51 いや別に拗ねてないし!?
午後は巨大ムカデの階層に入れた。
最初はやはりそのデカさに硬直していた兄弟も、平然としているアリシアを見て気を鎮めていたようだった。
それから打ち合わせ通り俺が結界を掛けて、アリシアが氷魔法で凍らせ、兄弟が砕く。
ムカデの硬さでは砕けない可能性も考えられたが、思った以上に上手くいき、氷魔法の温度も下がっているので剣で氷を砕くと同時にムカデ自体も上手く砕けてくれた。そして魔石をGET!
アリシアの負担を減らすために、俺はこまめに回復を掛ける。
「大丈夫そう?」
「ああ、これなら楽に行ける」
相変わらずです。知れば知るほど超人なんだけど、アリシアって弱点ある?
兄弟も濁った結界で中が見えにくくしておけば大丈夫そうだったので、この階層もそこそこ順調に進んだ。
が、しかし。
昨日、誰かさんがフラグを立ててたの忘れてたよ。そう、「下の階層の変異種が出たら、一応気をつけた方がいい」というアレだ。
めちゃくちゃフラグだったっていうのは、実際に変異種が出てから気がついた。
体が黒いのは同じだが、足がオレンジじゃなくて蛍光の紫だ。「俺、毒が強いんだぜ」っていう自己アピールですかそうですか。そういうのは会社の面接でお願いします。
そしてでかい。他のより一回り大きくて、この階層では窮屈そうだ。
「……変異種、出ちゃったねぇ」
「まずは同じように行くか」
すぐに、カチカチカチカチ……と、またあの威嚇音が聞こえる。今回は牙から毒々しい何かが滴っているのですが。
俺が結界を掛ける。そこにアリシアが氷魔法を掛ける。うん、ここまでは問題なし。
あれがムカデ毒だな。結界があるから飛んでこないけど、下手に手とか入れると危ないな。
トドメを刺すために兄弟が近づくと……掛けていた氷魔法にヒビが入った。そしてすぐに頭の一部だが氷を砕いてしまった。
「嘘だろ!」
思わず叫ぶ。
流石にガンガン体当たりされても結界は破れないようだが、これはまずいぞ。こんなに早く砕かれるとか! そもそもミスリルでもなかなか刃が通らないから、一気に冷やして本体を脆くしてるってものあったのに、氷を砕ける程度には堪えてなさそうだ。なんてやつ。
氷魔法を掛けたあと静観していたアリシアが、剣を抜き放った。
「私も加わってくるか」
「その方がいいかもね」
もう一度氷魔法を重ねがけしたアリシアが兄弟の側に行き、打ち合わせをしている二人に一言何かを告げると、一気にムカデの頭めがけてミスリルの長剣を振り下ろした。
ざく、と刺さった剣にムカデは「ギィィィイイィイイイイ!!」と耳障りな音を出し体をくねらせた。
うわ刺さった……! マジでー!!?
腕か、腕の差か!! 俺の剣は滑って刺さらなかったのに……。
その後数度刺そうとしたが、ムカデは頭を中に丸めてしまった。仕方なしに関節を斬りつけていくアリシア。それも動かれてなかなか狙いが定まらないようだ。
「ふむ、ルイ、もう少し結界を小さくしてくれ。動きを封じないと狙い通りに刺さらない」
「了解~」
結界に圧力を加え、徐々に狭くしていく。
小さな箱に無理やり閉じ込められたムカデは折り畳まれるように体の動きを封じられ、氷を砕きながらものすごい体を捻ってる。一応氷は砕いても、冷えたためか多少動きが鈍い。その動きがほぼ止まるまで結界を小さくしていった。
「良し」
アリシアが近づくと、ムカデの足を数本まとめてスパンと切り裂いた。そして目の前にあった関節部に刃を突き込み、跳ね上げる。
「ギシャァァアアアアァァァァァァ!!!」
声は響くが動けない。多分、体の後ろの方を関節で切り落とした。でも想像通り生きている。
兄弟もミスリルソードを関節部に突き込んだ。そして何度か繰り返しまた関節を一つ破壊する。おお、俺では刺さらなかったのにこの二人も刺せるのか……なにこの差。虚しい……。
あ、いや虚しく思うのも失礼だよな、三人は今までずっと剣の修練を積んだ熟練者、対して俺は剣自体もったこともないド素人。そう、この差は当然なのだ!!
奴は頭を中に隠し込んでいるので、外部から削っている。でも、体を捻って顔を見える位置に持ってきた一瞬をアリシアは見逃さず、その目に剣を突き立てた。
そして即座に反対の目にオーディスさんも剣を突き立てる。
そして二本の剣に引き摺られるように頭を外側に出した変異種の頭の関節に、イーヴァンさんがミスリルソードを深々と突き入れた。その時点で今度は身動きが一切できないようにギチギチに結界を縮める。
やった、連携がうまく取れた。
それでも逃げないように念の為か、アリシアが片手を剣から離し頭だけ再度氷魔法を掛ける。そして三人が刺さった剣を跳ね上げたとき、変異種ムカデの頭は見事に砕け散った。
全員がまだ剣を構えたまま、体が動かないか観察している。
ーー暫くしてようやく体が魔石となり、コロンと落ちたことで、倒せたと知った。
「やはりここまで来ると変異種も強いな」
ふう、と息をついたアリシアに、皆で頷いて、全員で座り込んだ。直ぐに結界を掛けて休みにする。俺も水とか飲みたい気分だよ、でも飲めないから、代わりにアッシュには好きなだけ飲ませる。大人しくしているけど、たまにモンスターの動きを目で追って「ニー」って鳴いてるから、動いてるものを追いかけたいとか、何か興味を惹くことがあったんだね。でも危ないからここではだめだよ?
さて、ここまでが順調に来すぎてただけで、本当は毎回このぐらいの大変さを味合わないといけないんだ。これは死ぬる。
でもまだムカデ階層は続く。変異種は複数はいないはずなので(その階層の魔素が一箇所に溜まると変異種になるらしいし)、とりあえず後は今までのルーチンで大丈夫な筈だ。
「今日中にここの階層の攻略は無理だろうから、今晩はここの道の真ん中で就寝になりそうだな」
「もう慣れたぞ」
オーディスさんとイーヴァンさんがそう零す。
いやー、敵の最中で寝るのに慣れるとか、俺がいなくなったらまずいよ?
少しの休憩のあと、できるだけこの階層を進めておくために攻略を再開する。俺は少し先に陣取って、結界師として(そう言うとカッコイイかと思って)結界だけに集中し、あとは地図の仕上げをしている。
だってもう、俺の剣はミスリルでも刺さんないし? いや別に拗ねてないし!?
移動しながら結界だけをかけていればあとの3人が始末してくれるので、ここの地図が納得行くまで書き込めた。ゲテモノ階層は敵も強いが広いのも問題だ。これは地図ないと普通は迷うね。
時間は掛かったけど、こちらも夜(多分)まで小休憩を挟みながらムカデ退治を繰り返した。さすがにもう誰もビビらなくなった。
……折角慣れてきたとこにあんまり言いたくないんだけど、最後は巨大なナメクジが飛んでくる階層だぞ? 覚悟しとけよ?
今回も昨日と同じく通路の真ん中に結界を張って就寝だ。
夕飯は荷物も軽くなったので上からサンドイッチと具沢山スープを買ってきた。
外は虫の声が聞こえた。おそらく風も涼しいのだろう。外で寝転がりたいくらいだけど、それできるの俺だけなんだよな。あと折角なのに肌で体感温度を感じられないのもちょっと虚しい。
ま、全てはここを出てからだな。あとたった2層でクリアだ。前人未到の領域らしいから、それもわくわくする。ーー出てくる敵にさえ目を瞑ればな。




