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5 自業自得か

 

 さて街に入るかと思ったが、よく考えたら、街に入ったらこちらを感知する人間といつ出会ってしまうかわからないと考え、砦から一旦街の周囲に広がる森へと逸れた。ここで少しずつ人間のふりを覚えてーーできるなら足音なんかが出るようにできたらいいなーーそれから街に行くことにする。


 幸いというか、砦から続く西部には広大な森がある。

できれば物理的にモンスターっぽいものと対峙して、そっちにも慣れておきたいところだ。

 あれ、いるよねモンスター。聞いてなかったけど、剣と魔法のファンタジー世界だもんね?



 森は光が入る程度に木が茂り、そこそこ凹凸があった。ごく普通の野山といった感じだ。若干大きめな木が多いのと、木と木の間隔が広いかもしれない。所々に倒木があり、陽の当たらない場所には苔も生えていた。ただある程度は人が入っているのか、それとも森の生き物のおかげか、歩きやすい程度には獣道ができていた。


 うーん森林浴! って肺ないんだけどね!(セルフツッコミ上等!)

 戦場横は空気も吸いたくない場所だったわけじゃん? やっぱり肺はなくとも空気が綺麗だと嬉しいものだ。

 姿を消してふよふよしてると、小動物くらいは目に入った。といってもリスのようなのやトカゲなんかだ。これも特段変わった色はしていない。形は俺の知ってるのと若干の違いがあるけど、外国だったらこういう種類がいてもおかしくないとか、その程度の差だ。



 森をしばらく漂っていたところで、ガサガサという草を分ける音と足音が聞こえてくる。

 一瞬モンスターかと思って身構えたが、姿を現したのは長い髪をなびかせた女の子だった。格好からしていかにも冒険者っぽい。

 周囲に目線を走らせているところを見ると、どうも誰かに追いかけられているようだ。

 ふいに後ろに剣を振り抜くと、ガッと音がして弾かれた矢が落ちた。どうやら矢を射られたらしいが、それを振り向くことなく感知し弾く反射神経がすごい。

 また一本射られた矢を切り落とし、女の子は再度走り出す。が、途中で立ち止まって後ずさると、剣を構えた。

 どうやら囲まれていたらしく、斜め前の方からも男が二人やってきた。一人が回り込むように反対に向かい、それぞれが得物を構える。


「…………」

「…………」


 どちらも一言もなく剣を打ち合う。だが女の子の方がすぐに剣を引き、たたらを踏む相手の腕に剣を一閃した。


「ぐッ……!」


 そのままもう一人の突き出した剣を躱し、するりとなでるように肩から腹へ刃を下ろした。

 女の子と男たちの力量の差がひどい。男二人ともほんの一合で斬られてる。

そのまま女の子は二人の足を斬りつけて走り出そうとした。


「ッッ……!?」


 そしてすぐにドサっと女の子が地面に倒れた。足を捻ったんじゃないかアレ……。

 どうやら倒れた男が女の子の足首を掴んで引き止めたらしく、倒れたまま女の子は相手の掴んでいた手首を斬り払った。

 手首が飛んで、それが落ちる音と男の絶叫が重なる。


 おいおいこれ……いや自業自得か、相手は殺しに来てたみたいだし。


 女の子はすぐに立ち上がり、再度走り出そうとしてガクンと膝から崩れ落ちた。

 どうやらさっきのでやはり足首を捻っていたらしく、忌々しそうに顔を顰めた。


 そうこうするうちに、追いかけていたらしき男たちが女の子に追い付いた。

 集団だ。10人前後いるだろうか。

 射られる矢を次々と切り落としながら、女の子は足をひきずって太い木を背中にするように立ち上がる。


 どんな理由があるか知らないけど、これってどう見ても……

 一人を集団で追い詰めるって何? 熊狩りかよ!

 女の子が殺人鬼とかで男たちは衛兵だったりするのか? とてもそうは見えないけど。


「……ようやく追い付いたぞ、ちょこまか逃げやがって。もう絶対逃さねぇ! お前のせいで俺がどんだけ恥かいたかわかってんだろうな!? あの屈辱をお前にも味わわせてやる!」

「……?」


 女の子は黙って首を傾げた。全く分かってないらしいその仕草に、男の顔が怒りに赤く染まる。


「俺を覚えてないとは言わせないぞ!」

「……誰だお前」


 女の子の天然の煽りに、男が声にならずに拳を震わせ、それを見ていた周囲が一斉に爆笑した。本当に知らないらしく女の子の方はキョトンとしている。

 ぷぷ、だっさーー!!


「お前、覚えられてすらいねぇじゃねーか!」

「クソだせぇ!」

「……うるさいうるさいっ!! この女、マワしてから拷問して、めちゃくちゃにしてから許しを請わせてやる!!」

「あーあー、振られた腹いせに強姦とか、お前最悪だなぁ! あっはっは!! じゃあ俺お前の次なー」

「怪我はさせてもいいが、楽しむまで殺すなよ!」


 あっ、これ男たちの方が問題あるな。良かった、わかりやすくて。


 女の子、いま見たら確かにとんでもない美人さんだった。

 切れ長の二重のアーモンドアイは涼しげで、ほっそりと高い鼻、バラ色の唇に小さく整った白い顔。昔見た本の中のエルフの挿絵のようだ。でも人間だ。

 紺色…ブルーグレーかな? のストレートの髪を腰まで伸ばし、キレイにカットしてある。前髪は真ん中で分けて顔の横当たりで揃えた、いわゆる姫カットっていうのかな。

 髪色が暗いことと髪型から、何か親近感を覚える。もちろん顔は日本人とは違うが、明るい髪色が多いこの世界の中で見るとどこか和風に感じてほっとする。

 スタイルも抜群だ。全体にはほっそりしているけど、優美な凹凸がわかる。背は、うーん、俺から見てだから適当だけど、160センチくらいかな。高くも低くもない感じ。

 あの男はこの美人さんに振られて、仲間を読んでマワそうとしてると。そして拷問する気満々だし、矢を射ったということは怪我させても気にしないと。周囲も乗り気と。

 はいアウトーー!!

 集団で暴行するまさにその現場だし、完全に言い訳できないよコレ。


 女の子は黙って剣を構えた。男たちは囲んでいた輪を詰めるが、双方動き出さない。女の子の力量をわかっていて、数で押し切ろうとしてるんだろうな。そして女の子は足の怪我から思うように奇襲も掛けられないから、膠着状態が続く。


 これ、俺が手出ししてもいいよね? ていうか、出す。

 女の子ってのは生まれた時からご老人になるまですべからく世界の宝だ、傷付けるなんて許さん。ーーちなみに「美人だけ」とか「若い女性だけ」っていう限定はしない。なぜなら俺が、見かけ・中身・教養・生き方のすべてで世界一いい女だと思っているのは、俺の祖母の小百合(さゆり)さんだからだ。

 閑話休題。


 俺は体を透明にしたまま近くを探して、子供の頭ほどの石を見つけた。結構石ってさ、土中に埋まってて表面に出てないんだよね。引き抜こうとしたらすごく大きかったりするし。

 見つけた石はちょっと大きいけど、どうせ重力操作だと俺に負荷は一切ない。これも光魔法で操作して体と同じく透明にしておく。


 そろそろとゆっくり集団の中に入るが、当然誰もこっちを見ない。そりゃそうだ、物音一つしないし、透明だし。こういうとこはゴーストってほんと便利。


 とりあえず俺はこの緊張感ある対峙に一石を投じる(物理)!


 せーの!!


 ゴッ、と音がして、中央付近にいた男が声もなく倒れた。

 全員が一斉に男を見る。

 おお、一発で気絶したな! 一応延髄を狙ったから、うっかりすると死んでしまう。そこそこ手加減してるけど、まぁ失敗してパニクってくれても別にいいや。よし次!


「がはっ!!」

「な、……ぐぁっ!!」


 男たちが倒れていくのを、女の子や他の男が唖然と見つめる。

 最初に我に返ったのはやはり女の子で、よそ見していた男に一歩で近づくと、腿のあたりを斬りつけていく。

 男たちもようやく慌てて剣を構えるが、女の子の方が何枚も上手だ。常に誰かの陰にひらりと廻り込み、剣を跳ね上げていく。槍を持った相手には懐に飛び込んで手を斬りつけて武器を落とさせる。足を引きずっててもその動きは美しい。ていうか剣筋が恐ろしく早い!


「お前ッッ!! 一体何をした!!?」


 振られ男? が後ずさりながら言うが、女の子は一顧だにしない。そりゃそうだ、何かしたのは俺だし、傍から見てたら彼女が特殊な力使ったとしか思われないよな。

 あっという間に男の前まで来ると、何かを言おうとするのを遮るように剣を一閃した。


 ぶしゃ、と音がして、首が飛ぶ。ゴロゴロと転がった首は、信じられないといった顔のまま女の子を見ていた。斃れた体の首からは間欠泉のように血が吹き出している。

  

 うわーーーーまじか!!!!

 

 それを見ると、女の子が今までの他の相手には手加減していたことがわかる。他の男たちへの斬りつけはもっと浅い。俺は頭のない死体から目をそらし、飛んだ首に気をとられて目線で追っていた最後の相手を、手に持つ石でめいっぱい殴りつけた。


 それで立っている男はいなくなった。

 周囲では幾人かのうめき声が聞こえる。

 気を失っているもの(大体俺が殴った奴)と、斬られた場所(足を斬られたので逃げられない)を押さえて這いずっている奴だけになった。


 すると、女の子が気を失っている一人の男の元に足をひきずりながら行って、そこにしゃがみ込むと、首に下げているドッグタグのようなものを掴んだ。

 そしてそれを一瞥すると、おもむろにその男の心臓に剣を突き立てた。

 俺はびっくりして固まった。


 え、え、何で? さっき手加減したのに結局殺すの!?


 意味が判らず見ていると、女の子は次々に男たちの首元のドッグタグをひっぱり出しては心臓を突いていった。意識があって叫ぼうとした相手は喉に剣を突き立てる容赦のなさ。全員一突きで仕留めてる力量もすごい。

 どうやら全員同じタグを下げているようだ。よく見ると、女の子にもタグが見える。


 やがて5番目ほどに選ばれた男のタグを見た女の子は、少しだけ首を傾げたようだ。そして逃げようとする腕を掴むと、その肘から先を斬り取った。


「ぎゃああああああ!!!!」


 男は絶叫しながら残った片腕で肘を押さえるが、それにかまわず女の子は腕を放り投げて次の男のタグを見に行く。

 腕を斬り取られたのは、4人。全員、右の肘から先だけ。他の男は残らず殺された。

 腕を斬られた男たちは、這いずりながら逃げようとするが、今度はそれを止めなかった。逃してやるようだ。

 何か違いがあるんだろうか?


 俺が考えていると、女の子は周囲を見渡した。

 まだ誰かいるの!?


「ーーすまないが姿を見せてはくれないか」


 女の子は澄んだ大きな声で周囲に呼びかけた。

 敵に言う台詞じゃないっぽいな、なんだろう。仲間がいるの?


「先程は加勢していただいて助かった」


 ん?


「私の気配察知では貴方の場所がわからない。凄腕の方とお見受けするが、どうか出てきてはいただけないか。直接礼だけでも言わせて欲しい」


 あれ、これ俺だ。

 え、え、どうしよう。これ出てかなきゃいけないパターン?

 無視するのも何か悪いし、でも俺が姿見せて大丈夫? 一応透けないようにはできるけど、森の中なのに歩く音も練習してないし。あっ、そもそも声、声は? 出るの? 人間と話せるのか? ああっ、そういえば言葉通じてる……って今更か!! 管理人さんが魂いじってくれたんだっけ!?


 ええい、とりあえず女の子を待たせるのは気が引けるから出てくか!!


 彼女の死角にまわってから体を見えるようにし、自分で見下ろして確認する。それから歩くのに合わせて足の形に重力を掛けて、枯れ葉を踏む音を鳴らしながら歩いていった。これで大丈夫だよね?


「ーーあ」


 俺ががさりと音を立てると、女の子がこちらに気がついた。

 重力を掛ける場所に気をつけながら歩いていき、2メートルほど離れて対峙する。

 すると、女の子が少しだけ表情を明るくした。


「貴方が手を貸してくださった方か、本当にありがとう」

「ああ、いいえ、どういたしまして。……あんな大人数で襲われて災難でしたね」


 俺が話すと、ちゃんと聞こえているようで女の子が頷いた。

 良かったー! 人間との第一遭遇成功だよ!!


「ところでそれは実体ではないようだが……何か理由が?」

「……え!?」

 

 実体ではない!?

 え!? 何で!? バレるようなとこあった?


「な、なぜ実体でないと?」


 声が硬くなる。やばい、初っ端からバレてんじゃんよ!


「ああ、直ぐ目の前にいるのに全く気配がないのと、歩く音と見た目の重量が合っていなかったからだ。……隠してたのだったらすまない」


 済まなそうに少しだけ眉を下げるので、俺は慌てて首を振る。

 だめだこれ、相手の感知能力が上手すぎる。隠せるもんじゃない。

 俺は意を決して、体を半分透けさせる。


「これで分かりますか。……えっと、俺ゴーストなんです」

「…………そうだったのか。それは気配がない訳だ」


 え、そこ納得する!?

 普通「ハァ?」って相手の頭伺う場面じゃない?


「こ、怖くないんですか?」

「いや別に。助けて頂いたのに怖い訳がない」


 そして一歩俺のほうに踏み出そうとして、がくんと躓く。

 そうだった、怪我してんじゃん!!

 女の子も忘れてたのか足を見て、困ったように「あ……」と呟いた。


「あっ、そうだ。怪我なら俺が治せるな」


 俺は今更ながら気づいた。光魔法、浄化だけじゃなくて治癒もできるんだよね。


「ちょっとブーツを脱いで足を見せてもらえないですか? 多分俺が治せますので」

「え? ……ああ、わかった」


 女の子に足を見せろっていうのは申し訳ないんだけど、治療行為だからね! 仕方ないんだよ!

 その場に腰を下ろし、ブーツを脱ぐ。その下のソックスを脱ぐと、見事に腫れあがった足首があった。真っ赤で、部分的に黒い。ぱんっぱんになっていて痛々しい。


「これ……、ただの捻挫じゃないですね。ヒビが入ってるか、もしかしたら骨折してるかも」

「そうか、道理で痛いわけだ」


 他人事のように女の子が頷く。これだけ腫れ上がっているのに、痛いと言いながら痛い顔してないし、健康体の人にしては我慢強いなー。

 俺も病気のせいで骨折に気づかなかったことあったし、他人のこと言えないんだけど。

 俺は「失礼」と声を掛けてから患部に手をかざした。

 できるかな。できるよね。


「治癒」


 ヒール、でもなんでもいいんだけど、声に出す。

 ふわりと淡い光が放たれ、巻き戻し映像をみているように患部からすーっと腫れが引いていく。


「すごい……」


 女の子がつぶやく。俺も治癒とかするの初めてだから、こんなふうになるのかーと感心していた。

 やがて腫れがキレイに治まり、形の良い、色白のほっそりした足首が姿を現す。


「はい、痛みはどうですか?」


 俺が声を掛けると、呆然としていた女の子が慌てて足を動かす。そして立ち上がって足に体重を掛ける。


「すごい、まったく痛みがない。……あの、本当にありがとう」

「どういたしまして」

「……ところで、さきほどゴーストと言ったと思うのだが、光魔法を使えるということはゴーストではないのだな。もしや精霊様だったのか?」

「え?」


 何で? ゴーストって魔法使えないの?


「いや、俺ゴーストのはずなんですけど……」


 管理人さんも普通に「ゴースト」って言ってたよな?

 俺が自信なさげにそう言うと、女の子が首を傾げる。


「ゴーストなら邪属性だから、聖属性の魔法は使えないはずだが」

「そうなんですか?」

「そうだ。……ところで私に敬語を使う必要はないので普通に話してくれ。すまないが、私がこんな言葉遣いなので少々気まずい」

「ああ、はい。わかりました……わかったよ」


 俺、初対面の人には、年下だろうが敬語がデフォだからなぁ。逆に喋り辛いんだけど、友達に話しかける感じで頑張ろう。

 女の子はブーツを履き直してその場でぴょんぴょんと飛び跳ねている。足の具合を確認してるんだろうけど、無表情なのでその仕草とのギャップがかわいいんですが。ひとしきり確認を終えたところで、俺に向き直った。


「ところで……なぜその姿なのか訊いてもいいだろうか」

「うん、えーと……、どこから話せばいいかな。簡単にいえば俺死んだんだよね。で、出会った神様に悪霊退治をするように言われて、光魔法を貰った、とかそんな感じ」

「神!? 神に会ったのか! 精霊の上、御使い様だったのか!?」

「御使い? わかんないけど多分そんな大層なものじゃないよ。単に悪霊退治してねって言われて魂に光魔法を付けてもらったんだ。だからゴーストだけど、光魔法が使えるの」

「それは十分御使いと言えるだろう。そしてゴーストは聖属性に属さないし、実体がなく魔法が得意なものを精霊と呼ぶことを考えると、やはり貴方は精霊ということもできる。もし他の人間に会ったなら、精霊と言っておくのがいいと思う」

「そうなの? わかった、ありがとう。……ところで何してるの?」


 女の子は話をしつつ、死んだ男の足を掴んでずるずるとこちらに引っ張ってきていた。あ、頭がない奴だ。


「ん?貴方にお礼を渡さねばならないし剥ぎ取りをする。少し待ってもらえるか?」

「剥ぎ取り……? あ、ところで殺したのと腕切った奴との差は何か聞いていいかな」

「ああ、精霊様には馴染みがないのか。この胸から下げた冒険者プレートの石の色で判別している」

「石の色?……あ、俺は類。精霊様じゃなくて類って呼んで」

「あ、すまない名乗ってもいなかったな。私はアリシア・スティービオ。アリシアと呼び捨ててくれ」

「わかった」

「で、石の色だが、……私の冒険者プレートを見てくれるか」


 冒険者かぁ、テンプレだけどほんとにいるんだ。

 アリシアは、自分の首から下げているタグの先をひょいと持って、こちらに見せてくれる。

 横1センチ×縦5センチくらいだろうか。縦長でシルバーのそのプレートの上部には青い透き通った石がはめ込まれている。普通にアクセサリーとしてもキレイだ。


「これが冒険者プレートっていうの?」

「そう、これは冒険者になると全員に発行されるタグプレートだ。私のこの石は青いだろう? 次にこの男のプレートを見てくれ」

「……あ、赤い」


 首のない男からするりと取ったプレートは、アリシアのとはプレートと石の両方とも色が違う。男のプレートは銅色で、石が赤い。

 冒険者証って、何故かオーパーツじみた謎技術で作られていて、魔力を認証して本人の経歴だの狩りの得物だのを記録する不思議カード! ーーなイメージがあったけど、そんなことはなかったか。ていうかカードよりペンダントのほうが無くしにくいよな。


「プレートの色はランクを表している。そしてここに嵌っている石の色は犯罪歴だ。最初は青だが、犯罪を犯すと色がかわっていく。軽犯罪で黄色、殺人を除く重犯罪でオレンジ、そして殺人で赤だ。赤のプレートを持つものは、どこかで殺人を犯してまだ捕まっていない犯罪者だ。見つかり次第処刑される」

「処刑!? え、だってそんなのプレート外しちゃえば済むんじゃない?」

「このプレートには(しゅ)がかかっていて、冒険者ギルト以外では死ぬまで外すことができない仕組みだ。これは一種の身分証明になっていて、青であればどこの街でも国でも出入り自由になる便利なものだ。ほか、これを見せないと入れない店や宿も多いから、ある程度の歳になれば誰でも登録してこのプレートを手に入れる」

「へぇ……」

「軽犯罪、それと過失による殺人などで黄色になるが、黄色だけは半年で青に戻る。黄色は青と同じく仕事を受けることもできるが、その間は皆に白い目で見られるので大抵は半年大人しくして、青に戻るのを待つ。そして赤は、見つけ次第討伐が推奨されている。盗賊と同じ扱いだ。赤は殺してもこちらにペナルティがない。だから私のプレートはまだ青い」


 勝手に石の色が変わるってことはやっぱり謎技術使われてるんだな! いや、ていうかこれ、経歴っていうか本人の犯罪への意識を感知してるとかじゃないの? 脳波測定みたいなの。……あ、いやそうなると人殺しを人殺しだと思わないサイコパスは青のままになっちゃうか。うーん。どうなってるのかすごい知りたい。


「そっか、それでプレートを見てからトドメを刺してたんだ……」

「ああ、一人だけ近くで見て赤が確定の奴がいたので殺したが、普通は襲われても殺さないよう気を遣っている。向こうが殺人未遂でも殺意によって黄色かオレンジか変わってくるから、襲われたからといって全員殺せないんだ。オレンジはちょっと面倒なのだが、捕まれば利き手の肘から切断される。だからオレンジを見つけたら片腕の切断をして提出する」

「提出!?」


 うっわ。ぐろーーーー!!!! 腕持って帰るのか!!


「そう、赤のプレートとオレンジの肘先には報奨金が出る。もちろんこちらがきちんと青の場合のみだ。それと、剥ぎ取りというのはこの肘先の回収と、身ぐるみを剥ぐことだ。服はともかく、荷物や金銭、武器防具は回収する。これも義務だ」

「身ぐるみって……え!?」


 追い剥ぎ!?

 じゃないけど、なにこれ当たり前なの? どっちが悪党かわかんなくなんない!?


「これにはちゃんと理由がある。まず、金銭や荷物を残すと、盗賊に回収され資金源になる恐れがあるからだ。要らないものはいっそ焼いてしまう。武器も同じだが、これは盗賊の他に、ゴブリンやオークなどのヒト型モンスターが見つけて使用してしまうんだ。それが最も恐れられてる理由だ」



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