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グッラブ!  作者: 中川 健司
第4話 過去
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第4話 過去

麗奈とのキス事件により健斗と麗奈は口もきかなければ、顔も合わさないという喧嘩をした


そんな健斗は、ふと翔との

「過去」を思い出す……



大雨の夜、麗奈の帰りが遅いことに健斗は徐々に不安を募らせていく


素直になれない気持ち……押さえられない気持ち……


そして……


麗奈はいったい?





朝になっても、健斗は麗奈と口を交わそうとも顔を合わそうともしなかった


麗奈も同じだったのか、健斗を見ると逃げるように健斗から離れていった


はっきり言ってどうでもよかった。麗奈の性格がよく分かったから……結局、あいつは人を弄ぶような性格の悪い女だったってことだ……


健斗はベッドから起き上がると、ゆっくりと着替えた


いつもより30分早く起きていた。どうやらまだ麗奈は起きていないようだ


それでいい。麗奈とは顔を合わせたくなかった。


健斗は音を立てないように階段を降りて居間に向かった


台所には母さんが起きていてコーヒーを飲みながら朝のニュースを見ていた


健斗に気がつくと驚くかのように口を開けた


「早いわね〜……どうかしたの?」


「いや……今日用事があるから」


健斗はそう言うと冷蔵庫から牛乳を取り出した。


「お弁当作ってないわよ〜?」


「いいよ。コンビニで買うから」


健斗はそう言うと、居間を後にした。洗面所で歯を磨くと、また自分の部屋へと上がった。


充電しておいたケータイを手にかけると、アドレス帳検索してヒロの名前を検索した


そしてヒロに電話をかけた。



しばらくするとヒロはすぐに電話に出てくれた。


「もひもぉ〜ひ……」


明らかに今起きたばかりの声色でヒロは電話に出た


そんなヒロに健斗は可笑しさが込み上げてきてしまって、ふっと笑った


「俺だけど」


「んだよ〜……麗奈ちゃんかと思った」


「んなわけねえだろ……」


「つーか何の用?……まだ30分くらいは寝れるんだけど……」


ヒロは迷惑そうにそう言ってきた


「あのさ、今日……麗奈といっしょに学校行ってくんない?」


「あ〜?……あ!?」


突然ヒロの声量がでかくなった。どうやら驚いているようだった


「何で!?俺が!?お前は!?」


「今日俺早くに学校行くからさ。麗奈頼むわ」


「あそう……ならいいけど!?」


ヒロにとってはとても嬉しいことだったんだと思う


快く了解してくれた


「じゃあ、8時に麗奈迎えに来といて。じゃあな」


「おう」


ヒロはご機嫌そうに電話を切った


多分今頃、あまりの嬉しさに動揺を隠せずにいるんだろうな



健斗はケータイをポケットに入れると、鞄を持ってまた階段を降りようとした


ふと立ち止まって麗奈の部屋を見た


……健斗はすぐに前を向いて、階段を一気に降りていった


「いってきます」


健斗はそう言うと家の戸を開けて、家を出ていった





本当は麗奈は起きていた。ベッドから起き上がって、窓から健斗の様子を覗いていた。自転車を家の塀の外まで運んでいる


さっきの健斗のヒロとの会話だって少し聞こえていた……


用事なんてないくせに……


麗奈を避けているのだ。


麗奈は自転車に股がって漕いでいく健斗を見て哀しい気持ちになった


「……健斗くん……」





自転車を漕ぎながら、健斗は憂鬱な気分になっていた


……これからどうしようか……


本当は用事なんて何もない。ただ麗奈と顔を合わせたくなかったから、早めに出ただけだった


特に何もすることなんてあるはずがない


こんなとき部活に入ってれば、朝練とか行ってるのにな……と健斗はため息をついていた。


でも例え翔のことが忘れられたとは言え、サッカー部には入れないよ


だって……憎き相手がサッカー部の主将だろ?


気になってサッカーを楽しめないよな……



健斗は自転車を漕ぎながら、空を見上げていた。今日も曇りだ……天気予報を見てなかったけど、今日雨降らないよな


どうして最近晴れないんだろう?


翔の大好きだった空……今でも翔は、この空のどこかで生きてるんだと思う


だから翔……最近元気じゃないのか?


ふと翔の顔を思い浮かべていた




教室に入るとまだ誰もいない。みんな朝練などに行ってるのだろうか……健斗はゆっくりと歩いて、自分の席に座った


そして、ため息をつくとそこからまた空を見上げた……




『健斗』


ふと呼び声がして、健斗は振り向いた。


中2の夏……半袖Yシャツにエナメルバッグをしょって、翔は健斗を呼んだ


「何ぼーっとしてんだよ。早く部活行こうぜ」


「分かってるよ」


健斗も歩き出して、グランドに向かった


と思ったら、また立ち止まってしまった


「何だよ」


翔はちょっと苛々するように言ってきた


「……あ……」


校舎の隅にある草むらから鳴き声がすると思ったら、そこに鳥の雛がいた


苦しんでるのか、鳴いている


健斗は手で拾ってあげると、翔が覗いてきた。


「……雛じゃん」


「そこに落ちてた」


健斗がそういうと、二人は近くにある一本の大きな木を見上げた


すると、木の頂上に鳥の巣が見えた


「あれか……」


健斗が呟くように言うと、翔が健斗の手から雛を取った


と思ったら、エナメルバッグを置いてヒョイヒョイとみるみるうちに、木を上っていった


そして翔はあっという間に頂上まで上るとゆっくりと巣を覗いた


そこには二匹の雛がいて、翔に向かって鳴いていた


「ほら」


翔はゆっくりと雛を巣に戻すと、雛はじゃれ合うようにそして喜び合うように鳴いていた。


「……お、健斗〜!!」

突然翔がすごい大きな声で叫んできた


「ちょっと来いよ〜!!」


「あ〜!?何で!?」


「いいから!!」


翔に言われるまま健斗もエナメルバッグを置いて木を早いペースで上っていった


そして頂上まで上ると翔は指指した。その方向を見ると……


その頂上からは、グランドを全体を見渡せながら広大な青い空が広がっていた


とっても広大な景色に、健斗は少し驚いていた


「スゲーな」


素直な気持ちを健斗は言葉にした


吹いてくる風が心地よかった……


「……俺さ、空好きなんだよな」


「え?」


翔はそう言いながら、空を見上げて笑っていた


「何か空ってさ色んな表情があって人間みたいで面白いよな。晴れてるときは笑ってて、曇りのときは落ち込んでて、雨のときは泣いている……何か、空見てるとこっちも同じ気分になるんだよな〜……」


健斗はそんな翔の言葉を聞いて、吹き出すように笑った


「んなっ!!何笑ってんだよっ」


翔は顔を赤らめて、怒鳴りながら言った


「別に……お前らしいなって思ってさ」


「何だよそれ」



俺らはそんなことを話しながら笑っていた


青い空に見守られながら……楽しくって、笑っていたんだ


お前は覚えてるか……?


こんとき俺は笑ったけどさ……そんな風に言うお前が、スゲーかっこよく見えてさ


お前といっしょに見た空が、スゲー好きになったんだ


お前らしい青い空が……お前の宝物だったように、俺の宝物になったんだ






「なぁお前さ……」


ある日の帰り道……翔は何を考えているのか、少し苦笑いをして言ってきた


「何だよ」


「……いや、あのさ……」


健斗は不思議そうな表情を浮かべた


すると、翔は顔を赤らめながら言ってきた


「好きな人とかいるか?」


「はぁっ!?」


突然何を言い出すのかと思ったら……


「いねぇよ。別に彼女とかいらねぇし」


そんなことよりもサッカーの練習をめいいっぱいして、絶対に全国大会に出場したい


女の子とイチャイチャしてる時間なんてなかった……


翔も当然そうだと思っていた。けど翔に少し違和感を感じて、健斗は少し驚いた


「お前……」


「ん?」


「好きな人いんの?」


健斗がそう訊いたとき、翔は少し戸惑っていた。もうそれだけで充分だった


「マジかよっ!?え!?誰々!?」


「お前ぜってぇ誰にも言わねぇか?」


「言わねぇよ。つーか聞いて欲しいんだろ!?」


健斗がそう言うと、翔は軽く舌打ちをした


「……同じクラスの早川」


「早川?……誰だっけ」


健斗は思い出そうとしたが無駄だった


翔は呆れるようにため息をついた


「お前って、本当に女の子興味ないのね」


「つーか誰?」


「あれだよほら……テニス部のさ……スゲー可愛い子」


健斗はそのテニス部の女を思い浮かべた


「……あぁ~……あの子か」

確かに、テニス部にめちゃくちゃ可愛い子がいた


健斗にとってもかなりタイプで、翔の好きになるのも分かった。でも健斗は早川のことなんてあんまり知らないし、正直興味は抱けなかった


健斗は空を見上げながら少し考えて言った


「あぁ……まぁ確かに可愛いけどな。少なくともうちの学校ではピカ一かも」


「当たり前だよ」


と翔がそう言うと健斗は首をかしげながら苦笑して言った


「まぁ、確かにめちゃくちゃ可愛いけどさあ……可愛いやつに限って裏がありそうだよな」


健斗がそういうと翔は口を尖らせながら言った


「早川はそんなやつじゃねぇよ」


「そうか~?可愛いやつは調子こいて色んな男と遊んでるかもよ?」

「お前はなんでそんなことしか言えないかな……」


翔は呆れ返っていた


まぁ、確かにそういう女ばかりではないとは分かってるけど


「ヒロが言ってた。女は男が思ってるよりも深い生き物だって」


「あいつだって色んな女と付き合ってんじゃん?」


「ヒロをそんな風に言うなよ。友達だろ」


「別に悪い意味で言ったわけじゃねぇよ。だったら人の好きな人を悪く言うなよ。それに……早川は……」


翔は少し憤りを感じながら健斗にそう言ってきた。途中言葉を詰まらせて、何かを考えているようだった


健斗はそんな翔を見て可笑しそうに笑った


「本気なんだな……」


「本気に決まってんだろ?……じゃないと好きになんねえよ」


翔が鼻で息を強く吐いた


健斗はそんな表情も、翔らしくって可笑しさで笑った


「ったくよ〜……まぁどうでもいいけど、サッカーへの熱意を忘れんじゃねぇぞ」


と健斗は言うと翔は笑いながら「当たり前だろ」と答えた










「……山中くん?」


健斗はふと呼ばれすぐに振り返ると、そこには早川が日直日誌らしきものを持って健斗の顔を覗き込むようにして呼びかけてきた


健斗は驚いて身体をビクッとさせた


「あ……お、おはよー……」


前まではまだ普通に話せるようになったのに……また逆戻りになってしまったような気がした


けどそんな健斗に何の気にもしないでにっこりと笑ってきた


「おはよー。今日早いんだね」


と言うと、鞄を自分の席に起きながらそう言ってきた


「まぁね……早川は?」


「私は今日日直だから♪」


と言って日誌日誌を見せてきた。そんな表情がめちゃくちゃ可愛いく思えた


「そっか……」


健斗はそう言うと、早川は日直日誌を机に置いた


健斗は早川を気にしつつ、チラチラ見ていた。


サッカー部の主将が好きだという早川……


麗奈は言ってたけど、早川はそうなんだよな……


ふと麗奈の名前と共にあのキスをした感触が思い浮かべいた


健斗はブンブンと頭を揺らした




「昨日……」


早川は自分の席に座りながら健斗にそう言ってきた


「昨日、麗奈ちゃんと何かあった?」


「え?」


早川はゆっくりと笑いながらそう健斗に言ってきた


「昨日ね、テニス部の体験で、麗奈ちゃんちょっと様子が変だったんだよね」


「……え……」


「なぁ〜んか、ほとんど上の空だったんだよねぇ……」


麗奈の意外な言葉に健斗は動揺を隠せなかった


そんな健斗を見ると早川はクスッと可笑しそうに笑ってきた


「やっぱり。何かあったんだ♪」


「いや……別に何もないよ」


健斗がそう言うと、早川また可笑しそうに笑っていた


「麗奈ちゃんと同じこと言ってるし」


健斗はそれ以上何も言えなかった……まさか早川に、麗奈とキスをしたなんて言えるはずかなかった


「……昨日麗奈とちょっと喧嘩した……そんだけだよ」


「喧嘩?」


早川は不思議そうに聞いてきた


「何か……麗奈が意味分かんねぇから俺がキレて。そしたらあいつ逆ギレしてさ」


早川はまた不思議そうに表情を浮かべた


「どういうこと?」


健斗はまたそれ以上何も言わなかった


早川はそんな健斗を見て笑いながら少しため息を吐いた


「よく分からないけど麗奈ちゃん、本当は健斗くんと仲直りしたいと思ってるんじゃないかな?健斗くんもね?」


「……そんなことねぇよ。あんなやつ」


健斗はプイッと顔を剃らすと、早川はクスクスと笑っていた


「素直じゃないんだから」


早川のそんな言葉を、健斗は聞かないような振りをして顔を叛けた……



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