29 突っ込まないからな!?
魔石を拾って、ボアを確認。もう消えている。
枝肉くらい残してくれてもいいのに……食料足りなくなってもダンジョンではモンスターを食べることもできないのか。
「いや、ものによる。消える前に持ち上げて切り分けておけば、その分は残るらしい。と言っても食べられるものはそう多くないので、食料を持ち込まなければやはり限度はある」
「だろうね」
さて、狩りを再開。
全方面に結界を張ったまま動けるから不意打ちへの警戒をしなくていいのはすごくありがたいが、逆に、人に見られる危険性も上がった。俺が先行してできるだけ人のいない道に誘導しつつ、下層への階段へ向かう。
アリシアが道を覚えてるので無駄は省けるし、ここはもうできるだけ人のいない下の階層まで突っ切ろう。
ほぼ小走りで、正面のボアはアリシアが瞬殺し、ゴブリンアーチャーの飛ばしてきた矢も結界が見事に弾いてくれる。矢を弾かれるとアーチャーは慌てだし、ほぼ俺たちに轢かれる形でお亡くなりになりましたとさ。
ちなみに、ゴブリンメイジに炎の魔法を使われたが、それも難なく弾かれた。重力の結界だからね。
2時間ほど走ったところで3階層にたどり着いた。アリシアの体力すごいんだけど。
でもそのまま早速進みそうなアリシアを留める。
「アリシア、人間は適度な休息も大事だよ。ちょうどいい時間だしお昼にしたら?」
「ああ、もうそんな時間だったか。すまん、たまに後先見えなくなることがあるんだ」
うん、知ってる。顔に似合わずバトルジャンキーだもんね?
取り出した小皿にアリシアに水を出してもらって、アッシュに飲ませる。それから、買ってきた果物をさっそく食べさせてみる。緑のと赤いのがあったけど、どちらも柑橘系っぽい。
皮は剥いたほうがいいな、と荒く剥いて中身を4等分すると、アッシュは俺が手に持っているうちから齧りついてきた。好きなものだったようでなにより。自分の口より大きいのを手で押さえてはぐはぐしてるのがマジかわいい。空いた小皿に残りを移しておく。
アリシアは宿で作ってもらってきたサンドイッチを食べていた。アリシアの食べ方は非常に綺麗だ。上品というか、片手で持てるものでも必ずもう片手を添えている。いいとこの生まれ育ちだな、これ。
いいねー、どっちを向いても天使とか恵まれすぎだ今。
「3層は植物モンスターだ。全く強くはないが、状態異常を使ってくるものが多いので厄介だ。……が、ルイには関係ないな。これも結界である程度防げると思う」
俺は状態異常にはかからないって管理人さんに言われた。そもそも状態変化無効だし。
「例えばどんなのいるの?」
「巨大キノコのビッグマッシュは、胞子を飛ばしてくる。混乱や恐慌などを引き起こすので、遠距離で倒すのがセオリーだ。植物モンスターは基本火に弱い」
翻訳さぁん!? また来たよひっどい直訳!! ビッグマッシュって!!
ウルフとかスパイダーとかもほんっとそのままだったじゃん、捻りってもんがないの? もうちょっと頑張ろうぜ?
「あとは突進してくるタックルブロッコリーというモンスターがいる。そいつはただの脳震盪狙いだが、突進力は侮れない」
「……ブロッコリー?」
「ああ。緑の木のような姿をしている。背丈は私達より少し大きいくらいか」
まんまだろ!!でかいだけで!!
この世界のブロッコリーは歩くと。……へー。
オイもうちょっと何とかできなかったのかよ!! 誰だこの世界作った奴!!
(管理人さんは管理してるだけって言ってたから無罪)
疲れた……この階層、歩く前から嫌になった。
他の種類とか聞きたくない……。
ここはオープンマップっていうの? ルートがない広い森だった。
森の中で植物モンスターとか見分けがつかなくてやだな。
「来たぞ。……最初は……フライングアスパラガスか!」
突っ込まないぞ!!
突っ込まないからな!?
「あれは麻痺の種子を出す。あとはあの穂先で相手を突き刺すのだが、どちらも結界で防げるはずだ。ーーーーしまった!!」
「なに!? どうかしたの!?」
「ボアを切り取っておくんだった……失敗した……!」
「…………一応聞くけどなんで?」
「フライングアスパラガスをボアの薄切りで巻いて食べるのが美味いんだ。スモークしたもので巻いてもうまい。この組み合わせで出てくるとは……」
「アスパラのベーコン巻きかよ!!」
あっ、無視できなかった。
……もうイヤ。
フライングアスパラガスは結界に突っ込んでは自滅していく。アリシアは地面に落ちる前にさっと取ってカバンに入れていた。ほんとだ、消えない。地面に接地すると消えるのかー。
もういいやー。あははー、この階層は俺もう知らない!!
アリシアさんの好きにして!!
4階層に到達する頃には、ブロッコリーとキノコの一部もアリシアのバッグからはみ出ていたことをここに報告します。
さて、食材階層でホクホクのアリシアさんに、休憩しつつ次の階層のことを聞く。
3階層? そんなものはなかった。ないったらない。
次は昆虫の階層だそうだ。やはりオープンマップで、巨大昆虫の巣窟らしい。ビッグスパイダー、キラーアント、キラービーが主だそうだ。
キラーとかついてるのがもう名前からして殺る気満々。どれも50センチから1メートルほどで、個体差が大きいそうだ。2メートル近いのも報告されているらしいので侮れない。
「ここのモンスターは、みな物理攻撃が主だ。ビックスパイダーの顎は人の腕くらい簡単に噛み切る。まぁ結界がある限りほぼ無敵だがな。キラービーのみ毒がある」
ああ、キラービーってビッグスパーダーに卵産むっていう例のやつね。覚えてる。
しかしなんかこう、イメージしてた死闘ってのがない。結界チートがまずいんだと思うけど……まぁアリシアたちが危険じゃないからいっか。
恐る恐る4階層に踏み入る。いや、肉体的な怪我はなくても精神的なダメージは受けるわけだし?
こちらも緑の階層だった。ただ、前の階層よりより熱帯に近いような植生で、つるもたくさん絡みついているし、カラフルな花なども咲いている。
少し蒸し暑いか? ダンジョンの気温も一定じゃないのか。
「3、4階層では、野営する人が多くいる。悪いがそこは無視して突っ切らせてもらう。できれば人のいない5階層で野営したい」
「ということは、5階層って野営に向かないところ?」
「沼地だ。ただルイの結界があれば十分対応可能だから、なんとか今日中にそこまで行きたい」
「了解。まずはここの階層のクリアだね」
道なき道を分け入る。一応獣道はあるが、ほぼモンスターの通り道だそうだ。別にモンスターに遭う分には構わないのだが、付随してほかの冒険者に遭う確率が高まる。
ここもアリシアは目的地がわかっているので迷うことがない。
途中、羽音とともに大きな塊の集団がやってきた。ああ、あれがキラービーか。でかい昆虫の集団だから一瞬怯むが、もちろん結界で阻まれ、お尻から突っ込んで来たやつは針が折れている。頭から突っ込んでそのまま脳震盪を起こして落ちたものもいる。アリシアと手分けしてどんどんトドメを刺すだけの簡単な作業だ。
魔石をひろうと9個もあった。これ、結界ないとかなり厄介な敵じゃないか?
「いや、みな大抵は虫よけの薬草を持ち歩く。野営の時もそれとモンスターよけの薬草で過ごすのが普通だ。もちろん結界のようには効かないが、そこそこは効果がある」
だよね。全く無防備だと流石に交代で見張りしてても飛び起きてばっかりになるよね。
人の気配を避けながらだからかなり遠回りになったが、なんとか次の階層の入り口に着いた。




