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15 短剣てショートソードと同じだと思ってた


 昨日の野宿場所でもう一泊して、次の日に村に戻って辻馬車に乗った。


 昨晩は、アリシアとアッシュがすぐに眠っちゃったから、何か置いていきたくなくてアッシュを撫でながら一晩を過ごした。勿論アリシアには二重の結界を張り、少し離れて俺達の周りにも張った。俺はどうでもいいんだけど、かわいいアッシュを起こすような奴が来ないとも限らん。

 ちなみに一晩撫でてても飽きないし、アッシュも起きなかった。ほんと警戒心皆無ねこの子。


 辻馬車には子供が乗っていて、警戒しないアッシュが早速人気者になっていた。差し伸べられた手にそっと近寄ってはくんくん嗅いで、撫でられている。ただし、しつこいと俺の側まで逃げてくる。


 あーくそかわ!! 天使かよ!!


 しかしなんだろうなー、この子。荷馬車の御者さんも初めて見るって言ってた。

 ふっさふっさの長めの毛は、体だけじゃなく顔の横や耳からも生えている。白と薄いグレーの毛が混ざり、手先や耳の先、そして長いふさふさ尻尾などには白が多く混じっている。

 狐か猫か、アライグマか、そんな顔で、すごく目が大きいのが特徴。いそうでいないな。

 ともかく仲間が増えたし、おれもこれからは宿とか取った方がいいのかな。うん、ちゃんと人間として暮らさないと「あいつ夜になるとどこへともなく消える」なんて噂が立ったりしたら困るし。


 ともかくそんな感じで初依頼は何事もなく成功で終わりました。ちょっと数が多かったぶん、魔石がいっぱいで、これがいい値段で売れるらしい。依頼料入れて金貨8枚ちょい。うん、3日で80万とかなかなかじゃない? 

 冒険者って日雇いってイメージだしそんなに稼げないと思ってたんだけど、アリシアがシルバーランクで依頼料の高いものを選べるからだそうだ。薬草採取とかだと1本銅貨7枚(70円)だと聞いたので、そこから初めるんじゃなくて良かった……! 


 今回はアリシアと同じ宿を取ってから、武器のショートソードを買いに出かけた。アリシアに借りたのを返さないと、アリシアが剥ぎ取りのときに困るしね。

 先日のカバン屋さんのときに目印にしたロクの鍛冶屋とかは、特注武器を造る時なんかに行くんだって。普通は街に武器防具店がある。そりゃそうか。


「ここがこの辺では一番品揃えがいい店だ」

「うん、ありがとう。悪いんだけど、俺じゃ武器の良し悪しもわかんないから一緒に見てもらってもいいかな」

「もちろんだ」


 店の中は、日本の刃物店なんかと同じ感じだ。周囲には高価そうな武器がガラスケースの中に立てられ、安そうなものは手にとれるように平台に並べられている。ガラスケースって言っても、地球の現代のほどの均一加工はできないので、歪みもあるし高価だ。平民の家ではまだガラス戸の入っていない家もまだ結構ある。(そういうところは雨戸だけしかないので、(むしろ)を網戸のように使っていた)

 俺としては「外に置いてある捨て値のリサイクル品の中から俺にしか使えない伝説の武器を探し出した!」「こ、これは魔剣だ!」とかっていう例の異世界トリップの鑑定持ちがよくやる定番のアレをやってみたいんだけど、都合よくそんなものはない。中古品だってそこそこ綺麗に研いで、ちゃんとした値段で売っている。

 

「ルイ、このあたりが短剣(ダガー)やショートソードだ」


 アリシアに声を掛けられ慌ててそちらに行くと、他よりずっと綺麗な品が並んでいた。殆どが新品のようだ。

 俺、短剣てショートソードと同じだと思ってたんだよね。直訳だとその辺一緒なんだけど、俺の考える短剣はダガーって言われるもので、ショートソードっていうのはいわゆる片手剣らしい。ロングソードよりは相対的に短いだけで別にショートじゃなかった。結構長い。


短剣(ダガー)は誰でもサブウエポンに持つし、剥ぎ取り解体にも使う。だから途中で売ることは少ない。必然的に新品が多くなる。短剣はそう高くないし、新品で選んだ方がいいと思う」

「そうなんだ、わかった。どの辺がオススメ?」

「うーん……、値段的に手頃なのはこの辺だ。ルイの持っている方が鋼だし、こっちも鋼にしておいたほうがいいんじゃないか?」


 言われて見ると、剣の前の紙には大体の材質などが書いてある。……結構親切な店だな、本屋のポップとまではいかないけど、おすすめ品だとか書いてあるのはいいね。

 あ、これ魔法コーティングがあるんだって、自動修復!? すごい。


「あ、でも高いなー」

「ん? ああ、短剣で自動修復、これならむしろお買い得だと思うぞ。材質も良さそうだ」

「いやいや、金貨4枚とか無理!」

「今回の依頼だけで金貨4枚になっているはずだが」

「あ……貰ったの忘れてた」


 ギルドで報酬の半分貰ったけど、すぐポーチに入れたから見てもいなかったわ。


「いやでも、これは私がルイに買おう」

「ん?」

「ルイへのお礼をまだしていない。どんどん恩が積み重なる前に一度返さねば」

「は!? それってまさか最初に会ったときの? 街を案内して、サポートして、道具の買い揃えもして貰ったんだからもう十分だよ! それに俺、大したことしてないし」

「命を救われた、足の治療をしてもらった、本来受けられるはずのない仕事を一緒に受けてくれた。それだけで本当は全財産を差し出しても足りない」

「イヤイヤイヤ、それはない!!」

「……ってルイは遠慮するだろうから、せめて今必要な短剣だけでも贈らせてくれないか」

「……そ、そっか。いいのかなー。うーん、……じゃあ、有難う?」

「良かった。ーー店主、これを頼む」


 邪魔にならないように端にいた店主が、ニコニコしながら短剣を受け取り、鞘に入れてくれる。俺たちの会話を聞かれていたっぽくて何か微笑ましい目で見られてる。

 女の子に物を買って貰っちゃったよ。何かすごい申し訳ない。


「ありがとう、アリシア。じゃあ、大事に使わせてもらうね」

「ああ」


 アリシアと店を出て、この後の相談をするために宿に戻る。

 アリシアの部屋にやってきて、椅子に腰掛けると(俺は浮いてる)俺はさっそく気になっていたことを訊いた。


「ーー今回俺のお試しだったんだけど、アリシアは俺と組んでも大丈夫だと思えた?」

「勿論だ。想像以上に安心感があった。……今まで、他の人とパーティを組んでも、いつも周囲のモンスターだけじゃなく人間の仲間も警戒していたように思う。夜中に近づいてくる男のメンバーもいたし、私の食べ物に虫を入れた女性もいた。だから多分……人間不信だったんだ。でもそういう警戒をルイには全く感じないで済んだ。すごく気が楽で、自然体でいられた。もちろん、実力も想像以上だし何の文句もない。しかしそれ以上に人間性が信頼できる。できることなら今後も組んでもらえたら助かる」


 アリシアが俺の目を見てそう言った。

 ーーこれは、嬉しいなぁ。

「信頼できる」なんて女の子に言われたの、初めてじゃない? いや、男も含めてか。

 しかし、アリシアが今まで散々な目に遭ってきたから、俺程度の普通の人間でもまともに見えるんだろうなぁ。なんか不遇すぎて泣けるんだけど。

 でも、俺とアリシアは相性すごく良いと思うんだよね。

 アリシアは前衛兼スカウトで知識が豊富、俺は後衛兼ヒーラーで、知識がない。二人合わせたら隙がない。敢えて挙げるとしたら……ゲーム的にいうならタンク? ああ、でもそれ俺の重力操作で盾もできそう。あとでやってみよう。


「ありがとう。俺もすごく助かる。……じゃあ、これからよろしくね!」


 俺は右手を差し出した。アリシアが俺の手を握り返そうとして、…………俺の手袋をきゅっと握りつぶした。


「…………」

「…………」


 中身を作ってなかったヨ……。




 

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