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47 SAN値がピンチ


 俺には大いに不満がある。

 この体に嗅覚と触覚、味覚がないことだ。


 ゴーストであるからには触覚がないのは仕方ないと諦められる。まぁ味覚もだ。だがしかし、嗅覚がないってのは表現の幅を狭めると思うんだ。

 絵を描くってのは視覚情報だけに頼るんじゃないんだよ、そこ人や土地の匂い、触り心地、味、そして歴史や文化なんかが揃ってはじめて創作物が生まれる。

 その点、ゴーストの俺には視覚と聴覚しかない、これは参った。

 雨上がりの道を歩いても、湿度だとか草の匂いだとか、そういうものが感じられない。お茶を出されても香りも嗅げない。それってすごく「俺は生きていない」ことを突きつけられて寂しい。


 だが。

 だがしかし。


 今だけ俺は嗅覚がないことを喜んだ。8階層のゾンビでも大して気にしなかった俺がである。

 だって、冬虫夏草、アリシアが焼くんだもん!!

 いや、植物はいいよ、草の匂いはまだいい。でもセミとか幼虫とか、なんなら蝶みたいのやらがばったんばったん暴れながら焼かれてるわけよ。そして、臭いと言われていた8階層ですら臭いについて触れなかった三人が、揃って「吐きそうな臭い」って言ってるんです。

 しかも生きてるから動く動く。

 三人が猛ダッシュで逃げてる。そして追いかける火のついた植物と昆虫、途中でそこにぶつかって燃え広がる別の冬虫夏草が増殖。もうね、地獄絵図。笑うわこんなん。

 

 何で焼くことになってるかって言ったら、下が昆虫(たまに動物系もいる)、上が植物だから、どっちかを殺すだけだと死なないんだって。手間が二倍になるんだね。

 でも火を点けると一気に両方燃えるから効率いいんだってさ。まぁ臭いが我慢できるんならいいんじゃない(他人事)。


 アッシュはもちろん俺が抱えて遠くで結界に厳重隔離済み。

 俺だって三人を匿ってあげたいんだよ、でも結界で多少緩和するより遠くに逃げた方が早いんだってさ。仕方ないよね。


「ぐ……吐く……っ!」


 イーヴァンさんが口元を抑えて、オーディスさんに背を擦られている。

 あーもー、それなら手間が二倍でも剣で戦った方がいいんじゃないの? 


「……やはり剣を使うしかないか、このまま続けたら今日は食事もできなくなる」

「食事とか聞くだけで今は吐きそうだ……」


 アリシアの敗北宣言に、イーヴァンさんが涙目でそういった。おっさん、体労れ。(多分俺と同じ歳くらいだけど)


「時間なんか掛かったっていいじゃん。しかもアリシア火魔法の威力弱いからってかなり近づいてるし、そりゃ臭うし危ないよ。もうちょっと安全策を選ぼうよ?」

「ルイは冒険者の無謀さがないな」

「そりゃ、俺はプリーストですから?」


 ていうか、急がば回れの日本人ですから。

 いやプリーストもただの方便だけどさ。


 さすがに臭いが堪えたのか、三人とも大人しく剣を取り出した。

 ああ、オーディスさんも剣の切れ味に感動して、槍は牽制だけにして戦闘に入ったら剣に持ち替えたりしてる。全員がミスリルソードだなんて、ゴールドランクの冒険者パーティでも滅多にないことなんだって。

 ふははは、その滅多にないものを持てる優越感もあるけど、まだまだある剣がものすごい値段になると思うと笑いが止まらないね。値崩れを防ぐのに別の場所で分けて売ってもいいな。魔石ももう大袋単位だし。宝玉もあるし、これ一生遊んで暮らせるんじゃない?

 

 それからは早かった。

 二倍の時間が掛かるなら二倍の速度で狩ればいいじゃないって言うどっかの王妃様のように、アリシアが一気に数度の剣閃で上下を切り離し、下の生き物を始末する。兄弟は上半身の植物担当だ。なぜかというと、女性に触手はないだろうというのと、本体が動かないから男二人なら余裕で勝てる。そして下半身は移動するし、飛んだりもするので、立体機動の得意な身軽なアリシアが担当している。壁とか平気で駆け上るからね、どうなってるのか、ていうかそろそろアリシアが同じ人類なのかも怪しくなってきた。


 そうしてからは意外と早く進んだので、その日の終わる頃(多分夜くらいだと思う)には、もう少しで下の階層への階段というところまでやってきた。


 が。


「…………何だあれ」


 だれが声を出したのか知らないけど、皆同じ気持ちだった。

 でかい、というかでかすぎる。回廊を埋め尽くす巨体は……強大な芋虫に寄生している。芋虫っていうか……腐海にいるオ◯ム?

 芋虫だけで数メートルあるんだけど、あれ羽化したらどうなんの? モスラ?

 そこにびっしり根を張っているのは、こちらは見るのも(おぞ)ましく、でかい人の顔をしたゾンビのような蔓植物だ。いや、ゾンビも栄養源になってるのか?

 そのグロ過ぎる三位一体で、のそのそとこちらへ移動してくる。下の階層への階段はもうすぐそこだ。ここまでは分岐があったが、ここからはまっすぐ行かないと階段に行けない。

 とりあえず迂回はできないのが分かっているので倒すしかない。


 アリシアは「今までと同じでいく」と断言して走り出した。兄弟は「まじで!?」って顔で見合わせてたけど(俺もそう思うよ)、仕方なく付いてくことにしたようだ。ああ、兄弟が常識人で良かった……! アリシアだけ見てたらこの世界の冒険者が異常だと誤解してしまってたよ。


「ね、ねぇ、あれってボス? 中ボスとかそういうの!?」

「ボス……? あれは階層守護者だ、ああやって階層を守護する大物がたまにいるらしい」

「え、じゃあ一番下にボスとかいるの? ドラゴンとか!!」


 あ、そういえば下でボスとか見てない!


「ルイが見てきていないならいないんだろう。あとドラゴンというのは伝説の幻獣だな、物語にはよく出てくるが実際にはいないと思うぞ?」


 アリシアがあちこちにざくざく斬り込みながらそう答えてくれた。

 えーまじで!? ドラゴンいなくてファンタジー世界名乗っていいのかよ(名乗ってない)!


 ミスリルソードがいくらよく斬れるとはいえ、斬撃を飛ばせるわけではないから、刃は途中までしか入らない。小さく舌打ちしたアリシアは、蔓を避けながらも四方八方から少しずつ削り始めた。刃が入りやすいところを探してるみたいだ。たまに蔓を切ってもすぐに生えてくる。その生え代わりに使う栄養素、お前下の宿主からの借り物だろうが。


 人面もデカかった。1メートル以上あるんじゃないの? そこからまるで髪や腕のように蔓を伸ばしている。オ◯ム……じゃなかった芋虫の顔の下であろう部分からも、わさわさとひげか手足かわからないものを出して蠢いている。体の中身に何が詰まっているのかは永遠に知りたくないです。あっ、ちょ、剣突き立てないで、ブシャッってなるじゃん!! あっ、ならないの? そうなの? でもデロってなんか垂れてきたんですが!! ぎゃーーーー!!


 あ、うるさいですかすみません。黙って内向き結界に閉じ込めておきます。そうすれば剣を差しても液体飛んで来ないよね。でも結界に何か付いてる……!

 しかも閉じ込められたのが解ったのか、ものすごい勢いでガンガン結界にぶつかって若干自滅してるわ。俺涙目。


 アリシアたちは上半身と下半身の切り離しはあきらめて(ほぼ完全に一体化してるしな)、一緒に削ることにしたらしい。全身にその刃をかなり受けて、それでも死なない上の人面植物は、顔の吹き出物のようなところからブチュっと新しい触手……ムチ? を生み出して攻撃してくる。

 ああ、SAN値がピンチ……!!

 こっちのみんなは強いな、全然堪えてないっぽいもん。……あ、ごめん、兄弟は顔色悪かった。アリシアが極端なだけだわこれ。


 人面への斬り込みが一番効いているらしくすごい悲鳴? 音? を上げるので、三人はそこを中心に攻撃することにしたようだ。するとヒュンヒュン飛ばしてきていたムチ状蔓が一気に弱まる。どうせ結界で蔓は届かないので、完全に無視して、アリシアは特に重点的に目と眉間を抉っていた。えぐいな!


 キーだかギーだかそんな音を出して、徐々に化物が静かになっていく。アリシアは顔を、兄弟は揃って芋虫の顔の部分を狙う。もう、元の姿がわからないくらいになってきた。

 そして暴れていた下の幼虫も大人しくなり、ようやく……


 ……………………爆発した。



「……………………」

「……………………」

「…………今日は食事なしで」



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