33 フラグって考えることがまずフラグ
問題の7階層に入った。
すぐに嬉しくないお出迎えがあった。
四足のトカゲ、これは茶色だからモンスターだよね。
シャーシャー言ってるのは空気孔から出てる音かな? 威嚇されてるようだ。
「リザードマンだ。茶色・四足・威嚇行動、間違いなくモンスターの方だ。これは皮膚が硬いから、ルイは斧を使った方がいい」
俺が前方に盾を張ると、すぐにリザードマンがぶつかってくる。ただ頭を振っただけだから脳震盪まではしてないか。結構音がする。
再度突進するのに合わせ、アリシアが剣を口から奥まで突き刺して、即上に跳ね上げた。
頭を半分斬られ死に体で暴れるリザードマンの脳天に、直ぐにアリシアが止めを刺す。
うかうかしてると見逃すほどの速さだ。
剣を刺されたまま、リザードマンは消えて行った。
俺が斧を使うチャンスとかある? なさそうだよ?
「盾がなければ、普通リザードマンの突進は絶対に躱すものだ。正面から斬り合えるなどそうないことだな。改めてルイに感謝だ」
「いやぁ、役に立ってるんだかどうだかって感じだけど。……まぁアリシアがいいならそれでいいよ」
アリシアはいつも、長く潜ったとしてもこの辺か次の階層の下見程度で引き返してたらしいから、最短の道筋しか把握していない。もちろん休憩場所も素通りだったから、ここからは俺が休憩の度に紙に地図を落とし込む作業が要る。後で売れるそうだしね。
とりあえずはさっき休憩の時に、俺は元々持っていた粗い地図だけでも頭に叩き込んだ。
俺たちが向かうのは、まず休憩所だ。問題の奴らがいなければ探すだけだが、多分拠点は欲しいだろうし、「獲物」の物色に休憩所は適してるから絶対何度か戻ったりしてると思うんだよね。
アリシアを餌にするのはすっごくイヤだけど、本人が釣り上げる気満々だから仕方ない。
さて、ここはほぼリザードマン階層ということでどんどん先に進もうとしたら、広場に意外な先客がいた。おお、これは想定外だ。
「ルイ」
「ん、わかった」
そこにいたモンスターのリザードマンを倒してるのは、「亜人種」の方のリザードマンたちだった。確かにみな青系統の色をしている。
円盾と剣というグラデュエーターのようなスタイルで、なかなか力強い剣さばきだ。
区切りよくモンスターを葬ったところを見てから、アリシアが声を掛けた。
「見事です」
「ア。これハ恐縮デス」
リザードマンの青は確かに人類枠だな。片言だけど言葉を喋って、二足歩行してるし、全身武装して武器をもっている。普通に強そう。
眼の前にいたモンスターとは見た目にも完全に別枠だから、混同しそうにはない。
「お先に失礼します」
「アア、キヲツケて」
しかも普通にいいひとそうだったぞ。
俺も挨拶しつつ普通にその先に進んだけど、内心ドキドキしちゃったよ。
「青は別枠という意味がわかっただろう?」
「うん、あれは間違いようがないね。自分たちで同種を退治に来てるんだ?」
「ああ、リザードマンは、同じ種族がモンスター化しているのをひどく嫌がる。できることなら自分たちの手で滅ぼしたいんだろう」
「複雑だけどわかるよね。人間だってアンデッドは嫌がるし」
特に人間からアンデッドになった者なんていたら、絶対にちゃんと葬ってやりたいと思うだろうしね。
「さて、休憩所はまだかなり先だし、あまり気にせずどんどんモンスター狩りして行こう」
「そうだな、いまのところ休憩所からは最短距離で来ているから、奴らがこの階層から下に行くことはないだろうし、上に出るなら出会うだろう。そうじゃなければ、獲物を探しているか、だな」
ここが人気の階層だからか、他の階層のモンスターの密度に比べるとリザードマンはそれほど多くない。でも出会わない訳ではないので注意が必要だ。6階層と同じく岩場だらけで隠れるところも多い。
つまり、犯罪も発生しやすいということだ。
次に出会ったリザードマンは焦げ茶だった。岩場の影で全く見えなかったけど、アリシアの索敵で問題なく発見出来ている。こちらの気配は感じているだろうに出てこないところを見ると、奇襲を狙っているということか。
アリシアの前に盾を張って、俺は釣りに行くことにした。
リザードマンの前まで浮いていき、相手が気づいて顔を挙げる前に斧を振り下ろす。ちょっと狙いは逸れたが首から背中にかけてヒットする。
確かに皮膚は硬いが、斧だと何とか通る。これ短剣だけだったら完全に詰んでただろうな。長剣でも俺だったら無理そう。
と、リザードマンが暴れてこちらに尻尾を振り回したのを避けようとして、避けなくてもいいことに気づきそのまま体を素通りさせる。まだ、たまにゴーストってことに慣れてなくて咄嗟のことだと体が逃げようと反応する。次の噛みつきも当然空振り。
リザードマンがあれ?、って感じでこっちを警戒しはじめる前に、ズドン、とアリシアの剣がリザードマンの頭を断ち割った。すんごい迫力……。待つのは性に合わなかったのか。
俺の斧の出番最初だけ……。
途中、できるだけ人の来なさそうなところで小休憩を挟み、ちょこちょこ地図を描き足す。
地図でもなんでも、描いてるときはやっぱり楽しい。
関係ないけど、俺数学って全然だめだったのに、図形問題だけは解けたんだよね。数字だと頭が拒否するのに図形っていうだけで勝手に解けるってどうなってるんだろう。
「……本当に覚えているものなんだな」
「うーん、勉強ができたわけじゃないんだけど、こういう空間とか物って一回見ると、3D……えーと立体で、勝手に頭に入っちゃうんだよね。ただ立体のものを2D……平面に落とし込むのって限りなく面倒なんだ。だから、ここのダンジョンが高低差がなくて良かったよ、平面だけで描けるから。1つの階層で立体交差してたり起伏があったりしたら描くのにかなり時間が掛かってたかも」
「そうなのか。……勝手に頭に入るという感覚が、私にはまったく理解できない」
「アリシアはどうやって地図覚えてるの?」
「基本は右、左、左、右、真っ直ぐ、と言った感じで何も考えずに地図に従って方向だけ覚える。道から逸れた場合は、覚えている場所まで戻る。最悪迷った場合は左手の法則だ」
左手の法則ってこっちでもあるんだ!?
そりゃあるか、簡単な迷路ならそれで大抵出られるし。
ああ、「左手の法則」って言っても、有名な「フレミングの左手の法則」とかとは全くの別物のやつね。「左手法」とも言う。「右手法」とかもあったはず。
「左手を常に壁につけてそれに沿って歩けばゴールできる」という有名なアレ。あれもいくつか欠点があるんだけどね、外周とそこから繋がった分岐上に入り口とゴールがないといけないとか。
それでも、曲がり角ごとに印を付けて歩くよりは迷わない。
ところで、アリシアの休憩の時にアッシュにも木の実や水を与えてるんだけど、ダンジョンの中では俺の肩からあまり降りない。モンスターの気配を怖がっているのだろうか。口数……って言っても「ニー」くらいだけど、それも少ないような。
「どうしたアッシュ? 怖いのか?」
「ニー!」
「ん? そうか元気か」
「大丈夫!」って言ってる気がする。
離れたくなかったから一緒に来たけど怖い、でも頑張る!って感じかな。うんうん、頑張ってるな。でも無理するなよ!
さて、休憩も終わったし出発。それから2度ほどの狩りのあと、そろそろ問題の休憩所に近づいてきた。
「アリシア、一応確認というか、作戦というほどじゃないんだけど、もし中にいたら少し休憩してから釣りに行こう。いなかったら早めに食事をして、頭まで毛布をかぶって寝てくれる? 俺は見張りのフリで横にいるから」
「私は姿を見せないということだな?」
「そう、女性だってわかんなければいいわけだし、結界掛けちゃうから普通にゆっくり寝てていいよ。起きて、顔を見せて相手がアリシアを認識したら勝負だね。すぐにご飯と身支度して、そのまま釣りに入ろう。相手を引き剥がしすぎないように適度に距離を保って、適当な場所まで誘導お願いできる?」
「そこは任せてくれ。そうだな、その作戦でいいと思う。あとは適当なとこでルイは用事ある振りでもして離れて、消えて待機しててくれ」
「了解」
相手がいてくれればいいんだけど、そううまくはいかないだろうな。……っていうのはフラグかな。いやフラグって考えることがまずフラグだな、ダメだダメだ。余計なことは考えないでおこう。
休憩所の近くまでやってきて、アリシアに中の気配を探ってもらう。誰もいないそうだ。まだ早いからだな、助かった。
中に入り、角を占領する。良かった、いい場所が取れた。
アリシアに手早く食事を摂るようお願いする。時間短縮のため、アッシュの食事は俺が準備することにする。
アリシアはここではお湯を沸かしたりせず、持ってきていた携帯食と干し肉、チーズの食事になるようだった。それにならってアッシュにも干し肉とチーズ、それにまだ新鮮な果物を一つだけ剥いてあげて食べさせる。
この子が乳離れしていてよかった。さすがにダンジョン内とかでミルクは探せないし、離乳食でも難しい。そもそも外に連れては歩けなかっただろう。
一緒に来るようになってからでも、頭の突起もそうだし、多少毛の色味も違ってきているからすこしずつ成長してるんだなぁ。
生後どれくらいなのかな。さすがに固形物食べられるんだから、何ヶ月かは経ってると思うんだけど。
「水分は大丈夫? じゃあ俺、透明になって外見張ってるから、すぐ頭隠せるように準備しといてくれる?」
「ああ。でも冒険者ならまだ普通の狩りをしてそうな時間だけどな。私は寝られるときに寝ておくことにするか。ルイ、後は頼む」
「任せて」
アッシュにはアリシアの側にいるよう頼んで、透明の結界を張っておく。俺も透明になっておいた。
外で見張りをして、人を見つけたら即中に入って元から中にいた振りをすればいい。




