49 目標
さて、昼に軽く休憩を挟み、アリシアの魔力が続く限り同じことを繰り返した。
ほんと、いい方法が見つかって良かった。
俺は見なくて済んで、しかも彼らはトドメを刺せて、WIN-WINだね。
アリシアはかなり魔力量が多いと言っていたけど、俺の回復とポーション、そして休憩を挟みながら魔法を使ってた。やっぱり魔力量には限界があるよね? それを回復させるのは「大気に漂う魔素」だって言ってた。魔素とか抽象的すぎるけど、地球とは違うんだから酸素とか窒素みたいに魔素って物があるんだろうね。てことは人間にはそれを貯める器官、そして限界値を定めてるMP的なのもあるわけだよね。
では、俺の魔法の源はどこからきてんのかな? 限界がないのは溜めておく体がないから、魔素を素通ししてるってことかな、もしかして。え、そこら辺に漂ってるなら使い放題?
なんてことをだらだら考えつつ、みんなが今日の食事にありついている間、俺はこの17階層の詳しい地図を仕上げている。ある程度道は覚えてても、細かい注意点はあるからね。ていうか下層は広いから地図が一枚に納まりきらなくて、さすがに楽しいのと同じくらい面倒なんだけど。
今回は俺は食事の買い出しをしていない。持ってきていて邪魔な食品を食べてしまおうということになっていた。俺がいつでも買い出しに行けるので、持って歩くのは無駄すぎるからだ。もちろんはぐれた時のための予備品には手を付けない。万一また転移罠とかあったら最悪だし。
簡易竈でスープだけ作り、アッシュにも持って来ていた果物を生を多めに食べさせる。
あー、あと3層か。
とりあえず下層にゲテモノ階層が集中したことを除けば、異世界でやりたいことの一つは叶ったな。ダンジョンに行く。これはファンタジー小説読んだ時からの夢だったよなー!
ちょっと今、本来の仕事をしてないけど(管理人さんごめん!)、ちゃんと目的は見失ってないよ。でもガツガツ悪霊退治だけしてたら精神的に参っちゃうし、こうやってやりたいことやりながら少しずつ目的に近づいて行こうと思う。
えっと、俺が異世界に行ったらやってみたかったことはーーーー
・冒険者になる。ーーこれは体(血)がないから達成できなかったけど、代わりにプリーストとしてパーティは組ませて貰えた。
・ダンジョンに行くーー達成。
・動物と触れ合うーー達成。アッシュとロキ、最高すぎる。
・悪党を懲らしめるーー達成? 出てもアリシアさんに瞬殺されていたので俺の手柄ではないが。
・女の子と出会うーー達成。極上の美少女と一緒にパーティ組んでるこの幸運!
・現地の友人を作るーー達成(仮) 兄弟という候補がいる。
・冒険者に絡まれるーーアリシアが瞬殺した奴ら以外はみんないい人だった。店員さんもギルド員も、殺されかけてた女の子たちも。もっとどうしようもないゴロツキばっかり揃っている偏見持ってた、すまん。
・内政チートーー知識がない、身分もないし、土地もない。
・俺TSUEEEーー達成。十分です。むしろ今でもチートすぎて怖いです。成り上がりは別に興味ない。
・孤児院に寄付ーー何故か異世界もので皆がやる行動。でもやりたい!子供も好きだしな。お金が入ったらね。でもこの国見てる限りだと公共事業がしっかりしてるから、福祉、孤児院にもちゃんとお金廻してそうなんだよな。ーーそしたら教会に寄付? うーん教会って言ってもな……。彼らは神様じゃなくて「魂の管理人」であって、別にご利益をくれる人たちじゃないんだよね。複雑。ちょっと保留。
・食文化を持ち込むーーここは意外と料理が美味しい。米の原種っぽいのもあるし、ある程度の食文化は花開いてそうだ。ということで無理。
・いじめの仕返しーーそんな対象いないし、いじめられてもいない。
・魔王を倒すーー多分対象がいない。
・エセ勇者を倒すーー今のところ対象がいない。
・ドラゴンに会うーー物語として語られる伝説。多分今はもういない。
……………………あれ?
なんかもう達成してるか、できないかの2択だぞ。
俺これからただ悪霊退治だけしてろと?
何か俺、他にも目標持った方がいいのかな……
「ルイは、これからどうするんだ?」
食事を終えたらしいアリシアがピンポイントで声を掛けてきて、無い筈の心臓が飛び出そうだった。隣に座ってこちらを向いてくる。
え、俺声に出してた?
「何か難しい顔をしていたぞ、珍しくな。下の階層のことだけではないんだろう?」
「……アリシアはすごいね、その通りだよ」
「訊いてもいいか?」
「うん、いま訊かれた通り、これからどうしようかなって。……悪霊退治は勿論するけど、折角だし他にも目標持ちたいなと思って。今更だけど」
「うん? いや、ルイはいろんな場所で絵を描きたいんだろう?」
…………言われるまで忘れてた。それもあったわ。
お、俺の絵描きとしての矜持が、いま砕けた気分なんだけど!
「…………そういえばそうだった。なんかド忘れしてた……」
「あとは? ルイは死ぬ前にしたかったことはないのか?」
思い出す。死ぬ前の数年間のこと。
大学に絵を見に来た先輩に「お前上手いなー、事務所作ったから卒業後に入れ」と言われて、在校中からバイトに通い、卒業してからは入社してすごく気楽な関係の絵描き仲間の先輩後輩と仕事ができた。座ってできるだろっていろんな絵を描かせてくれて、めちゃくちゃ楽しかった。
先輩が立ち上げたのは小さな有限会社だけど、やることは多岐に渡っていた。
ギャラリーでの販売もあったけど、どっちかっていうとメインは注文される絵の方だった。メインは肖像画部門だろうか。パソコンの得意な人達のデジタル絵の部門もあったけど、俺は何してるか正直全然わからなかった。パソコン内のデータ送信だけで納品まで完了しちゃうからな。
俺自分のパソコンはネットくらいにしか使ってなかったから、いつかはペインティングツール使ってみたいと思ったけど。
俺は主に車椅子でできる肖像画部門にいたけど、杖で立てる時は事務所が経営してる絵画教室の講師も手伝っていた。でも子供相手は体力使いすぎて、楽しかったんだけど家に帰ると我慢してた痛みでたまに気絶したりしてたなぁ。ちょこちょこ入院したり倒れたりして迷惑かけまくってたけど、先輩は全く問題ないように休みとか在宅ワークの日ってことににしてくれた。
今思うとものすごいホワイト企業だったわ。
「うーん? 俺、生きるだけで精一杯だったからなぁ。絵を描いてるくらいしかしてなかった。あ、でも同じ病気の人を治す薬ができたらいいなって、そういう望みに賭けて、ずっと新薬とか治験とかのチェックはしてたな。まぁそれくらいかな。結局生きてるうちに特効薬なんてできなかったけどな……はは」
「…………? 今のルイはプリーストだろう? 薬と言わず、病気を直に治せるぞ?」
ーーそれはものすごい衝撃だった。
「…………ッ!!」
何でそんな当たり前のこと忘れてたのか。
……ここに来る前にレンドル村で奥さんの病気、治せたじゃん!!
怪我だけじゃなくて、病気を!!
俺、今なら……もしかして自分の病気も治せるのか……?
試したい、でも体がない! 体が欲しい!! ああクソ、実体が欲しい!!!
俺この異世界に来て、いま初めて、本当に体が欲しいと思った。
自分で試せるのに!!
ああ、同じ病気と言わず、難病で治療法がない人達も治せるんだ。痛みで苦しんでる人、ずっと寝たきりの人、動けない人、目の見えない人、体の謎の症状で見捨てられた人。その他、知られていないたくさんの病気のひとたち。
かつての俺と同じように苦しんでる人達を、この世界でなら助けることができるのかも知れない。
鳥肌が立った。
……なんてこった。
多分、この光魔法ならそれができる。奥さんの体の中の悪い部分がわかったように、遺伝子レベルでの欠陥を見つけて正常にすることができる!! できるっていうのがわかる!!
光魔法……すごい。すごい!!
「アリシア……俺決めた。治らないって言われてる病気の人をできるだけ治したい。そしてこの世界の絵もできるだけ残すんだ。悪霊退治の旅に、その2つの目標を加えることにした!!」
俺が宣言すると、アリシアは、綺麗に笑った。
……ほんとに優しい顔だった。
ーーそれは何ていうか……いないはずの女神みたいだった。
「いいな、そうしよう」
「え?」
「……ん?」
「そうしようって……え、アリシアも来てくれるとか……?」
アリシアは当たり前というように肯首した。
「私達は二人で無敵のパーティだろう?」
は、……はははは!!
ーーうそ、マジで!?
「ルイがいなくなれば私はまた一人だ。悪霊退治の旅、いいじゃないか付き合おう。私も世界を見てみたいから家を出たんだ、一緒に世界を見に行こう! 路銀を稼ぐのに冒険者をして、プリーストとして人々を治して、各地の絵を描いて、ーーああ、やることが多くて楽しそうだな」
「………………、……あ、ありがとうアリシア……っ、」
あれ、……なんだこれ。
俺は俯いた足元に落ちていく雫に呆然とした。
俺ゴーストなのに、涙が出てる?
……実際に落ちはしないですうっと途中で消えていくけど、これは涙か。
俺、ーー泣けるのか。
「俺も、アリシアと一緒がいいよ! 俺の初めてで唯一の仲間だ」
重力操作でいつものように手を作って、アリシアと握手した。
ああ、体があったら直にアリシアに触れて、手の温かさを体感できるかな。
体、欲しいな。




