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28 俺の幻想を返せ!!



 明くる朝。

 ロキは宿泊した宿に世話代を払って頼んできた。これからしばらく離れることになる。

 若干寂しそうだが、仕方ない。ごめん、ロキ。俺も寂しいよ。


 夜中に勝手にダンジョンをうろついた(見学というか)ことはまぁ黙っておいて、アリシアに朝からダンジョンの講習を受けていた。


「まず、ダンジョン内は薄暗い。ランプは必須だが、消えても真っ暗ではないので慌てる必要はない。私達の場合はルイのライトが非常に役に立つのですまんが頼む」

「わかった。で、薄暗いってなんで?」

「輝煌草という花を皆が撒いているからだ」


 えーと? 翻訳がどうなってるのかしらないけど、俺の頭の中に「輝煌草」って単語が入ってきたんだけど、どういうこと?


「それって、どういう意味?」

「輝き、煌めく草という意味だ。大変可愛いし、すぐ増えるので、冒険者が常に種を持ち歩き、花が少ないところや新しく見つけた道の脇に撒いて後から来た人が迷わないようにする。相互扶助だな。最悪ランプが切れても、この花があれば出口までたどり着ける」

「へぇー、いいシステムだね!」


 やっぱ翻訳仕事してた。すげぇな。でもあれって、みんなの努力の結晶なんだ。いいね、こういう助け合う感じ。


「まず、いまの戦力の確認だが、ルイの光魔法は規格外として、それ意外の重力を駆使した剣技なら少なくともブロンズランクはいけると思う。なので、一通りのモンスターを体験してもらったら、低層は人も多く面倒だから最短で突っ切る」

「わかった」

「それとーー低層にはないが、いずれ罠が出てくる筈だ。大抵は私が見つけられるが、ルイは人がいない時は浮いていたほうが無難だな。それと、転移罠があるという情報もある。これは罠の中でもかなり厄介な部類で、自力で帰りつけないほどの深層に落とされたり、パーティを分断されたりする。ただ、これは未確定の情報だ」


 罠かー、それは考えてなかったけど、そりゃあるよな。ただの落とし穴なら俺はもちろんアリシアも助けられると思うけど、横から矢が飛んでくるとか、火が吹き出すとかだと咄嗟に反応できないかもしれない。俺が踏み抜かないように注意しよう。


「あ、そうそう、俺試したいことあったんだけど」

「なんだ?」

「アリシアが前衛とスカウト、俺が後衛とヒーラーだとするじゃん? するとタンクが足りないよね?」

「……………………ああ」


 アリシアが俯いてしまった。うああごめん!! 違うんだよ、過去を刺激したいんでも、もう一人入れようとかでもなくて!

 単に、攻撃を引き受けて(この場合盾持ち)、前衛のアタッカーを安全に守る役がいるなって思ったんだ。そしてそれは俺の役目でしょう!


「それで、俺、タンク役できないかなって思ってたんだ」

「……? ルイがタンク?」

「そ。俺には重力操作っていうチート……えーと、ずるいくらいの力がある訳だよね。そしてそれは、四角くすれば外からは入れない結界になる。じゃあ正面だけに、その結界を張ったら……?」

「…………!! 相手は攻撃ができず、こっちが一方的に攻撃できるということか!?」

「多分。やってみないとわかんないけど、外に出る時はするっと出られたよね。ということは、中に本体があれば剣だけ出して殺り放題……ってならない?」

「おおおお」


 お、アリシアさんが目に見えてテンション上がってる。ちょっとぴょこぴょこしてる! 珍しい! かわいいなオイ。


「は、早くヤろう!」

「……今ぜったい殺ろうって言ったよな」


 とりあえず、そんな話をしているうちにダンジョンに着いた。

 なんてことのない森の入口の地面に十段ほどの地下への階段が掘られ、大きめの扉が設置されている。多分ただの洞窟だと管理が難しいから、ここは後から作ったんだろうな。

 そこに警備らしき数人の兵士が立っていた。


「冒険者証をお見せください」

「ああ」

「シルバーの青ですね。どうぞ」


 アリシアはあっさり通った。……てか俺は?


「彼はプリーストだ。ルイ、光魔法を」

「……あ、なるほど」


 これでどこでも通れるんかい! でも聖属性はめちゃくちゃ稀だそうだから、それだけでほぼ大丈夫だそうだ。

 よし、ホタル&ティンカーベルバージョンDX!!


 という感じで無事通過した。無事っていうか、サインを求められそうな勢いだった。

 あと、輝煌草の種の入った袋をそれぞれにもらった。新たに通路を見つけたり、花の咲いていないところに蒔くらしい。




「1階層は、主にコボルトだ。たまにゴブリンも出てくるがどちらも雑魚中の雑魚だ。グリーンウルフを仕留められるなら敵ではない」


 蜘蛛退治に行ったとき、ウルフって言ってもずいぶん色んな色がいるもんだと思ったけど(黒・茶・灰色、それに緑なんかもいた)、ほんとは色によって強さが違うそうだ。俺が夜中に狩ってたのは主にグリーンウルフだから、それより弱いならまぁ何とかなる? かな?

 あれ、でもコボルトって犬顔じゃなかったっけ? 俺めちゃくちゃ犬好きなんだけど、殺せると思う?

 ……と訊いたら、「コボルトを犬だと思える人間はいないだろう」となんとも微妙なお言葉をいただいた。「見ればわかる」とも。


 そろそろと階段を降り、ダンジョン1階層にたどり着く。念願の! ダンジョン!!


「ライト」


 とりあえず明るいほうが安全だし、前後に光球を放って天井あたりに固定しておく。

 周囲は石で舗装されているなんてことはなく、ふつうに洞窟だ。ただし幅も高さもある。


「明るいな、素晴らしい」


 適当に歩きだしているように見えるが、アリシアは地図が頭に入っているので低層で迷うことはないそうだ。でも一応地図は持ってる。


「アッシュは絶対に俺から離れないこと! 俺がいないときはアリシアといるんだよ、いい?」

「ニー」

 

 連れてきたアッシュに言い聞かせているところでアリシアが声を上げた。


「よし、来たぞ」

「ヴァア”ア”おァ””おあ”あ”ア”ア”ァ!!!」


 アリシアが言うのにかぶせるように、きったない叫びが木霊する。

 ーーこれってもしかして。


「お待ちかねのコボルトだ。存分に愛でてくれ」


 俺が咄嗟に張った結界に、ぶつかり跳ね返ったコボルトが足を止めている。2匹だ。

 ちょっとーー見なかったことにしてもいいかな。

 俺のファンタジー知識のコボルトって、可愛い犬頭に二足歩行する子供のような毛深い体、なんてのがあったんだよね。ちょこちょこ走ってるのに足は早い! みたいな。そんなん殺せる犬好きいるか? 無理無理!! 向かって来られてもナデナデしそう!……ってちょっと思ってたんだ。

 ーーーー俺の幻想を返せ!!


 今目の前には、黄色く濁って血走った目をした狂犬が、ダラダラとよだれを垂らしながら叫んでいる。細い体はアンバランスで、子供のような可愛さは欠片もなく、むき出しの牙も茶色く汚い。あますところなくグロテスクでしかない。

 獲物を食べた後にそのままなのか、体が何かでべとついて毛が分かれている。たぶん、臭い。そしてところどころ毛が禿げてるよ、絶対病気持ってる。

 ーーーも、無理。


 俺はポーチから二本の短剣をとりだすと、勢いを付けてコボルトの首をV字に刈った。もう一匹も逃さない。そして欠片も罪悪感がない。これを犬と言ったら犬に失礼だ、世界の害悪だ!!


「ふむ、いいな、この盾。タンクもできるルイは多才だな」


 アリシアは重力盾(いま命名)をお気に召したようだ。

 俺は肩にいる、顔を擦り付けてくるアッシュに癒やされる。

 ーーああ可愛いって、正義。今思うと森で狩ったウルフも狂犬ぽかったけど、コボルトと比べると大分マシだったわ。


「よし、どんどん行くか」


 コボルトを見ると……びっくりすることに死体が消えかけている。

 アリシアはそこから小指の爪の先ほどの小さな魔石を拾っていた。


「え!? なにこれ!?」

「ダンジョン特有の現象だ。ダンジョンではすべての素材を剥ぎ取ることはできない代わりに、解体の手間なく魔石や他に有用な部分を残す。これをドロップという。面倒でなくていい」

「へぇー、ゲーム以外でもそんなことあるんだー」

「ゲーム?」

「ああごめん、俺の国の話」


 次、またコボルト。アリシアが瞬殺。

 その次、はじめてのゴブリン。頼んで俺がやらせてもらう。

 重力盾があればこっちに被害がないのがいい。


 ゴブリンは大体日本で想像されてる姿と同じだった。緑色で背が曲がって腹の出た子供体型、鷲鼻にぎょろっとした瞳、牙、ハゲ散らかした頭。いいとこなし。

 こっちも狂ったような叫びを上げて向かってくる。

 剣はどうせ飛ばして遠距離で始末してるからか忌避感もない。死体が消えるのも現実感がなくていいのかもしれない。

 ……いや待て、よく考えたら、俺が最初に飛ばされたとこって戦場だったぞ? よく俺正気でいられたな。もんのすごい死に様の死体が散乱してたんだよ。基本は上空から見てたし、近くで見る時は暗くなってからってのが良かったのか……。その次は盗賊退治だし、人間死んでるのあんだけ見りゃ、今更ゴブリンなんて何とも思う訳無いか……。


 ゴブリンもコボルトも群れるそうだが、1階層は人が多く通っているためほぼ退治され出会うのはかなり稀だった。その代わり、人間にはたまに会う。避けられるところは避けて、避けられないところは挨拶して通り過ぎた。

 それからかなりの距離をあるいた。2〜3時間ほどだろうか、そこでもう2階層に着いた。


「1階層は初心者向けの研修場だ。ここからがダンジョンと言っていい。でてくるのは、わたしが来たときと変わってなければワイルドボアだ。猪突猛進だが、それさえかわせば隙だらけ……なのだが、ルイの盾があるから正面から勝負できるな。一度やってみたかったんだ」

 

 アリシアさん思ったよりかなり好戦的です。俺は逆らいません。


「じ、じゃあ、念の為盾を二重にしておくね。これで壊されるってことはないと思うけど」

「ルイのこの結界を壊せたのは、リッチの邪属性武器だけだ。そんなものめったにないから安心していい。ーーああ、忘れていた。ここは、たまにコボルトやゴブリンの上位種も出てくることがある。挟まれると厄介だ」

「上位種?」

「ゴブリンアーチャーや、ゴブリンメイジといった、特殊技能を使える個体だ。こいつらだけなら問題ないが、ボア戦の最中に乱入されると優先順位が変わって厄介だ」

「了解。じゃあ、一応前だけじゃなく周囲にも結界張っておくよ」


 思いついて、結界を掛けて、動かしてみる。動く。

 結界を掛けたまま歩けるんじゃないのこれ!!


「あ、アリシアさん! 結界掛けたまま動けるよ!」

「なに? それはいいな」


 二人で検証した結果、自分たち(というよりアリシアが)が気付かず出てしまうと大変なので、うすぼんやり、膝下の当たりまで光魔法で色を付けることにした。


 結界を張ったというのに、今度は逆に少し慎重に歩き始める。時折止まって周囲を伺う。話し声がところどころ聞こえるので、それも警戒しているようだ。


「ねえ、俺が透明になって先を見てきたほうが早くない?」

「む、そういう手もあるか……」

「一回だけ試してみようよ。ここに結界張っておくから、人が来たら逃げて。俺はモンスター見つけたら姿現して連れてくるよ」

「意図的トレインか、仲間内だからいいが、他人を巻き込むと処罰されるから注意してくれ」

「りょうかい~」


 盾を作ってから姿を消し、そのままだーっと奥まで飛んで行く、ん? あ、今の横道にいたのボアだな! あれ連れてくるか!

 俺は結構思ったよりでかいワイルドボア(うん、イノシシね)の前に姿を現し、挑発的に手を上向きでちょいちょいと手招きしてみる。

 ボアが前足で地を蹴りはじめた。さすが単純!

 こうやって意図的に(または偶発的に)モンスターを引き連れ逃げることをトレイン行為といい、それを他人に押し付けて逃げる、殺すことをモンスタートレインキラーなんて呼んだりする、らしい。俺はいわゆるRPGとかADVゲームとかしなかったから(パズルゲーはたまにやってた)、そういう用語を知らなかったんだけど、ラノベで覚えた!


 というわけで一目散にアリシアの方に逃げる。すぐにドッドッドというかなりの音が聞こえてくる。うわーーーこれ追いつかれないよな!?

 後ろから重量のある足音がかなりの勢いで追ってくる。近づかれたけど、よし! 間に合う!!

 結界に飛び込むと、アリシアに並んだ。

 ……よく考えたら、俺別に突っ込まれても怪我とかしなかった。


「アリシアは準備いい?」

「いつでも行ける!」


 頼もしい一言の直後、ものすごい轟音が響いた。まさか、と思ったが盾は2枚とも壊れていない。そこに間髪入れず突っ込んだアリシアが、脳震盪を起こしたらしいボアの眉間に深々と剣を突き刺し、斜めから首を半分掻き切った。一瞬の早業だ。


 お見事。


 消えてゆくボアを見ながら、アリシアは魔石を拾ったあと剣を軽く拭って仕舞う。


「すごいな、無敵の盾だ。私達、二人でひとパーティー分の仕事がきでるじゃないか」

「だよね! よかったぁ、これ以上見知らぬひとと接する機会が減って。他にも誘うとなると俺もアリシアもストレスでハゲるよね」

「ハゲるかどうかはしらないが、他人を入れないことには大賛成だ。これだけ楽なパーティは他には絶対ない。ルイが誰かに誘われたら全力で引き止めるつもりだ」

「ないない。俺だってアリシアほど俺のこと知ってるひと他にいないし、信用できるひともいないし。まー俺たちは俺たちでゆっくり仲良くやろうよ!」

「賛成だ!」


 あー仲間っていいなぁ。


 ……なーんてのんびりさせてくれる暇もなく、今度は後ろから、そして間髪置かず前からもワイルドボアがやってきた。


「結界、全面に張ってあるし大丈夫」

「了解。ルイ、どっちやる?」

「え、じゃあ後ろ」


 手分けして、ボアの到着を待つ。どしん、どぶつかる音で脳震盪を起こしたかと思ったが、くらくらしているだけのようで頭を振っている。

 森での経験を活かし、体には手を付けず、目を狙う、幸い頭はこっちを向いたままだ。

 両方の目に、奥まで短剣を叩き込んだ。そして、捻る。かなりえぐいがこうしないと脳まで届かないんだよね。フラフラしだしたボアから短剣を引き抜き、首を一気に斬りにかかった。うん、新しい短剣はなかなか切れる。これで終わりだろう。

 斃れたボアを念の為よく見ておく。徐々に薄くなっていくことで、倒したことがわかった。

 ーーホッとした。



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