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12 ここの虫は例外だわ



 特訓、意外と(はかど)りました。

 何と言っても、夜は昼間見かけなかったモンスターが闊歩(かっぽ)しているから、遭遇が容易い。

 目が光るので、アリシアのように気配察知とかできない俺でも居場所を把握できる。姿を現して近づき、襲って来るならモンスター、逃げるなら野生動物。わかりやすい判断基準があって良かった。人を襲わない動物を無意味に殺すことになったら最悪だもんな。ライトは暗すぎて必要な時だけ点けることにした。


 その夜俺がウロウロしつつ仕留めたのは、ウルフが6匹、ルーパとかっていうアレが4匹、あと何かイノシシっぽいの1匹。コイツはちょっと皮が硬かった。短剣では深く刃が通らないので、ズタズタになるまで切りつけた。最終的に体には刃を刺しても筋肉だか脂肪だかが邪魔で内蔵に刃が達してないことに気づいて(遅い)、目に刃を突き立てた。

 刃が短いっていう欠点を補える手がもっと何か欲しいな。

 目は当然弱点だろうけど、小さいから狙い(ずら)いし。



「おはよう、ルイ」


 朝早く、アリシアが結界から出てきた。

 丁度俺はアリシアのいる辺りに戻って、ぼーっと道を眺めているところだった。


「あ、おはようアリシア。よく眠れた?」

「ああ、こんなにしっかり眠ったのは初めてで、自分でも驚いている。ありがとう、ルイの結界のおかげだ。これがあるだけで安心感がすごい」

「それは良かった」


 (かまど)の薪を足し、鍋の用意を始めるアリシアに、俺の昨夜の成果を差し出した。


「アリシア、これ夜の成果」

「え!? 一人でこんなに仕留めてたのか?」

「うん、ちょっとした訓練になったよ。あとわかったことがある、長剣より短剣の方が使いやすいんだ、思った通りに動かせる」

「なるほど……それは考えつかかったな」


 昨日の残りのスープを煮炊きながら、アリシアは俺の差し出した魔石に水を掛けて洗ってくれた。そういえば内臓から取り出したままだったね……そんなに汚くはなかったけど。

 それから魔石は俺が持っているように言われた。お金がなくなったときに換金できるからだそうだ。

 アリシアは「そうだ」と、自分のバッグから短剣を取り出した。


「ルイは、2つのものを同時に動かせたよな」

「うん、意識すればできる」

「では、双剣にしてみてはどうだ? 私の予備の短剣だ、使ってみてくれ」

「なるほど……ちょっと借りるね」


 双剣とか格好良くない? ホントは手に持つのが一番様になるんだろうけど。確かにこれだと攻撃力が単純に2倍になるから、力の代わりに手数で補えるかもしれない。

 

 バラバラに動かすより、左右対称に動かしたほうが難易度が低い。ただクロスしたときに刃が交叉しないように少しだけ前後にずらしておく。まぁ左右バラバラでも制御できるけどね。俺器用さだけは自身あるし、ピアノとかもちゃんと両手でばらばらに弾けるんです(ドヤァ)。

 そのまま、昨日長剣と短剣でやったみたいにV字を描いて飛ばしてみる。斜め上から交叉するように振り下ろし、そのまま8の字を描くように振り抜いてから再度振り上げる。かなりの速度が出ているが、対称にしているためか制御が楽だ。1本の時とさほど変わりなく動かせる。

 うわ、すっげー扱い易い。これ、(しょう)に合うわ。


「うん、これいいな! すごく俺に合う気がするよ」

「私もそう思う。とりあえずその短剣はルイが使ってくれ。街に戻ったらルイ用にもっといい短剣を買ってもいいな」

「いいの? ありがとう! じゃあ借りてるね」


 調子に乗って、ブンブンと空中を動かす。早く実践したいなー。

 俺が遊んで(いや、武器を習熟させて!)いるうちに手早くアリシアは食事を終え、毛布や竈を片付け始めた。

 俺は慌てて毛布の片方を受け取り背嚢に仕舞ってから、結界を消してないことに気づいて慌てて消す。このままにしておいたら、そこだけ誰も入れない空間が出来上がってしまう。……時間が経ったら消えるのかな? 試す必要もないけど。

 周囲を見回して忘れ物がないことを確認し、俺達は目的地に向かって歩き出した。

 

 そこから15分ほど街道を歩いた。大体1キロもないくらいだろうか、そこから街道を逸れる道が横に延び、その先に建物があるらしいことが見て取れた。あれが目的地か。


 建物……?

 いや、建物なんだけどさ、これもう殆どモンスターの巣と言っていいんじゃないの。

 建物は、あちこちに張られた白い巣が殆どを覆い、壁の一部と屋根くらいしか見えるところがない。そこに大小たくさんの蜘蛛がうぞうぞと動いているのが見える。これはキモい。


「うわ……」


 アリシアも呆れた声を上げた。そしてこれは確かに、もう素人が個人で対処できる範疇を超えている。シルバーランクだっけ、かなり上のランクのパーティに依頼される理由が分かった。


「こういう場合、どこから手をつけるべき……?」


 俺がアリシアに聞くと、アリシアは少し考えてから、周囲を見渡した。


「多分、この家だけじゃなく周囲にもたくさんの巣があると思う。ここだけ対処しても別の個体にやって来られたらキリがないから、まず周辺を一掃してしまおう」

「確かにそうだね」

「スパイダーの糸は火に弱い。だが森の中ではあまり火は使えないから、物理的に対処する。木の枝で巣を壊していこう」

「了解」


 そこから横に逸れて森の中に入ると、途端に白い巣があちこちに張られているのが見て取れた。かなりの数だ。さすが一回に数百個の卵を産むだけあるわ……。

 アリシアはすぐ側に張ってある巣にいた、50センチほどのスパイダーの頭部をさくっと切り落とした。

 俺は近くにある大きめの木の枝を持ち上げて、巣をぐるぐるかき混ぜて壊していく。かなりの弾力がある。そしてでっかいわたあめの出来上がりだ。捨てるけど。

 ジャイアントスパイダーとやらは、まあそのまんま黒い蜘蛛だ。頭・胸・腹と3つの膨らみに分かれているので、わかりやすくそのつなぎ目部分が弱点かな。胸の部分には茶色い模様がある。地球の蜘蛛と一緒で歩脚は4対8本、目も左右4対づつで8個だ。口には鎌状になった発達した上顎がある。鋏角(きょうかく)って言うんだっけ?

 昆虫ってのは、ただでかい、それだけでものすごくグロい。毛の生えたエイリアンぽい。俺、生き物は好きだけど、ここの虫は例外だわ。小さいのは別に苦手でもなかったのに。


「アリシア、上の方の巣から先に壊してくるよ」

「頼む。スパイダーはこっちで処理するから、叩き落としてくれて構わない」


 巣は高めの位置に張ってあることが多いが、俺に高さは関係ないし、巣に架かることもない。半分透けた状態で飛んでるからたまに俺に糸を投げかけてくるのもいるけど、俺には影響ない。巣の上にいるスパイダーは、下に叩き落とすとすぐにアリシアが処理してくれる。俺はそのまま巣だけを壊す係だ。なかなかいいコンビネーションじゃないかこれ。

 たまに巣にかかった昆虫や鳥を見る。繭のように巻かれているのを切り裂いてみた。可哀想だけど、糸の中ですでに溶けかけてるからもう助からないな。

 しばらく屋敷を囲む森一帯を彷徨(さまよ)って、殆どの巣とスパイダーは処理できたと思う。

 

 と、家のほうに戻ろうとした時、奥の下草近くににもう一つだけ巣を見つけた。

 近づくと、糸でぐるぐる巻きにされた得物が架かっていたが、スパイダーはいない。

 一応、と思って繭を割くと、中にはまだ溶けていない毛皮が見えた。


「生きてる……!」


 慌てて切り裂くと、猫くらいの大きさの動物がいた。

 白っぽい灰色で、何の動物だろうと顔を覗くが、眠っていて良くわからない。狐っぽい気がするけど、もっと毛が長くふさふさしていて、すごく可愛い。


「アリシア、動物が掛かってたみたいなんだけど、これ何? モンスター?」


 アリシアもこちらにやってきて、俺が掲げている動物を覗き込む。そして首を傾げた。


「いや、見たことがないな。狐っぽい気もするし、猫っぽくも見えるな。ルーパとも違うし……」


 二人でまじまじと見ていると、動物が目を開けた。

 黒い瞳で目が大きく、めちゃくちゃ可愛い!! なにこれ!!


「うわ、かわいい~!!」

「うん、これは可愛いな」


 俺は、衰弱してるらしいその子に、軽く治癒を掛けておく。

 アリシアも動物を覗き込むと、それはすこし起き上がって「ニー」と小さく鳴いた。 


「にーって言った!!」

「こちらに牙を剥かない。モンスターではなさそうだな」


 もぞ、と動くので草の上に下ろしてやる。この子、まだ子供っぽい。お母さんはどうしたのかな、心配してるんじゃないの。


「早く自分の巣に戻りなさい」


 声を掛けるが、動かない。そして警戒心がなさそう。あー、これはモンスターにはいい獲物だわ。

 後ろ髪をひかれながらもその子を残し、街道に戻る。あっヤメテ、こっち見ないで! すんごい連れて帰りたくなるからダメ!!

 ギルドではいろんな図鑑が見れたはずだから、後で何の生き物なのか調べてみよう。


「さて、では屋敷の方の掃討をするか」

「うん、さくっとやっちゃおう」



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