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20 遺伝子仕事してるな

 

「ごめん、なんかめちゃくちゃ愚痴だったね」


 俺は自分の半生を語ってから、少し恥じ入った。

 社会への愚痴とか不満とか、誰だってあるに決まってる。自分だけ不幸そうなこと言っちゃったけど、全体的に見れば割と俺は幸せだったと思うんだ。


 でも、あの焼死男の「すぐ死んだ方がマシ」「死ぬより辛い目」なんていうセリフだけは本当に許せなかった。

 死んだほうがマシかもって思いながらも、俺はそれでも懸命に生きてた。そんな人は、俺以外にも世界中にいっぱいいた。

 痛みなんて相対的なもので他人と比べちゃいけないとは思うけど、あんなもんで他人を巻き込みたいと思うなんて馬鹿にしてる。


「…………ルイがそんなに他人に優しいのは、痛みを知っているからか」


 アリシアがそう言って、俺に笑いかけてくれた。


 ーー優しい?

 俺のどこが?


「優しいよ。自覚がないだけだ。…………私も救われた、やはりルイは本質がプリーストだ、聖属性だけある」

「いや、俺、いまの焼死男とかに苦しめ!ってすごく怒ったし、全然優しくないと思うんだけど」

「いや、あれは魂の救済だ。死んでも治らない馬鹿なら、成仏させるのも救いだ。まぁ、躾のようなものじゃないか?」

「し、しつけ……!?」

「あっちの首吊り男はどうするんだ……?」

「あっ、ーーご、ごめんちょっと行ってくる」


 おれは慌ててそっちに駆け寄る。黒いのばっかりに気を取られてて宙吊りさんを忘れてた!

 縊死して首が伸び舌もだしたまま、それでもうつろな目で俺を見ていた。

 

 ーーいま楽にしてやるからな。

 

 俺は、拷問室の男と同じように、首吊り男にできるだけ優しい光のシャワーを降らせた。

 苦しいよな。もう死んだことで罪は償ったんだから、早く輪廻の還れよ……。


 その男も、拷問室の男のように、少しだけ頭を下げーーたように見えたーー、すうっと消えて行った。


「こっちは普通に終わらせられた。うーん、一口に悪霊って言ってもヤバイのとそうじゃないのがいるね。……首刈り峠のはかなりやばそうだから、気合入れないと!」

「そうだな、リッチ相手では私は役に立たないのは心苦しいが、せめてアッシュを見ていよう」

「うん、ありがとう」



 次の日に、俺達はダンジョンと旅の用品を買い足しに行った。

 ダンジョン地図は浅い階層はアリシアが持っていた。俺は前に買おうと思っていた白地図を買って、記入していく。白地図と言っても、さすがに国名と街くらいは書いてあった。

 ☓を書いたその場所にはドクロマークと「首刈り峠」の文字ももちろん入れる。蜘蛛屋敷にも蜘蛛の絵を入れておいた。あとはアリシアが書いておいたほうがいいというところを写させてくれた。モンスターの分布だとか、近道だとか。ホントはこれ、冒険者にとって命綱だから信頼してる人以外には見せないんだそうだ。ーーって聞いて感激したよ。

 アリシアの信頼に応えられるようになろう!


 そのほか、アリシアの食料品や水は俺も分担して持てば倍持てることに気づいたのでかなり多めに買い込む。まずは辺境伯領まで行く野営の分もあるし。


 そして、あれから4日経った。そう、例のカバン屋に注文に行ってからだ。向こうもノリに乗ってて、大急ぎで創りたいって言ってたから、そろそろ試作くらいできてるかも。

「アリシア、カバン屋さんに行ってくるよ」

「わかった……いや、私も行こう。興味がある」


 アッシュを抱いたまま先日歩いた道をたどって(二回目だと近く感じるね)、「サガンの革工房」のドアを開けると、前にお茶をもってきてくれた男の子が俺たちを見てぴょんと飛び上がった。


「あ、せ、先日はありがとうございます。ただいま主人を呼んで参ります!」


 慌てて奥に走って言ったので、何も言う隙がなかった。よく覚えてた……て、アリシアの美貌はそうは忘れないか。

 すぐにグレッグがやってきた。奥からは見たことのない男性も出てきた。


「ルイさんとアリシアさんでしたね、ようこそ」

「こんにちは、グレッグさん。それでその、カバンの方は……?」

「その前に、こちらの紹介をさせてください。伯父のサガンです」


 グレッグほどではないが背の高い男が、俺をまじまじと見つめた。4〜50歳くらいかな、割とぼさぼさ頭。そしてこの人もすっごく細い、てかひょろひょろ。遺伝子仕事してるな。

 あ、ここの名前が「サガンの革工房」だから、ここのご主人か。


「……サガンだ。あんたがあのカバンの開発者か?」

「あ、はい。何かありましたか……?」


 なんかニコニコしてるグレッグさんと対照的に、無表情で怖いです。


「…………素晴らしい」

「え?」

「あんたの発想が素晴らしいと言ったんだ。一つつくるのにも手間がかかるが、その分高くなってもあれは絶対売れるぞ。冒険者の革命になる」

「あ……の、いやあれは俺の国で使われてるのを組み合わせただけで、完全な俺の発想という訳では……」

「いや、組み合わせている時点で十分だし、少なくともこの国では背嚢に手間を掛けるという発想がなかった。その分、みな小分けにする袋をいっぱい持ってる。しかしあれはその手間と、物の取り出しやすさ、清潔さ、背負いやすさ、全く今までの背嚢とは別物だ。そして驚くことにあれで背負うと物も軽い! あんたはすごい」

「あ、ありがとうございます?」

 

 いやそんな褒められても……リュックを作ってくれた地球の職人さんにありがとうと言うべきだ。


「展開図まで描けるたぁ、恐れ入った。冒険者を引退することがあったらうちで雇うからぜひ来てくれ」

「ちょ、おじさん! お客さんですよ!」

「あー、あはは。そうですか、そのときはお願いしますね。……で、お話を聞くとあれをもう作られたということですか?」

「おう、グレッグもってこい」

「はい」


 グレッグが裏から持ってきたのはーーおおお。俺の念願だったリュックそのものだ!! ダークグリーンの、登山用リュックって感じ、いいねいいね!! 見かけもいい!!


「試作品です。いかがでしょう?」

「……ちょ、ちょっと背負っていいですか?」

「もちろん」


 俺はリュックを背負う。おおおおお!!これこれ!!

 背負ったのをおろし、中を覗き見る。上のカバーの下には通常の物入れ。中には3つの内ポケット。これはリュックの中段までしかない。

 外側は、左横にはフックが3つあり、その下は何かをはさめるようにゴム状の編み上げがある。その下にポケット。左右は違くて、右はフタ付きのポケットが3段、そしてポーションを収められる3つの山状のゴム。ポーションの下部が納まるように下は蓋なしポケットだ。

 後ろの下部には大きな蓋付きポケットがあり、それはリュックの下部にあたるのでぱかって半分以上開く大きさだ。上の巾着とものを分けるためのもので、靴や洗濯物など汚れ物入れを想定している。

 その上は毛布などがくくりつけられる紐が上下につけられ、小物入れも3つ横に並んでいる。

 背に当たる部分は希望通りクッションが入れられ、地図などが通せる上下だけ縫われた布もついてる。

 もちろん背負い紐部分は太くやわらかく、そしてここにもポケットと必要なものを下げられるロープをつけてある。

 完璧だ!!


「すごい……想像通りだ!」

「そりゃ良かった。だが試作品だ。だからそれを使って、使い心地を聞かせてくれないか」

「はい、それはもちろん。あ、お代はおいくらでしょうか」

「いや、試作品で金は取れねえ。それを使って、直したほうがいいところ、使い勝手の悪いところを教えてくれ。それを代金代わりにしてくんねーか? 本作品ができたら、それ以降はちゃんと買ってもらうさ」

「え……いや、こちらはありがたいですけど、いいんですか?」

「ああ、すげぇ助かる。それを使ってもらって使い心地を聞いてから商品化しよう。あんたら、どっか出かけてもまた帰ってくるんだろ?」

「はい」

「じゃあ、意見を聞いて、そのあとに申請に行くか」

「わかりました……あの、本当にありがとうございます!」

「いやそりゃこっちのセリフだ。あんたのおかげでインスピレーションがどんどん湧いてくる。ーーあ、2つあるから、嬢ちゃんにも試作のモニターしてもらえねぇか?」

「わ、私も? いいのか?」

「ああ、モニターは多いほどいいが、まだあんたらの作品だし勝手に世には出せないからな」

 

 そんな感じで、カバンはあっさり手にはいった。すげー!!


「そうだ、ここで荷物を詰めてもいいですか?」

「お、そりゃ見たい。冒険者がどんな風に使うかな」


 俺はウキウキと持ってきていた背嚢を下ろした、もうお前に用はねぇ!(暴言)

 中身を取り出しながら順番に詰めていく。替えの服と食料は上の通常の物入れに。火打石、薬の缶、ポーションは右側に、左のゴム部分に水筒。フックにはコップ、下の物入れには防水シートとロープ、フック。リュックの上部には丸めた毛布。お金やナイフはポーチにあるから、まだ余裕がある。後ろのポケットには一番使いそうな手ぬぐいと採取用の巾着袋。そして背にあたる部分には地図。

 背負紐の部分はまだ空だけど、使いこむうちに良く取り出すもののの定位置になりそう。

 んん! 素晴らしい!!


「おお~!!」


 グレッグが拍手し、サガンがうんうん頷く。アリシアも隣で荷物の詰替えをしているが、結構余裕で入っていた。

 いいね! これでやっと背嚢見るたびにイライラしなくて済むわ(笑)。

 

「すごい」


 アリシアは一言だけ言って、あちこちを開けたり閉めたりしていた。そして背負ってから驚いたように声を出す。


「重さがない」

「うん、それがリュックのいいところだよ。片側だと体のバランス崩して重く感じるし、両手が使えないしね。これだったら背負ったままいろいろできるよ」

「本当だ」


 俺たちは何度もお礼を言いながらカバン店を後にした。

 


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