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グッラブ!  作者: 中川 健司
第4話 過去
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第4話 過去 P.4


健斗はちょっと憂鬱な気分のまま、バイト先であるRyuに向かっていた


最近何かと面白くない……いや、今までも面白くはなかったけど……何だか胸に大きな穴が空いたような気分だった


間接的とは言え、早川にフラレたようなもんだからなぁ……しかもヒロの話によると早川は付き合ってるらしいし……


あのときは麗奈のことで気を取られてたけど、やっぱりかなりショックだった


失恋ってこんなに儚いものなんだな……


ヒロが失恋したとき、かなりしょげてたけど……やっと気持ちが分かるような気がする



こんな気分のせいか、今朝もそうだったけど……頭の中には翔との思い出が蘇る


何で今更……って感じだ


自分でもよく分からない……



神乃崎商店街に入ると今日も賑やかだった


健斗は変わらないこの風景で気分を変えようとしていた


本当にいつ来ても、みんな元気そうだなぁ……



Ryuに着くと、健斗は自転車を止めてゆっくりと店の中へ入っていった


「いらっしゃ……おう健斗か」


「こんにちわっす」


店長が微笑みながら健斗に言ってきた。健斗は挨拶をするとため息をつきながら、鞄を机に置いた


今日は客が一人もいない……


「学校どうだった」


「……いつも以上につまらなかったです」


「いつも以上?」


店長は不思議そうな顔をした。健斗はちょっと苦笑すると、深くため息をついた


そんな健斗を見た店長は息を吐きながら、紅茶をついでくれた


「ほら、飲みなさい」


「あ……どうも」


健斗はカウンター席に座り、店長オリジナルブレンドの紅茶を頂いた


バイトなのにも関わらず、気前よく紅茶を出してくれる店長の優しさには、本当にいつも感謝していた


「学校で何かあったか?」


まるで父親のように語りかけてくる。健斗は一応頷いた


「まぁ……半分は……学校でちょっと……」


「半分は?」


健斗は少し戸惑っていた。この心のモヤモヤは多分……失恋したからだと思う


それは自分の中で一番の悩みだった


けど、麗奈のことも何故か気になっていた


ヒロの言うとおり、麗奈の話をろくに聞かず、感情的になりすぎたことに対して、一種の罪悪感らしきものを覚えてたからだ


確かにあんな軽い気持ちで麗奈は自分に対してキスをしてきたという事実に対しては、怒りを感じている


けど何故だか、やっぱし仲直りしたいという気持ちが徐々に湧いてくるというのもまた事実


素直になれば、果たしてどっちが本当の気持ちなのか


自分の中でよく分からない……失恋による悲しみ、安心感……麗奈による怒り、罪悪感……これらが自分の中で周り回っている


そういう複雑な心境なのだ


「……少し休んでていいぞ?今客来てないし。学校でちょっと疲れてるだろ?」


「え、いや……これ飲んだらすぐ手伝いますよ」


「いいさ。嫌なことあったら、紅茶を飲んで心を静かにしてごらん……そして嫌なことを振り返って、忘れるといい」


店長は静かにそう言って、カウンターからいなくなり店の奥へと入っていった


一人になった健斗は店長の優しさに感謝しながら、ぼーっとしていた


少し目を瞑り……心を落ち着かせようとした……









翔が早川のことを好きだと聞いてから……翔はよく早川といた


同じ委員会だからかもしれないけれど、それでもよくいっしょにいた。


放課後……翔はちょくちょく部活に来なくなった


理由は……委員会の係りの仕事を終わらせないといけないから……


けど、健斗は部活が終わったあと教室を覗いてみると……早川と楽しそうに会話している翔がいた


翔はサッカーを捨て、早川を選んだんだと……自分の中でそう解釈した


それは翔に対して怒りを感じ、そして……



悔しかった



健斗は翔といる時間はなくなってしまったかのように、翔と話すことが少なくなってしまった


「……翔は……サッカー辞めんのかな」


「何で」


昼飯を食いながら、ヒロにそう話した


いつもはここに翔がいたんだけど……あいつと顔を合わせたくなくって、教室抜け出して中庭で食べていた


ヒロは翔が変わったことに気がついているようで、けど気にはしてなかった


「最近あいつ……早川結衣とべったりだから……サッカー部にもこないし……」


「委員会の……んぐっ、仕事だろ?仕方ねぇよ」


と弁当のおかずを飲み込みながら、ヒロはそう言った


「仕事が終わればまた部活に来るって。サッカー大好き少年のあいつが辞めるわけねぇだろ」


「……どうかな」


健斗はそんなこと思えなかった……委員会の仕事が終わったとしても……永遠に翔はサッカーをしないような気がしてならなかった


「お前が思ってるほど、翔は変わってないよ。つーかお前だって女の子と関わり持てば?」


「嫌だ。俺はサッカーで忙しいんだよ……女なんかとイチャイチャする暇ねぇもん」


「か〜っ……硬派なやつ」


とヒロは若干呆れていた。健斗は顔を叛けた


「まぁ、好きな女の子には男は夢中になるもんだよ。お前だって好きな人出来たら、そうとう夢中になるんじゃね?」


「サッカーより夢中になるもんなんてねぇよ」


「ったく……お前と翔はいつもサッカーだな」


「翔はチゲーよ。翔はサッカーより女だ」


「あっそうですか」




そんなつまらない日々が続いた


相変わらず翔はちょくちょく来ない……いつも活気溢れていたように見えたサッカー部は健斗だけには、ただの球遊びにしか見えなかった


翔といつも、二人組を組んで基礎練をやる


けど今は翔じゃなく、後輩が相手……


翔のDFは最強だった……


でもゲームで健斗と張り合えるやつはいなかった……


本気で自分もサッカーを辞めようかと思った


翔のいないサッカーがこんなにもつまらないとは思ってなかった




そんなある日のことだった


休み時間、移動教室のあとのことだった


健斗は教室を出て廊下を歩いていた


すると前から早川が女の子たちと歩いてくるのが見えて、健斗はなるべく早川を見ないように歩いた


が、しかしだった。早川は健斗を見ると微笑みながら突然話しかけてきた


「山中くん」


健斗は立ち止まると早川を見た


早川は友達を先に教室に戻らせていた


「何」


健斗は低い声で、早川にそう言った


すると早川は笑いながら言った


「これ、図書室に忘れてたよ。はい」


と言って渡してきたのは、国語のノートだった


健斗はそれを受け取るとゆっくりと頷いた


「……サンキュ」


「ううん。山中くんのノート、綺麗だね?ちょっと見ちゃった」


その綺麗とは字が綺麗ってことなのだろうか……つーか人のノート勝手に見るなよな


「山中くんって、クールだから字も綺麗そうだしね」


「人の性格と字って関係すんのかよ」


健斗がそう言うと早川はちょっと考えていた


「どう……かな?あまり関係はしなそうかな」


と早川がクスクス笑っているが健斗はため息をついた


「ねぇ、山中くんってさ……翔くんと仲良いよね?」


早川の突然の問いかけに健斗は少し不機嫌になった


「だったら?」


早川は少し恥ずかしそうにして、顔を赤らめていた。そんな仕草も可愛いく見えたけど、不機嫌だったから何も思わなかった


「翔くんって、サッカー部ではどんな人なのかな?」


「は?」


訳の分からない質問に健斗は声を上げた


「ほら、翔くんって普段はすごく優しいんだ……すごくすごく……でも翔くん、サッカーやってるとどんな感じなのかな〜って……ちょっと思っただけ。ゴメンね、気にしないで」


と早川はゆっくりと微笑んできた


健斗はそんな早川を見て、目を合わすことを止めた


早川の言う通り、翔は普段は温厚で優しいし、強い人間だ。けどサッカーのときはさらに強くてかっこいい……そんな雰囲気を漂わせる



「知らねぇ。別にあいつと仲良いわけじゃないし……それにあいつサッカー部辞めんだから知っても仕方ないんじゃない」


健斗がそう言うと、早川は少し驚いていた


「翔くんサッカー部辞めるの!?どうして?」


「……翔に聞けば。俺トイレ行くから」



健斗はそう言うと、早川を通り過ぎてゆっくりと歩いていった


振り返ると早川は去っていく健斗を見つめていた


健斗はそれを見ると顔を叛けて、それ以上何もしなかった……





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