54 漢探知っていうんだっけ
それから夕方まではほぼ同じことの繰り返しだった。
「ぎゃあ!?」
「どうした?ああ、罠か」
だがここにきて、いきなり罠がでてきた。落とし穴を考えて、外向きの結界を下だけ内向きにしておいたので、一回目の落とし穴はセーフ。騒いだのは俺だけだったが、結界が効くことさえ分かれば怖いものはない。その後、毒ガスらしきものも結界で遮断して二重にし、その間に俺が結界ごと急いで遠くへ運んだ。運んで置いた先に横から矢が飛び出して来たのも古典的すぎて笑うしかない。
「もう少し近づけば私がわかるんだが……」
「いいよ、漢探知っていうんだっけ、全部作動させて突っ切るっての。ソッチのほうが早い!」
「ルイは時々変な言葉を使うな?」
おっと、漢探知は通訳されなかったか?
そういえば、意味もなく飛んでると思ってたナメクジにも、ちゃんと意味が会ったんだな。罠がモンスターには判るようになってて、それを飛び越えられる種類を配置したのだろう。
しかし、もっと高度な連動罠とか警戒してたのに、罠自体は子供でも考えられる程度なのが不思議だ。このダンジョンの仕組みは割と丁寧に考えられてるので、ここもまた安心させて油断したところに何かあるんじゃ、と思うのは穿ち過ぎだろうか。
「待て」
アリシアからストップが掛かった。
もういちいち罠を作動させるのも面倒くさいから、全員結界で覆ったまま俺が浮かせて運んでる。
しかしその結界の内側からでもアリシアには気になるところがあるようだ。俺には全く普通の洞窟との差位が感じられない。
「んーー、……この階層の地図、ルイはまだ途中だったよな。すまないが先に完成させてもらっていいか?」
「いいよ、わかった。なんかあった?」
「多分だが……いや、地図ができてからにしよう」
「了解、じゃあ休憩してて」
俺は最下層へ続く道以外を別に全ては埋めていない。もしかしたら宝箱とかあるのかもしれないけど、このダンジョンは8~15層に集中して人を集めるのが目的だろうから、実はそれはないと思っている。
分岐を全部埋めていくと、確かに自然ではなくいかにも不自然な作りだった。
「アリシア、埋めてきた」
「ご苦労さま。……ああ、やはりな。これは、本来中央への誘導に使ってるんだ」
「誘導?」
地図は寺社の地図記号卍型のような、中央に向けて台風の目のように道が集まっている。それをあみだ状に横線が入って判らなくしている。罠は、中央付近に近づかせないためだ。だがよく考えると中央に何かあると言っている、という考え方もできるのだ。どっちだ?
「行ってみるのに反対のひとー」
「…………」
「…………」
「…………」
「だよね、皆ならそうだと思ったよ!」
俺も諦め気味にそういった。
でも罠は全部結界で弾いて飛んで行くので、恐ろしく早い。もうこれ他の敵も全部結界でなぎ倒して行けば早いんじゃないの? え、だめ? ああ、アリシアさんのストレスは溜まるし、兄弟の冒険者のプライドとやらがね。それさえ気にしなければ早いのに。
ここは敵がなくて罠まみれだから許容されてるんだね。納得。
果たして中央には何もなかった。
一応少し重量を掛けたら、巨大な落とし穴がどーーんと地面に顔を開けた。完全に真下に抜けている。深い、というかまっくらだ。
気になるので結界のままゆっくり穴を下っていくと、実はそれほどの深さはなかった。せいぜい10メートルくらいだろうか、下は深い湖だった。地底湖だ。
上に光を打ち上げると、皆その幻想的な透き通るような美しさに歓声を上げた。
「すっごーーー! なにこれちょー綺麗!!」
「すごいな、まるで精霊の泉のようだ。下まで透明だぞ」
「俺達の領内にこんな素晴らしい観光資源が……」
「兄者が喜ぶ」
最後の二人、ちょっと経営者目線だったけど。
「待って、あれ!!」
俺が叫ぶと皆が一斉にそっちに鋭い目を向けた。訓練されすぎてて怖いです……。
「宝箱、あれは罠だな。行ったら周囲は転移罠だろうな、おそらく下の階層に出る。外かもしれない。無視すれば、反対にある階段を登れる、と。」
「ふん、興味を持って一歩でも近づいたらだろう、あちらに上陸しただけでおそらくアウトだ」
アリシアがいうのに、俺はニンマリ笑う。ふへへー。
ここで冒険者の命運が別れるのだ。もうすぐ着くコアか、目の前の宝箱か。だが俺は選ぶぞ、第三の道を!! 両方いただくぜ!!
「だったら、『一歩』も踏み入れなきゃいいんだよね。みんなそっちで待ってて~」
階段の方に結界を飛ばし、反対側に上陸(浮遊してても上陸というのか疑問だが)。
浮いたままだと。うん、問題ない。あーこれ重さが変わったらそれごと転移か、最初の重さを除いて転移だな。よしきた、まー俺ならどこに行ってもすぐ戻れるから万一飛んでもいいし、どんとこい!
ーーこなかった。
普通に宝箱浮遊させたら浮いた。罠の発動なし。一応開いてみたけど、金銀財宝ざっきざく……って、ああこれ、迷宮に散っていった冒険者の持ち物からの転用かな。よし、資金源ゲット!!
みなの元に戻ると大歓声だ。
「いいぞ、すごいぞ結界!」
「結界最高だ!!」
「やはり結界がなければクリアは無理だな」
あの、もうちょっと俺にも……ア、ハイ。俺は何もしてないですね。結界がすごいんだもんね!ふんだ!
クスクス笑ったアリシアが、俺の手を取った(最近は練習になるし全身中身を作ってる)。
「ルイの、結界の、おかげだ。そんなことみんな知ってるさ」
「あたりまえだ。結界と言ったらルイだからな」
「そうだぞ」
二人も笑ってそう言った、なんだよ、からかわれてただけかよ!
「一応出口の確認してきていい?うまいショートカットがみつかるかもしれないし」
「そうだな、ルイなら問題ないだろう。頼んでいいか?」
「おっけー。行ってくるね」
宝箱の周辺に荷重を掛けるとすぐに転移した……ここは……モンスターが居る!!
…………警戒して損した。
コボルト!! おまえかぁ!!
てことは1階層か。19→1ならかなりのショートカットできるな!!
くそかわいくないので無視して下に突っ切る。19層目で通路に出て、中央を目指す。皆はあのまま待っていてくれた。
「どうだった?」
「1階層だったよ、コボルトと対面してきた。コアを取った後も余裕があったらこのへんで狩りをして、あそこから帰ると楽だよ」
「そうだな。候補に入れておこう」
上に戻って、罠を無視して結界内で夕飯だ。
今日はパンにシチュー、それから焼き鳥だ。アッシュはこの間の果物も美味しそうにたべてたから、また新しいのを発掘するのが楽しくなってきてる。今日は紫の果実だ。ちいさくて、ブルーベリーに似ている。肉も一切れ上げた。
これも食いつきが良くて嬉しい。いっぱい食べて大きくなれよー。
「さて、罠さえなんとかなれば19層は勝ったも同然だ」
「最初はどうやったら倒せるのか真剣に考えたが……馬鹿らしい解決法に落ち着いたな」
「まぁそう言うな。勝てばいいんだ勝てば。なぁアッシュ?」
「ニー」
「ほら」
「え、いまのは『そうか?』ていう疑問系のニーだと思う」
ともかくくだらないことを言い合いながらみな就寝した。俺ももう下の偵察はすることないし(一本道だし、行きたくないし)、一緒に寝る? ていうか意識を飛ばす。
うむ、すぐ起きた一瞬なんだけど、みんなすやすやねてるとこ見るとまだ真夜中か。寝るのにはまだ慣れないな、起きてた方がいいや。
地図で抜かしたところを見にいたり埋めたりして完全版を作り、罠もすべて書き込む。おーお、超親切な地図じゃね?これは売れるぞ!!
コアが破壊されたり取り外されすると、ダンジョンの魔素が供給されなくなって徐々にモンスターは減っていく。だが一気にポップがなくなるわけでなく、「徐々に」減っていくのだ。資源がなくなることよりスタンピードが起きないことを喜ぶ気質の人間たちは大喜びで掃討戦に参加する、ダンジョン最後の祭りとも言っていい。つまり地図はまだまだ売れるのだよ、
うへへ。一応20層(もう見たくもない)のような簡単なものにも地図必要? だよねー、あー描きたくない。
でもまぁこれで地図が揃うと思えばなかなか感慨深い。あ、8層以降は全部ちゃんと地図にしてるよ。7層までは縮尺おかしい地図が売ってるけど、あれはもう放置で。
それから罠のない通路へ戻り、例のアレで倒して行くのを繰り返す。じゃんじゃか飛んでくるのでナメクジの裏側がべったり張り付いて、見たくないから半透明にしたいんだけど、閉じ込める結界は見えないと石の落下地点が絞れないというから渋々若干曇り?という程度で抑えてる。もちろん見える、色々と。見たくないものが!!
でもそれでも大分進んで、今晩も罠の中で休むことにした。周囲がミミズに囲まれるより矢が刺さってるほうが心に優しい(人によります)。
夕方に入ってから宝箱にも行ってきたし、今の時間なら夜の9時10時ってところじゃないかな。いつもより長時間なのでみんな結構おつかれだ。
俺はまたひとっ飛び上まで言って、パスタを買ってきた。明日になったら誰も食べたくない、もしかしたらしばらく見たくもない、なんてことになりそうだから今のうちにね。
明日は最終階層に入れるだろうか。ドキドキ(悪い意味で)が止まらない。心臓なくてよかったわー。




