32 一応は現実的なんだな
「さて、じゃあまずはさっさとこの6階層を制覇してしまおう。問題の奴らがいるのは7層だったな」
「賛成。で、悪いんだけどアリシア、この階層は短剣と相性悪そうだし、俺は盾に徹するから仕留めるの頼んでいい?」
「もちろんだ。ルイは元々プリーストなんだ、十分すぎる」
6層はオーガがいるだけあって広い。高さや道幅もそうだが、他の階層の1,5倍くらいの広さがあるそうだ。確かに1~5層はサクサク来たけど、ここからは面倒そうだな。
さて、俺は今日はタンクだ。
広めの結界を張るだけで相手をほぼ完全に足止めできる。
……足止めもいいけど、別に出られないように内向き結界に閉じ込めてもいいな。
あれ、そういえば元々重力操作なんだし……そのまま圧縮したらどうなるのかな……。
……すごいえぐいことになりそうだけど、一回は試しておくか。
なんて考えてるうちにオークがやってきた。今度は3匹だ。
ええい、考えるより産むが易しだ!
「ごめんアリシア、ちょくちょく意見変えて悪いんだけど、試したいことできたからあの3匹譲ってもらっていい?」
「ああ、いいぞ」
先に盾で足を止めさせてから、オークの周囲を確実に囲うように内向き結界を張る。
「圧縮」
結界が徐々に小さくなっていく。
ふむ、普通にできるな、問題はどこまで圧縮できるかだが……。
何かに閉じ込められたことは分かるのか、オークたちはどんどんと結界を叩いたり斬りつけたりしている。しかし徐々に結界に押され、互いの体が密着し始めると狂ったように叫びだした。結界を二重にして声を聞こえにくくする。
そして、明らかにオークの体積より小さくなり始めると、流石に形は保てなくなったのか、弾け……(自主規制)
ーー結果、みかん箱くらいのサイズになりました。
まじか。オーク3匹だよね? 体積おかしくない?
……あ、消えた。魔石だけが落ちる。
「ふむ、なかなかいい手だな。手も汚れないし」
俺は吐きそうでしたよ! アリシアさん強すぎでしょう!
あーでも、オークは油が多いから剣がすぐ鈍るってアリシア言ってたし、確かにいい手ではあるんだろうな。俺の精神被害を除けばね!
はいはい、慣れますよ。頑張りますよ!!
次のオークは俺の結界にぶつかった時点でアリシアに首を落とされました。圧縮を待てなかったらしい。さすがバトルジャンキー。
たまにオーガが出てくるが、結界に閉じ込め上から圧縮すると、中にいるオーガでもかがみ込むことになるので、一般的な「まず足を切って体を倒す」っていう手順を省略できたアリシアにあっさりトドメを刺されていました。
アリシアにはこの階層はヌルゲーすぎるな。俺だけだったら逃げ帰ってる気がする。
しかしアリシアの剣技って、ちょっと尋常じゃない。他の人のをそう見てるわけじゃないけど、一般的にはオークだって十分脅威な訳でしょ。
レベルっていえば、この世界に来てラノベでおなじみの「ステータス・オープン!」とか「メニュー」とかそういうのやってないなぁ。レベルとかないのかな? アリシアならめっちゃステータス高そう。
「ステータス・オープン!」
「……………………」
「……………………」
「……………………何してるんだ?」
くっそ恥ずかしいじゃないか!
何も出ない!
「……あのさ、『スキル』ってある? 何か使える?」
「スキル? 剣技などの技能のことか?」
「それ『スキル』っていうの?」
「技能は磨けばなんでもある程度は身につくだろう? 鑑定スキルを磨いて鑑定士になる。そういう意味じゃないのか?」
「あー、普通に『技能』って翻訳されてるのかな。…………じゃあ、『レベル』って概念ある?」
「レベルはプレートの色が目安だと言ったと思うが……何か違うのか? ああ、修練によってはプレートの色以上の力ももちろんつくぞ。そういうことか?」
あーはいはい。
ここ、ゲームでいうスキルとかレベルとかの概念はないんだな。
そういえばHPとかMPもないし、ステータスがないってことは「力」「素早さ」「精神力」なんていうのも数値で表すこともなさそうだ。
ふーん、一応そういうとこは現実的なんだな。
アリシアのステータスとかちょっと見たかったけど。
「あーごめん、ちょっと俺の国のことと混同してた。さ、次行こう!」
「……そうか? まぁいい。ああ、圧縮したものの魔石を取り忘れないでくれ」
「了解~」
ドロップだからなのか、圧縮しても魔石は残るんだよね。ほんと不思議だ。
その後は、数が多いものはまとめて圧縮、それ以外は狭い結界に閉じ込めてアリシアにトドメをさしてもらう感じで進んで行った。使えそうな剣は一応先に奪っておいたけど、大抵は粗悪品だから無視。
途中、人がいたが、確認しても男三人組じゃなくて男女混合の5人パーティだったのでそれを避けて、休憩を挟んだ。
ちょっと透明になってその5人を横で見てきたんだけど、ここまで来るだけあって割と連携の取れたパーティだった。
そして次に当たったのが、一際でかい真っ赤なオーガだった。体に似合った巨大な斧を振り回している。ひえー、あれに当たったら上半身と下半身がさようならだな。
ここまで強いのに当たってこなくて若干不満そうなアリシアさんが目を輝かせたので、俺は盾だけのフォローに徹することにした。
ぶん、と空気を裂く音を立ててオーガの斧が振られる。それが重力盾に当たって轟音とともに跳ね返る。その瞬間、アリシアが飛び出し、正面に向かって走ったと思ったらワンステップで方向を変え、振り下ろしきったままのオーガの手首を一閃した。は、早い……! ヒョウとかあの手の猫科の肉食獣の動きだよ。
手首が半分まで切れ、オーガが絶叫とともに斧を取り落とした。
「ルイ! 斧を拾え!」
「ア、ハイ」
勢いに押されて斧を回収。
するとアリシアは今度は手順通りに足を切り裂き、うずくまったオーガの首に剣を突き刺した。
「……ふう、まぁそこそこ強いが敵ではないな」
「……ソウデスネ」
俺ができるのは結界圧縮のスプラッタ・キューブだけです。
「良かったな、ルイ」
唐突にアリシアがそう言った。
「え、なにが?」
「斧だ。重さの負担の関係ないルイなら、長剣より取り回しやすくて、斬ることも叩き潰すこともできる重量級武器のオーガの斧は、とても合うんじゃないか?」
「あー……ちょっと使って見る」
ぐるぐる回すと、遠心力は掛けやすい。ていうかこの斧でかいなー、さすがオーガサイズだ。
投げてみるとブオンと音がして、長剣よりも圧倒的な重量で壁に食い込んだ。引き戻して思うまま動かしてみる。速さは短剣ほど出ないが、これならオークぐらいは問題ないな。
確かに、これから先は重量武器も必要って考えると、これは俺に合う。……悲しいことに。
「ちょっとオークでもいっとくか?」
タバコ1本いっとくか? のノリでオークを仕留めさせようとするアリシアさん鬼畜ゥ!!
でもいくけどね。
「じゃあ次行くよ」
都合よく現れてしまった哀れなオークに、俺は容赦なく斧を投げつけた。うん短剣での修練の結果か投げるのもかなり思い通りになってる。
オークは体を躱して飛んでいく斧を避ける、ーーのを見越して、即回転で戻して背中にガッツリ斧を突き入れた。
それだけで、オークは体の輪郭を薄めて行った。
一投でいけた!
「やった……!」
長剣とは大違いだな、斧、使いやすい。
「ふむ、斧なら一発だな。体力の限度がないルイなら、小さいものは短剣、大きいものは斧で行こう。まぁ基本的には盾さえあればアタッカーの私にまかせてくれていいが」
「ハイ、次はお願いしマス!」
アリシアからあんまり獲物奪わない方がいいからね。
そして思ったんだけど、普通体に斧が当たってもクリティカルでもない限り即死って難しいと思うんだよね。でもこのダンジョンでは当たってすぐ体が消えていく。実際の死ってより、当たり判定が出て決まったHPを削ればいいって感じで、こういうとこはゲームっぽい。
ダンジョンじゃなく外の森で狩ったときはそんなことはなく、普通に失血死するまで時間がかかったりしたから、ダンジョンだけが特殊なんだろうな。
しかし、女の子たちに合ってから結構経つけど、まだこの階層が終わらない。
あまりに広い階層が気になって、一度地図を見せてもらった。
ふうん……。ここは上下や立体交叉してる部分がないダンジョンなので、地図は簡素だ。
でもこれ、縮尺合ってないぞ? 最初の道の長さと道幅が、他の同じ道幅と比べて異様に大きい。あーすげぇ書き直したい。方角が合ってない道もある。あ、こことここ繋がってるとこなんだけど別の道になってる!
「どうした?」
「地図の酷さに驚いてるとこ」
「ひどいのか?」
「ひどいよ、数回曲がったら違う方向向いてる道とかあるよ、これじゃ地図にならない。あちこちで書き足したんだろうけど縮尺が違うのも問題外だね」
「ということは、ルイは道を覚えてるのか?」
「んー絵描きって、基本的に空間把握能力は突出してると思うよ。少なくとも俺は、自分が歩いた歩数とか時間とか方向で無意識に距離を計算して頭の中で図形化しちゃうから、あとから地図に落とし込むくらい簡単だよ。ーーあとでやっとこうか?」
「ぜひ頼む。冒険者は常に正確な地図を求めるし、正確であるほど高値でギルドに売れる」
ふーん、それなのにマッパー技術はあの程度かぁ。ちょっと遅れすぎてる。描けるとこはあとで描いておくか。
ともかく、酷い地図でも一応の目安になるので、それで6階層を抜けた。いや、確かに広かった。
オーク? オーガ? ああ、奴らなら俺が盾を張るかどうかのタイミングで突っ込んでいくバトルジャンキーさんにあっと言う間に惨殺されてました。合掌。
アリシアに休憩を取らせる間に軽くこの階層の地図を描いた。全部埋めてないから、戻るときに地図埋め作業してもいいな。
さて、ここから問題の7階層に出発!




