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34 腑に落ちない


 しばらくして、男がやってきた。

 ただし二人組だ。そして聞いていた特徴とも違う。

 俺はまずアリシアに知らせ、透明なままじっくり様子を伺ってから中に入ってアリシアの隣に座り、透明化を解除しておいた。

 アリシアの頭から落ちそうな毛布を引き上げて、頭もしっかり覆っておく。 

 

 二人は兄弟のようでよく似ていた。オレンジのような明るい髪にタレ目、そしてガタイが良かった。THE筋肉!って感じで、ちょっと羨ましい……。背も多分190センチくらいはあるだろう。

 これなら「特徴がない」とは言わないよな。


 俺たちがいるのに気づいてたようで、頭を下げて入ってくる。俺も会釈する。こちらが一人隣で寝てることに気づいたのか、静かに会話してくれる配慮があることから、ベテラン臭がする。

 こっちは荷物の点検とかしてる振りをしながら、横目でじっくり観察する。特に怪しい点は見られないし、こっちを伺う様子もない。

 俺が男だから興味がないだけか、金目にならないと思ったか、……それとも本当にただの全く関係ない第三者か。それが問題だ。


 二人はそれから静かに食事を摂り、しばらくしてから地図を見て何かの相談を始めた。俺は内心ドキドキしながらも適度にアッシュを構ったり地図を書き足したりしている。

 緊張しているからか、時間が過ぎるのが遅く感じた。

 二人はしばらく意見を交換していたようだが、少ししてこちらを見た。

 ーーこっちがこそこそ様子伺ってるのバレてる?


「すまん、少し話しを聞きたいのだがいいか?」


 若干小さめの男の方がそう声を掛けてきた。

 見てた限りあまり警戒しなくてよさそうなので、頷いて彼らの方に移動する。


「俺はイーヴァン、こっちは弟のオーディスだ。よろしく」

「あ、はい。俺はルイです。あっちは連れです。プリーストなんでギルド登録はしてないんですが」


 お、ちゃんと冒険者プレートを見せてくれた。どちらも色はブロンズだった。もちろん石は青だったので一安心。

 俺は光魔法で証明する。いつものように「おお……」と大げさに驚かれた。

 えーと、少し小さい方が兄のイーヴァンさんだな(小さいと言っても俺よりはでかい)。


「……俺達はいつも7階層を狩り場にしてたんだが、今回は8階層に行くつもりだ。だが情報がなくてな。もし何か8階層の情報があれば教えて貰えないか? 俺たちはアンデッド階層だとしか聞いてないんだが」

「あー、俺も今回初めて8階層に行くんです。ただ連れはソロで8階層にも行ってるんで、起きたら聞いてみますよ。……聞いたところだと、連れはいつも聖水で凌いでたようですが、それでは8層攻略は難しかったらしくて、今回は紋章屋で剣に光魔法の付与をしてました。俺はプリーストなんで関係ないですが」

「ふむ、8階層ではプリーストは無敵だな。俺たちも剣に付与はしてきた」


 準備はしてたんだ。でも地図も7層までしか売ってなかったから、8階層に行く時はみんなこうやって情報集めるものなのかな。

 今到達している最深部は12階層らしいけど、8層からは上位冒険者向けの階層だし、そりゃ情報も少なくなるか。


「うーん、でも今8階層は最悪の階層って聞きましたよ。『駆除する人間がいなくてアンデッドが溢れかえって匂いも酷い』って」

「そうなのか?」

「あと、モンスターハウスもあるとか」

「モンスターハウスか……なるほど、小部屋には絶対近づけないな。……いや、これで十分な情報だ、感謝する。対価は現金と魔石、どちらがいいか?」

「あ、じゃあ俺たちも情報が欲しいんですけど……」


 ここで3人組の情報を尋ねるのは果たして吉と出るか凶と出るか。

 まぁ奴らの仲間って線は薄そうだし、……一応訊いてみるか。もし俺の見る目がなくて仲間だったら、連絡を取りに行くだろうし、それはそれで使える。


「ーーここで、3人組の男って見てませんか?」

「3人組の男?」

「ええ、彼ら、どうも7階層で待ち伏せて、女性を乱暴するために襲ってるみたいなんですよね。今朝、襲われてなんとか逃げた子たちを保護して治療したんです。全身酷い傷でしたよ、完全に殺意がある感じです。あと、どうやら一人は確実に赤だったらしいです。多分乱暴したあとも口止めで殺してるんじゃないかと思います」

「赤、だと……!?」

 

 兄は顎を撫でながら、弟に何か話し掛けた。弟の方が頷きながら何か返し、兄は眉をしかめながら「おそらくだが……」と情報をくれた。


「結構前からいる奴らじゃないか? 今回も、前回ここに潜った時も、ここの休憩所で何度かすれ違ったな。俺たちは今回8階層以下に進むつもりでかなり長期用の食料を持ち込んでいるが、奴らはそれより長くいるらしいのに補給に帰る様子もないから、どうしてるんだろうと弟と話をしていた。あまり特徴がないから顔は覚えてなかったが……」


 あー、これはビンゴかな。


「ああ、特徴がないってのは襲われた子たちからも聞いてます。多分同じですね。もし見かけたら……」

「ああ、確認して、赤とオレンジならこっちでも対処しておく。……食料の補給がないのは、もしかしてここで殺した人たちから奪っていた、ということか?」

「ああ、そうかもしれません。抵抗したら殺され掛けたらしいんで」

「胸糞悪いな……」

「あとでギルドに報告します」

「ああ、それがいい」


 あれ、どうも本当に関係ない善人ぽいぞ。

「次にギルドに行った時にまだそちらからの報告がなかったら、俺たちで先に報告しておこう」と言ってくれたし。


「じゃあ、こちらも情報ありがとうございました。これでチャラでいいですか?」

「こちらは構わない。あまり役に立たない情報ですまん」

「いえ、十分です。ーーでは、失礼します。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 念の為見張りの振りで起きてたが、一人は直ぐに寝入った。途中で交換して見張りするんだろう。



 アリシアが起き出すまで待った。多分4~5時間ほどだと思うが、時間の感覚がないからよくわからない。もっと長いかもしれない。3人組がいつ来るかと、じっと身構えて過ごした。

 なにもないただの部屋を隅まで見尽くした。外の岩と同じくここも岩で出来ていて、寝るにはあまり適さない部屋だな、なんてどうでもいいことを考えていた。


 けれど、3人組は結局来なかった。

 どういうことだよ?


「……おはよう」

 

 アリシアがごそっと身動きして、そっと俺に声を掛けた。俺はちらっと二人を見やったが、動きはない。

 俺もささやくような声で返事する。


「おはようアリシア」

「……どうだ?」

「来てない。隣の二人からさっき情報をもらったよ、たぶん長くここにいる奴らみたいだって。奪ったもので食べ物も補給してるみたい」

「最低だな。ーー彼らは?」

「ああ、ご兄弟らしい。ブロンズの青だった」

 

 アリシアはホッとしたように力を抜き、体を起こすとまだ寝ているアッシュをそっと撫でた。


「来ないとなると……どこか別の場所で寝たのか、それとも上か下に行ったのか? 7層の休憩場所はここだけだし、ここからは動かないと思ったんだが」

「うん、……何か腑に落ちないんだよね。馬鹿ってさ、犯罪であっても一旦決めたルーチンワークを変えなさそうって思うのは偏見すぎるかな。いい獲物が引っかかるところを見つけたら、そうそう移動しない気がするんだけど」

「私もそう思う。単に上か下に獲物を探しに行ったか、……それとも、何かあったか」


 前者ならいいけど後者だとまずいな。

 ダンジョンでの不測の事態って何があるだろう。モンスター事故、地形の事故、犯罪被害、そんなとこか。

 …………どれもまずいよな。

 こっちに気づいて逃げた、という線はほぼないだろう。彼女たちの近くに人がいたらアリシアが絶対気づくだろうし。

 簡単な作業だと思っていたのに、思ったより厄介そうだ。


「来ないことが逆に不安になるとはね……」

「探しに行くか、放置するか。……一応ここの階層はもう少し探してみて、いなければ下に降りるか?」

「そうだね。そうしよう」


 俺たちがごそごそしていたからか、アッシュが起き出したので水をあげておく。食事はまだ早いかな? でも出発するとそうそう休憩しないだろうから、一応ナッツだけでもあげておこう。差し出したら普通に齧りついていた、首を傾げてこりこり食べる姿は今日も安定のかわいさだ。和む。

 アリシアも軽食として軽く乾燥フルーツを齧っている。


 と、二人組の片方……弟か? が体勢を変えた時にこちらに気がついたようだ。


「ーーあ、うるさくしましたか? すみません」

「いや、うるさくはない。おはよう」

「おはよう。私はアリシアだ、よろしく」

「……その歳でシルバーか、凄腕だな……。俺はオーディス、こっちは兄のイーヴァンだ、よろしく頼む」


 アリシアが自分のプレートを引き出して見せている。相手もまた見せている。あれ、これって挨拶代わりなのかな? それともこういう場だけのローカルルールかな。

 まぁこんな狭い空間で一晩一緒にいて話もしていたのにプレートも見せられない相手とか怖いよね。

 (しゅ)のおかげでプレートの書き換えだの細工だのできないらしいから、犯罪者になったら見せないように立ち回るしかないんだろうし。犯罪者の立場だとプレートってかなり不便だが、こっちは助かるな。


「あ、そうだアリシア、彼ら8階層の情報が欲しいんだって。紋章屋で聞いたことの他に情報があったら教えてあげて」

「8階層か。ーー私が前に行ったときの話でもいいか? 少し情報が古い可能性もあるが」

「もちろん構わない、何でもいいのであれば頼む」


 アリシア、一応8階層も覗いては来たって言ってたもんな。少なくとも俺よりは情報があるだろう。

 ーーと話をしていると兄の方も起きてきた。そして硬直していた。アリシアに驚いたようだ。……それから何か、若干顎や頬をこすったりしてるし、耳が赤くなっているところを見ると照れているようだ。人型毛布の正体がこんな美人だったからだな、それはわかる。寝起きに見たら正に目の覚めるような美人てやつだしね。


「8階層はオープンマップだ、しかも結構広い。かなり凝った階層で、墓場のようなものや、建物の跡らしきものなどがある街だ。出会ったモンスターは、ゾンビ、グール、レイス、ウィルオーウィスプ、……そんな感じだ。私が見たのは一部だけだから、他にもいるかもしれない。レイスは聖水が効き難かった覚えがある。下の階層への道は知らない。ーーあと、ルイから聞いたかもしれないがモンスターハウスがあるそうだ」

「ああ、先程聞いた。……なるほど、行ったことのある者の意見は初めて聞いた、これは参考になる。助かった、ありがとう。礼は……」

「いや、これぐらいなら特にいらない。こちらも情報をもらったようで助かった」


 アリシアがそう言うと、男が周囲を見渡し、訝しそうに訊いてきた。


「そういえば、今はまだ真夜中だと思うが、今ここにいないとなるとあいつらはもうこの階層にいないんじゃないのか?」

「俺達もそう思いました」

「……おかしいな、ここの所ずっとここにいたから、ここを拠点にしていると思うのだが。俺たちが来てから3日は経つが、確か初日も昨日だかもすれ違ったぞ? 前回潜ったときもここにいたのにな」

「話はしましたか?」

「いや、俺達が来るといつもすぐ出ていく。特に話をしたこともないし、話しかける隙もない。今思うと話しかけられてプレートを見せ合うのを避けていたんだな」


 俺たちも顔を見合わせた。皆おかしいと思うならそうなんだろうな。でも俺たちは上から来たんだから、その道で出会わなかったということは、上に戻るのにわざわざ遠回りしたことになる。

 つまり、普通に考えたら下の階層に行ったということかな。


「下に行ったか」


 アリシアが嫌そうにそう呟いた。

 参ったな。初めての階層なのに、出口を探しながら人探しとか面倒くさい……。



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