第1話 嬉しくない出会い P.8
それから三十分くらい、自転車で行くと、段々と街に入っていった。
麗奈は感心するように周りを見渡していた
「この辺は建物が多いね」
「お前寝てたからな。もう少し行くと、さっきの神乃崎駅がある」
「ふぅ〜ん……でもやっぱり田舎って感じだね」
「東京はもっとすごいのか?」
健斗が聞くと、麗奈はゆっくりと頷いた
「うん。車とか建物とかがいっぱい。人も多いし……」
「俺はそんなとこ嫌いだな」
「そうだね。私も田舎の方がいいよ。のんびりと出来るしさ♪」
健斗はそれを訊くと、不思議に思った
「東京者が東京を嫌うのか?」
健斗が訊くと麗奈は考える仕草を見せた
「う〜ん……どうかなぁ?」
と言って苦笑いを浮かべた。
自分の住む街をあまり好きになれないのか?
健斗にはよく分からない気持ちだった。
俺はこの街が好きだ
例えば旅行とか行ってこの街に帰ってくると、妙な安堵感を覚える。
コイツにはそういうのはないのか?
「私は……そんなこと感じたことがないかも」
麗奈はそう言った
「ふぅ〜ん……」
しばらく沈黙が続いた。
「……感じたことがないっていうより……感じられないのかな……」
大森麗奈は、静かにそう言った……
「え……?」
そのとき俺はゆっくりと麗奈を見た。すごいそのとき俺の胸の中がすごく……痛みを感じた
そのときの大森麗奈は……とても寂しそうな表情を浮かべていたんだ……
健斗は自転車である高校の校門に来た
「ここが“神乃崎高校”」
神乃崎高校は健斗の通っている高校であり、学力も部活も平凡な高校である。
通称、神乃高と呼ばれている。
「ふぅ~ん……」
大森麗奈さキョロキョロと高校を見渡す
こいつもここに入ってくんだよな……
何か嫌だなぁ……
同じクラスにならないことを祈りましょう
同じクラスになったら色々と大変そうだしな。
「結構広いんだね」
麗奈がそんなことを言うと、健斗は校舎の方から麗奈の方へと視線を向けた
「そうか?」
「うん。田舎の学校だから、もっと小規模なのかなぁって思ってたけど……思ったよりも随分大きいんだね」
麗奈がそう言って、健斗はもう一度校舎の方を見た。健斗にとってはあまりそういう感覚はなかった。確かに、中学に比べれば大きいのかもしれないが……大して変わらない。
「田舎の学校の全部が全部小さいってわけじゃねぇよ。ほら、行くぞ」
「あ、ねぇ、もうちょっとだけ見ていかない?」
麗奈がそう言ってきたが健斗は、あまり賛成じゃなかった。思わず顔をしかめて麗奈を見つめた
早く帰りたかったいというのもあるが、それ以上に心配なことがあった
それはあまり校舎の近くにいると、同級生の誰かに目撃されて明日何かを言われるのがとてつもなく嫌だったからだ。なるべく校舎に近づきたくないし、出来ることならば早く立ち去りたい
「帰りが遅くなるんだけど。明日見りゃよくない?」
「だって、だってー。今見たいんだもんっ!」
始まった……こいつの我が儘だ。健斗は少しこいつを宥める方法を考えた。
「でもお前考えてみ?」
「……何を?」
「今慌ただしく校舎の周りを見るよりも、明日学校にどうせ行くんだから、そこでゆっくりと色んなとこ回った方がよくないか?その方がワクワク感も違うだろ?」
健斗がそう言うと麗奈は少し考えるように空を仰いだ。健斗は祈るような気持ちで麗奈を見つめる。
来いっ!乗っかってこいっ!
すると麗奈は再び健斗の方に視線を向けて、納得するように大きく頷いた
「それもそうかもね。じゃあ明日にするぅ」
ゲッツッ!健斗は心の中で大きくガッツポーズをした。これ以上我が儘を言うようだったら、本気で置いていくつもりだったが……こいつにも人の言葉を理解するだけの頭はあるらしい
少しこいつの扱い方が分かってきたような気がした