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48 どこの剣豪だよ!


 SAN値がピンチの一件のあと、また階層間の踊り場に行き、みんな大人しく眠りについた。アリシアでさえ、剣の手入れが終わってすぐに水だけ飲んで手と顔を洗い、すぐ俺の結界ベッドに(アッシュを抱いて)転がった。

 みんな浜辺に打ち上げられたトドのようだ。ぴくりともしない。

 おーおー。みんな堪えてるね。

 

 結界のおかげでこっちに中身が飛び散りはしなかったけど、結界中があれらの中身(ほぼ幼虫の中身)で満たされて、なんか寄生虫ぽいのももぞもぞしてたけどきっと俺の気のせいだ。気のせいだってば(断言)。

 しばらくして消えたときには心底ホッとした。そうだよね、ダンジョンのモンスターって消えるんだよね。じゃなかったら永久にあの結界は解除できなかった。え、そしたら通れない? 知るか、横に穴でも掘るわ!


 そして、皆が寝てる間に俺は下の階層に偵察。

 あーー行きたくない。ここも酷かったけど、ここから先も20禁て感じだ。

 あれ、次は何層だっけ。えー14階層におちて、15階層がヘビ、16階層が冬虫夏草だから、次は17階層か。確か17階層はでっかいワームだっけ? ぐちゃぐちゃに絡まった蠢く巨大なミミズっていうだけさ……ははは。あははははは。

 さ、最下層まであと少しだ!!

 

 そう、少し……

 18階層がでっかいムカデ、たぶんジャイアントセンチピードとかそんなの。

 19階層がアグレッシブな巨大ナメクジ。

 20層がゲテモノプール。


 ほ、ほら、数だけで言えばたった3層だから!!


 ……死ぬ。精神が保たないよ……アリシアの半分でいいから強さをください。

 ……いやそんな泣き言言ってる場合じゃないね、三人のために偵察偵察。般若心経でも唱えて心を鎮めるか。


「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時」

 

 …………ヌチョ……

 うん?


「照見五蘊皆空」


 ヌチョ、ゴロ……ヌチョヌチョ……ヌチョ

 あ、何か聞こえた…………?


「度一切苦厄……、舎、利子………………?」

 

 ヌチョ……ヌチョ、ゴロゴロ、ヌチョ、ゴロ、ヌチョヌチョヌチョヌチョ


 ……………………うんぎゃあぁあぁあぁあぁ!!!!

 は、般若心経の合間に何か、何か別の音がぁぁぁ!!!


 ゴロゴロ、ヌチョ、ゴロ、ヌチョヌチョヌチョヌチョ、グチョグチョ、ヌチャー


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、ヌチャー


 ミ、ミ、ミミズ、ミミズが絡まったままボール状でうぞうぞしながら転がってくる……!!

 に、逃げ、逃げる!!! 

 ぎゃーーーーー追いかけてくるーーーー!!


 と、テンパりすぎててゴーストであること忘れてた!!

 う、上の階層に突っ込む!! あっ結界でも大丈夫だった、何してんだ。


 うう。皆のこと笑えない……!

 俺こんなにミミズだのナメクジだの嫌いだと思ってなかったんだよ……思った以上にぬめぬめテラテラしてるんだもんよ。しかも大きいって、見たくないものまで見えるんだよ、口の中とか表面の突起とか毛とか!!ヒィィィ!!! 蠕動運動してんのとか近くで見たらあれ絶対ダメなやつ!!

 やっべぇ、これ、俺付いて行けないんじゃない? どうすんの? 何か見ないで済む方法ないの!?

 焼く!?

 冬虫夏草の二の舞になっても俺臭いわかんないし。いいんじゃね(外道)?

 でもアリシアがやってくれなきゃ意味ないし。


 結界で見えなくして圧縮? 

 ……これか。一番マシなの。




「というわけで結界圧縮殺傷法を提案します」


 翌朝起きてきたみんなの食事が終わった後に、俺は昨夜の偵察の様子を話してそう生真面目に提案した。しかしリシアが微妙な顔で首を傾げる。


「そこまでひどいのか……? 上の階のアレよりもか?」

「同じようなもんだよ、俺は無理! 一旦見てくればわかるよ」


 俺が力説するが、昨日のアレを実際見なきゃ皆そんな感想か、そりゃそうか。

 真面目そうなイーヴァンさんが口を挟む。


「自分の力を全く使わず、ルイの強大な力だけで倒してもらうのは、攻略でないような気がするんだが。俺たちはただ寄生することになってしまう」


 え、これ強大?

 強大か、そうだな。チートぎみだもんな。

 でもちょっと真面目すぎじゃね? それとも俺が適当すぎんの?


「ていうかさー、ここから先の階層マジで地獄だよ。ゲテモノ塗れだよ、ちょっとすごいよ。全部倒してたら多分精神がやられるって」

「そんなにか」

「そんなにだよ。まぁ、百聞は一見に如かず……聞くより見たほうが早いってやつだね。一応言っておくと、巨大ミミズの次は巨大ムカデで、その次が巨大ナメクジ、最後が全部って感じだね。違うのもいるかもしれないけど大体そんなんだった。俺は遠くからしか見てないけど、近くで見たらもっととんでもないと思う」

「…………ひどいな」

 

 うん、ますは見せよう。そしたらもっといい対策が生まれるかも。


「あ、火がだめなら水は?ダンジョン埋めるほどじゃなくても、結界内に注いでもっらって、溺死をねらうとか。圧縮より見た目マシな気がする」

「最悪はそれで行くか」


 

 という訳で17階層だ。みんなは20層で終わりってことを聞いて、テンションダダ上がりだしな。ホントは「ダンジョンコア俺が取ってくるね」って提案したけど、満場一致で反対された。

 もー冒険者って面倒くさいぞ!「苦労して取ったどー」じゃないとダメだなんて様式美みたいなのいらないよ!


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 皆固まってる。ほら言ったじゃんよ!! 


「ね?」


 俺が一言発した途端に、全員がダッシュして逃げた。あーあー、昨日の俺だ。


「ル、ルイ!! あ、あんなにでかいのか!?」


 イーヴァンさんの震える声に、俺は頷いた。全部巨大って言ったよね?

 

「でかいし、絡まりまくってるし、動いてるよ。ウネウネだよ」

「ルイ、すまん。お前の言う通りだな」


 割と何でも平気なアリシアも、うんざりした顔をしてる。

 おー、アリシアを凹ませられるってすごいなーーと一瞬思ったのだけど、顔を上げたアリシアが、すっと目を細め通路の先を見据える。……まさか。


「いやしかし、一度は戦っておかないと強さが解らないな。ーーよし行ってくる!」

「「え!?」」

「マジで!?」


 兄弟が化物を見る目でアリシアを見てた(笑) 俺も思わず聞き返してしまった。

 やっぱりアリシアはアリシアだったか。


 アリシアが走って行くのに、ギリギリ気持ち悪くない程度まで下がって付いて行くと、アリシアは横の壁を一蹴りしただけでミミズ団子の上に飛び乗り、降りると同時に斬りつけるところだった。アクロバティックゥゥ!! 

 咄嗟にミミズ団子に内向き結界を掛ける。アリシアが斬りつけた所は綺麗にすっぱりと切れた。だが、2つに分かれてもそのまま生きている。うそだろ! プラナリアじゃないんだから!!

 ……あれどうしたら魔石になんの!?


「一回でダメなら死ぬまで斬るだけだ。死ね!!」


 ア、アリシアさんどこの剣豪だよ! ダンディすぎだろ!!

 いやシルバーランクだから本当に剣豪なんだけど、そうじゃなくて全てを切れるのにこんにゃくを切れないどっかの剣豪を思い出す!!

 アリシアの剣閃が数度引かれ、ようやく一匹が魔石になった。でも絡まっているものはまだまだいる。アリシアはどんどん削っていくが、数メートルある大きさはそれほど変わってないし、あのミミズ団子はここにいるだけじゃない。

 全部でこれやってたらすごい手間だし、多分この階層だけで何日も掛かりそう。下層は広いし。それまで精神が保つ!?


「アリシアー!! もう気が済んだでしょー!!」


 俺が言うと、アリシアはミミズを蹴って後ろに下がった。

 不満げな顔で肩を竦めて戻ってくる。


「…………仕方ない」

 

 俺はホッとして、結界を圧縮していく。弾けない程度に、と。またみんなの食欲を奪ってはいけない。

 ……そこで俺は致命的ミスに気がついた。


「…………アリシア、そういえばミミズって溺死しなくね?」

「…………しないな。……忘れていた。ああ、では氷魔法で凍らせて砕くか」

「氷魔法とか使えるの!?」

「あれ、言ってなかったか? 私の一番の得意属性は水と氷だ。あれくらいなら一瞬で凍らせられる」


 ちょっとー!! そんな簡単なら言ってくださいー!!


「剣じゃないと倒した気がしなくてな。どうしても魔法を忘れがちになる。冬虫夏草の時は火が弱点だと最初に知っていたからな。……すまん」


 まぁ、凍らせるなら見た目セーフだ。結界を中が見えないギリギリにして、氷魔法を掛けてもらう。結界は魔法も一方通行、今は内向きに掛けているから外からは通すことができる。


「ではいくぞ」

「よろしく!!」


 すぐに結界内に白い冷気が漂う。俺には触覚がないから分からないけど、肌感覚だと気温が下がっていたりするんだろうか?

 そして、中の動きがゆっくりになって止まった。

 俺がアリシアを見ると、兄弟を促して近づいて行く。そして四方からミミズ団子を叩き割って行った。しばらくして、ビシリ、という大きな音とともに細かく砕け散った音が聞こえてきた。


 何も音がしないことを確認してから結界を解くと、細かい氷になった塊がすうっと消えていくところだった。そして魔石が落ちる音がする。


 良し!! ようやくまともな攻略法ができたぞ。



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