21 若干サイボーグになった気もするが
今日は荷物を揃えるだけにして、出発は明日にすることにした。
アリシアは心なしうきうきしながら、更に買い足した荷物を詰めると言って部屋に行ったので(結構リュックを気に入ってくれたらしい)、おれは宿に帰ってからしばらく放置しちゃってたアッシュと遊ぶことにした。
どうせ俺は食事はできないし眠りもしないから、暇なんだよねー。
「ニーー」
「んーアッシュ、それすっごい嬉しいけど、俺触れないんだよー」
半分俺に埋まるように体を擦り付けてくるアッシュ。実体がなくても気にしないようだ。
ああ、実体があったらアッシュをもっふもっふしまくれるのに! こんなにふさふさなのに!! ああ、今幽霊になってから一番切実に体が欲しい!!
「お前、ほんとなんの種族なんだろうな? ーーそうえいばアリシアが、契約すると特殊な能力を持つものもいるって言ったけど、お前はなんかあるか?」
「ニー?」
「んー? わかんないかー。まぁいいよ、お前はそのままでも。あーでもこれからダンジョン行くからなぁ、しばらく信頼できるとこに預けるしかないか……」
「二ーーーーー!!!」
おれがそうつぶやいた時だった。おとなしかったアッシュがものすごい抗議のような声を出した。そして俺に体にたしたしと手を繰り出してきた。猫パンチくそかわ!
俺はあわてて体の形を作って(最近全身を人間の形に重力かけることに慣れた)アッシュを抱き上げる。
「んん? どうした? なんか不満か?」
「ニーーー」
「もしかしてだけど……預けるってのが嫌だとか?」
「ニー!」
なんとアッシュは俺を見上げて肯定するように短く鳴いた。
「え、まじか。……アッシュ、もしかして俺の言ってること、分かる?」
「ニー」
「ちょっと鳴かないでみて」
「……」
「お……お……おおおおおおおお!!!」
す、すごいぞアッシュ、もしかして、理解してるんじゃないのこれ、こっちの言葉を!
「おおおお!!! う、うちの子天才だった! どうしよう!! あ、あ、アリシアーーーー!!!」
というわけで、テンパった俺はアッシュを連れて隣のアリシアの部屋を尋ねた。
「いいんじゃないか? 連れて行っても。言葉がわかるなら尚更、連携もとれるだろう。少しずつ外にも連れていけば、野生の本能が目覚めて、狩りとかするかもしれない。子供のうちはできるだけ私達で守ればいい。それにルイの結界もある」
「あ、そうか! 結界があったか」
テンパっちゃったけど、アリシアは至極冷静にそう返した。そ、そうか、この子のためにはちょっとずつ慣らしていくのもいいかもね。
ーーって、アリシア、言葉を理解してることあっさり受け入れすぎじゃないの!?
「いや、なんとなく言ってることを理解してる風に見えてたんだ。大人しく、といえばじっとしているし、おいで、と呼べば来るし。頭のいい種族なのかもしれないな」
「そ、そうなんだ……」
ちょっと俺も冷静になりました。はい。
ついでにアッシュはアリシアから水と果物をもらっていた。しまった、おれってば自分が食べないからアッシュの食べ物に無頓着だった。聞くと、今までアリシアが与えてくれていたという。
あああ飼い主として失格じゃん…。
お礼を言ってとぼとぼと部屋に帰ろうとすると、アリシアに呼び止められた。
「ああーーそうだルイ、ルイの体の中は透けているんだよな」
「ん? うん」
「じゃあ、その重力操作で体の…頭あたりに物を、具体的にはコップとか入れられないか?」
「コップ……いや、できると思うよ。なんで?」
「それは外から透けないか?」
「透けないね」
「じゃあ、飲み物を飲むふりしてそのコップに移し替えることってできるんじゃないか?」
「……………………!!!!」
アリシアの言ってることがわかって、衝撃を受けた。
飲むフリ。コップを口に近づけて、口のところにある別の容器に移し替える。それなら、人前でどうしても食事をってなったとき、最悪スープくらいまでならなんとかなるかも!!
「そ、それは……や、やってみるよ!!」
俺が隣の部屋から自分のコップを持ってくると、アリシアが自分のコップに水を満たしていてくれた。
「どうだ? 飲めるか?」
「…………!」
おれはそっと、自分のコップを体内に埋める。うん、全くなんの違和感もない。
そして、アリシアからもらったコップの水を飲むフリで移し替えていく。
「あ、ルイ、顎からコップがはみ出てる」
「おっと。……うーん、形状的に口にコップは難しいかなぁ。コップは咽か体に埋めて、そこまでは受け皿とか何かで流すほうがいいね」
「そのようだな。なにか使えるものがあるか?」
「なければ作る! 水筒とかそんなの参考にしてみる。ちょっと素材集めてくるね!」
おれはそれだけいうとアリシアの部屋を飛び出した。
ふはは、物づくりだー! できれば水筒を体の中に装備して、太いホース状のものを口の側にもっていけたら最高。体内見えたら超かっこ悪いけど!
というわけで、雑貨屋さんにやってきました。ホームセンターみたいなところがあればいいんだろうけど、こっちでは素材って職人さんが扱う分野っぽいから、あんまり手に入らないと思うし。ていうか売ってない。
とりあえず何か使えるものがないか探していると、小さな樽が目に入った。
……うーん。俺割と細いから(病気だったしね)、体からはみ出ないかなぁ。……お、もっと小さいのがある。一番小さなその樽なら、なんとか体内に収まりそうだ。樽っていうよりジョッキくらいのサイズだけど、樽だと小さくてもちゃんと上が塞がれててコルク穴が空いてるのがいい。
それと硬めの防水布と接着剤を手に取る。できればホースっぽいのないかと探したんだけど、用途がないのか見つからないから、作るしかない。それと針金っぽいものを補強用に買うことにした。
体内に入れたものっていうからイメージ悪いけど、飲むフリして別の容器に入れ替えるだけだから、移した飲み物はそのまま飲める(俺は無理だけど)。だったら飲み物の種類によって分けたほうがいいな。水なら水筒でいいし、樽は2こもあれば十分かな。というわけで以上のものを購入。
あるものの組み合わせだと大したものできないな。
とりあえず宿に帰って工作開始。
樽を胃のあたりに埋め込み、そこから食道にそって口元まで測ってみる。そのサイズにあわせて切った防水布を、接着剤をつけながら、針金を螺旋状に入れて巻いていく。咽のあたりからカーブをつけて口元にくるように調整。
樽のコルクを取って嵌めれば終了。あ、口の近くは切り裂いて扇状にすればいいかな。……え、これ工作のうちに入る? さすがに単純すぎて面白くないんだけど!
接着剤を乾かしている間に、体に樽を埋め込んだまま部屋をウロウロしてみる。
うん、体内のものは安定していて全く意識しなくてもそのまま配置しておける。疑似食事とかなんか若干サイボーグになった気もするが気のせいだろう。まぁどうせアリシアと二人のときは必要ないし。誰か一緒にいて、どうしても飲食しないと不自然というときだけなんか飲めばいいんだしね。
乾いた防水布のホース(?)は、そこそこの柔軟性と強度が出た。まぁまぁかな。それを樽の底まで届くように差し込む。入り口が浅いと抜けるかもしれないし、そもそも水を流した時に音がしそうだし! 底に届いた段階で、樽との接地面に突起を付けておく。
こんなもんかなぁ。ホースを差し込んだ樽を体内に埋める。口元を合わせて、と。それからコップに水差しから水を汲み、試しに飲む……流して? みる。
うん、かすかな音はするが、するすると入る。取り出して確かめてみるが……うん、問題なさそう。溢れないようにだけ気をつけよう。
なかなか出発しなくて申し訳ありません!




