59 トイレって割と死活問題
「あーあと、お前らダンジョン制覇で2ランク昇進だな。イーヴァンとオーディンは銅+だったか、今日から銀+だ。アリシア、お前さんは金+、プレート出しとけよ。……そっちのプリーストは……?」
うわぁすげぇ! 2ランク昇進!? アリシア金になるだけじゃなくて一気に金+だ。……もう超一流ていうより化物に片足突っ込んでるやつだわ。
「プレートはないらしいです。それなんですけどギルドマスター、ルイさんになんとか冒険者証作れませんか? どこでも精霊って言って歩く訳にいかないでしょう?」
「ん、おお、かまわねぇぞ。あれは血の代わりに魔力を多めに加工すりゃできるからな。知られてねぇが」
うわ、イーヴァンさんやった!!
「アリシアと同じランクにしとくか」
「え!? いきなりの金+ておかしいでしょ!?」
「一人で14層近辺をうろついたりモンスターハウス全滅を繰り返せる奴がそれ以外ってのの方が問題だろ。相当の実力はあんだろ。光魔法使えるだけで高ランクってのはもう確定だしな」
「「もちろん」」
「私達の中では一番強い。最終階層の化物も一人で倒した」
ちょっとみんな持ち上げすぎでしょ!! あれ俺の実力じゃなくて貰ったチートの使い方次第で勝てただけ!!
「ならいいだろ」
「えーーーー!?」
アリシアが何故か嬉しそうに頷く。
「あとは何かあんのか」
「…………あ! 8層以降の地図とモンスター、必要になるかと思って描いてきました」
「は?」
俺は書き溜めた地図と、モンスターの詳細図を提出すると、一枚一枚丁寧に見始めたギルマスが、こっちを向いて俺に声を掛けた。
「お前が描いたのか?」
「ええ、俺飛べるんで、こういうの描きやすいですし」
「すげぇなこりゃ。モンスター図鑑より詳細だし、うちにある地図より見やすいな。うちの専属にならんか?」
「断る!!」
アリシアが俺より先に身を乗り出した。
アリシアさん、最近俺の保護者っぽいですよ。
「ルイにはやらなければならないことがあるから、それはだめだ」
「…………だそうです」
それは言えるな~。そろそろアンデッドじゃない悪霊の方にも手を出していかないと本末転倒になりそう。俺、基本はこの世界に悪霊退治にきてるんだった。
や、最近楽しいことやりたいことに傾きすぎてた感はある。しかし後悔はない! でもちょっと人間の体に遠くなりそうではある。
「まぁいい、これは買い取らせてもらうぞ、できるだけ高値をつけとく。あとちっとこっちこい、プレートを作ってやる」
「あ、ハイお願いします」
別室に連れて行かれて、石の台とプレートの並ぶところから白っぽい石の嵌った金のプレートを取ると、「ここに魔力を思いきり放出してみろ」と言われたので、凝縮した光魔法をドンっと放ってみた。青くなった石にかすかなヒビが入る。
「おう、さすがに力込めすぎだが血の変わりにはなったな。普通の奴じゃできねぇぞ、光魔法強くて助かったな。まぁ割れはしねーから大丈夫だ。ーーほら、これがお前のプレートだ、肌身離さず付けとけよ、できるんだろ?」
「あっ、ハイ。大丈夫です」
渡された金のプレートには、名前の刻印と青い石が嵌っている。やったぁ!! ファンタジーマニアの夢「冒険者になる」が叶った瞬間だった。
結構感慨深い。血がないと登録できないって言われて実はちょっと寂しかったんだよね。いやーアリシアとお揃い、嬉しいな!!
「こっちで今回の地図だの、あー、あと他のもあるが代金を振り込む。細かい割り振り指定は受付の方としてくれ」
ああ、ショートソードとか魔石、一緒に狩った時の分は4人で分けるけど、8階までの俺たちと兄弟たちそれぞれの分は別にあるからね。
しかし、あの魔石の量、大丈夫なんだろうか。買いきれないとかない? 分散させて売った方がいいのか後で聞こう。
アリシアたちの所に戻って、今日の宿を取ろうとしたら、そのままダラート邸に招待された。街にいる間はここに住んでくれ! と言われたので、少し待って貰ってロキを連れに行く。
世話をしてくれてた人に十分な礼をし謝礼を払って、ロキを引き取る。ちゃんと綺麗にしてもらっているな、肌艶もいい!
「久しぶりだなー、会いたかったぞロキ!!」
俺とアリシア、アッシュで出迎えると、ロキも嬉しそうに鼻を擦りつけてきた。うむ、可愛いやつめ!! はー、やっと迎えにこれて安心した。やっぱり一回手に入れちゃうと、自分で世話したいし毎日会いたいよな。生き物好きならわかるはすだ。
爬虫類(?)もかわいい! もふもふとはまた違ったどっしりした体がいいね。本来ならそのしっとりした冷たさにも触れたいとこだけど、俺には皮膚感覚ないからな、勿体無い!
「今度はちゃんと毎日会えるとこに行くぞ」
皆で久々にロキに乗って(実質アリシア一人分の重さだが)二人の待つ場所に行くと、騎竜を見てずいぶんいい騎竜だと褒めてくれた。分かるやつにはわかるんだよな、うへへ。
二人が馬で実家へと向かうのに付いて行く。
遠くから見た時に見えた辺境伯爵邸が家か。……デケェ……なんじゃこら。砦と一体化してんのか? いや一応住居とは分かれて入ってるみたいだけど、一部では繋がっている。帝国領が隣とか聞いたし、威圧感を与える意味があったり何かの時に籠城したりできるようにか、ものすごい大きい。高さは20メートル以上はあるし、多分長さは500メートル以上はある城砦に囲まれていた。そして何重にもなった砦って感じだな。いくつもの連なった塔も見受けられる。
建物は質実剛健さが見受けられるが意外と豪華だ。すこしアンバランスだが、中東やインドのがっしりした城塞に似ているかもしれない。繊細さは皆無。とにかく必要な物を配置してできた美しさだ。
とりあえず彼らについてロキを厩舎に休ませ、邸について入る。今の時間は両親や兄は仕事で手が話せないだろうとのことで、執事やメイドさんたちが対応して、それぞれに部屋をくれた。部屋でけー廊下なげー!!
「命の恩人だから、くれぐれも丁重に扱ってくれ」なんて言ってくれちゃったもんだから、お茶だのお菓子だの軽食だのがひっきりなしに運ばれてくる。
アリシアはそれぞれきっちり食べて、俺の分はアッシュが食べている。ひやひやするよ、頼むから俺は食事には誘わないでくれ。
「ようやく終わったって感じだねー」
俺がしみじみ呟く。
「途中から、普通の攻略とは随分違ってしまったがな。ルイにはたくさん迷惑をかけた、すまないな、そして本当に感謝している」
アリシアがド真面目に俺を見て言うもんだから、照れてしまう。うおお、美少女の真面目顔、ちょー綺麗。つかダンジョンで適当に顔洗ったり頭水で流して拭いたりしてただけなのに、そのさらさらな長髪どうなってんの? 小さな顔に横で揃えた前髪の一部が掛かって大変眼福でございます!
「い、いや。俺たちパーティなんだから当然じゃん? アリシアが組んでくれなかったら俺、ダンジョンにも入れなかったんだし」
「そうは言うが、助けられた割合は私の方が大きいだろう? 私はあの時、光と幸運の精霊と出会っていたのだな」
幸運とか!
あったら間抜けに石膏像で火サス状態で死んでないけどな!
「アリシア〜、俺、すっごい間抜けな死に方してるんだから、幸運はないわ」
「でも神に出会えたのだろう? それを幸運以外の何と呼ぶ?」
あ、それはあったな。普通は絶対入り込めない管理人さんのとこに不法侵入しちゃった上に半チート(ていうかすでに真面目にチートだよ)を貰っちゃったわけだし。
それに寝ないとかトイレ必要ないとか意外にも超助かってるわ〜。
あ! トイレのこととか説明してなかったな! ダンジョンでアリシアと兄弟が部屋に閉じ込められてたりしてるのにどうしたかって。
ダンジョンね、排泄がほぼなくなるんだって。
んな馬鹿なって思うでしょ? ダンジョン自体が生き物だから、生き物の死体や、それに生きてる人間の生気だのを吸ってるんだって。だからダンジョンに入ってもらうだけでダンジョンには嬉しい。でも体内に取り込んだものを排泄物になる前にほぼ吸い尽くして横取りしてくるから、人間側もお腹は空くというわけだ。
どうせなら食べ物も必要なくなれば楽なんだけどね。だから多分、老廃物もほぼでないはず。お風呂にもトイレにも行かないのに身ぎれいなのはそういう訳だ。ちなみにダンジョンの床に食べ物を置くとすぐなくなるそうだ。死体も肉体の方は割と早く吸い尽くされるので、腐乱死体にならずに白骨になるらしい。一応生命力が勝っているから生きてるうちは地面に寝ても死んだりはしないそうだけど。
便利なのか不便なのか……。
いや便利の方が多目か。ダンジョンでトイレって割と死活問題だもんね。
さて、アリシアの部屋で一緒にくつろいでいると(誘われたのであって俺が押しかけたのではない)、メイドさんが呼びにきた。食事だって。
きた!!
あの飲み物用カモフラ工作の出番だ、と体に仕込む。
えーと、あの二人は俺のことわかってるはずだもんな?
案内された食堂(遠い!)に入ると、すでに二人が席に揃っていた。
食事は三人分で、俺のところにはワインだけが用意されていた。わかってるぅ!!
「ルイは宗教上の理由で人前での食事も豪華な食事もしない。あとで彼の部屋の方に果物や軽いリゾットあたりを運んでおいてくれ」
そうメイドさんに言いつけてくれている。ありがとう、ありがとう!!
アッシュの分だね!
俺が礼を言うと椅子を引かれるので促されるまま座る。
「生きて帰れた奇跡に」
「乾杯」
イーヴァンさんに合わせてグラスを掲げる。
やーほんと、凶悪な罠のせいでアリシアが死にかけたのは許さんぞ、あのダンジョンめ! お前なんか高く売り飛ばしてやるからなコア!!
初のアルコールを流し込むのをそっとアリシアが伺ってるのがわかる。俺は気付かないふりでゆっくり飲むと、にっこり笑ってアリシアに向き直った。
「これおいしいね」
「そ、そうだな!」
アリシアもほっとしたように食事に手をつけた。俺の飲む振りは及第点だったらしい。
しばらく歓談したけど、疲れてるだろうから詳しい話は一晩休んだ明日、ということになった。
すごく久しぶりに人間の生活に戻れたよ。ゴーストの俺には本来関係ないって言っても、やっぱりちゃんとした食事とベッドって嬉しいね。




