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40 体感数秒なんだけど


 どれだけ時間がかかっただろう。

 一日……? 感覚がなくなってきた。

 とりあえず一旦竜の場所に戻って玉を嵌めてみる。うん、こっちもカチリと音がした。

 よし、これで銅、銀、金の3つは揃ったぞ。

 あとは問題のミスリルか……


 二十一体目で出たってことはゴールドの排出率は5%くらいかな。いや、もっと数を出して統計取らなきゃ正確にはわかんないけど、どうせその程度だろうとは思ってた。シルバーは20%前後かな。もっと低いかと思ったけど、単に早く出てラッキーだったってだけかも。てことは……ミスリルは数%、下手すると1%未満なんてのも覚悟しなきゃいけない。

 普通だったら、あの部屋のパーティメンバーが生きてるうちに100体倒すとか現実的に不可能じゃないのか?


 はぁ。とりあえず時間経ったし、アリシアのところに戻って一度問題がないか見てこよう。



 壁からそっと顔を出す、すぐ近くにいたとイーヴァンさん(兄)が俺に気づいてくれた。べ、別に会社をリストラされたサラリーマンじゃないんだから堂々と帰ればいいんだけど、何もない場所で延々と待たせてることが後ろめたい、とかじゃないんだからな!


「おお、ルイか。何か問題があったか?」

「あー、いえ、俺時間の感覚なくなってまして……どれくらい経ってます?」

「そうだな、一日半てところじゃないか?」

「まじか……待たせてすみません! あ、おかげで金は出ました」

「おおっ!!」


 いまアリシアが寝ているらしく、弟のオーディスさん(会話を聞いてたから今度こそ覚えた!)がこちらに気づいてやってきた。


「おお、ルイ! あの結界ベッド? あれは快適だな。ダンジョンで寝ている気がしなくなる。どうにかして持ち歩きたいくらいだな。ーーで。ルイの方は大丈夫か? 一人でさぞかし苦労してるだろう」

「いえ、俺の方は大丈夫です。金はーー21体目で出ました」

「に、21体目でか……、ミスリルのことを考えると気が遠くなるな」


 腕を組んで眉を顰めてる。

 まぁ金で21体ということ聞いただけでもそう考えるよな。そもそもそんなにゴーレムがいるのか? ……まさかポップ待ちもする羽目になるのか? ……え、まじ?


「ふむ、俺達が外に出て手伝えないのがこんなに歯がゆいとはな。すまんな、ルイ」

「いえ、大丈夫です。みなさんだってこんなところに閉じ込められてさぞ不便でしょう。大急ぎでミスリル出してきます。幸い俺には睡眠が必要ないので、そう遅くならずに取ってきますから。どうかもう少しだけ我慢して下さい!」

「……いや、焦るな、ルイ。俺たちのことなら全く平気だ、むしろ快適に過ごさせてもらってる。気楽にやってくれ」

「そうだぞ。あと、心配になるから定期的に顔を出してくれ」

「……わかりました」


 遅いと責めることもなくこっちを気遣ってくれるのに涙が出そうになる。何だよ、冒険者ってベテランにもなるとこんなに泰然自若としてんの?

 あ、奥に寝ていたアリシアがもそっと起き上がった。うるさかったかな。


「ルイ、帰ってたのか。ーー無理はしてないか?」

「おはよ、アリシア。一昼夜経ってたみたいだね、ごめん、夢中で気付かなかった。金は出たから、これから問題のミスリルに行くよ」

「金が出たか……! やったな、あとひとつか。しかしミスリルゴーレムなら相当にすばやいだろうし、向こうが魔力で身体強化でもしていたら、あの大斧でもとても歯が立たないかもしれないぞ」

 

 だろうね、俺もそう思ってた。


「いやー俺ね、すっかり忘れてたんだけど、『結界に閉じ込めて圧縮』とかオークで試してたじゃん? あれだよ、忘れてた。押し倒して、何なら圧縮して倒す。見た目のおかげで躊躇いもないし、これならなんとかなると思うんだけど」

「あーー、……まぁいいんじゃないか」


 想像したのか変な顔でアリシアが応えた。

 やっぱり裏技、ってほどじゃないけど、最終手段って感じだね。他の敵を倒す時は練習もあって使ってなかったけど、今なら確実に仕留めるのに必要ならどんな手段でも使うから。


「食料は大丈夫?」

「まだまだあるぞ。今朝は焼きアスパラとブロッコリーのチーズがけを皆で食べた。野菜を狩ってきたのは幸いだったな」

 

 俺の記憶から抹殺された3階層とやらには食材が豊富だったようで何より。斧といい野菜の採取といい、アリシアの行動がことごとく役に立っている。

 アッシュもまだ果物もナッツもあるので、剥いてもらってご機嫌で食べていた。この子もストレスを感じてなさそうでホッとする。撫でたらすり寄ってきた。


「みんなありがとう。じゃあこれからミスリル狩りに入るよ。ちょっと時間わからなくなりそうだから、途中でこまめに帰ってくるから」

「そうしてくれ、こっちも心配でやきもきする。ーーいや待て、ルイの体は無事でも精神的に疲れているだろう? 行くのは一度休んでからにしてくれ」

「いや、俺疲れたりしないよ?」

「それでも。ずっと根を詰めるのはよくない。そこに座ってくれ」


 アリシアにベッドに座らされる。俺寝られないんだけどーーいや、寝ること自体試してないけど、もしかしてできるんだろうか?

 ちょっと横になる。もちろん体には何も感じないし浮いたままなんだけどね。

 

 一応目をつぶって少し意識を飛ばしてみてーーーー


 

 あーー……

 なんかふわふわする。これ心地いいね、目を閉じるだけでも違うものなのかな。


 あ、管理人さんだ、何か言ってる。聞き取れないけど笑顔だ。

 世界の狭間をゆらゆらしてる気がして、このままずっと寝ていたいーーー

 

 ーーーーって、アリシア!



 アリシアを思い出した途端に現実に引き戻され覚醒した。

 ーーーーうそ、まじで寝てた!? ほんの一瞬記憶が飛んだんだけど。

 飛び起きてびっくりした。ほんとに寝たの? 俺、幽霊だよ!?

 眼の前には本物のアリシアがいて、優しい顔で俺を見ていた。


「ほら、少し寝られたようだぞ?」

「え、アリシア! 俺どのくらい寝てた?」

「ほんの1時間程度だな。少しの休憩と言った感じだが、疲れはとれたか?」


 うわ、信じられん、体感数秒なんだけど。ああ、体の疲れが取れるとかの実感がないから、意識が飛ぶだけなんだ。

 そもそも疲れてない、と言おうとして、胸にあった焦燥感が少し軽減していることに気がついた。ーー嘘だろ。ほんとに寝ることで気持ちのリセットができるのか? ゴーストでも? ていうかゴーストが寝るってなんでだよ(笑)


「……寝られることを初めて知ったよ……一瞬記憶が飛んだだけに感じた」

「でもよかったな。ルイにも休息は必要じゃないかと前々から思っていた。気持ちの切り替えができるなら、尚いい」

「ーーうん、なんか焦りすぎてたのが、ちょっと落ち着いたよ」

 

 うん、焦っても仕方ない。

 いまは俺しか3人を助ける手段はないんだ、確実にやっていこう。


「おかげで気持ちが切り替わったよ。定期的に報告に寄るから、食料の他にも欲しいものがあったら言って」

「わかった。では頼んだぞ!」

「おっけー任された!」



 俺は英気を養ってから、再度13層に挑んだ。

 前人未到の階層。らしい。俺には強さがわかんないけど、今の最深攻略階層が12階層ってことは、ここまでも来れてないんだよね。

 ゴールドのゴーレムは素通り。ミスリルはあまりいないが、見つけ次第、圧力をかけて軽く押さえつける。試しに斧を振り下ろしたら、斧が欠けた。ーーまじか、ミスリルパネェ。

 では、モンスターハウスの宝箱から出た同じミスリスではどうだろう。向こうは強化を掛けてるらしいから、普通ならこっちが負けるだけだ。俺には魔法は使えないーーいや、光魔法だけしか使えない。一応試しに光魔法を付与?してみると、輝く剣が出来上がった。

 うお、綺麗だな。勇者の剣て感じで俺に似合わないのは百も承知だけど、とりあえずそれを首に振り下ろしてみた。

 ざくり、と刃が通った。

 まさか、と思わず引き抜いた剣をまじまじ見てしまう。光魔法でも、付与すると魔剣てものになるから強化されるのかな。付与にはどの魔法がいいとか聞いておかなかったけど、どっちにしろ俺に使えるのは光魔法だけなんだから、これで押し通すしかない。

 5回ほど首を斬りつけたら魔石になった。ドロップはない。

 これが、一体目。うむ、いくらなんでもこれ絶対刃が欠ける。次は8層のモンスターハウスと往復してミスリルのショートソードを大量入手してこなければ。ここでもアリシアの先見の明が生かされてる、なんだろう、予知能力でもあるんじゃないの。

 さて、ミスリルのドロップは何体目で出るかな。


 ゴールドとミスリルが混在しているようなので、ゴールドのゴーレムはすっ飛ばしてミスリルだけを探す。


 二体目:ドロップはない。ただ魔石がものすごく大きい。今までで一番とも言える。これはしっかり集めておこう。


 ・

 ・

 ・

 ・


 九体目:仕留めたところで、下に続く階段を見つけた。

 こっちの階層はゴールドが多く、もう殆どミスリルがいない。下の階層もミスリルが多かったし、下で狩ったほうが効率がいいかもしれないので、ここで下に降りる。

 14階層、みんなが閉じ込められている階層だ。ここも結構広い。ただ、ミスリルゴーレムの数が思ったより少なく感じるな……。

 とりあえず近場から始める。


 十体目:結界に閉じ込め圧力を掛け始めたところで抵抗する様子が見られた。ふむ、ここにきて、重力に負けない力のモンスターになったということか。でもすまん。一気に押しつぶす。ミスリスの剣も使わず、力技だった。若干時間は掛かるが、ショートソードを使わない分の物損はない。どっちがいいかはいろいろ試してみてからだな。

 ドロップはない、ただ、魔石だけが転がってきた。


 十一体目:相手を見ないように一気に押しつぶした。変に人間ぽい仕草があったら手を止めてしまいそうだから。でもアリシアの命がかかってるんだから容赦はしない。出たのは何時も通り魔石。ドロップなし。


 ・

 ・

 ・

 

 十八体目:戸惑いが大きい。この階層のミスリルゴーレムを狩り尽くした気がする。いまだドロップはない。これはヤバイ。

 ポップを待つ時間が必要なのか……参った。

 ミスリルゴーレムは結局押しつぶしている。モンスターハウスと往復する時間が無駄だからだ。

 


 少し時間が経っている、収穫はないがまた一度皆のところに戻ろう。

 ーーと、その前に、上で新鮮なものでも買っていこう、せめてもの慰めに。


 上まで階層を突っ切って、建物の影で透明化を解除する。ポーチにお金は入ってたよな……迷宮入り口に、当日食べられる弁当や、いろいろな食材が売っている。


 目についたのはふわふわのパンにローストビーフのようなものとふんだんに野菜が挟まれたものだ。肉は照り焼きのようなのと選べるらしい。迷宮の中なら新鮮な野菜とか肉とか嬉しいだ……いや、どこぞの階層の野菜があったっけ。


「すみません、それ3人分ーーじゃあの兄弟には足りないか、6人分下さい」

「はいよ! 中身は同じでいいのかい?」

「半分はそっちの照り焼き肉の方でお願いします」

「あいよ、ローストビーフ3に照り焼き3だね、銀貨2枚になるよ!」

「はい」

「お、毎度!」


 それから、フレッシュジュースのお店で搾りたてのライム?みたいなジュースを3人前買った。

 アッシュには……お、果物発見! 赤い実だ、これでも買ってくかな。

 ここで日本なら、いやせめて地球ならオセロとかチェスとかのゲームでも買って行くんだけど。これも異世界ものの定番なんでしょ、誰か先に転生してる人が広めてないのかよ。ーーあ、こっちに転生したとしても記憶が初期化されるんだっけ。


 また建物の裏に回って林に入る。木の印の付いたところまで歩き、透明になると一気に真下に突き抜けた。


「ただいまー」

「ルイ? どこから出てきたんだ!?」


 イーヴァンさん(兄)が俺に気づくと、アリシアと、寝ていたオーディスさん(弟)も俺の方にやってきた。よし、今度は名前ちゃんと覚えてる。


「ごめん、ちょっと狩りすぎてミスリルゴーレムが全滅した。いまポップ待ち」

「そうか、それだけの数だと一回では無理か」

「うん、で、せっかくだから差し入れ持ってきたよ。どうぞ」


 おれが新鮮な食事を差し出すと皆が「おお!」と声を上げる。


「すごいな、こんな深層で作りたてのパンがたべられるとは」

「すまんなルイ、一人であれこれ気を遣わせて」

「いえ、俺はこれしかできないから、せめて少しでも快適でいて下さい」


 ジュースを手にとったアリシアがそっと俺に近づく。


「金は足りているか? 私の財布を持っていけ」

「え? いやいや、全然足りなくないよ、むしろ盛大に余ってる。アリシアはそんな心配しなくて大丈夫だよ」


 俺は寄ってきたアッシュを撫でてから、買ってきた果物を差し出す。多分そのまま食べられる。大きなさくらんぼみたいな実だ。

 案の定、アッシュはすごい勢いで食いついた。おお、好みだったようで何より。


 それから、兄弟が差し出してきた金貨を断る。金貨って!

 律儀なのはいいけど極端すぎ!


 ポップ待ちは長く感じる。13、14階層を行き来しながら見つけ次第狩るって感じじゃないとだめかな。これほんと時間掛かるぞ。

 時間潰す方法っつってもなー、ここじゃ何もないし。話でもしてるか。


「えー、イーヴァンさんたちはこの街の出身なんですか?」


 我ながらすごい無難な世間話だな! 仕方ないんだよ、その日の天気も着てるものの話もできないってなったら、後は住んでるとこの話とか家族の話って決まってるんだよ。


「ああ、ずっとそうだ。家からあまり離れられないから、必然的に大森林の依頼を受けるかこの迷宮に潜ってばかりいる」

「家から離れられない……?」

「ああ、兄貴が家を継いでるんだが、その手伝いがある。本当は冒険者になることも父には反対されたんだが、兄貴が説得してくれてな、恩返しも込めてたまに兄貴の仕事の手伝いをな」

「おお、お兄さん孝行ですね」


 いいとこのボンボンか! 言われてみるとそれっぽい!


「ルイたちはこの街で見たことないが、どこから来たんだ?」

「えーっと、なんていう街だっけ? アリシア」

「ラフィガルド伯爵領だ。私はそこを拠点にしている。ルイは各地を巡っているから、あまり街のことを知らないんだ」


 お、ナイスフォロー!


「ああ、隣街だったか。とは言っても山を超えるからそれほど近くは感じないがな。問題の首狩り峠もあるし」

「ああ、それならルイが追い払ったぞ。今ならリッチもいないはずだ」

「何!? 本当か、それはすごいな」

「あーでも結局逃げられちゃったんですよね。即死攻撃の鎌を持ってたんでそれは壊したんですけど、いつかまたどこかで遭う気がするんですよねー……。こっちから見つけて仕掛けたいくらいなんですけど」


 くっそ、あいつを取り逃がしたのは痛いな! 早く見つけたい。そして今度こそ塵に還してやる。思い返したら腹立って来た。

 逃げるとか! 逃げるとか普通しないだろちくしょー!


「ああ、あれか。……死期を悟って狂った賢者が、死霊術を自分に掛けたとかいうやつだな。どこだったか、そいつの研究所があったと聞いたぞ」

「え!?」


 まじで!? こんなとこで情報が手に入るとは思わなかった。


「ど、どこにあるんですか!?」

「いや……オーディス知ってるか?」

「いや、詳しく聞いたことはないな。漠然とそんな噂があったというだけだ。ただアリシアが知らないというなら、こちらの辺境伯領でだけまわってる噂だろう? ということはその古巣もこっちにあるということじゃないか?」


 なるほど。アリシアが知らないならそうかも。


「ここを出てからでいいなら調べるぞ」

「え!? 伝手があるんですか?」

「まぁな。それに散々世話になってるんだし、ここを出たらうちに招待するから是非もてなさせてくれ。田舎だから大したことはできないが、兄貴たちに紹介したい」

「ああ、それはいい。こっちの特産品を用意しよう」


 わぁ、初めて現地の友人ができる模様!

 アリシアも、彼らには気を遣ってないようなので(アリシアが嫌がる素振り見せたら、そもそもここで置き去りにしないで、最初から結界で区切ってる)ここを出たらありがたくお邪魔しよう!


「じゃあ、楽しみにしておきます。ーーさて、狩りの再開はリポップが溜まってからの方がいいと思うんで、俺8階層でしばらく稼いできます」


 みんなに手を振って、俺はそろそろボーナスステージと呼んでもよさそうな8階層へ移動した。




ご感想などいただけましたら、大変大変嬉しゅうございます……。

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