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グッラブ!  作者: 中川 健司
第4話 過去
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第4話 過去 P.9


ふとドアがノックされる音が聞こえ、健斗を目を覚ました


自分の目元に濡れた感触がした……涙が溢れていた


健斗はすぐに涙を拭き、ドアの方を見た


一体誰だろうか?母さんか?父さんか?


けどそのどちらでもなかった


ドアのノックする音と共に声が聞こえた


「健斗くん……」


麗奈の声だった。やけに元気のない沈んだ声だった。麗奈らしくない感じがした


健斗はふと麗奈に対する蟠りを思い出したが、それはもう気にしないことにした


だっていつまでも気にしてたら、身体がもたない……


ふとドアが開き、麗奈部屋に入ってきた


少々戸惑って健斗を見ている。何の用だろうか?


健斗を見ると麗奈はドアを閉めながら言ってきた


「ゴメン……寝てた?」


「……いや……どうしした?」


健斗は優しくそう訊き、ちょっと笑顔を見せた。麗奈に対する蟠りなんて消えていた。麗奈も軽く頷いて、ゆっくりと健斗に近づいてきた


「あの……今日ゴメンね……心配かけちゃって……雨降ってるのに、わざわざ探しに行かせちゃって」


「ああ……別に。早く晩飯が食いたかっただけだから」


と健斗が恥ずかしそうに顔を叛けながらそう言った。麗奈は少し笑ってくれた


何だか……それでも麗奈らしくないような気がしてやりにくかった。



しばらく気まずい雰囲気が、部屋の中を流れた


「あ、そうだ」


健斗は鞄からビニール袋に包まれた、ヒヨコまんじゅうを取り出した


「ほら、八百屋のおばさんがお前にだって」


健斗がそういうと麗奈はゆっくりとそれを受け取った


「……ありがと」


「もう自分の部屋に行けよ。全然気にしてないから」


と健斗が言うと、麗奈はちょっと戸惑っていた


まだ何か話したいことでもあるのだろうか?


健斗はしばらく麗奈を見ていた



「健斗くん……あの……」


「何だよ?」


健斗が聞くと麗奈はちょっと恥ずかしそうにためらっていた


健斗はちょっと苦笑いしながら言った


「何か……いつものお前らしくないんじゃない?あのウザイほどの元気さはどこ行ったんだよ」


健斗がそう言うと、麗奈はゆっくりと頷いた。


こんな風に普通に接してやる健斗だが、やはりちょっと気まずい気はした


すると麗奈の弱々しい目は強く輝きを取り戻すような目になった


「あの、ゴメンね」


「だから気にしてねぇって」


「違うの。あの……」


また麗奈は言い詰まった。麗奈が何を言おうとしているのか分かって健斗は真剣な表情を浮かべた


「昨日……あんなことしちゃって……ごめんなさい」


麗奈が頭を下げてきた。


本当に反省してるからこそだった。この能天気でおバカな麗奈が、頭を下げてくるなんて思ってもなかった


もうキスのことは怒ってなかったから、逆に可笑しさが込み上げてきた


しばらく沈黙が続いた。


「……それ」


健斗が指差しながら言うと、麗奈はふと顔を上げた


「ヒヨコまんじゅう分けてくれたら許してやるよ」


すると麗奈はヒヨコまんじゅうを見た。健斗はそれから頭をかきながら息を吐いた


「本当に怒ってない?」


また麗奈にそう訊かれて健斗はゆっくりとうなずいた


「別に、ファーストキスってわけじゃないし」


そう健斗が言うと、麗奈はすごく驚いたような表情を浮かべた


「健斗くん……意外とやるんだね……


「まぁな。ファーストキスが父さんだって知らなかったら、まだお前のこと怒ってたかもしんない」


「………」


「………」


麗奈は健斗の返事に唖然としていた。しばらく沈黙が続くと、麗奈が吹き出してきた


「プッ……クスクス……アハハハハハ♪」


「なぁに笑ってんだよバァカ」


健斗もつられて笑いながら麗奈に言った


麗奈は可笑しそうにお腹を押さえて笑っている


「アッハハハハ♪だって!!アハハ♪♪」


「笑い過ぎだよ」


こんな感じでしばらく二人は笑い合っていた。さっきまで感じていた二人の蟠りは完全になくなったような気がして、また全てが元通りになったような気がする




麗奈といつもどおりの関係になれたことに健斗はとても安心していた


「ふい〜っ……もう健斗くんっ」


麗奈は涙を拭きながらまだ笑っていた


「私本当に気にしてたんだからねっ!!健斗くんずっと怒ってると思ったから」


「いや……最初はあれだったけど、何かもうどうでもよくなったから」


健斗は頭を掻きながら恥ずかしそうに続けた


「たかだかキスされたくらいで……そんなに怒ることもないよな。だから、あのことはなしっ!!水に流すってことで」


健斗がそう言うと麗奈はふと笑顔を見せて、何も言わなかった


すると麗奈はゆっくりと健斗に近づいてきて、健斗のベッドに座った


「えっと……今日どうだった?」


「何が?」


「遊びに行ったんだろ?どこまで行ったんだよ」


健斗が聞くと、麗奈は思い出すように答えた。


「えっとね……神乃崎商店街を抜けた方まで。何か車道があって、そこの近くにあったファミレスでご飯食べてた」


「そっか……」


健斗がそんな風に言うと麗奈はさらに言ってきた


「ほとんどが結衣ちゃんの恋バナだったけど」


それを聞いて、健斗はまた違う心の痛みを覚えていた


「あっ……ゴメン……」


「いいよいいよ……俺はどうせフラレた身ですから……」


と健斗は深くため息をついた。すると麗奈が少し笑いながら言ってきた


「でも、結衣ちゃんまだ主将さんと付き合ってはないみたいだよ?」


それを聞いた瞬間、健斗は過剰に反応した


「マジでっ!?ヒロから付き合ってるって聞いたけど……」


「何か噂ではそうなってるみたい。でも本人は違うって言ってた」


「それって隠してるだけなんじゃねぇの?」


健斗が疑わしい目で見ると麗奈は首をかしげた


「さぁ……多分違うと思うけど」


「何で言い切れんだよ」


「だって結衣ちゃんって嘘つくような人に見える?」


健斗はそれを聞いて少し呆れた


「そうは見えないけど、人間そういうのは隠したいもんだろ」


「そうかなぁ?」


「お前だってそんな噂が学校中に広まってたら、嘘ついてでも否定するだろ?」


健斗はそう言ってからまた深くため息をついた


「事実を隠そうとするの?」


麗奈は首をかしげていた


「本当に好きなら堂々としてればいいじゃん」


健斗はそれを聞いてしばらく麗奈を見つめていた。それと同時に少し可笑しさが込み上げてきた


麗奈らしい考えと言えば、麗奈らしい考えである


「……あっ、そういえばさぁ」


麗奈が何かを思い出すかのように言ってきた。


「結衣ちゃんね、中学のときにすごく好きだった人がいたんだって。もしかしてそれって健斗くんのことじゃない?」


健斗はそれを聞いてふと心を沈めた


早川の好きだった人……か……


「それ……早川が話したのか?」


「マナが結衣ちゃんに付き合った人って何人くらいって訊いたら……そう言ってた」


「そっか」


「健斗くんじゃないの?」


健斗はゆっくりと首を横に振った


「俺じゃねぇよ」


健斗は麗奈から離れ、窓から外の景色を眺めていた


そんな健斗にまた大胆に近づいてきた


「何で?健斗くん知ってるの?」


「……知ってる」


健斗がそう言うと、麗奈は驚くように言ってきた


「ウソ〜?ね、誰々?もしかしてヒロくん?」


健斗は麗奈を見ずに空を見上げた


雨がしとしと降っていた……


「……翔だよ」


しばらく沈黙が続いた。健斗の言葉に麗奈の表情は、笑いから哀しみに変わっていた


雨の音だけが、聞こえる……


「……しょう……って、健斗くんの……」


健斗はゆっくりと頷いた。


「この前話したやつだよ。俺の親友……」


「……ゴメン……」


謝る麗奈を見て、健斗は笑いながら言った


「謝るなよ。別に悪いことしてないだろ?」


「でも……」


「お前がそんなしょげた顔すんじゃねぇよ、全然似合ってねぇ」


健斗はそう言いながら、麗奈の額を小突いた。


しばらく麗奈は何も言って来なかった


多分自分が容易に訊いてしまったことを後悔してるんだろう


まさか翔だとは思わなくって……


「……俺さ」


健斗は降り続ける雨を見ながら呟くように言った


「俺さ……今日、翔のことばかり思い出してた」


「え?」


健斗は笑いながら今でも翔の顔を浮かべていた


「時々そうなんだ。あいつが死んで、もう2年は経つのに……何回も思い出しちゃう……」


麗奈はふと健斗に訊ねた


「健斗くん……翔くんは自分のせいで死んだって言ってたよね?」


「……そうだよ」


「今でも?」


「……うん」


今でも思ってる


自分のせいで、翔は死んだんだって……


「翔を殺したのは……俺だよ」


健斗はそんな風に寂しそうに呟いた




翔を殺したのは……俺なんだ……




翔の家族は、今はこの神乃崎には住んでいない


この場所にいるのには耐えられない……だから引越すと言って、泣きながら引越してしまった……


俺が翔を殺したせいで、翔の家族の幸せも奪っちゃったんだ……



あの日から、たまに迷うときがある


強く生きようと決意した日から……


俺はこんな風に、普通の生活を送っててもいいのかって……


人の人生を奪った俺が、生きてる権利なんてあるのかって……


そう後悔することが多かった……


「もし過去に戻れるなら……俺はあの日に戻りたい……もしあの日をやり直せるなら、俺は……」


ふと麗奈を見ると、健斗は少し驚いてしまった


麗奈は泣き声をあげながら、泣いていたのだ。


「麗奈……?」


麗奈は涙を拭いながら、下をうつ向いていた。健斗は優しげな声色で麗奈に語りかけた


「バカ、何でお前が泣くんだよ。泣くなよ」


初めて見た麗奈の泣き顔……




するとだった……


突然麗奈が健斗に抱き締めてきた


健斗の胸に顔を埋め、押さえられない涙を流していた


健斗は訳が分からなかった……


一体何が起きているのか……理解するまでに時間がかかった


「お、おい……ど、どうしたんだよ」


意外にも冷静に麗奈に言う


けど麗奈はずっと泣いたままだった


心臓が高鳴る……顔も熱くなる


ヤバいってこれは……


「離れろって……麗奈」


けど麗奈は離そうとはしなかった



健斗は力づくで麗奈を止めようとはしなかったけど、かなり困惑していた


「……して……」


「……え……え?」


麗奈が何かを言ってるが上手く聞き取れなかった


「……どうして……?」


「な、何がだよ……」


こっちが訊きたいよ……どうして泣いてるんだよ


「どうして……そんなこと言うの?」


麗奈はグスグスと泣きながら、静かに続けた。


「みんな……みんな……哀しいんだよ?みんな、同じくらい哀しいんだよ?」


健斗はしばらく黙っていた


「みんな同じだよ……健斗くんだけじゃないよ……」


「麗奈……」


「みんな同じくらい哀しいのに……自分が殺しただなんて……言わないで……」


麗奈はさらに健斗の胸に顔を埋めた


しゃがれた声で健斗に言ってくる


「……過去をやり直したいだなんて……言わないで。そんな寂しいこと……言わないでよ……」


健斗は何も言えなかった……麗奈の暖かい気持ちが健斗に伝わってきた


すると麗奈はゆっくりと健斗から離れた


鼻ですすり、涙を拭う。しゃがれた声で、健斗に言った



「そんな健斗くん……私嫌だよ……」



麗奈の短い言葉で健斗は胸が暖まった気がした


嬉しかった……泣いている麗奈が……こんな俺のために泣いている麗奈に、感謝の気持ちでいっぱいになった


「ゴメン……」


麗奈は泣きながら、顔を赤らめて健斗の胸を指した


「ここ、濡らしちゃった」


「え……いや、大丈夫」


戸惑ってる健斗を見て、麗奈は可笑しそうに笑った


「えへ、ゴメンね。何か、健斗くんや結衣ちゃんがすごい辛い思いをしてるんだなぁって思ったら……何か急に悲しくって……」


「……そっか……」


するとふと麗奈は涙を拭いながら微笑んできた


「このことも、水に流して」


「え……あ、あぁ」


するとふと麗奈はベッドから降りて、ゆっくりと立ち上がった


「私……もう寝るね。おやすみ」


「あ、うん。おやすみ」


麗奈はゆっくりと部屋を出ていった。


出ていったあと健斗はしばらく唖然としていた


まだ身体中に麗奈の温もりが残っていた


そして泣いている麗奈の顔を思い出した


突然過ぎてびっくりした。けど、何だか救われたような気がした


翔が死んで2年経った……今初めて、心が軽くなった



すみません……また第4話のあらすじをちょこっと変えました




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