第4話 過去 P.11
「鍵閉めたか?」
健斗は自転車を塀の外まで持っていきながら、麗奈に訪ねた
麗奈は鍵を持って健斗の元に走ってきた
「大丈夫♪」
と言っていつも通りに、自転車の後ろに座る。
「よしっ!!学校までしゅっぱぁ〜つっ!!」
と元気良くそう言ってきた。そんな麗奈を見て、健斗は可笑しそうに笑うとゆっくりと自転車を漕ぎ始めた
いつもの道をいつも通りに漕いでいく。けど何だか妙な感覚がした。昨日、一人で自転車を漕いだから……
寂しさを感じた
けど今は麗奈が後ろに乗っているということが、安心感をもたらせていたことに気づいてはいなかった
麗奈は後ろで鼻歌を歌いながら風を感じていた
「気持ちいい♪」
そう呟くように言った
気持ちいい……か……
確かに気持ちよかった。風を感じると、何だか心地よかった
「やっぱ楽しいなぁ」
「今更何言ってんだよ」
「だって昨日ヒロくんに送ってもらったんだもん」
健斗はそれを聞いて不思議そうに言った
「俺もヒロも変わんないだろ?」
「変わるよ」
と麗奈は即答してきた。健斗はまた不思議に思って、後ろを振り返った
麗奈はとびっきりの笑顔を見せていた。それが何だか可愛くって健斗は笑った
「何が変わるんだよ〜」
「ん〜……なぁんか、健斗くんじゃないと安心感がない」
「何だそれ……そんなに俺を信じきってんの?」
と冗談を加えて麗奈に聞いてみた。すると麗奈は当然というように、健斗に言った
「信じてるよ」
麗奈は微笑みながらそう言ってきた。健斗はそれを聞いて何だか気恥ずかしくなって、プイっと前を向いた
「……3割は」
「はぁ?」
健斗はまた後ろを振り返った
「あと7割は何だよ」
「7割は……不安と心配」
「同じじゃねぇかよ」
「同じじゃないよ。健斗くんが途中で転ばないかなっていう心配でしょ?あと健斗くんがゆっくりし過ぎて遅刻しないかなっていう不安」
「何だよそれ。わっけ分かんねぇ」
と言って健斗は可笑しそうに声を上げて笑った
麗奈も可笑しそうに笑っていた
「だったら不安と心配無くしてやるよ!!ほりゃ!!」
と言いながら健斗はグングンとスピードを上げていった。麗奈は焦りながら健斗にしがみつく
「ちょっ……早いっ!!早いってばぁっ!!」
「遅れたくないんだろ!?」
「やだっ!!ちょっ……アハハ♪危ないよっ〜!!」
「転ばないことを教えてやるよ。俺の高等テクを嘗めんなよ!!」
健斗と麗奈は笑い合いながら、スピードをつけていつもの道をこいでいった
麗奈は笑いながら悲鳴を上げて、そんな麗奈が可笑しくって大笑いする健斗……
何だかすごく楽しかった
前よりも何倍も、何百倍も仲がよくなっていた。この感じ……前もどこかで……
そう、翔もそうだったな。何回も何十回も喧嘩したけど、そのあとは必ずと言っていいほどスゲー仲良くなっていた
それを繰り返していったら、翔は俺の中でスゲー大切な存在になっていたんだ
麗奈も同じなんだと思う……というより、そうなってることに今更ながら気がついた
あんなに麗奈を気にしていたことも、自分の中で徐々に麗奈が好きになっていったからだ。
それは早川のように、恋愛として好きとは違った
ただ、麗奈という人間が好きになったんだと思う
だから今ならはっきりと言えた
「麗奈!!」
「ん〜!?」
風に乗りながら、健斗は大きな声で言った
「俺さっ!!お前のこと好きかもっ!!」
「えっ!?」
麗奈は驚いたような声をあげた
健斗は可笑しそうに笑った
「勘違いすんなよっ!?お前のバカで能天気で、おっちょこちょいで、マジで訳分かんねぇところが好きだってことっ!!」
そうなんだ。
もう自分の中で麗奈は
一人の家族で
一人の親友で
スゲー大切な存在になっていたんだ
それに気がついたとき、俺はもっと麗奈のことが好きになっていた
麗奈という人間が、スゲー大切な人になった
「……健斗くん」
麗奈は嬉しそうに笑っていた。本当に嬉しそうだった
健斗は照れ臭かったからに何も言えなかった。すると麗奈は健斗の背中を叩いてきた
「もう、嬉しいこと言わないでよっ!!」
「……悪かったなっ!!」
「ありがとうっ!!」
「別にぃ〜!?ほら、ちゃんと捕まってろよっ!!」
健斗はさらにスピードをあげて学校へと向かっていった
健斗は途中のコンビニで麗奈を下ろすことなんてわすれていた
忘れていたし、気にすることをやめた
だって麗奈は俺の家族なんだから。
誰かに誤解されたって気にすることはない
それが例え早川だとしても……麗奈は家族なんだから関係ねぇよ
二人は笑いながら、学校へと続く坂を下り、さらにスピードをつけていった。すると、目の前自転車を押しながら歩いている早川と佐藤が見えた
麗奈もそれに気がついたらしくて大きな声で呼びかけた
「お〜い結衣ちゃぁ〜ん、マナ〜!!」
麗奈の呼びかけに二人は通り過ぎていく麗奈に気がついてしばらく口を開けて唖然としていた
「……二人が自転車に乗りながら登校してくるなんて……珍しいね」
と、佐藤が不思議そうにそう言ってきた
けど早川は嬉しそうに笑いながら頷いた
「二人とも付き合い始めたんじゃない?ねぇ結衣」
「さぁ?」
早川はクスクスと笑っていた
「昨日はあんなに仲悪かったのに……分かんない人たちね」
佐藤が呆れながらそういうと、ふぅっとため息をついた
けど早川はゆっくりと微笑みながら、走っていく健斗と麗奈を見ていた
「よかった……二人とも元通りになって」
「え?」
佐藤は早川の言ったことが聞こえなかったらしくって聞き返してきた
「何でもないよ」
と早川はご機嫌そうに歩いていった。そんな早川を見て、佐藤はまた不思議そうに首をかしげた
「結衣も変……」
いつもより早く学校に着いて、健斗たちは自転車を駐輪場へと置いていった
「ふぁ〜っ!!」
麗奈は爽快そうに自転車を降りた
「いつもより早く着いたな」
と健斗は笑いながら言った
「このペースで毎日来ればいいな」
「え〜!?やだよそんなの〜」
「でも楽しかったろ?」
「そりゃそうだけど、結構掴まってるのも大変なんだからね」
と麗奈はクスクスと笑っていた
健斗も笑って、麗奈と共に校舎の方へと歩いていった
麗奈と喧嘩して、健斗は麗奈に対する素直な気持ちを吐き出せた
それがすごく爽快で気持ちよかった
やっと素直になれたんだ
それが何だか色んな意味で嬉しかった
健斗はご機嫌そうに校舎の方に駆けていく麗奈を、笑いながら見ていた
ずっとこんな生活が続くと、本当に思っていた
そして願っていた
翔が死んでから、俺は毎日生きることが辛かった
本当のこと言うと、生きるのが嫌になってたときもあった
けど麗奈が来てくれてから、日々が変わり始めていた
最初は戸惑ってたけど、最初は嫌だったけど……麗奈が俺に必要以上に関わってきてくれたことに、本当に心が救われていたんだな
麗奈がいたから、翔との過去を思い出さずにすんだんだ
だから麗奈には感謝をしていた
健斗は思い出していた
麗奈がこの町に来た日のことを……
びっくりするくらいの美少女で、それに最初はめちゃくちゃ嫌いだった
こいつといると疲れるし、受け入れるのが嫌だった
けどこいつの寂しそうな表情は忘れられなかった
それから学校が始まり、毎朝こいつを後ろに乗せていくのがすごく嫌だった
邪魔だったし、スゲー嫌だった……
おまけに俺に野良猫だのと言ってきて、そんな俺が好きと言ってきた。訳が分からなかったけど、本当はすごく嬉しかった
それにこいつはこいつなりに色々考えてるんだなってことが分かった。
能天気で迷惑なやつばかりだと思っていたけど、自分が迷惑にならないようにと考えてたり、すごく見直した
自転車の練習をしてる麗奈を見てすごく感動した。イメージと全然違うことに気が付いた。
いっしょに練習して、10秒くらいだけ自転車に乗れた麗奈を見て嬉しかったし、すごく楽しかった
買い物にも付き合わされたな……
そして……こいつの母さんのことも聞いた……
俺の過去を聞いて、いきなりキスしてきた麗奈には腹が立った
けど、麗奈の大切さに徐々に気がついて……仲直りしたいって思った
俺のために泣いてくれたのは、嬉しかった……
優しく抱き締めてくれて、今を生きて欲しいと言ってくれた麗奈が……本当に嬉しかった
あのときずっと持ち続けていた、心の傷が麗奈によって癒してもらってたんだな
麗奈は俺の中でかけがえのない大切な存在だ。
翔がそうだったように……麗奈も同じくらい大切なんだ
それが今ならはっきりと言えた
大切な家族なんだ……
だから今なら胸をはれる。
空を見上げながら……翔を見た
今更だけど……翔、俺は前を向いて生きようと思う
今度は誓うよ
お前にしたことは、一生償いきれないことだけど、けど俺はお前を忘れないから……
忘れずに、前を向いて生きていくから
今度は揺るぎのない決意で……
だから翔、見ててくれ
いつも青い空の中から、笑いながら……
それがお前に対する……せめてでの償い……
いや、そんなことは言わないよ
俺は俺のために生きる。
それで……いいんだよな……
健斗は立ち止まって、青い空に流れる白い雲をみた
翔の……俺の大好きな空は……今でも笑っているんだな
「健斗く〜ん」
ふと呼ばれ、健斗は前を向いた
麗奈が健斗に向かって言ってきた
「早くぅ〜っ!!」
「分かってるよ」
健斗は笑いながら、校舎の中へと向かっていった
色んな過去を背負って、色んな支えを受け、それでも強く生きようと決めながら……
光に向かうように、堂々と笑いながら歩いていった……
End
どうもここまで読んでくださってありがとうございました。
ここまでの物語……いかがだったでしょうか?できればこのグッラブ!自体に評価や感想を頂けると嬉しいです。
さて、続きはグッラブ!2にて掲載されています。そちらの方も読んでもらえると嬉しいです。
では次はグッラブ!2でまた会いましょう!