第4話 過去 P.3
健斗の不機嫌さは1日中直りはしなかった
ヒロに話しかけられても無視をした
麗奈と顔を合わそうとか話そうとかしたりしない
早川ともいっしょに弁当は食べず、健斗は一人屋上へ行き、みんなを避けた
健斗は屋上で空を眺めていた
やはり……久しぶりの一人ぼっちはいいものだった。最近は麗奈に付きまとわれて、一人になる時間は少なかった
常に誰かといっしょにいるという生活を送っていた……
だからたまにはこういう一人も気持ちいいものだった
誰にも邪魔されずに一人の時間をゆったりと過ごすのが大好きだった
けどなんだろう……この胸に感じる違和感は……妙に切ないような気がしてきた
健斗は戸惑いながらも屋上のドアを見た
いつもなら、いつの間にか……本当にいつの間にか麗奈はここにいる
いつもいつの間にかついてきて、色んな話をしていた
あいつがこの町に来て……もう1ヶ月近く経つ。
最初はあいつ……俺が面倒臭くって授業をサボって寝てたら、いつの間にかいっしょに寝ていた。びっくりして、いきなり可笑しそうに笑い始めた
訳が分からなかった
そしたらあいつ……こんな俺を野良猫みたいで羨ましいって
そして自分はただの飼い猫だって……
訳が分からなかったけど……
そして次はまたいつの間にか付きまとわれていて、ここであいつの母さんの話をしてきた。
そして早川がサッカー部主将のことが好きだって聞いて……落ち込んでた俺にキスしてきた
第一あいつがわざわざキスなんかしなければ、こんな面倒臭いことにはならなかったのに……
健斗は深くため息をつきながら、何かをふと待っていた
麗奈……今日は来ないんだな……
そんなことを思って、はっとした
何を考えてるんだよ俺は……今あいつと喧嘩中だろ?
健斗はまたため息をつくと空を眺めた
あいつが本当に訳が分からない
あいつって、本当は何を考えてるんだろうな?
色んな麗奈がいて、どれが本当の麗奈かわからなかった
何を考えているのか、麗奈は何を考えているんだろう
ふとヒロの言葉を思い出した。そりゃ、少し言い過ぎたかもしれない……あいつ何か言おうとしてたけど……ちゃんと聞いてやることができなかった……
ただ感情的になりすぎて……麗奈を怒鳴りつけてしまった……
健斗は深くため息をついた
だんだん、麗奈と仲直りをしたいという気持ちが湧いてきてしまっているということを、知りたくはなかった
健斗は目を瞑り、モヤモヤを忘れるため眠りについた……
そして放課後になると、健斗はすぐに帰る準備をした
これからバイトだ……
憂鬱なのは、麗奈をどうするかだった
健斗はチラリと麗奈を見ると麗奈は相変わらず早川と佐藤といっしょに楽しそうに会話していた
元気がない様子なんてまったく見られない
やっぱし何も思ってないんじゃん
それが健斗を少し苛立せた
するとだった
「山中くん」
ふと早川と佐藤が健斗に近づいてきた。麗奈は遠くから健斗を見ている
「な、何?」
健斗が少し戸惑うように訊くと、早川がにっこりと微笑みながら言ってきた
「今日ね、私とマナ部活ないから、麗奈ちゃんといっしょに町に遊びに行こうと思うんだけど……いいかな?」
健斗はチラリと麗奈を見た。3秒間くらい目が合うと、健斗は目を剃らしてしまった
「うん。あぁ、いいよ。俺も今日バイトだし……」
「そうなんだ。じゃあ帰り私が責任持って送るから」
「あぁ。サンキューな。麗奈よろしく……じゃあ、じゃあな二人とも」
健斗はいそいそと鞄を持って、教室を出ていった。早川様々だった。気まずい雰囲気で帰るのを避けることが出来た
健斗は軽くガッツポーズをすると、昇降口まで向かった
麗奈はずっとそんな健斗の様子を見ていただけだった
本当はすぐに仲直りしたかった……けど健斗が自分を避けていることは分かっている
だから素直になれずにいた……
そんな気持ちに健斗は気づいているのか、わざと無視してるのか、それとも気づいていないのか……
麗奈には分からない……
「山中くん……やっぱり様子が変だったね……」
とマナが不思議そうに麗奈に言ってきた
麗奈は微笑みながらゆっくりと頷いた
「変な人だよね♪っていうか早くいこー♪」
「あ〜……ちょっと待ってて。私日誌先生に出してくるから」
と、結衣が日直日誌を持ってそう言ってきた。すると、マナは少し怪しげな目をして言った
「そんなこと言って……彼氏に会ってくるんじゃないの?」
マナがそう言うと、結衣は顔を赤くして必死になって答えた
「ち、違うよ。まだ松本さんとはまだそういう関係じゃないしっ」
「え〜?付き合ってないの〜?」
「……そのうち頑張るもんっ!!変な噂とか立てないでね」
結衣はそう言うと、さっさと恥ずかしそうに教室を出ていった
麗奈はちょっと嬉しいような、でもちょっと悔しい気持ちを感じていた
嬉しいっていうのは、まだ結衣がサッカー部の主将さんとは付き合ってないという事実……健斗くんにもまだチャンスはあるってことだ
で……多分悔しいっていうのは……
「……今日麗奈ちゃん、山中くんと話してないね?」
「え?」
マナが突然そんなことを言ってきて、麗奈は一瞬戸惑った
「そんなことないよ〜。今日朝とか話したし」
「え〜?麗奈ちゃん今朝はあの女好きときたんでしょ?」
ギクリ……多分女好きってヒロくんのことだ。
「う〜んっと……まぁちゃんと今日も話したし。ちょっと健斗くん最近落ち込んでるだけだからさ」
「そっかぁ……でも今日はびっくりしたよね?あの山中くんがだよ?あの山中くんが、今日真中に怒鳴ったんだから。本当にびっくりしたし」
「う……ん」
麗奈は苦笑した
多分、自分のことで話してたんだと思う
だから複雑な気持ちだった……
やっぱりまだ怒ってるんだ……
「私山中くんってもっと温厚な人だと思ってた〜」
「うん……いや、健斗くん、しょっちゅう怒鳴ったりしてるよ」
と麗奈がちょっと可笑しそうにそう言った
「私がちょっと好きなことするとまるで鬼みたいに怒るからねあの人」
「え〜?想像できないなぁ」
「健斗くん猫だから、普段は猫被ってるわけ」
麗奈がそんなこと言うと、マナは声を上げて笑った
「猫みたいって〜……確かに山中くんは猫っぽいよね♪」
とマナはそう言いながら笑っていた
麗奈も猫になった健斗を思い浮かべていた
今日健斗くんは、バイトかぁ……
早く仲直りしたいと思う
それは、麗奈の気持ちだった