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17 ただの都市伝説だと思ってた


 次の日俺は……いや、俺たち? は、あの刑場に行くことにした。

 アリシアには悪霊が見えないだろうし暇じゃないかなと思ったんだけど、俺の光魔法での戦い方を知っておきたいと言われてしまったので、まぁ一緒のパーティとしては否とは言えない。


「いても面白くないと思うよ……?」

「構わない。私のことは気にせず好きにやってくれ」


 いやいや、美人にただ見つめてられるって、普通の年頃の男ならみんな緊張すると思うんだけど。幸いこの体になってから肉体的な欲はなくなったんだけど、綺麗なものを綺麗だと思う心は変わりないんだよね。

 ちなみにアッシュは今日はアリシアに抱えられている。俺の次にアリシアに馴染んでくれててよかった。まぁアッシュは人見知りそんなにしない子だけど、あんまり囲まれるとすぐ俺のところに逃げてくる。やっぱりなつかれるのは嬉しいよね。


「そういえば、アリシアってゴーストとか見える人?」

「モンスターとしてのゴーストは誰でも見える。ただ、以前プリーストが場を浄化していたのを見たことがあったが、何を浄化していたのかはわからなかった。そういえば、プリーストにしか見えないゴーストがいると聞いたことがあったな」

「モンスターと、それ以外のゴーストがいるってことか。……あ、いわゆる俺が悪霊って呼んでるのがそれ以外か」


 何それめんどくさっ!

 モンスターの「ゴースト」は誰でも見える。

 多分、俺が浄化すべきゴースト以外の「悪霊」は、みんなには見えていない。

 拷問室とか刑場のやつは、他の人が見えてたら大騒ぎになってただろうし、いわゆる典型的な「悪霊」なんだろうな。あいつらはプリーストにしか見えないのか……。


 何かこんなに根本的なことを今更知るとは……。浄化するのは一緒でも、モンスター退治だと管理人さんたちの望みとは違うってことだよね。


 

 ほんの数日ぶりにやってきた砦はやはり何も変わりなどなく、刑場の方の黒い人間たちもそのままだった。

 刑場はただの広場なので、誰かの処刑などが行われていない限りは中まで入れる。刑場に細工されたりしないのかなと思うのだが、ちゃんと処刑のときには詳しい検分があるようなので大丈夫らしい。日本だったら絶対立入禁止……いやそもそも見える場所で処刑しないか。


 前は黒いとしかわからなかったが、今回は近くまで行ってしっかり観察する。

 黒いそれは、ずっと俯いていて動かない。もう一歩進んで近づくと、久しぶりの全身に鳥肌が立つようなあのゾワッとする感覚が襲う。

 さて、これがクリアできないようじゃ首刈り峠は無理だな。いい練習場があったと思おう。


「ルイ、……もしかして、あの黒いやつか?」

「…………、え?」


 隣のアリシアから声を掛けられて、俺は一瞬呆けた。

 え、何で。


「アリシア…………もしかして見えてるの?」

「……………………多分」


 嘘だろ。何で? アリシア、僧の修行とかしたことない普通の人間だよね?


「少なくとも、今まで見えてはいなかったはずだが」

「となると……、見えるようになったってことかな?…………あっ!!」


 もしかして、と原因が浮かんだ。


 ーー俺、だ。


 聞いたことないか? 霊感のある人間の近くにいると、見えるようになるっていうの。ネットかなんかで読んだただの都市伝説だと思ったけど、今はそれに信憑性が出てきた。つまり霊感ある人(というかズバリ幽霊そのもの)といま一緒にいるから見えている。もしくは一緒にいるようになってから、見えるような体質になった?

 ……あー、何かそれだとすごく申し訳ないんだけど……。


「ごめんアリシア……、俺のせいかも」

「…………? 何故だ?」

「見える人といると見えるようになるって聞いたことあるんだよね」

「…………ああ。プリーストは先輩のプリーストに弟子入りすると見えるようになると言うな、それか」

「こっちでも同じか……。ほんと迷惑かけてごめん!」

「? 何がだ? 見えた方が得だろう?」


 え、そうなの? いやいやそんな訳ないよ、怖いじゃん!


「だって、怖くないの!?」

「いや、別に。見えないものが見えるようになったのはラッキーだな、むしろ感謝する」

「え!? …………え!!?」


 あ、アリシアさん、男前がすぎませんか!?


「アリシア……あ、ありがとう……」

「いや、こちらこそ。これでルイがやっていることが理解できるな。でもあれ……大丈夫なのか?」

「うーん、前はちょっと俺ではヤバそうだから放置したんだよね。しかし、他の奴は黒くないのに、あの下の端のほうにいるやつだけ、何でか黒いんだ。上にぶら下がってるのは普通なのに」


 俺が首を傾げると、アリシアは俺が指した先を見つめてから、俺の顔を振り向いた。


「……ルイ、何で黒いかは私には分かるぞ」

「え、何で!?」

「嗅覚があるからだ。ルイは、カバン屋でも、お茶の香りがわからないと言っていたな。私が言うより、近づいて見た方が理由がわかる」


 アリシアに促され、俺は黒い奴の方に近づいた。念のため、アリシアにはアッシュともども離れててもらう。

 黒いやつは、どうも表面がなめらかでなくざらざらボコボコしている。木の表面のようだ。最初は黒いモヤみたいなやつが纏わりついているのかと思ってたけど、違う。そして更に近づいて、黒い理由が分かって凍りついた。


 焼死体、だ。

 表面が焼け焦げて、黒く見えてたんだ……。

 あ、アリシアが言ってる臭いってもしかして、焦げ臭いのか……!!


 うわー、ちょっとこれヤバイ、俺のSAN値(正気度)がヤバイ。

 もうこれは手っ取り早く処理しよう、と手の届く距離まで近づいたら、そいつが聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いていたことに気がついた。

 気になって、耳を済ませて聞いてみる。


 「……なんで何で俺が死ななきゃならないんだ熱い熱いなんで苦しまなきゃならないんだ痛い痛いなんで他のやつらは楽しそうなんだ殺してなにが悪い持っている者から奪って何がわるい何でなんで俺がこんな苦しい目に遭わなきゃならないいたいいたい熱いいたい痛いおれは楽に殺してやった全員苦しませないでやったのに何でなんでなんでおれだけなんでおればかり熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたい痛い痛い痛い痛い……」


 本格的にヤバイのきたこれ。息継ぎは必要ないって言ってもノンブレスってすげえ聞きづらいし、内容は最低だし。っていうか、聞くだけでも正当な処刑されたっぽいよね。逆恨みして悪霊化とか、死んでもなおらないってこういう奴のことだな。

 多分、複数の殺人。だから、苦しみを長引かせるための焚刑(ふんけい)になったんだな。火刑か? いろんな言い方あるみたいだけど俺が知ってるのはその2つだ。あ、火あぶりっていうのも有りか。

 話をこれ以上聞いていたくない。本来なら楽にさせてやりたくもないけど、それだと周囲に害を及ぼしそうだからさっさと浄化しよう。


 俺がそいつに向かって手を伸ばした瞬間だった。

 ずっと俯いていた男が顔をあげるとにんまり笑い(口の中が赤くて、笑ってるってわかった)、俺に話しかけた。


「待ってたぞおれと同じ体験をしてくれるやつをまってたぞ痛い痛いおまえも味わえ……!」

「……な」


「何言ってんのお前」と声を掛ける瞬間だった。男が周囲に闇を噴出させると、闇は俺に一瞬で絡みついた。


 そして、目の前が暗くなった。


 

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