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26 やらかした……ッ!!


 リッチの周囲に配置した円柱で、隙間なく囲っていく。すでに刃のない鎌では斬り裂けないだろう。矢でもあれだけの数を受ければ、自分と逆属性の円柱の通過は相当な覚悟がないと不可能だろう。

 なんとかなったか、と少しほっとした。


「……なるほどな。単純なほど良い、か」


 リッチはかすかに笑ったようだった。

 今度こそ本体へのとどめ、と、かなり太くした矢を飛ばしていく。弾幕は張らない。鎌を無くしたリッチの動向が読めないからだ。どんな反撃を仕掛けられるかわからないうちはよく見えるようにした方がいい。特に、常にアリシアたちの方に行かないように二者の対角線上に自分を置く。

 しかしリッチはとにかく矢を避け続けた。必死に避け、避けきれないと判断したものは鎌の根本でなんとか反らし、しかし短くなった鎌では斬ることまではできないようだった。

 そのうち、被弾が多くなってきた。

 俺は慎重に、ホーミングで四方からの攻撃を仕掛けた。リッチの声が苦しげになっていくのを見て、やはりこいつも無敵ではないのだと安心した。


 ーーという、一瞬の油断が悪かったのか。

 こちらに反撃すると思っていたリッチは、突如後ろを振り向くと鎌の欠片で結界を壊し、反対側の円柱に体ごと突っ込んで行った。しかもかなり苦しそうな声を上げてまで。


「ーー…………は!?」


 何をするつもりだ、としばらく身構えていたのも、この場合は悪手だった。

 ーーなぜなら、リッチは単純に逃亡を選んでいただけだからだ。


「え、ちょっ……嘘だろ!?」


 それに気づいて慌てて追いかけたときには、自分の光の円柱が邪魔して姿が見えなかった。

 すぐに円柱の中を最短で突っ切ってリッチを追いかけたところで、周囲にはもう姿がなかった。

 まじか、と血の気の引く思いで周囲を見回す。

 いない……!


「や、やらかした……ッ!!」


 すぐ隣の森だろうとは思うが、それも左右で分かれているのだ。せめてどちらに行ったかさえ見ていれば。しかしヤバい。悪霊のいる感覚も、こうも周囲に満ちていると全く参考にならない!


「クソ……!」


 ともかく止まっている時間も勿体無いので、咄嗟に右を選択して森を突っ切った。木で視界が悪い。すぐ上空に上がって見下ろすも、葉が邪魔でやはり視界は悪い。

 反対側の左の森も同じく暫くの間ぐるぐる見回っていたが、一直線に逃げているものを追うには条件が悪すぎた。


「…………あー、ほんと俺って間抜け……」


 道に戻って、がくりと肩を落とした。

 幸い、俺が折った鎌の穂先だけは残っていた。あー……これもこのままじゃまずいかと、深く土を掘って埋めておいた。万が一通りすがりのひとが触っただけでも即死被害には遭うと思う。

 ていうか俺の成果、鎌を折っただけ……。



 アリシアたちの方に戻ると、アリシアが出迎えてくれた。


「ルイ、無事だったか」

「ニー!」

「……うん……なんとか……」


 脱力して、地面に座り込む。

 あああああ! 頭をかきむしりたい!!


「どうした? 少し距離を取りすぎてて、ぼんやりとした光しか見えなかったが」

「…………取り逃した。ほんとごめん……」

「逃した?」

「というか、逃げられた」

「……ルイ、最初から説明してくれるか?」


 そこで俺は、リッチ戦の様子をアリシアに伝えた。

 するとアリシアは話を聞き終わってすぐ、「よくやってくれた」と何故か褒めてくれた。


「…………? どこが?」

「首刈りの……いや、人の魂を狩る、『即死攻撃の鎌』を壊してくれたのだろう? ではもうリッチには少なくとも魂を集める道具はない。もしまた作るとしても、それまでかなり時間は稼げるだろう? その間は被害者もないはずだ、十分な成果じゃないか。少なくとも私はルイのやり方は正しかったと思う」

「そう……かな?」

「どちらにしろ取り逃がしたとすると、すぐ回復できる本体の疲労より、なければ目的が達成できない鎌を壊したほうが良かっただろう。それに、目くらましとはいえ本体も狙っていてその程度しか疲弊しなかったとなると、結局逃げられた可能性の方が高い」

「ああ……そーだね」


 俺より歳若い子に慰めてもらうとか情けないけど、アリシアの言葉には飾りがないから、いつでもすんなり入ってくる。

 ーーなんでこんなに優しいんだろう。

 でも、悔しいものは悔しい。


「次に出会ったら、本体を始末すればいい」

「それはもちろん。くそ、次は絶対チリにしてやる……!」


 最後に円柱を突破するとき、あいつも相当消耗してた。少なくともしばらくは人前には姿を現さないと思う。

 その間に、光魔法はもちろん重力操作も、もっともっと練度を上げておこう。

 次に会ったら、絶対に、二度と逃さないように。



「それでだな、ルイ。今回思ったのだが、次の街で紋章屋に行こうと思う」


 唐突な話題の転換に、俺は首を傾げた。

 また聞いたことのない単語が出てきたぞ。


「……えーと? 紋章屋って何?」

「ああ、魔法陣や魔法コーティングなどの付与専門の店だ。……今後、ルイが悪霊などとやり合っているとき、私がルイのお荷物になるだけならともかく、下手すると人質にでもなりかねないと思ってな。それで私もアンデッドに効く武器を作ろうと思うんだ」

「アンデッドに効く、武器?」

「そうだ。武器のどれかに光魔法の付与をしてもらうつもりだ」


 付与かぁ、そういうの、あとからできるのか。

 ていうか、今回見てるだけとかでやきもきさせちゃったからだな、ホント申し訳ない。


「光魔法付与の武器が作れれば、私もダンジョンのアンデッド階層で戦えるし、今後のルイの悪霊退治の補佐もできる。やらない手はない」

「……いいの?」

「なにがだ?」

「俺が不甲斐ないばっかりににアリシアにも負担掛けることに……」

「それは違うぞ、ルイ。どちらにしろダンジョンには大抵アンデッド階層があるから、光魔法の武器は必要だと思う。聖水という手もあるが、それはなくなったら終わりになるし、大量の持ち運びはできない。だからいい機会だと思う。……見ているだけといいうのは相当に不満が溜まるものだぞ」


 今回は離れてたけど、近くで見てて手出しできないって、逆にアリシアに置き換えて考えると確かにすごく不満が溜まる。

 そっか、アンデッド階層だと今のアリシアには身を守る武器がない。スケルトンとかゾンビあたりは物理で力技でなんとかなるそうだが、聖属性・光属性の武器だと一発みたいだし。


 うん、ここは気持ちを切り替えて、次のダンジョンに向けて、準備したほうがいいな。


「わかった。じゃあ、次はその紋章屋に寄ってからダンジョンを目指そう!」

「ああ」



 すぐ登った先に山頂があった。景色がいいのでここで休憩にし、草を食べていたロキに水をあげ、ついでにアリシアとアッシュに昼食にしてもらう。彼女たちに大きめの結界を掛けて、俺は登ってきた道と反対側の斜面で景色を見下ろす。


 ものすごく眺めがいい! 

 ここから、眼下には辺境伯領の街の様子も良く見えた。辺境にしては意外なほど良く栄えているようだ。領の奥、北側に広大な森があり、そこに沿って侵入者ーーおそらく森からのモンスターーーを阻む砦が作られている。その奥が帝国領だと聞いたので、砦は森を迂回して侵入するのを阻む目的もあるのかもしれない。

 そして南側は蛇行したゆるやかな河が流れ、緩やかな山の連なる風光明媚な地形だった。


 俺はここにきてようやく、買ってきた紙とインクを取り出す。

 実は俺の中では、ここも目的地点の一つだった。

 写生だ、ひゃほーー!!


 休憩を多めに取ってくれるように頼んだから、俺はすごく久しぶりに画材に触れる。(こないだリュックの設計図は書いたけどね!)

 街は描かない。ああいうのは、人の生活がわかる近くで……井戸端で洗濯する女性とか、遊び回る子供だとか、厳しい門番の顔だとか、街で行商している人たちだとか、そういう空気感を描きたいから。遠くから描くのは勿体無いと感じてしまう。

 なので、今回は自然の方を描くことにする。

 ディスケール(構図の確認なんかに使う道具)もないので、両手の親指と人差し指でLを作って片側だけ手のひら側を向けて両手の指先をくっつける。ディスケール代わりによく使われる簡単な長方形を作る方法だ。

 それで河を中心に構図を決めて、ペンであたりを取る。簡単な配置図だ。大雑把に画面を区切ってから段々細かいところを描いていくとズレが少ない。


 しばらく無心で風景と画面を交互に追っていると、リッチに逃げられて焦っていた心がとても落ち着いてきた。特に細かいところを描いていると無心になれる。


 やっぱり俺の癒やしは、絵を描くことと物づくりだなーとしみじみ思った。



 

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