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53 ずっるーー!!



「前回と同じでいくぞ」

「おう」


 至極冷静なアリシアの声に、兄弟が揃って答える。俺は心の中でぎゃーぎゃー言ってるけど、アリシアは心の声と発してる声が変わらない系女子だ。冷静って強い。


 さて、ナメクジだが基本は今までと同じで行くことになっている。結界で覆って凍らせる、大体のモンスターに応用できそうである。

 ナメクジ独自の倒し方?ないない。

 ああ、ナメクジって聞いて「塩」って思った人居る? その中でどれだけの人が実際に試してみた?

 うちはね、やったよ。父親がね! あの人そういうことばっかりしてるからありとあらゆる虫に刺されたり咬まれたりしてるんだからいい加減にして欲しい。ムカデで懲りとけよ。

 ナメクジの上に、山になるように塩を盛った訳。そしたら、意外なことにナメクジはそこからぬるぬると這い出てきた。ただし、若干小さくなってたけど。そしてやっと出てきたとこにまた容赦なく山盛りの塩→這い出る→塩→這い出る、の繰り返しで、最後は小さな干からびたミイラみたいになっていた。

 結果分かったことは、溶けてるんじゃなくて、浸透圧の関係で水分が抜けてるんじゃないかということがひとつ。あと山程の塩を使っても殺すまでいかなかったことが一つ。父親は塩のケースを持ち出してくだらないことに使ったと母親から大目玉を食らっていた。アホだ。

 

 という訳でこの巨大ナメクジに塩を使うなんて現実的じゃない。あとこいつら飛ぶし。

 凍らせたほうがずっと早いわ。


 さて、結界にぶつかってシワが寄っているナメクジがずるっと剥がれたところで相手に内向き閉じ込め用の結界を掛ける。動かれると(精神的に)やばいので殆ど動かない程度に縮めておく。

 そこにアリシアが氷魔法を発動。美少女の手から吹き出るブリザード、超カッコいい。何かの漫画っぽい。


「ん?」


 アリシアが不審げな声を上げた。


「どうかした?」

「……効きが悪い。というか、あまり効いていない気がする」


 言われてみれば、確かに他のモンスターはすぐ凍ってたのに、ナメクジは霜が張ってるくらいでうねうねしている。水分多いからすぐに凍りそうなものだけど?

 それからしばらくして、アリシアが魔法を止めた。


「だめだ、効かない。こいつ、おそらく氷に耐性がある」


 今までにないパターン、ここできたか。

 ていうか今までのモンスターも何かしらの耐性持ちだったけど、俺達がそれを使わなかったってことも考えられる。


「どうする?」

「アリシア、ミスリルに火魔法を通せたよね。氷でだめなら火じゃない?」

「なるほど、やってみるか」


 アリシアが一歩前に出て、ミスリルの長剣に炎を纏わせる。美しい赤い剣に、俺たちは見惚れて誰ともなしにため息が出る。


「すごいな、伝説のサラマンダーの剣のようだ」

「絵になるな」

「アリシアかっこいいーー!!」


 男どもの無責任な褒め言葉を全く気にせず、アリシアは身動きのできないナメクジに炎の剣を振り下ろした。

 流石にジュワッという音とともにスッパリと体が斬れる。切れないなんてことはなくて良かった。数メートルの巨体には微々たる傷だが、焼いていることもあるし、かなり堪えるだろう。

 ーーと思ったのだが。


「皆、ちょっといいか。あの傷、私の目にはおかしく見えるのだが」


 アリシアが言ったので、俺達はただ喜んでいたのを止め、じっと傷に目を凝らす。

 おかしく見えるっていうか……


「ちょ、再生してるじゃん!!」


 思わず叫んだ。アリか!! それアリかよ!!? ずっるーー!!


「氷も炎も、斬撃もダメか……再生速度もなかなか早いし、全身を斬る間に再生が追い付いてしまうな」


 オーディスさんが腕を組んで眉を顰めた。

 そうなんだよね、再生でもゆっくりだったら問題ないんだよ、こっちがそれ以上の速さで殺ればいいんだし。でも再生が早いってのは厄介だ。選りに選って、焼いた所さえ再生しているのが痛い。

 アリシアが、剣を刺したまま炎を大きくしていくが、焼けた場所が広がっていく様子がない。再生が追い付いてる。


「さて、どうするか」


 アリシアがすっと剣を引いてそう言った。


「まぁ、何もなかったら俺が圧殺しちゃうからね」

「それは最終手段にしたいが、今回はやむ無しか……?」


 みんな自分の手で殺りたい派の面倒くさい冒険者気質だから(俺にはない)、圧殺に反対なんだよね。簡単でいいのにー。


「でもどうする? こういう場合って普通冒険者ってどうするの?」

「まぁできることを一つ一つ試すしかないか。魔法、弓、剣、状態異常、なんかだろうか」

「毒とかないの?」

「ムカデから取ってくるか?」


 それもいいかも。

 とりあえずこのナメクジはそのままにして、一旦皆でムカデ階層に戻る。目についたムカデをギチギチに圧縮掛けて、その間に俺が空き瓶に牙から毒液を採取。意外と量が取れないので、それを数度繰り返してやっとビンの半分ほどを集めた。


「これさー、これでナメクジ1匹にも効かなかったらムカデ足りなくならない?」

「そうだな……まだ効くと決まっていないが、効率が悪すぎるな」


 なんか不吉な予感を感じながら下の階層に戻る。まだ結界内でウネウネしていたナメクジに、剣に毒を掛けて差し込んだ。

 ナメクジの若干透けたベージュの体内が一気に紫に変わる。……ただし、剣の周囲だけだ。

 そして、やはりというか徐々に元の色に戻っていく。


「毒もダメか……」


 アリシアのうんざりした声に、皆で頭を振る。再生無茶すぎる。


「ーーいや、いやいやいや、待て!」


 イーヴァンさんが何かを思いついたように、オーディスさんに声を掛けた。そして二人で何やら「詠唱をまとめて……」と魔法の話をしているっぽい。


「魔法? 二人って属性なんだっけ?」

「二人とも水と土と聞いたぞ? 攻撃向きではないが、それでどうする気だ?」


 俺とアリシアが首を捻っていると、こっちを向いたイーヴァンさんが「この結界、外からは入れて中からは出られないんだな?」と念を押した。


「そうだよ。あっちにかけてるのは内向きの結界だからね。こっちの結界は逆だけど」

「わかった。じゃあ、土魔法を試してみるぞ」

「土魔法?」


 土魔法って見たこと無いけど、イメージだと土を操って落とし穴を掘るとか、壁を作るとか、ゴーレムにするとか、そんなイメージがある。それで何をどうすると?

 

 と思ったら、ナメクジの上の結界と天井の隙間にどんどんでっかい岩…土? の塊が構成されていく。しかもでかい!すでに1メートル以上、ああもうその倍近くなってきてる。


「…………まさか」

 

 アリシアが言ったように俺もまさかって思ったよ。いくらなんでもそんな馬鹿な!!

 と、突っ込む間もなく二人の手が振り下ろされ、岩の塊はナメクジに真っ逆さま。位置エネルギーも加わってかなりの凶悪さでナメクジを襲う。

 ナメクジの軟体なら、うまくすれば生き残れただろう。ただし結界がなければな!


 ただでさえ隙間のない箱の中に、そとからでっかい岩が入り込む。そして入ったものは出られない。いやもう岩じゃなくても水でもなんでもいいけど、その分だけ体が圧縮される。

 つまり俺の圧殺と同じことをしている訳で。違いはそこに俺以外の手が入ったかどうかだ。


 ナメクジは、想像通り弾けました……。

 咄嗟に半透明にして中を見えにくくした俺の反射速度に拍手!!


「……………………」


 何とも言えない俺に反し、三人は満足そうだ。ええ、ええ、俺の圧殺はダメでもこれはいいのね。いじけそうなんだけど。


「よし、これなら二人のやる気も上がるだろう、ガンガン行くぞ!」


 あ、アリシアさんは一応二人の活躍の場を作れることを喜んでた。いい子や……。



 ナメクジは、四方八方から飛んでくるのが大変だった。こっちは結界を掛けているけど、一匹対処してる間にもガンガンぶつかってくる。俺はそれをどんどん個別の結界に閉じ込め、兄弟が岩を落とし、俺は兄弟の魔力を回復し、またぶつかってきたナメクジを結界で覆い、と八面六臂というほどではないの活躍をした。アリシアは手が出せなくて退屈かな、と思ったんだけど、「斬りごたえがないものを斬っても面白くも何ともない」とのことだ。なめくじ、さすがに体表は柔らかかったからね。アリシア的には「つまらぬものを斬ってしまった」なんだろうさハハハ。


 とにかく数が多いので、なかなか進まないのが難点といえば難点。昨夜見たときはこんなに多く感じなかったんだけど……。コアが「このままじゃやべぇ」とか考えて敵を増やしたとかじゃないよね?


 ともかく、どうせここも一日では終わらない。

 飛んでくるナメクジの最中で周囲に何重にも見えないようにした結界を張って、休憩。なんとなく柔らかいものを食べたくなくて、硬めのパンに肉と野菜の挟まったボリュームのあるサンドイッチを購入。あと見たこと無いかわいいピンクの果物があったのでアッシュに購入。

 はぁ、食事時間だけが安らぎだよほんと。


 


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