52 アクティブだなお前ら!!
翌朝は準備をしてみんなさっさと狩りに出た。もうすぐ攻略できるというのが待ちきれないのかもしれない。
このダンジョンの何より恐ろしいところは、後半ずっとゲテモノ階層が続くことだろう。女性なら……(えーとアリシア以外の女性なら)それだけで心が折れるに違いない。男でもダメな人はほんとダメだ、俺みたいに。
こんなの続くと、何かムカデとかマシな方じゃね?っていう脳内の妙な勘違いが発生してしまう。今だって黒の体に蛍光オレンジの足がうぞうぞしてるのを見ながら、「ぬらぬらしてないし団子状じゃないし、なんなら蠕動運動しないとかすげーいい」なんて考えている俺がいる。慣れって恐ろしい。
ダンジョンは生き物、適度な餌(宝箱と魔物の魔石)で釣って、それ以上の力で叩き潰す。そして人間を回収することでリソースとして再使用している、らしい。アンデッドもまたそのリサイクルの一環なんだろう。
さて、ここで今更だがこのダンジョンについて解ったことがある。
ある程度までは自分のコアでさえ餌にしておびき寄せたいが、本当にコアまで来られると困る訳だ。そこで普通のダンジョンは単に下層ほど「モンスターを強くする」「罠を張る」等の対策をするのだそうだ。だがこのひねくれたダンジョンは「来られないのではなく、来たくないダンジョンを作ればいいじゃない?」と言わんばかりに、ある程度から一気に守りに入っているのだ。それがこのゲテモノという精神にくる作りなわけだ。勿論強かったとしても俺の結界チートと、アリシアというリアルチートの合わせ技の敵ではないがな!
最初が極端に弱かったのは、この撒き餌のためだ。そうして冒険者に益があるように見せてたくさんの人間を呼び込む。どんどん深くなり、8層あたりで誰かが「引き返す方がマシ」、とならないように、あの凶悪な「転移罠」を用意し、下層へと導く。ゴーレム階層に入ってくれたらめっけもん、といった感じだ。だれかが「あそこは稼げるぞ!」だなんて金や銀を持ち帰れば最高、一気にゴールドラッシュだ。ミスリルがたまに倒されてもそれ以上の餌が釣れるのでおいしい。だがそれこそが罠だ。
ここでもこんなに稼げるんだ、もう少し行けばもっと……! と人間なら欲を出す。だがそれ以上下に行くと叩きのめされ(精神的に)、そのままダンジョンの餌になる。コアを守れるしダンジョンに人を呼び込める、とても良く出来た作りなわけだ。
8層〜14層までは、いわば上級者向けのボーナスステージなのだ。
あんなゲテモノ階層をどこまで続くか解らないほど進むより、こっちの方が楽だな、と。そう思ってくれれば、願ったり叶ったりだ。彼らが持ち帰った餌に釣られて無理してゴーレム階層に来て死んでくれる人間も多いのだ。
今回のコアの誤算はズバリ俺。階層も敵も上下左右関係なく通過して20階層で終わりだと判明したから、皆のモチベーションが復活してるのだ。普通は最下部の階層なんて判らない。これで30階層だとか言われたらもう動く気力もなくなるだろう。
俺はみんなの後ろで戦闘を眺めながらつらつらとそんなどうでもいいことを考えていた。
皆は、俺には良く解らないけど、折角だからと剣に火魔法を通してみたり、水攻めを試したり、まぁなんというか、人体実験……虫体実験? をしているようだ。みんな開き直りすぎだと思うぞ?
お昼の休憩時も皆普通にもりもり食べた。「吐く」とかいう人、とうとういなくなったぞ。あ、今日のお昼は上からピザっぽいのと冷たいお茶を買ってきた。食べられないのが返す返すも悔しい。ピザ美味しそう。
夜になる前にとうとう18−19の階層間の階段まで辿り着いたので、今日は早めに休憩だ。
ガッツリした肉とサラダにスープにパンと多めに買って、明日に備えてもらう。
「とうとう19階層だね。多分さすがに強いと思うよ」
「とは言っても、ルイの結界とアリシアの氷魔法で、倒せないことはないだろう。まぁ気楽に行くさ」
イーヴァンさんがはは、と笑ってそう言った。
「ただ、俺たちはあまり活躍してない気がする。もう少し頑張らねばな」
「いや、安定した強さがあるからかなり心強いぞ。それと、パーティで10層越えは、ゴールドランクの条件の一つだ。私は他をすべてクリアしているからこれでゴールド決定だ。二人ももうシルバーに近いんじゃないのか?」
アリシアがそう言ったら、オーディスさんが「いや待て」と、手を上げた。
「確か……コアの奪取は2ランク昇格だった気がする。俺たちはシルバーの+と−、アリシアはゴールドの+になるんじゃないか!?」
「……………………!!」
「ま、まじでーー!!?」
すっげーすっげー!! これは何としても持ち帰らねば!!
「ところで帰りってどうなってんの?また同じルートを帰るの?」
それだと面倒くさい!
「普通はな。コア辺りから地上への転移ゲートがあるところもあるらしいが、私は知らない」
「まぁ、ないならないでまた魔石が稼げると思えばいいさ」
「……そうだ、転移があるということはルイたちと逸れる可能性もあるのか。ルイなら探しに来られると思うが、一応今のうちに俺達の連絡先を教えておく。はぐれたら家に来てくれ」
二人が自分から素性を明かしてくれるのか、信頼されてるのか、これはうれしい。
「りょうかーい」
「俺達の姓はダラートだ」
「な……!」
アリシアが絶句したので、俺は彼女と彼らを交互に見た。
「何? 知ってるの?」
「ルイ、ここの地名は『ダラート辺境伯領』だ。そういえば、その鎧の紋章もどこかで見たと思っていたんだ、辺境伯爵の紋章か!」
イーヴァン・ダラートと、オーディス・ダラートってこと!?
あらら……つまりほんとにいいところのおぼっちゃん、どころか高貴族でしたか。たしか辺境伯って辺境を任される大任の分、伯爵の一つ上である侯爵の身分と同等に扱われるんだよね。これはびっくりだ!
「えっと、俺いまからでも敬語に戻したほうがいい?」
「やめてくれ。あと言おうと思っていたんだがイーヴァン『さん』オーディス『さん』もできればやめてくれ。……俺はもう、ルイたちは友人だと思っているからな」
照れたように言うイーヴァンさんに誰得?と一瞬思ったけど、言われたことは素直に嬉しいので「わかった!」と返しておく。
「これを渡しておこう。飾り短剣だ。コレは親しい間柄の者をそうであると証明するものだ。間違っても門番に見せて『どこで盗んだ!?』なんて捕まることはないから安心してくれ」
「あ、でもこれ切れ味は悪いから、使うのは止めたほうがいいぞ」
オーディスさ…オーディスの言葉に、イーヴァンがからかうようにそう突っ込んだ。ほんと似た兄弟だけど、イーヴァンさんの方が若干お茶目だ。
「二人のお兄さんも二人に似てるのか?」
アリシアが、ちょうど俺が思っていたことを聞いてくれた。
「いやそれがな、俺達は双子かというくらい似ているのに、兄だけは全く似ていない。細くて金髪、母親似で頭の回転の早い完全な『文官型』だ。俺たちは領地経営とか頭の痛くなることは絶対逃げ出すだろうが、兄には天職のようで生き生きしている。反して俺たちはこの通りだから、後継者争いなんてこともなくうまく回っている」
「ほー、兄弟仲いいんだ」
「ああ、兄を手伝ってるぶん、冒険者なんてことを自由にやらせてもらってる。その代わり兄の元にすぐ駆けつけられるようにこの領の外には出ないがな。ここが攻略できたら外の森の方に入ると思う」
「ルイの結界がなくなるんだ、無茶するなよ?」
「それが問題だな、この便利さに慣れると後が怖い」
みんなで笑いながら、なんとか和やかに19層前の交流を行った。
うん、雰囲気もいいし、このまま……、このまま、は無理か。ま、まぁ明日になれば阿鼻叫喚の地獄だろうけどな。
さて俺は夜のうちに当然偵察を行っている。そしてそれからは一晩皆から離れたところに結界を張ってライトを打ち上げ、地図を書いていた。
朝になり徐々に皆が起き出す頃には、最低限の道筋の地図は出来ていた。細かい所はまだだが。
「下はどうだった?」
一番に起きてきたオーディスさんに訊かれる。
「攻撃はしてないから判らないけど、動きがものすごくアクロバット。飛んでくるよ」
「ビッグスラグだったか?」
「スラグ? ああ、ナメクジのことかな。うん、そう。フライングビッグスラグっていうのが正しいかもね」
「また最悪なのを作ったものだ」
「ほんとだよ、ここのコア? すげー性格悪いよ」
そうこうしてるうちに顔を洗った二人もやってきたので、下の階層のことを話す。
「ただなー、19層がただのフライングビッグスラグ? だけってのも若干不自然な気がするんだよね。普通はボス……階層守護者だっけ、そういう絶対通さな無いマンがいそうな気がするんだけど、特にそういうのいなかったんだよねそこがちょっと気になる」
「む、じゃあ罠がある可能性もあるか」
「ああ、それはあるかも。俺は飛んで見てきただけだから多分罠があっても引っかからないし。まず19層に行く前に俺たち側に結界を張りつつ、相手が出たら別の結界に閉じ込めるっていう二重結界で行くから。それなら矢と魔法くらい飛んできても防げるし」
「了解、たのむぞ」
と言って、19層に足を踏み入れた途端に、どごおん、とすごい音を立てて結界にナメクジがぶつかってきた。どっから来たお前!! 前にはいなかったんだから上から降ってきただろ!!
アクティブだなお前ら!!




