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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある生体兵器の「踏ん張る」

作者: 茶釜な狸

すみません、書いたものの・・作中で彼らは実質、何もやってないです。

お試し感覚で走ったので、単発です

『貴方の見る世界は一部でしかなく、視野を狭めて閉じこもるなんて馬鹿げてる。

 世界は知らない、貴方の痛みも悲しみも。

 悔しくないの? その辛さから逃げて、泣き顔を隠して生きるって。


 私は、叫ぶ。理不尽と戦って、相手が粉々になるまで抗う』



「アタシは、そう教わった。だから、アタシの筋を力業で押し通すっ!!」

恐らく歴史的な演説になる戦乙女の激励が終わると、ついてこいと言わんばかりに相棒(暫定)の少女は敵陣とも言える宮殿内へ走り出す。恐らく宮殿内の地図は頭の中からすっぽ抜けているのだろう。眩い金色の髪の小柄で華奢なように見える少女が最前線から流れ出るように踊り出て、巡回警務中の近衛兵二人組めがけて走りこみ、ご年配の近衛兵へ全体重と加速エネルギーが乗った無駄のない見事な回し蹴りを放ち、突然の奇襲に虚を突かれ慌てふためくもう片方の新兵。明らかに対応を取り損ねた彼の鳩尾目掛けて馬鹿力全開で殴りつけ、吹っ飛ばし一撃昏倒させた。初手からこんな活躍をされちゃ姫様サイドの憂国の騎士やら差別に苦しみ虐げられし共・・つまり義勇で集まるその他数名の陽動班の立つ瀬が無い。相棒(暫定)は大したことしてないと思っているらしく「あ、やらかしちゃった?もう少し奥で騒ぎたいし、こいつら縛っておくべき?」などと連絡をしかけていた老兵の首を締めあげ、攻撃しつつ、のほほんと言ってのける。

なまじ強そうで体格がよさそうなメンバーを選抜した分、恰好がつかず。屈強な男やプライド高い男が多いからな。人間離れしていようが見た目が保護対象に該当しそうな少女である以上、男の意地で負けじと、獣の様な闘争心を剥き出しに叫びながら武器を構え続いてゆく。その気持ちはよく分かる。ただ・・今回は士気を鼓舞するつもりが、完全に仇となっている。あいつら作戦に従えるのか不安になってくる。頼むから・・まだ目立ってくれるな。俺たち実行班が入ってから騒いでくって作戦だろう・・不安しかない。帝都の高い文明を誇示するために作られた巨大な宮殿の広いエントランスなのに・・もう遥か彼方にいる。異変に気付き、剣の心得のある勇気ある貴族の若者や近衛の立ち向かった残骸の死屍累々を作りながら。一般に開けられた正面から突撃した理由は、一応誘導の役割があるから。ある程度内部まで共に行動しなきゃいけない有志の連中も大変だな・・やっぱり、あれは少女の見た目をした何かだ。戦場をかける様は血飛沫の中、舞い踊る金の燕といったところか。できる限り後遺症を作ってくれるな、お前が叩きのめしている連中は今後の帝国に必要な人材で、姫様が大切にしたがっているものなのだし。相棒(暫定)率いる誘導班が内部に無事に入り、派手に暴れながら移動して行く。陽動班と実行班以外が侵入できぬよう内側から鍵をかけたのを確認し、実行班の俺たちも動きはじめた。

目指すは、近衛兵の混乱に乗じ逃げ出すであろう現女帝の確保。


「いやぁ・・すさまじいの一言に尽きるね。彼女」

相棒(暫定)に奇襲され行動不能で足元に転がる近衛の連中を邪魔だと言わんばかりに蹴ってどかしつつ、くくくっと声帯だか息なのかどこを震わせているのかよく分からない独特な笑い方をしながら揶揄する優男も、好意的に見せかけておいて彼の興味本位でしか動いておらず全く憂慮していない人間だったりする。

「あんな可愛い見た目で、男顔負けの気概。走り回れば周囲をなぎ倒し、敵に回せば魔王も裸足で逃げ出し、味方になればありとあらゆる流れを自身に向けさせ勝利をもたらす。ごらんよ、文官の皆様やご令嬢たちもみな都合よく逃げていくじゃないか。神がいるんだとしたら彼女を祝福しているに違いない。ぜひともその恩恵を受け取りたいし、利用し続けたいね」

ほんの思い付きで提案したに過ぎないんだが・・・ま、殺すなとしつこく言い含めたから大丈夫だと信じるが・・・

「それ・・どれだけ装飾したデマを流すつもりなんだ?前半はともかく後半はほぼ嘘だろう」

「おや、帝国屈指の名門キルヴァス家次期当主の坊やは人の噂の力をご存じないと?」

・・こいつ、嫌いだ。いちいち説明させたがりのでしゃばり根性が鼻につく。乗ってやった方がいいから乗せられてやるが・・嫌いだ。

「言われずとも知ってる。こちらの手数が少ない状態で乱闘にもつれこむなら、誇大な話・・この場合、こちらの士気をできる限り鼓舞し、第二継承者の姫様を正統後継者に担ぎ上げる為には神話めいた英雄的人物の役が必要で、正義がこちらにありだとを最大限に宣伝して回り・・勝手に怖気づいてもらった方が敵の敗走を促され、数自体が減りこちらの手間が省ける。フレイアなら金髪がいやでも目立つ上、彼女の性質を考えると実行班には向かない。陽動は有効な手段だ。それにしても嘘まで使うのはどうかと思っているだけだ」

遠目から見れば女とも見間違えると噂される肩口を彩る宵闇の髪を結い上げると、実行班の呪的防御の要とも言える優男は笑顔を物騒な笑みに変貌させながら

「嫌だなぁ、これから相手どる相手は・・帝国の魔王様じゃないか。手足を潰されて逃げ出したくてたまらない可哀想な頭だけどね」などと言う。どこまでもふざけた男だ。所詮は外国人だし。信用は全く出来ないが、相棒(暫定)目当てで色々やってくれるなら利用するだけだ。


「我が血流と御名の元に、お退きなさいっ」

呪を纏う凛とした幼い声が響く。陽動で引き付け損ねた近衛兵数名を相手に、姫様が己が皇帝一族の血脈を媒体に、錫杖で増大させた絶対支配の魔法をまき散らしたようだ。簡易な精神支配と肉体の自由を奪い放題というデタラメな魔法で実に強力な技だ。一度、検証の為かけられたことはあるが二度とはかけられたくはない。俺の自尊心ズタズタにされた忌まわしい記憶がある。出来れば思い出したくない人生の汚点だ。

帝国は魔法は誰でも使える技術を編み出し、その技術を外国に売ることで財を賄って建国した経緯がある。その技術の製造法が差別の要因になり、亜人貧困問題や差別を長年にわたり増長させた結果であり、この反乱を招いた。有志の連中は、亜人族の割合が多い。この反乱の主力なのだから。今回の騒ぎを成功させたくて仕方ない感情はあちらの方が積年の恨みがある分、強いのだろう。こちらとしても助かるので大いに盛り上がっていてもらいたい。その方が真実を隠せる上、姫様の反乱の正当性を諸外国にアピール出来る。今後の姫様の力になるだろうし。陽動班も頑張ってくれ、社会的地位の向上の為に。


先程の絶対支配はこの技術には当てはまらない、純然たる由緒正しい血統由来のものなので・・おそらく、彼女の姉以外太刀打ち出来ない強力でえげつない魔法だ。本来なら責任能力が生じる年齢までは出したくないが、時間もなければ、人材もいない反乱側としては貴重かつ最高戦力になり兼ねない皇族の人間を使わざるを得ない。

「お急ぎくださいまし、有志の皆様やフレイアさんが陽動している合間にわたくしは姉上を・・保護しなくてはならないのです」

普段の魔法と違い、使い慣れぬ強制魔法を使い震えているのかと思ったが、皇族の証のアメジストと称される瞳に映るのは、最高権力者が確約されている出生のせいで巻き込まれた陰謀に操られ邪悪な覇道に進むしかなかった哀れな姉を思っているのだろう。開花直前の白百合を思わせる色合いの白雪の髪と淡い紫紺色の幼い姫は苦しそうに促した。だが、躊躇されても困る。

育ちのせいで大人しい性格の彼女が自分から力技を使っている以上、冷静とは言えないだろうが・・相棒(暫定)流に言うと、踏ん張りどころという所なんだろう。頑張ってもらわないと逆賊として晒されてもおかしくないので頑張って頂きたい。真面目な話、帝国筆頭公爵家の立場的に国家転覆に加担してましたは、公爵家を潰して反逆罪で一族断絶の処断を受けてもおかしくない。

既に相棒(暫定)が全力で関わったあげく、俺は逃げられない出生だった衝撃的な事実があるので、勝てば官軍をやるしかない。正義はこちらにあったことにするしかない。

幼い姫には酷だが、苦しくてもなさねばならぬという勉強を強いることになるが頑張って頂かないと

「・・姫様」

気が高ぶっているのだろう、だが俺は悪に徹することしか出来ない

「・・姫様が、和平を望んでいるのは伝わってきます。しかし、もうそれはできない状況です。ご覧になりましたよね。貴方の姉は倫理に反したイグニス博士と手を組み、死者を弄び・・死んだキルヴァス公爵家の息子を使い、生前の記憶を持たぬ俺を作りました。

俺は、記憶喪失ではなく、違う人として目覚めただけでした。イグニス博士は、俺たちを【生体兵器】と呼んでいましたね。魔法と電子制御の施された電脳と呼ばれる呪的工具を外科的に移植し、言うことを聞かねば死ぬように設計され、彼ら自身の意思を縛り付けながら動かす、狂気が生み出した悍ましい化け物です」

姫様は胸元を苦しそうに押さえた。俺だってわざわざ自分の傷口を抉り出して説明するのは苦しい。けど、ここで折られちゃ困る。だから淡々と事実と目的を確認してもらわなきゃならないからはっきり言う。

「製造ラインは壊しましたが、イグニス博士に資金援助し、助けていたのは貴方の姉で、現女帝です」

「・・・・やめて・・」

「俺は・・父代わりのイグニス博士を殺しました、持ち出されていなければすべての記録を壊しました、材料と思われる保存されていた死体たちも焼きました。」

「・・・・知ってる・・」

「血の繋がりこそありませんが、博士を慕う姉、姉を守ろうとした二人の兄も倒し、燃え盛る研究施設内に置き去りにし、助けずに施設を爆破し殺しました。貴女も知る三人組です」

「・・・わたくしはっ・・」

溢れる悲しみを拭わず、姫様は秘めていた思いを吐き出した。それは涙や鼻水、嗚咽という形だったが、身を切るような苦悩と正義と慈愛で構成された、透明に流れる血が噴き出るのを見ているようで俺は声をかけるべきではなかったと軽く後悔した。

「わたくしっ・・は・・この不祥事を・・あねうえが、起こしていても嫌いになれないのですっ・・。狂っていても、どんなに人の道をそれても・・大好きだから・・あなた達、生体兵器が世に出る前に・・あねうえを守りたいから・・だから抗うのです。帝国の民も、他国の民も・・死者を使う製造の化け物を使いたくないでしょうし・・姉上が、被害を広げる前に・・政権を奪い、隠します。二度と貴方たち【生体兵器】を作らぬよう、わたくしが・・まもり、ますっ・・・」

悲愴でいて誰よりも強い決意を滲ませた幼い姫の言葉は、歴史には残せない。

彼女が姉の名誉を守りたいからだ。

すっかり泣き顔で崩れ落ちかけた幼い白百合を【生体兵器】の俺から守り、庇うように優男は柔和な笑みでふわりと後ろから抱きしめた。

「お姫様、ご無礼なのは許してね。所詮、私はね・・そこのか弱い淑女に対しても、きつい事言っちゃうキルヴァス家坊ちゃんの顔した馬鹿者と違って、祖国を持たない根無し草で、誰も聞きやしないし、信じやしない・・勿論、何も知らない。けれどね・・・君のその願いがどれだけ残酷で傲慢で気高いのかは、わかるよ。」

帝国第二最高権力者の姫様に対し無礼極まりない態度だが、そもそも政権奪取を狙う不届きものだからいいのか、などと思いつつ優男の手腕を眺めることにした。後ろから抱きしめた挙句、銀糸のようなさらさらした姫様の髪をかき混ぜる怪しげなローブの優男の様子はどうみても犯罪臭が漂うが

「高潔で甘ったれで慈愛に満ちた帝国の白百合を、手折るのは勿体なく思うから。君が咲き誇る舞台を手伝うよ。」

この言葉が、救いになるのならそれでよかったりするのだろうな。顔で許されて良かったな優男。


鎧の擦れる、音がする。甘々な雰囲気で姫様が泣き止んだとこなのだから邪魔しないでいただきたい。

俺は今は姫の剣だし、優男は姫に見えないからと調子に乗って目で行けと促す始末。


この宮殿内のどこかで暴れている少女と陽動をしてくれている仲間たち

ありえない程狂っていた、自分の生まれ

様々な感情が俺を蝕む。

この焦燥感にイライラしてるのにも関わらず、目の前でいい雰囲気を醸し出すキーパーソンの姫


ああ、これが相棒(暫定)のいう、くそったれという感情か。くそったれ。確かに叫びたい。

改革する為には姫の生存第一。俺は愛刀を抜き、一陣の風となる。


この手は、生まれも、夥しい犠牲を払わせてきている。

ならば、せめて・・・帝国の白百合がその慈愛で幸せをもたらせるよう、踏ん張りどころとやらを切り抜けるだけだ。


ちゃんと甦れず、キルヴァス公爵家の次期当主になれなかった俺の体の持ち主

イグニス博士を愛し、敵として立ちはだかった姉

痛みを奪われようと心で抗い続け、嘘をつき続けた兄

罪悪感に苦しみながらも、家族を守ろうとした兄


殺してしまったみんなに向き合えるたった一つの方法だと思うから

俺も、踏ん張るんだ





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