6 やっぱり鈍器が向いている
ファンタジーのテンプレ! キタコレ!!
ほんとにいるのか!! あ、翻訳(?)がそうなってるだけで俺のイメージとは別の生き物かもしれないのか。
「ゴブリン! オーク!! ……ちなみにそれってどんな生き物?」
「ゴブリンは、緑色で子供ほどの体型の醜く浅ましい悪食の種族だ、それほど強くないが、道具を使うので油断すると危険だ。オークは二足歩行する太ったブタだな、初心者には荷が重いが、中級になれば普通に狩れる。ただし、種族にはメスがいるくせに人間の女性を苗床にする悪習があるから油断できん。見つけたら根絶やし推奨だ」
ああ、ほぼイメージ通りなのな。ていうか地球人、特に日本人はどっからこういう知識を得てるんだろうね。管理人さんも「まったくどこから……」みたいなこと言ってたし、あっちにイメージを横流ししてる管理人さんでもいるのかな?
そういえばこっちに来てからゴブリンどころかモンスターとかそういうのすら見てないや。見たのは人間同士の争いだけだよ……。
「剥ぎ取りは浅ましく思えるかもしれないが、これは冒険者ギルドで最初に注意されることなんだ。敵の武器を情けで残しておいて、ゴブリンが武装して強化しまうことは少なくないんだ」
「なるほどね。確かに、いい武器をモンスターに使われたら困るよね」
「ああ。今回は人数が多いから大変だが、その分利益は上がる。すまないが報酬はこれらを売り払ってからで構わないか?」
え、報酬!? 何で? 手助けしたから?
「報酬って……いやいや、俺この通りゴースト……精霊だっけ? まぁいいや、ゴーストだから、宿にも泊まらないし食事もしないんだよ。お金もらっても使うとこないからいらないよ?」
「え? いや、それは……では何か欲しいものはないか?」
「うーん、今はないなぁ。あっても使えないし」
「……む。では一旦保留にさせてもらう。後で欲しいものが出て来るかもしれないし考えておいてくれ。先に剥ぎ取りを終わらせる」
「手伝うよ」
「ありがとう、頼む」
そう言うと、近くの男たちをどんどんひっぱってきては隣にならべていく。死体を集めればいいようなので、俺も少し離れたとこにいた男を持ち上げて、近くに並べる。あれ、この首なし男の頭ってどこだっけ、とにふいに周囲に目を向けると、ちょこんと地面から生えた頭と目があった!!ヒィ!!
しかし、すごくどうでもいいことだけど、死体の頭が首の断面を下にして立っている。あー……これどっかで聞いたことあるなぁ、何でか頭を切断すると転がっても首が下になって立つって。何でだろう。
男たちを並べ終えると、近くにあった背嚢なども集めてくる。そして腰に付いた武器やポーチ類を外して頭の方に並べる。
武器はまとめ、袋の中身を全部取り出していく。その中から同じものを纏めているようだ。お金、小さな金属棒と石、瓶に入った薬品らしきもの、薬草?、水袋、着替え、暗器? このあたりは複数あった。あとは細々しててわからないが、大体みんな同じようなものばかりだ。
「この金属棒って何?」
「ああ、火を付けるのに使う。これと石をこすって火花を出す」
「あ、なるほどー」
皮の防具らしいものを身に付けている男は放置して、一人だけ金属プレートを身に着けていたのでそれを取り外していた。あと、ローブを着ていた男からローブを剥ぎ取っていた。
「ルイは服を着られるようだが、このローブは着ないか? 割といいもののようだが」
「え? あー、俺のこの服って死んだときから着てたんだよね。俺の一部になってるみたいだから着てるのとは違うんだ」
「そうなのか。残念だな」
「ん? あーちょっと待って」
重力操作で俺の体の形に内向きと外向きの力をかければ、体の形を作って着るに近いことってできないかな。んん? 何かよくわかんないからとりあえず試そう。
「ちょっと試してみる」
俺はアリシアからローブを受け取って、体の形を意識して乗せるようにする。
あれ、これ以外と簡単にできるんじゃない?
フードの付いた黒いローブ、襟部分にだけシルバーのボタンがついている。これだと元の地球の服装を隠せるな。
「どうだろう?」
「すごい、ちゃんと実体があるように見える」
「これで街に行けるかな?」
ウキウキとそう告げると、アリシアが無表情のまま小首を傾げた。
「ルイは街に行きたいのか?」
「うん。いや、砦あたりは行ったことはあるけど、透明になって行ったから、誰からも認識されなかったというか。普通に人と会話とかしてみたいなぁって。……あ! そういえばアリシア、俺を初めて認識して、初めて喋ってくれたひとだ!」
「そうか、それは光栄だ。ああ、そのローブが動くと風の動きがあるから気配がないのをごまかせるな。ちょうど光魔法も使えるし、プリーストと称すればいいと思う」
「そっか! プリーストか。いいな、それ。じゃあ俺も冒険者登録できる?」
「あ……、いや、それは無理だろう。登録には個人識別のために血が必要なんだ……」
「そりゃ無理だね。残念」
「でも街に行くなら私がサポートと案内をしよう。報酬の一部としてどうだ?」
「え、いいの? ありがとう! それはすごく嬉しい。正体を知ってる人のサポートは安心できるよ」
アリシアは、男たちの荷物の選別を終えて、要らないものを積み上げていった。主に薄汚れた毛布とか、水袋だ。水筒じゃないよ、動物の胃だっけ? そういうので作ったすごい獣臭いものらしい。そういうとこ中世。これ金属とかで水筒普及しないのは、やっぱりちょっとでも軽い方がいいからなのか。
その中から一番キレイな背嚢の一つを俺に差し出した。
「荷物を持っていないと不自然だから、一時的にこれをルイの背嚢にして少し荷物を詰めていこう。ローブがかけられるなら荷物も持てるんだろう?」
「あ、うん。それは大丈夫」
「火打石、ポーション、薬草軟膏、あとは……水袋やコップは他人のは使わないだろうから焼却するとして。ああ、雨よけ布もある、これも一枚入れておこう。それと財布だが、とりあえずお金も半分はもっていたほうがいい」
「でも俺、使うとこないよ?」
「カモフラージュに使うこともあるかもしれないから、一応あったほうがいい」
「わかった、任せるよ」
さくさくと荷物を詰め込んで、それから集めた武器類に目を落とした。
「あとは……武器だな。プリーストといえばメイスなどの鈍器が主流だが、何か希望はあるか?」
「え? いや俺武器とか使ったことないから全然わかりません」
「? さっきの男はどうやって倒したんだ?」
「あそこに転がってる石で殴りつけた」
「……やっぱり鈍器が向いてるな。でもここにはないから、とりあえず剣と短剣を一つずつ持とう。幸い一つ業物の短剣があったから、これは絶対持っていたほうがいい」
そう言って、一振りの短剣を渡してきた。他の安物っぽいのと違ってたしかに重厚感がある。よく見ると柄にも模様があり、柄頭には黒い宝石のようなものが嵌っている。
少し引き抜いて見ると、よく研がれた刃が見えた。
「鋼で、作りもいい。何かの魔力コーティングもあるようだ。あとはこっちの剣かな。これも鋼だ。その短剣ほどの出来ではないが、ただの鉄製よりはマシだろう。……マントのように腰にベルトは巻けるか?」
「やってみる。……うん、ちゃんとおさまるね。むしろきっちり固定されすぎるくらいだ。ここに剣を下げるの?」
「そうだ。ポーチも一緒に通しておこう。ーーうん、いい感じだ」
アリシアは黒皮のポーチに、これも一番汚れがマシな巾着(財布?)を入れた。といってもやっぱり薄汚れてるし、あとで新しく買ったほうがいいな。何たって街にいけるからね! その横に缶(薬草軟膏って言ってたから傷薬?)を入れてくれる。
「うん、冒険者をしているプリーストっぽくなった。幸いプリーストには冒険者登録をしない人もいるからタグがなくても大丈夫だ。信仰のためとか色々理由はあるそうだが、突っ込んでは聞かれないから丁度いいんじゃないだろうか。ああ、光魔法が使えるということは高位のプリーストか勇者くらいしかいないから、身分証の提示を求められたら光魔法をみせるといい。それは聖性を表すから悪人には使えない」
「え、そうなの!? 俺そんな善人じゃないけど……。光魔法を見せるってどうするの? ……えっと、こんな感じ?」
光の玉を手のひらの上に浮かべるようにすると、アリシアはまた「おお」と目を見張った。
「もう少し小さくて十分だ。ーーああ、それくらいで」
言われたとおりに力を絞ると、ホタルくらいの大きさになった。ただ浮かすのも楽しくないので……そうだよ、ホタル。
一つだけだった光を他にもいっぱいだしてふわふわと舞わせて、ホタルを演出する。おおお。これはキレイじゃない!?
アリシアを見ると、大きい目をさらに大きくしてホタル(もどき)を見ていた。
「なんて綺麗なんだ……ルイはすごいな」
「光魔法って珍しいって言ったけど、普段は治癒はどうしてるの?」
プリーストって冒険者パーティに必ずいそうなイメージだったんだけど。
「ああ、さっきも言ったが光魔法は別格で、高位のプリーストか勇者独自とも言える魔法だ。それを使うだけで少なくとも普通のひとに敵対されることはないだろう。ちなみにわたしたち冒険者にいるのはほぼヒーラーだ。ヒーラーがいなければポーションを持つ。ヒーラーは光魔法の中の一つだが、いわゆる劣化版、下位互換だ。大怪我では使えないし、せいぜい傷を塞いで、神殿に駆け込むまで保たせるというのが仕事だと言える。さっきの私の足のような怪我だったら痛みを抑えるくらいしかできないだろう。それでもポーションは高いし、冒険にとってはヒーラーでも貴重なので尊重されているんだ。もしルイが光魔法を使えるなんて知れたら、いろんなパーティからひっぱりだこになるぞ」
「うわ、じゃあ隠しておいた方がいいかな」
「うーん、……私は、ギルド員の誰かに打ち明けて仲間に引っ張り込む方がいいと思う。何かの場合にサポートしてもらえるし、街で暮らすなら情報ももらえるだろうし」
「そう? 俺わかんないから、申し訳ないけどアリシアにまかせていいかな?」
「勿論だ。任せてくれ」
おー、ほんと頼りになるな!
アリシアは少し嬉しそうにしながら、服も背嚢に入っていた中できれいなものだけ選別していく。着てた服は問題外です。首や心臓を斬られたときに真っ赤に染まってるからね。
ポーションを俺のポーチに入れようとして、アリシアが手を止めた。
「自分で治せるプリーストがポーションを持つのはおかしいか」
「ポーションてどんな効果があるの?」
「内疾患用、外疾患用、あとは精神の疲れをとるものや、毒消しなんかは一般的だ」
「それならうーん、自分で直せそう。っていうか俺この体だから病気とか怪我しないけど、ただのカモフラならあってもおかしくないよね。手が回らない時に誰かに使う用とか言っとけば」
「そうだな。一応持っておこうか」
それから、いらないもののところに集めたものにアリシアが手をかざして火を付けた。
火打ち石とやらは使ってません。なにこれ? 魔法?
「これ、魔法!?」
「ああ。私はソロだから、剣の他に弓も魔法も、あとスカウトの技術も少しずつかじっている。……普通はパーティで分担するものなのだが」
アリシアは少し寂しそうにそう言った。
焼けていく衣類を横目に、一番多い剣を背嚢の一つに入れようとするが、長さがあるから入らない。
ていうかさー、背嚢ってつまりサンドバッグみたいなでかい巾着なんだよ。その巾着の縛り口をもっているか、せいぜい縛った紐を最下部につなげて肩に背負えるようにしてあるだけ!
つっかえねーーーー!!
なにこれ。街とか割と発展してると思ったのに何でこれだけ原始的なの!?あとで絶対使い勝手のいいリュック作ってやる。おれの創作魂に火が付いた!!
俺はアリシアが俺用の背嚢にいれてくれたロープを引っ張り出し、まとめた剣の柄革にぐるぐるロープをまきつけ、しっかり縛る。そのまま長い方を剣に沿わせて反対側、剣先の方も纏めてそのロープで縛る。のこりをある程度巻きつけて縛ってから最後をもう一度最初の結び目にもっていって縛ると、あら不思議。二重取っ手のついた持ち運び便利なまとまりに早変わり。ひょい、と肩にかけてみると、おおお、いい感じじゃない?
「すごい…! 当たり前のようで考えつかない」
あとは無造作に男たちが入れていた服を畳んでみた。ぐちゃぐちゃだと気になるんだよ! もちろんショップ畳み、っていうか俺は家でもこの畳み方しかしたことないんだよね。でもこれ友人とかにびっくりされたことあったわ、そういえば。みんなどうしてんの? って聞いてみると、部屋の椅子に無造作に掛けてあるそうだ。「たたまないの!?」って驚いたら、「男なんて普通こんなもんだろ」って言われたよ。
人によって違うもんだけど、俺が細かいんじゃないよね?
「おお綺麗だ。ルイはとても器用なのだな」
「うん、死ぬまえは色々なものを作ったり描いたりっていう仕事してたからね」
そして綺麗に畳んだ服は古着屋に売るんだそうだ。靴もマシなものは引っ剥がしてきた。なかなかやるな……
それらを一袋にまとめ、腕(イヤー!)も別の袋にまとめる。閉じた袋から血の気を失った白い指先が見えてるんですが!!
そして残りの死体をひっくり返したりして確認してから、男たちにも火を放った。
「え、火葬するの?」
「いや、そこまではしない。皮とは言え防具もあるし、血がついていても服もあるから、ゴブリンや盗賊たちに利用されないように表面だけ焼いておくんだ。そうすればあとの『肉』は野生の動物やモンスターがあっという間に綺麗にしてくれる」
「おお、そうなのね」
ワイルドな世界だ。いや地球でも中世ならこんなもんだったのかな。
「さて、遅くなって悪かった。剥ぎ取りを終えたし街に行こう。街なら人通りが多いから靴音がしなくても誰も気にも留めないだろう」
「ドキドキするな。よろしくアリシア」
「こちらこそ。恩人の意に添えるよう鋭意努力しよう」
しばらく22時投稿を試してみます。