表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/59

4 だが砦、オメーは駄目だ

少し痛い描写があります。


 うん、不穏です。

 何がって? やっと辿り着いたこの砦が、です。

 上から見た限りでは、この街には瀟洒な城や時計塔、豪邸もあり、建築物も予想よりずっと重厚な作りで、3・4階建てなんて普通にあった。活気ある大通りもキレイに区画整備されていて石畳が敷かれているし、都市構想もしっかりしているんだろう。今のヨーロッパの歴史地区なんかに普通に残っていそうだ。

 だが砦、オメーは駄目だ。

 まず、空気が重い。気の所為にしては酷い。中に入るとひんやりしていて、どっちの方面がヤバイのかが判ってくる。


 砦はごく普通のヨーロッパの要塞を想像してもらえばいい。かなり大きいな、五百メートルはあるが一キロまではない、そんなところだろうか。両側にいくつかの塔が不規則に建っている。砦自体もかなり大きく、移動だけでも時間がかかりそうだ。

 のこぎり型狭間とかツィンネって言うんだっけ? 城っていうとよく想像する凹凸、あれとか銃眼ーー細長い縦の窓ーーみたいなのがあるのも地球の建物と一緒だ。銃眼って言っても、さっきまでいた戦場を見るにまだ銃はなさそうだし、多分矢を射るために用いるんだろう。

 正面の大きな石造りの門の中は問題なさそうだ。中は暗くて、そういえば電気なんてないんだから当たり前なんだけど、昼間からランタンで照らされた回廊は不気味だ。

 しかし問題はその奥にある兵士の詰め所、門衛塔?……じゃないな、その更に奥に行った場所に建っている、広い平屋建ての建築物だ。繋がっていないで独立しているが、作りは一緒だ。砦もそうだが、無骨な作りで装飾などは一切ない。

 問題なさそうなところを全部突っ切って暗い回廊を真っ直ぐ奥にいくと、その建物だけ警備が敷かれていた。入り口の両脇には槍を持った兵士が立っている。


 中にするっと入り込んで、その理由がわかった。

 ここは牢屋のようだ。

 入り口正面には兵士詰め所があり、この前を通過しないと外には出られないような造りだ。簡単な取り調べを行うと思われるのが手前にある部屋、個別の牢が並んでいる場所は軽犯罪で収監された者たちかな、今も幾人かいるようだ。悪態を吐いているのが聞こえる。

 一番奥まで行ってびっくりした。更に奥に続く扉に鉄格子が嵌り、その更に向こうに重厚な鉄扉があるのが見える。どちらの警備も二人ずつで、椅子に座っているが、いざというとき疲れないようにという配慮だろうか。となるとこの先に行くしかないよね? 気になりすぎるもんね。


 と、近づいてみたら……! うっわ、一気にぞわーーーーってきた! これこれ、この感覚近くに「いる」時のやつだ。


 俺は生きてた時から「零感」(霊感じゃない、零、だ。つまりゼロ)だと思ってたんだけど、(幽霊なんてみたことないし)、このヤバイものに近づくと血の気が下がる感覚は小さい頃からあった。まぁそれって事故の多い交差点とか、見えない場所の祠とかだったりした。誰に言っても共感してもらえなかったけど、あれはヤバイ、今と全く同じ感覚だ。たぶん見えなかっただけで「いた」んだろうなぁ。ちなみに今までみた限り大きな神社とかお寺には一切そういうことがない。むしろとっても神聖。祠ってのは、人とかそれに準ずる何かが死んだ場所だ。死んでも怒りが収まらない死者に、崇めるからおとなしくしてね、って祀る場合が多い。だからか、祀られなくなったら祟り神一直線。悪霊の巣になっててもおかしくない。

 てのはまぁ、おれの見解だった。こっちのゴーストはわかんないけど。

 で、その俺の勘が初めて作動した。ってことは、これ、魂に刻まれた感覚なのかな。これも霊感の一種?「感じる」とかいうやつ? あれ、そうすると俺霊感あったのかな。

 ま、ゴースト退治には便利なサーチ能力だと思っておこう。


 牢番? には見えてないはずだけど、なんとなくそろーっと間を抜けて中に入り込んだ。ふう、見えてないと思っても他人の目の前通過するのは緊張する。

 中に入ると、少し真っ直ぐ進んだ先に、下に向かう階段がある。あちこちにある黒ずんだシミはなんの跡かは考えちゃいけない。それに沿って降りていくと、どんどん強まっていく寒気。

 ーーこれやばいの来ちゃったんじゃないの?

 地下は、凶悪犯やその他問題のある者を収監する牢らしい。手前の牢に一人だけ男が収監されていて、簡素なベッドに腰掛けてブツブツなんか言ってる。見るからにやばい。上にいたチンピラと違って普通にヤバそう。

 そこから順番に牢内を見ていく。ベッドと、奥にトイレらしき腰までの仕切り板一枚だけしかない、牢内は薄汚れて空気が重い。陰鬱な光景だが、意外にもここにはゴーストはいない。モヤはあったのでさくっと浄化。

 あれ、悪霊とかいないの? と思って目線を上げると、奥に2つ、牢ではなく扉があった。

 何の部屋かわかんないけど、……これだわ。寒気の原因。


 中に顔を突っ込み覗き込むと、中央付近に床に固定された椅子がある。

 それには手と足を結びつける黒皮のバンド。

 壁際に掛かっている、数々の工具、血のついたノコギリ、鉈、鎖。ベッドもあって、そっちは中央にどす黒い跡が残っている。何のためなのかわからない盥、バケツ。ホース。端にある暖炉……? のよこにある火かき棒にはコテが付いている。


 あーあ。考えるまでもないわ、拷問部屋。そしているんだもんよ、その部屋に犠牲者らしきやつ。

 まばらに歯が抜かれ、目玉をほじくり返されて空洞、鼻は切り取られている。耳も何かを流し込まれたのか何かしらの固まりが出ていて、その下から血が滴っている。腕は肘で途切れていて、切断されて指先のないその手を反対側の手で持っている。そちらの手はツメがはがされた上で何ヶ所か折られているようで、関節が何個かあるかのように不自然に曲がっている。

足も片足は膝下が、もう片足はずたずたになっている。腹は切り裂かれ、腸が足元に垂れていた。

 とんでもないことするもんだ…… 

 政治犯だかスパイだかしらないけど、こんな拷問までして聞き出すようなことがあったのだろうか。

 

 あーやめやめ、犠牲者の意義を考えるのは俺のすることじゃない。

 俺がしてやれることは楽にしてやることだけ。

 もう十分だろう、早く輪廻に戻れ。


 「浄化」


 いつもより強い光をそっと雨のように降り注がせる。なんとなく矢で貫くより、光で包み込んであげたくなった。

 うつむいて立っていた男は、それでようやく顔を上げた。

 少しずつ彼の体が解けていく。それを気にせず、彼は口で「ありがとう」と形作って消えていった。


 もう片方の扉も似たような作りだったけど、こっちは黒いモヤだけで悪霊というほどのものはいなかったのでほっとした。

 あんなのがいっぱいいたら、そりゃ淀むわ。

 天井を突っ切って上に戻って、ようやくほっと息をつけた気がする。呼吸してないけどな! それから外に出て、しばらく周辺をウロウロしてみた。


 んーー、まだ、何かあるんだよなぁ。

 どこだろう、と思っていたら、小さな木陰を抜け広場に出た。


 周囲を柵で囲まれていて、学校の校庭より若干小さいくらいだろうか。中央には数メートルの高さの台があり、その上には、先が輪になった紐が垂れ下がって並んでいる。


「…………」


 台の隣には、十字に組まれた木が何本か立ち並び、横には薪らしき束。

 外周近くには腰ほどの高さの台が複数ある。そう、斬られた首なんかを乗せるのにちょうどいい感じの台が。

 

「…………」


 み、見たくなかったーーーー!!

 刑場かよ!!

 え、こんな目立つとこでやっちゃうの? 

 あ、違うや、逆に見せるためか……。

 日本でも昔は刑場に「獄門」て首晒すとこあったんだよね。

 地球の現代みたいに人権思想はないだろうし、犯罪者は徹底して見世物にされるのか。こういうの、昔は娯楽だったって聞いたことあるし。

 


 で、いるんだよなぁ。はじの方に何か。あと紐からもそれらしきのがぶら下がってる。もちろん元は人間だったろう。

 でもあれ、近づきたくない。

 人の姿は保ってるんだけど、黒すぎて表情が見えない。


 多分だけど、今の俺には無理なんじゃないかな。精神的にも慣れてないから、もうちょっと経験積んでから来よう。


 一旦、退散することにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ