0:凹魔師・榊祈折
ここは闇が濃い。
九州はO県白黒市。
人口10万人あまりの地方都市。
そうは言っても、広大な山間部を含めての人口であって、市街地であっても田舎。
18時に大抵の店は閉まり、ゆえに途端に夜は暗くなる。
これまでほとんど大都市で戦って来たため、勝手がまだわからない。
私は、榊祈折。
凹魔師だ。
あなたは町を歩いていて、不意に悪寒を感じた経験はないだろうか?
見た目は普通の人そのものなのに、目が合っただけで得体の知れない恐怖を覚えた事は?
もしかしたら、それは魔物と接近した為かもしれない。
この世には目に見えない魔物が確かに存在する。
それは人の悪意より生まれ、悪意に惹かれて人に憑く。そして、人の身もその悪意にふさわしい怪物へと変えてしまう。
その魔物の名を出杭と呼ぶ。
古来は「でるく」と呼ばれたようだが、近代に闇を意味する英語と混同が起こり、今では前述の呼び方がされる。
凹魔師はその出杭を鎮める者。
出杭に取り憑かれた人間は、凶暴・凶悪となり、体のいずこかに悪意の杭を生み出す。
それを清めた槌で叩き、相手の身の内に鎮めるのだ。
私は十五になるが、既に五年、凹魔師を務めている。
言い忘れていたが、性別は女だ。
年も性別も、これまで出杭を鎮める際にハンデと感じた事はない。
今回は、この白黒市に出杭に憑かれた者が向かったとの情報を得て、はるばるやって来た。
これは非常に珍しいケースだ。
出杭は人の悪意の集合体であり、人が過密に集まる都会にこそ多く出現し、田舎では滅多に現れない。そのため、田舎の仕事というのも稀だ。
それこそ、今回のように対象が移動でもしない限り。
何にせよ、長い滞在にはならないだろう。
その時は、そう思っていた。




