22 ボーイミーツボーイ……
「騎竜を、買おうと思う」
翌朝、起き抜けに昨日の工作を見てもらってお墨付きをもらったところで、アリシアが唐突にそう言った。
「辻馬車では首刈り峠を通らないし、そもそも4日も他人と接しているのはお互いまずいだろう……と、昨日の夜に気がついた」
「あ、……そっか。辻馬車が危ない道通るわけないか。で、騎竜って何? 竜なの?」
「ああ。草食で大人しく、力が馬と桁違いなので商人がよく使う。若干馬よりは遅いが、持久力がある」
「へえ、そう聞くと馬を使う理由が速さしかないように思えるけど」
エサ代がかかるとか、乗りづらいとか絶対なんかありそう。でも竜とかちょっと憧れるな!
「単純に値段が馬の2~3倍はする。でもその辺の草や木など何でも食べるからエサ代がほとんどかからないし、お金があるのだから騎竜を買ったほうがいい」
「そっか、わかった。お金、大丈夫?」
「ああ、今まで使うことが殆どなかったので腐るほどある。任せてくれ」
アリシアさん甲斐性ありすぎじゃないですかね。
というわけで、ともかく出発前に騎竜屋に行くことになった。
そういえば、こっちに来てからずっと晴天が続いてるな、なんてすごくどうでもいいことを今更考えた。なぜかというと、今、青い空の下に広がる緑の牧草地という非常に目に優しい風景を見ているからだ。これで風とか感じられたら最高なんだけどね。
そこは馬も騎竜も扱っているらしい店だった。町外れの大きな牧場のようなところだ。大きな木造の厩舎があって、騎竜もいまは放し飼い状態でのんびり餌を食べていた。
竜っていうからどんなのかと思ったけど、あれだ。ステゴザウルス?っていうんだっけ?背中に鎧みたいなトゲついてるやつ。あんな感じで、トゲがゆるやかにぼこぼこになってるのを想像してもらえばわかりやすい。色は黒っぽいグレーから茶までいる。少し長めの首で、木の高いところの葉を食べている個体もいる。
人が近づいても逃げないし、よく見ると割とつぶらな瞳がかわいい。恐竜って爬虫類の祖先って感じでもっとこう、瞳孔が怖いかと思ったけど全然そんなことない。俺はひと目で気に入った。
いきものだいすき!!
「おおお、かわいい!!」
女の子のようにはしゃいでるのが俺、クールに品定めをしているのがアリシア。
騎竜屋さんは自分のとこの子を褒められたからかニコニコしてる。
「馬は性格にかなり個体差がありますが、騎竜には気性の荒いのはまずいません。どの子を選んでも従順ですし、主人には特に尽くします。モンスターもウルフくらいなら跳ね飛ばしますよ」
「うわ、それはすごいですね! アリシア、どの子がいい?」
「うん、どの子もみんな状態がいい。私たちは重いものを載せる予定はないから、勇ましさを優先してはどうだろう?」
「勇ましさですか?」
「ああ、少し危険な場所に行くので、モンスターに怯えない子がいいと思う」
「なるほど。ではちょっとお待ち下さいね」
おやじさんは辺りを見回しながら歩いていった。
なんかいい子を見繕ってくれるみたいだ。
友達の彼女から女友達を紹介される男子高生の気分になる……ってそんな経験ないけどね!
「ルイ、ここは当たりだ」
小さな声でアリシアが言った。
「当たり?」
「騎竜屋によっては、食べ物の質が悪かったり、掃除や世話をしていなくて臭ったりするところがある。いろいろ見てきたが、ここは匂いもほとんどないし、草の質もいい。つまり騎竜の健康状態がかなりいい」
「あーやっぱりそういうのあるんだ。良かったね、ここで買うことにして」
そうこう言ってるうちにおやじさんが一匹の騎竜を連れてきた。
色は黒っぽい。大きさは他と変わりないけど、心なし筋肉質な気がする。
「この子は、主人を守るためなら格上のモンスターにも挑む子でね、軍人気質とでも言うんですか。少し高めなんですがお客さまにはお勧めです」
「なるほど」
そう言って、アリシアが歩み寄る。俺も一緒に付いて騎竜の前に行くが、威嚇されることもなくじっとこちらを見てる。あっ、なんかピンときた! これ運命っぽい!
ボーイミーツガール!! あっ、この子メスかな!?
「この子、メスですか!?」
「いえ、オスです」
OH、ボーイミーツボーイだった……。でもいい、すき!!
「……ルイ、この子にしたい。いいか?」
「もちろん!」
うわーうわー、アッシュに続いて動物仲間が増える! すげぇ嬉しい!!
アリシアが支払いをしている間、俺は厩舎の人に世話の仕方をきいておく。多分アリシアは知ってるだろうけど、一応俺も覚えなくちゃね。
基本は馬と一緒で、水を十分あげることと、体を拭いたり水を流してやること。愛情をかけるだけ応えてくれるそうだ。
あとは鞍を付ける。二人乗りの鞍だけど、5人+荷物くらい余裕なんだって。わお。
後ろの座席は、乗るところの前に取っ手がついてて、メリーゴーランドっぽいと思った。
騎竜は基本ほとんど騎乗経験がなくても大丈夫らしく、軽く足で叩いたり、紐を引っ張ったりするだけで進んだり曲がったりしてくれるって。あと道をただ進むだけなら寝ててもいいくらいだって言ってた。すごいな騎竜。
親父さんに見送られて、騎竜を連れて牧場を出る。いよいようちの子になったようですごく嬉しい。
二人でまたがる。俺はもちろん乗るフリだけで体重ないから、この子の負担も減るかな。それとも力があるから誤差の範囲だろうか。
乗り心地も最高だった。馬は観光牧場で一度だけ乗ったことがあるけど騎竜は馬ほど揺れない。どっしりしてて力強い!俺の体は乗り心地関係ないんだけど、乗ってるふりには揺れが必要だからね。普段は若干浮いてます。
そして、途中ですぐ食べられるアリシア用の昼食を買ってから目的地に向かって歩を進めた。
「アリシア、名前どうしよっか!?」
「つけてくれ」
「イヤイヤイヤ、アッシュの時もそうだっただけど、俺ネーミングセンスないって言ったじゃん? 今回はアリシアがつけてよ、ね?」
「……私もこういうのが苦手だ……」
それから二人でうんうん考えた末、名前は「ロキ」になった。なんでって? こっちの古い言葉で黒を指すそうです。いやだからセンスないって言ったじゃん!!
「おまえの名前はロキだよ!」というと、ふんす、とすこし鼻を鳴らしたので満足してくれたと思いたい。




