50 昨日までの俺とは違うのだよ
アリシアたちは今夜は道のど真ん中で結界を張って就寝だ。結界への信頼が厚いので、道の真中でも両側にミミズが溜まってても問題ないそうだ。しかし、何かあったらと思うと俺の方が怖いので結界は三重にしてある。更に間隔を置いて通路を塞ぐように更に結界。これを両脇にかけておけば、朝起きてすぐミミズを拝むことにならなくて済むだろう。
「も、目標も決まったし、怯んでる場合じゃないや。ここの階層も道筋が見えたし、今夜のうちに次の階の偵察行ってくる」
「わかった、頼む」
俺はなんとなく照れくさくなって誤魔化すようにそう言った。
ここの階層は流石に広く、まだ階層間の階段まで行けてないが、攻略は確実そうなので次を見てこようと思う。
イーヴァンさんたちは俺とアリシアが話してる時は気を遣ってくれたのか遠くにいたが、俺が出ていこうとすると側に寄ってきた。
「ルイ」
「うん?」
「ーー無理しなくていいぞ。元々俺たちの実力だけではもう攻略が難しい階層に来ている。気分が悪くなってまで行かなくても大丈夫だ」
ああ、俺の心配してくれたのか。昨日泣き言言ってたからねー。
「大丈夫! 俺ちょっと今ものすごくやる気に満ちてて、さっさと攻略しちゃいたい気分なんだ。だってあとたった3層だよ? みんなで行こうよ!」
「そうか……わかった。ルイの精霊体なら危ないことはそうないだろうが、何かあったらすぐ戻ってくれ」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ、皆はしっかり休んで。おやすみ!」
あ、俺いつの間にかこの兄弟にも敬語使わなくなってた。もしかして俺の場合、丁寧なんじゃなくて敬語は心の垣根の象徴みたいなものでもあったのかな。自然と敬語が取れるってそういうことなのかもしれない。
さて18層。巨大ムカデ、ジャイアントセンチピード。
アリシアのおかげで怖さがなくなって、色んなことに気がついた。
つまりさ、デカさを気にしなければあんなのはただの虫なんだよ。
俺、日本でムカデが出た時どうしてた? 無視はできなかった。父親が昔ムカデに咬まれてすぐにショック症状が出て病院で点滴してもらったことあって、ムカデの毒ってめちゃくちゃ危ないんだって覚えたから、悪いけど見つけ次第始末してた。害虫じゃなかったら放置してただろうけど、いつ家族が被害に遭うかもしれないものは怖い。
殺虫剤はほぼ効かない。専用のものならともかく、普通のではまず無理だった。
次に、食器用洗剤をお勧めされた。ムカデとか走る黒い奴らとかは横の体表面の穴で呼吸していて、その穴を油でコーティングして守ってるから、洗剤で油を流されると呼吸できなくなるとかそういう説明をされた。これは結構効いた。薄めてスプレーボトルに入れておいて使ったら、普通の殺虫剤よりもずっと早く仕留められた。
そしてその後に調べたら、ムカデは熱に弱く寒さにも弱いと知って、お湯を使ってみた。別に熱湯じゃなくても50度以上あればいいらしいから、ポットのお湯ですぐ使えた。これは効いた。一番早く仕留められた。なのでその後はそればっかりだ。
何でそんなにムカデがいるんだって? 実家は田舎の方で庭とかかなり広かったからね、巣とかいっぱいあったのかも。
残念ながら冷却は難しくて試す機会がなかった。
でも今回の勝機はここにある。
ここでは食器用洗剤もお湯も準備は難しい。もしかしたらアリシアの魔法でお湯くらい作れるかもしれないけど、それよりももっとずっと手っ取り早いのはアリシアの氷魔法だ。彼女が一番得意で、しかもお湯などより相手に暴れられた際の事故が少ないだろう。
攻撃は顔に集中する。だが、頭を潰されても関節にある脳?で動けるから、そっちも潰さないといけない。結論:全身まるごとぶっ潰す方が早い。
ミミズと同じだ、ちょっと硬いかもしれないけど問題ない。
みんなの眠ってる結界の少し先で土中に潜り下の階層へ。
俺は姿を現しているので、すぐにお出迎えがあった。幅1メートルくらいで長さ数メートルの、ジャイアントの名前に恥じないデカさのセンチピードだ。だが怖くない。アリシア教に入信した俺は昨日までの俺とは違うのだよ。
そもそも俺には物理も魔法も通じない、精神力さえ強化されれば完全な敵なしだ。更に、仮に俺の体にアリシアの精神が入ったら、この世では俺以上の完全無敵だ(断言!)
やってきたムカデは俺に噛み付こうとして素通りし、キシャーと息だか声だかを上げた。一度通り過ぎると直ぐに振り向くことが出来ずに、転回に若干の時間が掛かる。
ふーん、そんなもんか。
突進力は怖いが、これなら結界で防いで魔法で簡単に仕留められるな。
後は体の動きを熟知しておいたほうがいいかな。ムカデの目の前に飛んでいき、噛み付く直前でひょいと上に避ける。一瞬「!?」という感じで周囲を見て、俺を見つけるとまた牙を剥いた。それもまた横に避けると、カチッと歯を鳴らす音が聞こえる。
カチカチカチカチカチカチカチカチ……
歯、っていうか牙を鳴らしてる音か。これはもしかして威嚇音? 怖くねーよ!
「ふふん、来いよ」と指を上に向けヒョイヒョイと動かす。(一回やってみたかったんだよ、『ダサッ』とか言うな!)
ムキになってか何度も何度も向かって来るムカデをギリギリで避け、前後左右に揺さぶると、身体能力は思った以上に高かった。まず、背後への転回が唯一ダメなだけで、他はどんな体勢であっても向かって来られるようだった。ダンジョンの天井ギリギリ上まで飛んでも、奴は下1メートルほどについている数本の足だけで体を支え、直立して向かって来た。これには「マジか」って思わず声が出た。
そのまま真横に移動しても追って来るし、横の地面すれすれに向かったら、体をローリングさせてドスーンと体を落としてきた。
うっわ、すんげー。自分の体が硬いことを知っているからこそできる攻撃方法だな。ひっくり返っても体を捩ってすぐに戻るのでなかなか隙がない。背後を常に取れるのは流石に俺だけだろうし。正攻法だとこいつ厄介だ。
あと、攻撃に参加していないが後ろにもう1匹いる。多分番で行動してる。
他のムカデも2匹で行動していた。
硬さも知って置くべきか、と一応ミスリルソードで斬り付けてみる。
「……!? 硬い!!」
今までで一番硬いな。足の関節部分は切り落とせるが、あんだけ大量の足、数本切ったところで堪えそうもない。頭の関節と目、多分その辺を狙うのがいいんだけど、そこも硬い、ソードが滑る! 目が硬いって何だよ!?
ま、大体の身体能力が分かったので、今晩はここまでだ。あとは一通り通路を飛んで、地図にでも起こしておこう。
「おはよう」
「おはよう。どうだった?」
翌朝起きてきたアリシアが、挨拶のあとそう訊いてきた。イーヴァンさんとオーディスさんも、水で湿らせた手ぬぐいで顔を拭きつつやってくる。
「ミミズと同じく、結界で閉じ込めた上で氷魔法使うのがいいだろうね。ムカデならお湯と氷に弱いはずだから。悪いけどまた頼むね」
「わかった」
「今日は俺がガンガン魔力補給するから」
ポーションは邪魔だから使ってしまおうとなっただけで、俺が回復すると魔力も体力も回復するし、そもそもコストが掛からないのがいい。
「ムカデは身体能力は高いよ、背後以外は天井まで飛んでも襲ってくるし、素早い。あとミスリルソードでも関節以外は殆ど通用しない。足は切り落とせたけどキリがないね。凍らせてから叩けば多少は脆くなってるんじゃないかと思うんだけど」
「では、叩けば壊れるくらいまで温度をできるだけ下げる」
「そんなことできるの?」
「ああ、氷の操作は得意だ、任せろ」
くー、かっこいいな! なんていう男前発言!!
「じゃあ俺たちは止め刺しに参加すればいいのか?」
「そうだね、頼むよ」
これでそれぞれに仕事が割り振れた。
「でも、まずはここのミミズの掃除だな。俺の想像だと昼くらいには下の階層に行けそうだと思うよ」
今朝も持ち込み食料の消費だ。それだけだと可哀想なので、上でサラダに乗ったチキン?みたいなのとジュースを買ってきた。チーズや干し肉はほぼなくなったので、重いものはない。これで大分軽くなっただろう。
それぞれが減った荷物の整理をする。
俺は宝玉の溜まったのが一袋、魔石で一袋、ミスリスソードで一袋、冒険者たちの剣なんかをまとめた一袋と、ものすごい量だが、自分で持つ訳ではなく浮かせてついてってるだけだから苦労は全くない。まだまだ持てる。てか持てる限界量をそういえば測ってないや。ま、そのうちかな。
「さて、では行くぞ」
アリシアの言葉に皆が頷き、この階層の蹂躙を再開した。
今日は昨日の続きだからさしたる苦労もない。途中でやっぱり変異種らしい、黒い大きいミミズが混ざってたけど、問題なく仕留められた。
「あの変異種みたいなの、どの階層でも出てくるけど何なの?」
「ああ、あれは見たまま変異種だ。少しだけ強いのもいればものすごく強いのもいる。魔石の買い取りが同じ階層の獲物の中でも一際高くなるので、大して強くない場合は積極的に狙っている」
オーディスさんの解説に頷きながら、イーヴァンさんが補足する。
「俺たちは上の階層でそんなに強い変異種に当たってこなかったし、ルイもそうだろう? だがもしこの下の階層の変異種が出たら、一応気をつけた方がいい。流石にここまで来るとかなり強いのが出てもおかしくないからない。今回の黒ミミズも俺は冷や汗ものだった」
「え、そうなんだ」
「ああ、でもルイの結界とアリシアの氷魔法には敵わなかったようで、助かった。俺たちももう少し頑張らないとな」
「十分やってくれてるよ!」
それから昼まで一度の休憩を挟んだだけで、本当に階段まで辿り着いた。
さて、次は巨大ムカデだ。
やっと50話です。
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