ったやつなんて、全員首持ってきて刑場でさらし首にするべきなのよ。私だったら絶対やってやるのに!!」
「あはは」
俺は引き攣った笑いをしながらアリシアに目を向ける。
刑場の犯罪者のさらし首はここでは一般的らしい。重犯罪者だと、どんなやつが犯罪を犯したのかってみんな興味津々で見に行くらしいよ。生首を。日本で生まれ育った俺には理解しがたい文化です。はい。
まぁ、ああやって犯罪者を見せしめにしたり晒したりするのは結構な犯罪抑止効果があるってのもあるだろうし、これはこれで時代に即してるのかもね。
でもあの刑場あの黒い悪霊いるし、俺はまだしばらくは行きたくない。
んー……いやでもさっきも生首見たしな、割とすぐ慣れそうで怖い。
眠らないゴーストでよかったかも。あれ絶対夢に出る。
さてアリシアは横の掲示板に目を向けてたので、受付嬢は手早くプレートの確認をし、腕の入った袋を覗き込んでうんうんとうなずく。
それからアリシアのプレートを伸ばして石の上にかざして何やらすると、「はい終了」と声を掛けた。
「赤7、オレンジ4、確認したわ。報奨金を振り込んでおいたわよ。あなたの仕事歴にも加算されてるからそろそろ金になれるわよ?……誰かと組めればだけど」
「今はいい。ところで何かいい仕事はあるか?」
「そうねぇ……大体、銀や金はパーティの仕事なのよ」
「べつに銅や鉄の仕事でもいい」
「それはもったいないわ。あなた、実力だけなら金レベルなんだから!……あらちょっと待って。割といいのがあるわ。郊外の屋敷に巣食うジャイアントスパイダーの一掃ね。銀ランク依頼。ただし、当然だけど2人以上」
「何で2人なんですか?」
思わず口を挟むと、アリシアが困った顔で俺に教えてくれた。
「ジャイアントスパイダーとの戦いは、巣をかいくぐって、糸を焼き払って進むんだ。糸に捕まったり絡まったりがあたりまえの仕事だから、どちらかが捕まったとき即座に助けらる相棒が必要なんだ」
「ふうん。……俺が一緒に行こうか?」
「え!?」
「二人だったら受けられるんでしょ?」
アリシアが驚いた顔で俺を見る。そんな驚くようなことなの?
「それは素晴らしい提案だわ。あなたの登録証はあるかしら?」
「あ、すみません。理由があって登録はしていません。……やっぱりだめですか」
そう言ったら、アリシアが身を乗り出した。
「いや、多分大丈夫だ。アレなら身分証明にもなる」
「ああ、アレ」
受付嬢が首を傾げる前で、俺は森で作ったホタルの乱舞を再現した。
ほらほら見るがいい~。ホタルだけじゃ物足りないかな、ちょっとティンカーベルっぽく光をキラキラさせながら宙を走らせてみる。
「…………! …………!!」
受付嬢は、なにやら声にならない声を上げ、光を凝視している。
周囲も何事かとこちらに目を向けては、かぱっと目と口を見開いていた。
あまり目立っても何なので、そこそこのところで空気に溶けるように消していく。
「リリー、この通りルイは光魔法が使える聖属性の人間だ。勿論治癒も超強力だ。何か問題ありそうか?」
「な、ない!! ないわ!! ……はー、光魔法所持者なら間違いないから、強力な部外者としてパーティとして登録できると思うわ。一応上に聞いてくるからちょっと待ってね」
受付嬢ーーって、名乗ってもらったんだから名前呼ばないと失礼かな?ーーリリーさんが奥の上司らしき人にこっちを指差しながら話をしているのを見て、アリシア俺に向き直った。
「あの……光魔法まで出させといて何だが、本当にいいのか?」
アリシアが、おずおずと俺に言った。
「え? うんもちろん。何か問題あった?」
「いやその……私がずっとソロなのには訳があって」
「うん、どんな?」
「私がいるとパーティーがだめになる、らしい。いくつものパーティを崩壊させているんだ」
「はぁ?」
俺が意味もわからず首を傾げると、遠くで聞いていたらしいリリーが戻ってきつつ怒りだした。
「何いってるの! アリシアは全く悪くないわ。あのね、ルイさん、アリシアがこの通りのド美人だから、パーティーに入ると男どもが彼女を巡って争いをはじめるのよ。女の子のいる男女混合パーティだと更に女の子からの嫌がらせつき。女だけのパーティだと、今度はパーフェクトなアリシアへのやっかみでほぼいじめ。そんな紆余曲折を経て、ソロになってるの」
「うわー、災難……。そういやさっきの赤プレートの男もアリシアに振られた奴だっけ。でもそんな理由なら、アリシアが俺を信じてくれれば、一緒に組むのに俺は問題ないですよ」
「そうね、ルイさんすごくまともそうだし、どうなの? アリシアは」
「……ルイはあの状態から助けてくれた。私に何かしようとすればできたのに、指一本触れずに治療もしてくれた。ものすごく感謝してるし、たぶん、もうとっくに信頼している。いてくれるなら心強いが、無理はしてほしくない」
「だって。ルイさん、無理してる?」
「いえ全く。むしろ一緒に組んで仕事したら楽しそうだなってワクワクします」
「決まりね。アリシア、上の許可も出たわ。リハビリのチャンスよ。いってらっしゃい」
書類を渡されて、アリシアはじっとそれを見つめてからルイに目線を移した。
「本当に本当にいいのか?」
「こっちこそ。俺のことを知ってて付き合ってくれるのはアリシアくらいだし、一緒にいられたら俺もすごく助かる」
「あ、それもあるのか。じゃあ……すまんがしばらく宜しく頼む」
「うん、よろしくね!」
それからギルドと繋がったすぐ隣の建物にやってきた。広いな、こっちも役所みたいだ。
武器を売る店、毛布を売る店。ああ、多分ここは冒険用品売場なんだな。よく見るとテントとかランタンなんかもある。奥にはロープやら食器やらの小物類を売る店があって、結構賑わっている。うわぁ、ファンタジー!! みてるだけで楽しい!!
ここの端にある場所で買い取りをしてくれるらしい。
「個人の道具屋みたいなとこを回るのかと思った」
「ああいうところは鑑定価格がピンきりなんだ。それに比べて、ギルドの買い取り査定は鑑定スキルを持つ者しかしないし、価格も適正で間違いがない。多少の手数料を引いても、他で売るよりずっとマシなんだ。それに中古は中古として安く売ってくれるから、金のないなりたて冒険者には中古品はすごくありがたい」
「へぇー」
荷物を持ってカウンターに行くと、そこにいたいかつい男がアリシアを見て相好を崩した。五分刈りで、顔が四角く、あちこちに傷跡が見えるんですが。
「おおアリシアか! 元気だったか?」
あっ、すごいフレンドリー。ていうかアリシアってギルドの人に好かれてるなー。
でも何かわかるかも。まだ少ししか一緒にいないのに、アリシアの生真面目な性格と強さに反して、放っておけない部分もちょっとあるし、どうにもそのギャップにやられる。なんていうか、こう魅力的? っていうのかな。顔とか体型の美しさじゃないんだよ、中身の可愛らしさがたまらないんだよね。
「うん。でもさっき集団に襲われたところだ」
「何だと!? きっちり返り討ちにしたんだろうな!!」
「もちろん。でなければここにいない。赤7にオレンジ4を仕留めてきた。ここにいる彼が助けてくれたのが大きい」
俺に話を振られても!
「あ、いえ、たいしたことはしてないですし。男が10人以上で女の子に暴言吐きながら襲いかかっていたら、助けるのは人として当たり前です」
「うむ、よく言った。それでこそ男だ!」
人としてって言ったのに、男としてに変換されてしまった。
さて、アリシアに促されて、抱えていた荷物をカウンターの上に下ろした。
男は線の引いてある紙を取り出し、カウンター上に出した剣の縄を解いて一本一本鞘から抜いては眺めていく。やがて何種類かに分けて置き、紙になにやら書き込むと説明をはじめる。
「まず、この2本はくず鉄だな、多分すぐ折れるから査定はただ同然だ。初心者や子供の素振り用だな」
「……む、本当だ、これは駄目だ」
「そしてこの6本は普通ランクだな。鉄製だが悪くはない、アイアンランクくらいまでなら十分使える。そしてこっちの2本は打ちのいい鉄に鋼のコーティングがしてある。最後にこっちは鋼だ。打ちもいい。持ってかなくていいのか?」
「ルイには長剣一本と短剣一本を渡してあるが、せっかくだし鑑定してもらって、良い方を持った方がいいな」
「わかった。……えっと、これですが、見ていただけますか?」
俺が腰に付けてた長剣とナイフを出すと、ナイフを引き抜いた男が感心したように頷いた。
「確かにこれは業物だな。切れ味強化の魔力コーティングもしてあるし、盗賊なんぞよりアンタがもっていたほうがいい。そしてこっちの長剣か……む、これも鋼か。……アリシア、さっきの鋼の剣と比べてこっちを選んだ理由はなんだ?」
「いや、理由はない。単に目についたものを引き抜いたら良かったから渡しただけだ。もう一本あると思わなかった。じゃあ、私の予備として取っておこう」
「ああ、それがいいだろう。あとはこの小物類だな。暗器はまとめていくらになるな。毒ビンもあったからこれもセットでこっちで引き受けよう。ポーションを売るのはなぜだ?」
「ああ、それはこっちのルイが凄腕のプリーストだからだ。最低限あれば離れてても間に合うかと思って。さっき私の折れたらしい足もあっというまに治してくれた」
「なんだと、怪我したのか!?」
リリーさんと反応が一緒だ。大事にされてるなぁアリシア。
「ああ、でもすっかり治った。全部ルイのおかげだ」
「そうかそうか。じゃあ兄ちゃんのためにも少し色つけておくか」
「それはありがとうございます」
「なに、いいってことよ。……こっちの火打ち石は1つ銅貨2枚程度にしかならんぞ? いいのか?」
「ああ、もっていてもしかたない。そもそも私は火魔法が使える」
「そうだったな。まぁ冒険者になりたての子供にもタダ同然でくれてやれるから、こっちは助かるがな。あとは……ハーフメイルか。うむ、そこまでいいものじゃないが傷が少ないな、買い取り価格はこれくらいだな。どうだ?」
紙をアリシアに向けて説明していく。
思ったよりちゃんとしてるなぁ、現代のリサイクルショップと同じ感じだ。
「うん、問題ない。それで頼む」
「わかった」
そう言って、横にある作り付けの厳重な鉄のハコを開けて、金貨や銀貨を取り出して数えながら手渡す。
「大台いったな。金貨1枚に大銀貨3枚、そして銀貨5枚だ」
「ありがとう」
「なに、いいってことよ。赤退治してくれてありがとな。殺人鬼がそんなにいっぱいウロウロしてたなんて恐ろしい話だ。アリシアもくれぐれも気をつけるんだぞ」
「わかった」
手を降って建物を出るアリシアについていく。冒険者らしき人がチラチラとアリシアを見ているが、ここでもテンプレのように絡まれることはなかった。治安いいな!
「ギルドの人って、アリシアのお姉さんとかお父さんとかって感じだね。いい人が多そう」
「ああ、私のもうひとつの家族だ。普通はソロなら銀ランクまで上がるのだって難しい。それをサポートしてくれて、私をここまで育ててくれた。とても感謝している」
「アリシアの人柄だね。さて、次はどこ行くの?」
「残りの服類だけは、古着屋に持ち込む。それもすぐ近くに良心的な店があるから問題ない」
歩いていく最中、ふとアリシアがこちらを見た。
「そういえば、ルイは初対面の人間には必ず敬語なんだな」
「え、あ、そうだね」
「ああ、少し感心していた」
でも自分がタメ口きかれても全然気にならないんだけどね。こっちではみんなファーストネームで呼び捨てるし、欧米文化っぽいなら逆にあんまり敬語じゃないほうがいいのかな。
これって前の世界の日本の常識引きずってるんだよね。ま、すぐ変えるのは無理だ。
ギルドを出て右側の交差点を渡り、2軒目に古着屋があった。ちゃんと清潔で、イメージにあるきたなさはなかった。
「すまない、買い取りを頼みたいのだが」
アリシアが声を掛けると、奥から若い女の子が出てきた。
「いらっしゃいませー! 買い取りですね、ではこちらで拝見します!」
はきはきと答える赤毛のポニーテールちゃんは、俺たちよりも大分若い。15~16歳くらいかな。でもしっかりしてそう。
「あ、綺麗にたたまれていますね。えっと、上着が2枚、シャツが5枚に、ズボンが3枚、ショートローブが1枚に、ブーツが2足、と。これで全部ですね。では査定いたしますので店内をご覧になってお待ち下さい」
さっきの買い取りと同じく、一枚ずつ広げてはなにやら紙に書いていく。
古着屋か。俺こういうの結構好きなんだけど、残念ながら今は着飾れない。ローブで体の線をかくすのが精一杯だしね。
見るものもなくボーーとしていると、アリシアが俺を呼んだ。
「ん、何?」
「これ、この手袋はどうだ?」
「手袋?」
「ああ、多分この先も街にいるなら、握手を求められる機会があるんじゃないか? これなら多少皮膚と感覚が違くても納得してもらえないだろうか」
見てみると、かっちりした黒い皮の手袋だ。
「確かにいいけど…黒いローブに黒い手袋ってプリーストっぽくないんじゃない? なんかプリーストっていうと白いイメージがあるけど」
「確かに、これだとどちらかというと魔道士っぽいかもしれない。気にいらなければ後で買い直しはできるし、とりあえずそれまでのつなぎにどうだろうか」
「うん、そうだね。せっかくだし買っておくよ。アリシアは何か欲しいのあった?」
「いや、私は特にない」
査定が出たのだが、大銀貨7枚にもなったのは意外だった。7万円! 服って高いんだ。
あ、そうそう貨幣価値。
金貨が10万くらい、大銀貨で1万、銀貨が千円、大銅貨が100円、銅貨が10円て感じかな。さっき聞いたらパン1つが大銅貨1枚くらいって言ってたから、適当に日本円に当て嵌めてみたらそんな感じだった。
「これとこれ、同じ人のものだと思うんですけど、汚れ防止のエンチャントがかかってます。あとこの上着、リザードマン皮なので耐熱性能に優れてます。お値段はほぼこの3点の価格になってます。宜しいですか?」
「ああ、それでいい。ありがとう」
「どういたしまして!! あ、手袋ご購入ですか?」
「あ、はい。お願いします」
「こちらは銀貨2枚ですね」
銀貨2枚って……2千円くらい? きっちりした皮の手袋で? ほぼ新品だし。
「……安くないですか?」
「いえ、相応ですよ。そちらはボア皮なので手に入りやすいんです。でも耐久性に優れていまして、武器が滑らないように、という理由でのお求めならそれが一番です」
「なるほどわかりました。ご丁寧にありがとうございます。これにします」
あ、そういえばまた敬語使ってるわ俺。まぁ別に悪いことじゃないだろうし、勝手にそうなるんだから気にしないことにしよう。
銀貨を2枚渡して、手袋を受け通る。そういえばお金貰ってて良かったかも。
ここではめるフリはちょっとハードル高いな。アリシアと二人になってからにしよう。
あ、そうそう、大事なこと忘れてた。
「あの、すみませんがバッグやカバンを作ってる工房って、どこかご存じないですか?」
女の子は「カバン…」と呟いて、ああ、と手を打った。
「工房街にあるロクの鍛冶屋はご存知ですか?」
「いやあの……」
「大丈夫だ、ルイ。私がわかる」
「ロクの鍛冶屋を北に進んだ最初の十字路の右側にあるの、確かカバンの工房です。巾着とかポーチ、ベルトなんかも作ってたと思います」
「やった!! 理想通り!!」
「そうなのか? ……どこだかはわかった。ありがとう」
「ありがとうございます!」
「いいえーどういたしまして! またのお越しをお待ちしてます!」
店を出ると、アリシアは不思議そうに訊いてきた。
「カバンの店で何をするんだ?」
「うん、ちょっとここの背嚢……そのアリシアが持っているものに耐えられないんだ」
「ん? これのどこが?」
おう、それを訊くかね?
「まず片方の肩で背負ってるのが信じられない。ものすごく負担になるうえに邪魔だ! リュック形式にして両肩に均等に力をかければ両手が空くから、いちいち戦闘の度に背嚢を投げ捨てる必要はなくなる。あとその細い紐! 紐を太く柔らかくすればいいのに、選りに選って肩の方に食い込み防止の皮当てをしてるとか呆れて物も言えない。そしてなによりその背嚢、仕分けができないよね。洗濯物も食器も全部一緒、なんなら靴まで一緒、なんだそれって感じだよ。
ちゃんと上下や左右に分けてそれぞれに取り出し口を設ける、内部収納は勿論必要だ。そして後ろにはコップや水や薬なんかのすぐ取り出せるものを収納するポケットとフックがいる。たくさんいる! 小分けにできるほどいい! ポケットもめちゃくちゃ作ってやる! そして毛布なんかは丸めて上に背負えるように紐も十分につけておく。
背中に当たる背面にはクッションを入れて真っ直ぐにして、但し地図だけは差し込めるようにする。
絶対に作ってやる。そしてヒットさせなきゃ気がすまない! こんな背嚢は捨てさせて、リュックを世界中の冒険者に背負わせてやる!」
思わず力説したら、心なしドン引きされてる気がするが、まぁいい。俺の一旦火のついた創作意欲
は、納得するものを作り終えるまで収まらないんだ。もうこれは性質っていうか。
「……えーと、壮大な夢っぽいが、とにかくまずは、新しい背嚢を作りたいということでいいのか?」
「そう! あっ、そうだ。紙って売ってるかな。紙とペンが必要だった。どんな仕上がりにしたいか絵じゃないと詳しく説明できない」
イメージ画を書き出さないと。
「じゃあ道具屋が先かな。そうだ、ついでにルイ用の水筒とコップも一応買っておこう。カモフラージュするなら最低限持っていた方がいいと思う」
「ああそっか、わかった。あと新しい財布も欲しいかな。バッグの工房はすぐじゃなくていいよ、ごめんね。道具屋に行こう」
「わかった」
なんだかんだで結構お金かかるわ。ゴーストになったらお金とか掛かんないと思ったのに。
少し歩いただけで大きめの雑貨屋にたどり着いた。冒険者ギルドの側だから、冒険者向けの店が軒を連ねているんだな。
「ここだな。大体何でも売っている」
「紙はどこかな」
「あっちだ。ペンも一緒に売っている。少し高いが、インク壺のいらないペンもあるそうだぞ」
「え、それは絶対必要!!」
「あ、待ってルイ。とりあえずギルドと服屋で売れた分の半額だ。足りなければいくらでも言ってくれ。これでも私は金はいっぱい持っている」
「あはは、ヒモになっちゃうなぁ。……貰ったお金でなんとかできるようにするから大丈夫だよ」
と言っても、金貨も数枚入ったお金渡されたんだけど……あれ、ちょっと随分多くない?
「ちょっとアリシア、これ多すぎじゃない?」
「いや、赤とオレンジの報奨金も入っているから。そっちは全額渡すけど、なくなりそうならまたギルドで下ろしてくる」
「いやいや、俺のはカムフラだけだから、この先そうそう使う予定ないし。とりあえずバッグを作れるお金さえあればいいよ」
紙は和紙とパピルスの中間て感じだった。パピルスほど高級じゃないな。地球でもとうもろこしの繊維で作ったパピルスもどきとかは、めちゃくちゃ安かった気がする。そのバッタモンと和紙の中間っぽい。和紙よりは粗いし繊維は見えるけど、一応穴は空いてないし折り曲げることもできるみたいだし、問題ないな。第一、安い。
これで羊皮紙しかない世界だったら気軽に落書きすらできないもんね。絵の描けない世界とか絵描きの俺には辛すぎる。
とりあえず30枚の束を買う。これとインク壺のいらないペン(万年筆のように、カートリッジ付きだった)を合わせて大銀貨1枚と銀貨1枚。占めて1万1千円。殆どはペン代。紙が安くて助かるわー。
ほくほく顔でアリシアを見ると、俺のためなのか水筒と木のコップを持ってくれている。うわぁ、なんて優しい。
「あ、アリシアごめんね! アリシアに探させちゃったね」
「いや、私も楽しいから問題ない。ところで私は手ぬぐいを買い足すつもりなのだが、ルイにも必要じゃないか?」
「あ……確かに、何にでも使えるし、あって困るものじゃないね」
「では3枚づつ買おう。……あ、石鹸がある。一つ買い足そう。ルイはどうする? もういっそ普通の冒険者並に荷物を揃えたらどうだろうか」
「うーん、ここまできたらそうだよね。……うん、そうしよう。俺も石鹸一個」
「あと石鹸のケースもいる。歯ブラシ、虫除け…はさすがに必要ないか。えーと、ロープ、フック、携帯食にランプ……ああ、光魔法があるからランプはいらないか。それに採取用の大小の袋は絶対欲しいな、大中小それぞ3枚ずつでいいな。……これくらいか」
「わぁ、アリシアがめちゃくちゃ頼りになる~」
どんどん手に取ってくれるので、アリシアが持っていたものを引き受けて(両手でかかえるように浮かせて)後をついていく。さすがソロのベテラン。迷いがない! ぽいぽいと上にのせてくれるのをもっていたら山のようになった。
「あ、財布欲しいんだった」
財布財布~と見ていると、巾着のような袋がいっぱいあった。お札がないから平たいのはないのかー。まぁいいや、一番生地のしっかりしたやつ買っておこう。
「こんなところだろうか」
「うん、ほんとありがとう」
レジに持ち込み精算すると、結構安い。大銀貨2枚で収まった。
全部を背嚢に突っ込んで、店を出る。
「はー、いい買い物できた。アリシアのおかげだよ、ほんとに助かったよ」
「いや、恩の一部を返したにすぎない。……ところでこのあとだが、まずは私の宿屋にくるか?」
「え?」
「だって、宿は取ってないだろう?」
「あっ、そうだった!!」
今まで寝たこともなかったから忘れてたけど、拠点がないんだ!
この時間にはもう宿は大体埋まってるそうだ。俺だけならいらないんだけど……リュックの図案も書きたいし、机がいるな。
「姿を消して私の部屋に入るといい」
「うん……悪いけど、リュックの絵を起こしたいし、少しだけお邪魔するね」
女の子の部屋にお邪魔するのも悪いけど、今は創作意欲が勝った。
宿に入った瞬間に透明になり、受付にいたおばさんを横目に、ドキドキしながらアリシアについて階段を登った。
無事に部屋に入るとため息が漏れる。いや息は出ないか。
「あれ、そういえばここって姿現したまま入ったらだめだったの?」
「ああ……宿は、すぐに出ていくと言っても、異性の連れ込みは嫌がられるんだ」
あー、ラブホ代わりにされたら嫌だもんね。
「そっか、じゃあ終わったら窓から出てくね」
「別にここに泊まればいいだろう?」
「え!? いやいやいやいや!! 俺に体がないって言っても、女の子の寝姿見てるほど非常識じゃないよ! どうせ寝ないし、消えたままその辺巡ってくるから大丈夫!」
「そうか?」
とりあえずさっさと用事を済ませよう。
先の買い物からペンと紙を取り出す。
さてさて、お楽しみの時間だ!
紙の端で描き味を確かめてみると、粗い和紙と万年筆そのままだ。うん、なんとかなるな。
おもむろにリュックの絵を描いていく。正面や横から見た形、開けた形、それぞれのポケットやヒモの説明。展開図でもう一枚使うかな。あ、実際に背負ってる絵も入れておこう。
あれ? 日本語で書いてるつもりがこっちの言葉になってる。……ってそういえば言葉もだった! 何で今まで気づかなかったの俺、こっちの言葉に翻訳されてんじゃん。
……そういえば管理人さんが何か言ってたな、魂がそっちに馴染むからとか。それがこれ? すっごい助かる!
「すごい、めちゃくちゃ上手い……」
「ああうん、俺、絵を描く仕事してたんだよ」
「そういえばさっきもそんなことを言っていたな。ルイは芸術家だったのか」
「そんな大層なもんじゃないんだけどね」
リビドーの赴くまま描き連ねて、何枚かの絵を完成させる。
「アリシアが見てどう? わかるかな」
「わかる、すごい。こういうのあったら使いやすそうだ」
「良かった。じゃあこれをカバン工房に持ち込むか」
「ああ。じゃあ明日は工房に寄ってから依頼に向かうことにしよう。いいか?」
「わかった! 何時頃に来ればいい?」
「朝食が一の鐘の頃だから、それが終わった頃ならいつでもいい」
「一の鐘?」
そっか、時計がないのか? 鐘で判断するのかー。
「ああ、日の出からしばらくして鳴る鐘だ。昼と夜にも一回ずつあって、その中間にも一度ずつある。……わかるだろうか」
「なんとなく。じゃあアリシアが朝食から戻った頃にここの窓をノックするね」
「わかった、待ってる」




