44 調教されてんじゃねぇよ
「アリシア、ミスリルに魔法通して使うとさくさく斬れるよー!」
「わかった、試してみる」
いきなり何の躊躇もなくすごいスピードでゴーレムとやり合うのを眺めながら、俺は暢気に声を掛けた。だって、全く不安要素ないもん。アリシアの剣、鋼の筈だけどミスリル相手に折れる様子もないし、一体どうなってるんだろうか。
俺は結界を掛けることもなくのんびりしている。
一旦下がったタイミングで、アリシアも俺と同じミスリルのショートソードを取り出しーーおお!? 赤い剣になったぞ!? 何アレカッケー!! 魔法を通した剣=魔剣なら、俺のは光の魔剣てことになんのか? 矛盾ンン!! アリシアのはまさしく禍々しくて超カッケー!!
「ミスリルに火魔法を通したな。さすがに多芸だ」
オーディスさんが感心したように眺めている。彼の得物は槍のようだ。お兄さんのイーヴァンさんは剣。二人共少しだけ土魔法と水魔法が使えるって言ってた。やっぱりパーティ人数が少ないと武器と魔術を兼用できる人も必要なんだろうし、水魔法を使えれば水を持つ労力も減るから必要だよな。そうじゃなきゃここまでは来れてないか。
二人はアリシアの戦い方を真剣に眺めているようだ。胴体は一切狙わず、腕の関節を落とした後は首のみに狙いを定めている。決着はあっという間に付いた。数度の打ち込みで転がる頭。人間じゃないからこれは俺の心情的にセーフ。
魔石が落ちる。
しかし、俺の力任せの切り込みと違って、アリシアの剣はあんな硬いものを斬っているのに流れるように軽く見える。剣というより、切れ味鋭い日本刀を使っているかのようだ。
「ふむ、なかなかの速さだし、硬さだ。これは普通の剣では保たなかったな」
「モンスターハウスを経由してくると、ちゃんとその後の下層用の武器を調達できるってことか。つくづく嫌らしい作りのダンジョンだな!」
そうなんだよね、上で取ったものが下で使えるってそういうことだよ。上で苦労しとかないとここから下には行けないぞーっていう嫌らしいメッセージを、しかと受け取りました。ダンジョン作ったやつがいるならすげぇ性格悪いわ。
イーヴァンさんは、戦いを見て少し眉を潜めていた。
「すまんが、一つ上の層に行きたい。いきなりミスリルは荷が重そうだし、ゴールドを体験してからじゃないと俺たちには対策が立てられなさそうだ」
「ああ、構わない」
「じゃ、上の階段までは俺とアリシアで倒して行こうか」
俺が提案すると、イーヴァンさんんが肩をすくめて首を振った。
「いや、何ならここに置いていってくれても構わないぞ、付き合わせるのは悪いしな」
「え、いきなりそれは危ないでしょ。上に行っても別にいいよね、アリシア」
「もちろんだ。ここを出るまでは臨時のパーティだ、遠慮するな」
「いいのか? ……実力がかなり違うぞ、足を引っ張りそうだ」
「いや、ブロンズでも+だろう、筋肉や体幹で大体の強さがわかる。仲間としては十分だ。……あと信頼できる人間も貴重だ」
「……ありがとう。恩に着る」
あ、アリシアが若干照れてる。うん、あの美貌を前に照れるだけで、やらしい目つきで眺め回されないっていうのはそれだけでアリシアには有り難いようだ。なんて不憫な子……。
という訳で、ここでは兄弟を結界で守りつつ、俺とアリシアがどんどん魔石に変えていった。
どうでもいいけど、今更あっさりミスリルの玉とか出てきたら、本気で暴れだす用意があるからね、俺。
……というフラグが立つことはなく、魔石だけを量産しながら上の13階層に出た。ホッとしたようなこれはこれで腹立つような。
早速出てきたゴールドゴーレムを、打ち合わせ通り今度は兄弟が二人がかりで狩りに走る。一応動きに合わせて動く結界かけとこう。
ゴールドもかなりの速さだけど、二人はそれについて行ってる。ほーなかなかの腕前だな、俺には無理。オーディスさんが槍で牽制して、体勢を崩したところにイーヴァンさんが剣を突き入れる。多少時間は掛かったが、危なげなくゴーレムを倒しきった。さすが兄弟の連携。
「ふむ、まぁゴールドはなんとかなりそうだな」
「ここの階層、ゴールドとミスリルでてくるから、肩慣らしにはいいですよ」
「わかった、少し狩らせてもらう」
俺とアリシアは邪魔しないように脇に寄って座ってた。アッシュに水を上げながら撫でていると、じっと二人の戦い方を見ていたアリシアが、うーん、と何にかを考え込んでいた。
「どうしたの?」
「あの二人、剣の紋章と鎧の紋章が一緒だ。オーダーメイドだな。しかもあの紋章、どこかで見た覚えがあるような……」
「へー、身元がしっかりしてるってこと?」
「それは当然だな、身につけてるものは使い古されてるが一流のものだ。豪商か、もしくは貴族だろうな」
「え!? まじで!? 俺そんな家に普通にお邪魔する約束しちゃったんだけど!」
「それは平気だろう。息子が冒険者になるのも、兄に説得されてとはいえ納得するような家だ。そこまで冒険者への偏見はないと思うが」
まじかー、何故か普通に商会を切り盛りしてるようなお兄さんを想像してた。
「俺、礼儀作法とか無理!」
「私が基礎は教えよう」
「え、アリシアがわかんの?」
「これでも子爵家令嬢ではあるからな。殆ど剣しか習って来なかったが、基本の挨拶やらダンスやらは叩き込まれているぞ。使う機会がないだけで」
ひぇーー、アリシアも貴族だったの!? お嬢様に俺すごい無礼な口聞いてたんじゃ!!
「言っておくが、私はほぼ庶民だ。兄は家を継いで姉は騎士爵を継いでいるが、私は『子爵の娘』というだけで何の権限もない。私のような貴族の子女は、ほかの有名貴族にでも嫁ぐのが一般的だ。嫁ぐ気はないがな。というか我が家は全員剣だけくらいしかまともに習熟しないし、私は自由に旅をしたいんだ!」
「わかる」
貴族ってのもある意味ブラック企業みたいなもんだよね。上からの圧力に逆らえなくて、下のほうは使い潰されて、でもヘラヘラしつつ人脈作らないとあっと言う間に潰される。末端にまともなお金は集まらない、あと上に無能がいる(多分)
ーーまるっきり今の日本じゃん。
俺は普通のサラリーマンてのをやったことないからわかんないけど、自由に飛び回ってみたい! ってのが異世界に来させてもらった原点だからね。そこはすっげーわかるよ! まぁこっちの貴族について知ってるってわけじゃないけど。
と、見ているうちにオーディスさんの槍の穂先が折れた。
「あ、刃が欠けた!」
「ミスリルゴーレムに挑んでたのか」
いつのまにか2体目のゴールドも倒し、3体目に出てきたミスリルに挑んでいた。
俺は立ち上がってオーディスさんの元に飛んでいく。ミスリルのショートソードいっぱいあるし使ってもらおう。
「これどうぞ、リーチは短くなりますけど、魔力通すとそいつにも通用しますよ」
「ああ! ありがたい、しばし借りるぞ!!」
「イーヴァンさんもこっちどうぞ。魔力通して使ってくださいね!」
「承知した!お借りする!」
モンスターハウスのショートソード、大活躍じゃん。こっちはアリシアにまかせてもっと取ってきてもいいかな。
「ねぇ、アリシア、あの二人もミスリル使ってもらってた方がいいよね?」
「そうだな、切れ味が圧倒的に違いすぎる。この先を考えるともう少し予備があってもいいな」
「じゃあここ任せていい? 俺いまのうちの8層のモンスターハウスでミスリルソードガンガン出してくる」
「む、それもいいか。私はこの程度では全く問題ないから、この二人は任せてくれていい。しばらく3人で憂さ晴らししている」
あ、そっちが本音なのね。だよね。何日も閉じ込められてたらそうなるわ。そして俺の憂さ晴らしもモンスターハウスになってるのか。だって楽で稼げるんだもんよ。
というわけで、一体何度目なのかわからないモンスターハウスにやってきた。体重を掛けてポップさせて範囲浄化、ポップさせては範囲浄化。これも今はぼーっと考え事しててもできるわ。繰り返し過ぎて。
で。いつものごとく出てくる宝箱。勿論中身も一緒ーーーーーじゃない!?
え、なんか長剣が出たぞ! うお、これもミスリルだ、まじか!! 試しに魔力を通したら……青白く立ち上がる光!
すっげーーー、これ勇者が持つやつ!! 聖剣とか言われちゃうタイプのやつ!!
両手剣だよな、あきらかにでかい。アクセサリーはバングルで、まぁそっちはいつもと同じだからいいけど、長剣はなんでだろ、めっちゃ気になる!! まさかモンスターハウスで周回ボーナスとかはないだろうしな、ゲームじゃないんだから。
でもコレアリシアにぴったりじゃんか、細かいことはどうでもいいや!
よし、しばらく続けてみるか。
せっかくのボーナスステージ、どんどん行くぞ!! もしかすると武器もローテするのかもしれないし。
あれから8回。出たのは、何時も通りのショートソード、そして短剣もあった。全部ミスリル。もう一本短剣があったらぜひ俺が使いたい、と思ったので物欲センサーに反応しないように物欲を抑えつつ、ガンガンに狩りまくった。
それから更に10回めほどでまた短剣が出た。小躍りする。やった、これでいつもの使い方ができる!
両手に短剣か、両手にショートソードで使い分けができる。
あとは全部いつも通りのショートソード。まぁ片手剣だから、人によっては最も使いやすいかもしれない。
かなり時間が経ったので13層に戻る。と、モンスターもアリシアたちもいない。
あー、もう14層に挑んだか! と下の層に顔を出して探すと、ミスリルゴーレムの肩に乗ったまま頭を蹴り上げ、首をぶった切ってトドメを刺しこちらを見下ろす、アリシアさんの恐ろしく美しくワイルドな講習が行われていた。そして拍手。
ちょっと、調教されてんじゃねぇよそこの兄弟!
こっそりイーヴァンが「姉御…!」と呟いてるが、俺は聞いてないったら聞いてない!
さて、俺がいないうちにアリシアさんのスパルタ指導の元、兄弟もミスリルは大丈夫そうになったそうなので、問題の15階層に挑むことになった。
「あ、アリシア。これ使って」
「……ミスリルの両手剣!! 出たのか!!」
「そう、一本だけだったけど、何故か」
「これは勝てる」
アリシアさんがそっと目を細めた。かすかな笑みが美しいんだけど、怖い!!
15層。ここははまだいいんだよ、へびはでかすぎるけど基本は俺へびとか爬虫類系好きだし。
でもなー、動きがわかんないから結界かけて様子見だ。
「ルイ、頼む」
「はいよ、掛けた。ーー二人とも、そのうっすらした色のとこに結界掛けたので、敵の攻撃は受けません。自分からは出られますけど、一度出ちゃうと戻れなくて危険なので、手足はともかく体本体は出さないように気をつけてください」
「了解した、ありがとう」
まずはヘビ探しだ。
あーようやくダンジョンらしくなってきた!……って遅いんだよ!
「アリシア、わかる?」
「む、気配が多いな。結構な数がいるようだぞ」
「うわ。とにかくでかすぎるから、1匹以上は相手できないよ。見つけたら釣りだして他と離そう」
「了解した。釣ってくる」
アリシアが走って行ってしまった。付いてくべきか、二人を守るべきか。
……アリシアに付いてった自分を想像したら足手まといにしかならないので、二人の側で待つことしばし。
もんのすごい地響きが聞こえてきた。え、なに!? ヘビじゃないの!?
「バイパーで間違いない。かなり素早いので気をつけろ!」
俺の横を走り抜けたアリシアが、後ろで剣を構え直してそう言った。
え、何で、ヘビってそんな早かったっけ? と思っているうちにものすごい質量の塊が降ってきた。ズドーンと地面を叩く音。みんな綺麗に飛び避けて、俺だけ潰され……ないけどさぁ!! いいけどさぁ!!
ヘビは、体を弛めて、その溜めを利用してジャンプしてくる。えー、こんなんだっけヘビって。ずるずる地面を這ってる想像しかしてなかった……。いや待てよ、昔見たアナコンダって巨大ヘビの映画ってこんな感じだったわ。ここまででかくはなかったけど、動きが同じだ!!三人はヘビの体の攻撃を軽々と避けながら、細かく切り込んでいる。
そしてヘビは、俺のことは相変わらず目に入ってないみたいだ。
ふむ。
俺はミスリルソードを取り出し、透明なままそろっと寄ってピット器官に突き立てた。
「~~~~~~!!!!」
声にならないシャーシャーとしたすごい暴れ方をして、ヘビがゴロゴロローリングした。俺を振り落としたいんだろうけど、俺を感知できないから意味がわかんないんだろう。ほう、なるほどなるほど、これはいい的だ。
ふへへへ、俺を無視するからこうなるんだよ!!
というわけで、めちゃくちゃにピット器官をグリグリしては反対側からもグリグリしてたら、俺達の誰のことも感知できなくなったようだ。そりゃね、そうだよね。
そこでアリシアがヘビに飛び乗って頭に剣を突き刺す。両側からはオーディスさんとイーヴァンさんが同じショートソードで目を突いた。
しばらく暴れていたヘビだったが、アリシアに剣でかき混ぜるように頭を貫かれ、頭の方から大人しくなっていく。
尻尾の方はまだ動いてるけど、これいつまで生きてるの? 最後に尻尾を振り回されたけど、誰もいない場所だった。
そして、しばし暴れたあとにヘビはようやく魔石に変わった。
……うーん、普通に強い。ミスリルソード手に入れてなかったら倒せないんじゃないのコレ?




