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23 娘がいたんです。


 ロキのおかげで歩くより大分早く郊外までやって来られた。

 辺境領は東の端だから東に向かってまっすぐ伸びた道を途中まで行く。

 あ、ちなみに一応騎乗経験者のアリシアが前ね。俺が騎竜から降りてて(浮いて)も不自然じゃないし。

 ここから左を迂回するのが一般路、一旦左に曲がり、途中で東に突っ切る道が最短のーーいわゆる首刈りリッチが出る首狩り峠だ。

 ドキドキとワクワクが止まらない。ドキドキはもちろんアリシアや仲間たちを巻き込まないかで、ワクワクは俺の使命(あんま果たしてない)に携われるからだ。なんとかうまくいくといいなぁ。


 街道は普通の砂利道。まだこの辺だと石畳は敷かれてないんだな。両側が森と林だから、旅人にはそこそこ危険かもしれない。

 まずは街道沿いを歩いていくと、田舎で獣避けがないのかウルフが2匹飛び出してきたーーと思ったらロキにあっさり跳ね飛ばされて、しっぽを巻いて逃げ出した。

 おおおおお? なんかロキさんの眼中にもなかった感じだぞ! ロキさんたくましい!!


「うん、さすがおすすめだけあっていい個体だ。怯みもしないし、首をかしげて角で一匹には致命傷も負わせていたな」

「そうなんだ。見てなかった」


 ロキは鼻先にも短いが太い角がある。少しサイっぽいかもしれない。それが武器になると初めて知ったよ。

 このままどんどん進めばかなりの時間の短縮になるし、心強い仲間だ。

 ーーと、しばらくすると奥にまた黒い塊が見える。モンスターこんなに多いの?


「アリシア」

「ああ」


 ゆっくり歩を勧めると、なんとそこにうずくまっていたのは額からだらだら汗を流した男性だった。

 ふくよかで、商人か裕福な農家といった風情だが、馬車などは見当たらない。


「ちょ、ちょっとどうかしたんですか? だいじょうぶですか?」


 俺は鞍から降り、慌てて男に駆け寄る。これが強盗の罠だとしても俺は刺されても射られても安全だし、アリシアに至っては男性を見つけた時点で警戒したのか剣に手をかけていた。


 ただよく見ると、男は足や脇腹をひっかき傷にようなもので怪我していて、それで何かから這々の体で逃げ出したというのはさすがに俺でも見て取れた。


「あ、ああ、ここは危ないよ! ウルフが次々襲ってくるから、早く逃げなさい」

「あ、それなら大丈夫です、さっき撃退したので。おじさん、お仲間は? 何をしにこんな場所に……?」


 何か普通にこっちを気遣ってくれたよ。いい人そうだし助けるか。


「いや俺一人で入ったのが間違いだったか……。妻が病気でね、足りなくなった薬草を摂りにきてたんだ」

「薬草……そうだ、これ使えます?」


 俺は持っていたものの使う用途のない薬草を取り出した。一般的な痛み止めとかかな。


「あ、そうそうこれだ、体力回復薬! 譲ってもらえるのかい?」

「いいですよ、いっぱいあるんで差し上げます」

「いや、ただというわけには……」

「大丈夫です。奥さんが待ってるんでしょう? 失礼ですがお子さんは……」


 これくらいの年代だったら子供がいたらなんとかしてくれそうだと思ったんだけど…奥さん病気で一人で仕事と薬草の採取までしてたら大変じゃないか。


「…………娘がいたんです。気立てのいい、評判の美人だったんですよ。その子が街で働いていて、いつも帰りに薬草を摘んでは持ってきてくれたんです。その子……しばらく前から行方不明なんですよ。ある日忽然と姿を消して……。なので、最近は俺が畑仕事の合間にこうやって薬草を摘みにきています」

「……行方不明、ですか……。あ、その前に傷を治しましょう」


 俺はいまさら気づいて、慌てて男性の傷の手当をする。

 手をかざし光を発すると、男が目をまんまるにした。


「まさか光魔法……ですか?」

「ああはい、プリーストなんです。呆けてて、治療遅れてすみません」

「とんでもないです! あの、なんとお礼を申し上げればよいか……!」

「いえいえ、それで娘さんのお名前はなんておっしゃるんですか? 次の街ででも探してみましょう」

「は、はい! フィーネと申します。金髪に緑の目の子です」

「わかりました。精一杯探しますが……すみませんがあまり期待はしないでください」

「いえ、話を聞いていただけただけで十分です」

「あーーそうだ。よければ奥様も、俺が診ましょうか?」


 やってきていたらしいうウルフをいつの間にか3匹を一刀両断にしていたアリシアが、賛成してくれる。


「そうだな、一応、診ても無理かもしれない、というのを念頭においてもらえれば、いいんじゃないか?」

「は、はい! ずっと悪かったのですが、お医者様を呼ぶお金がなくて……」

「やれるだけやってみましょう」



 男に案内されてきたのは街道から少しずれて林を越えた、郊外の小さな村だ。ただちゃんと井戸も畑もあるし、住民の顔は暗くない。

 畑はしっかり区分けされ、周囲には貧相だが獣避けの柵もつくられている。

 アリシアはロキとともに家の外で待っているという。


「こちらです」


 そのうちの一軒に男は入って言った。横にある畑の作物も、生育は悪くなさそうだ。

 男は背負ったカゴを土間に下ろし、奥の方に声を掛けに行く。それに習ってお邪魔すると、奥から出てきた男が「妻がちょうど起きたところです。お願いできますか?」と申し訳なさそうに言ってくる。


 俺も病気は治したことないんだけど、多分できるって俺の中の光魔法さんが言ってる。それを信じてやってみよう。


「はい、では失礼しますねー」


 奥の部屋に行くと、痩せこけて顔色の悪い女性が半身を起こしていた。

 質素な部屋で物はないがシーツなどは清潔に整えられているようだ。

 ちゃんと食べて元に戻ればきっと美人。


「ああ、無理しないで寝てて大丈夫でですよ」

「そんな……見ていただくのに……」

「大丈夫です。俺はプリーストのルイと申します。ちょっとお体の中身、拝見しますね」

「中身?」


 そう、多分できると思ったけど、やっぱできる。悪い場所が分かるのは、光魔法の治癒の力がそこだよそこ!って言ってるからだな。

 うん、これはわかりやすい。重度の肺炎だ。よく今まで無事で……


「咳がひどいでしょう。とまらない時には、呼吸が苦しくなったり、意識が飛びそうになったりしてますね?」

「は、はい、そのとおりです! 肺の病気なんですよね?」

「ええ、肺の病気です、ただしかなりの重症です。このままではいずれ呼吸できなくなって死に至ることもあります」

「そんな!」

「うそ……」

「あ。説明が悪かったですね。俺が治せますから大丈夫です。もう少し遅かったら危ないところでした」

「ーーーー!!」


 二人は顔を見合わせてから俺を凝視している。

 さて、と俺は奥さんの肺めがけて治癒を発動。周囲が光に包まれるのでさぞ神秘的だろう。

 肺を健康な状態までの回復。うーーん、怪我より少し時間が掛かるけどできるな。

 ついでに少し悪そうな胃も一緒に治そう。よし、完璧じゃない?


「ーーどうでしょう? まだ苦しいとかありますか?」


 大きく深呼吸した奥さんを心配そうに見つめる旦那さん。その後何度も深呼吸して、頬がバラ色に染まっていく。


「う、うそのようです、全く苦しくありません!こ、こんなことが……!!」

「ああ…………ありがとうございます! ありがとうございます!!」

「こんなに体が軽いの、子供時代以来です。なんて感謝申し上げたらよいのか!」


 あ、これうれしいな。感謝されることするって、あたりまえだけどこっちも幸せになる。悪霊退治してるときとは別の感動。


「どういたしまして、そう言っていただければ至上の喜びです。これから少しずつ栄養のあるものを食べて言ってください。無理は禁物です。しばらくすれば落ちた筋肉も戻って健康になれますよ」

「ありがとうございます!……ああ、夢のようです!」


 喜んで抱き合っている二人を見ながら、俺は席を立った。ーーすぐにアリシアに知らせたいことができたから。


「……では、俺達はこれで失礼しますね」

「ええ!? 泊まっていかれないのですか? せめてのおもてなしを……!」


 慌ててお茶だのの準備を始めそうな二人を止めて、俺はすぐに出立する。


「いえいえ、私はプリーストなので、癒やしも修行の一環です。お礼のお言葉だけで十分です。それと、すみませんが先を急ぐ身でして……」

「あ、これは失礼しました。ではせめて街道までお見送りいたします! ああそうだ、これは我が家で作った保存食です。果物を干したもので、長持ちします。旅の途中でもお召し上がりいただければ」

「ああそれはお気遣いありがとうございます。おいしそうですね。そうそう、……ところで、この村の名前はなんというんでしょう?」

「はい、レンドル村といいます。またいつでもお越しください!!」


 と、周囲を警戒していたアリシアのもとに戻りると、アリシアは「どうだった?」と小声で聞いてきた。


「ばっちり治ったよ」


 俺が笑顔で返すと、アリシアが目を細めて「良かった」と言った。

 一応村自体を警戒しててくれたようだ。それでもやっぱり奥さんが心配は心配だったんだね。


 ロキにまたがり村を出発してから、しばらくして俺は話しだした。


「ーーでも、ちょっとヤバイことに気づいちゃったよ」

「どうした?」

「あそのこ娘さん、フィーネさんって言っただろ。そして去る時にこの村の名前聞いたらレンドル村だって。

 俺が悪徳貴族の屋敷で見た機密文書にあったんだよね。

『レンドル村のフィーネ(金髪、碧眼)を10日後までにつれて参れ』っての。確か報酬は金貨15枚くらいだった」


 名前で何か引っかかっていた訳を途中で思い出して、生身だったら冷や汗が流れるところだった。


「!! 攫われていた子か!!」

「うん、生きてるかどうかわかんないけど、早急にあそこ以上の貴族と繋がりを作らないと」

「そうだな。ルイが見たのは確か、ドルガード男爵の屋敷だな?」

「うん、そんな署名見た」

「じゃあ子爵位以上とのつながりを作るのを目指そう」

「うん、協力お願いしますアリシア」

「もちろんだ。私も許してはおけない」



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