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グッラブ!  作者: 中川 健司
第3話 想い
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第3話 想い P.9

「ふぁ〜……」


朝から大きな欠伸を後ろから聞きながら、健斗はいつもの一本道を自転車で漕いでいた。麗奈がさっきからもう10回は欠伸をしていた


「欠伸し過ぎだろ」


健斗はちょっと呆れたように後ろを振り返ってそう言った


麗奈は眠そうに目を擦りながら言い返してきた


「だって眠いんだもん〜……身体中筋肉痛だし……」


「慣れないことをやるからだろ……ったく……ちゃんと後先考えろよな」


どうやら麗奈の疲れはまだとれていないようだった。まぁ、無理はないと思う


健斗も中学校から畑仕事を手伝ったが、最初のときは麗奈と同じようになったのをよく覚えていた


簡単に疲れが取れるような仕事じゃないのだ。なのにいつもこいつは、後先を考えないから……


それに……


「昨日お前1日中寝てただろ」


健斗がそう言うと、麗奈はむっとした感じで言い返した


「1日中じゃないよ。午前中だけじゃん」


「とにかく。そんだけ寝たんなら大丈夫だろ?もうちょいしゃんとしろよ、しゃんと」


「そんなこと言ったって……眠い……」


ふと背中に、暖かい感触を覚えた。後ろを振り返ると麗奈が健斗にもたれかかるようにしているのが見えた


「ちょ……麗奈。もたれかかんなよ」


健斗は恥ずかしそうにそう言ったが、麗奈はもたれかかるのを止めなかった


多分……眠ってるんだと思う


「……あ〜っ……」


健斗はイライラするように唸った。こうなったら、もうどうしようもない……もたれかかれるのは嫌だけど、健斗は我慢しながらひたすら漕いで行った











「おはよー」


健斗と麗奈が校門の辺りまで来ると、ふと後ろから声がして、健斗と麗奈は振り返った


すると佐藤が走りながら健斗たちに手を振っているのが見えた


「おふぁ〜よ〜……」


「おはよー……って、麗奈ちゃん、どうしたっ!?」


佐藤は麗奈の表情を見るなり、驚くように固まった


「生気が感じられないよっ!?」


佐藤がそんなことを言ってると、健斗はため息をつきながら答えた


「こいつ、一昨日畑仕事を手伝って、全身筋肉痛なんだって」


「ふぅ〜ん……大変だったね?」


と佐藤が苦笑しながらそう言った


「もう疲れたよぉ〜……(泣)」


まったく……東京者は貧弱過ぎるよな……


「お前、先佐藤と教室行ってろよ」


「うん……ありがと〜……」


麗奈はフラフラしながら佐藤と共に教室へ向かった。最後までその様子を見て、健斗は次第に可笑しさが込み上げてきて、一人笑ってしまった


そして健斗は自転車を駐車場へと運んで行った……






結局昨日も、早川にはメールを送ることはできなかった。あんなに決意した結果がこれだ。どんな内容を送ろうかから迷ってしまう


こんな自分に腹立たしくなった。


つーかメールすら普通に送れない自分って一体……麗奈の言う通り、超奥手なタイプなんだって改めて実感してしまったとき、悲しくて物が言えなかった


でも、ぶっちゃけるとそうなるのは目に見えていた。だってあまり女の子とメールなんてしたことがないから……


ヒロが言っていた。男慣れしてる女の子は、まずメールをしてて楽しいかで、恋愛対象として見極めるって。本当にそうなのか?と疑問に思ったが、あながちそうだとも思えた


もちろん早川が男慣れなどという品のない言い方はないと思っている


でも少なくても、女の子ってそうじゃないかな?


やっぱり面白くない男の子より、面白い男の方がいいだろ?



けれどもちろんそんなに急ぐ必要はないことくらい、よく分かっていた


別に、そんなに急がなくても……でも急いでるわけじゃなかった……


ただ純粋にもっと仲良くなりたいという素直な気持ちが、ただ健斗を焦らせているのかもしれない


それに、昨日ふと思ったことがあった


ヒロが一昨日、麗奈は好きな人はいるのかと聞いてきた


それに対して、健斗は確信していないと答えた。

それはヒロを安心させるためでも何でもない。ただ麗奈はまだたった2週間余りしか経っていないから……


実はこの2週間で麗奈に対して薄々感じたことがあった




だが、早川はどうなんだろう?


この学校に入学してすでに1ヶ月以上経っている早川は、好きな人……とかいるのだろうか



あまり考えたくない


つーか、いないで欲しい……


でも早川はあのルックスであの性格だ


もし早川が好きじゃないとしても、早川自体を好きな人がいるかもしれない……


それで早川も惹かれて……次第に俺なんか相手にされなくなる……



健斗はその考えを捨てるように、頭をブンブンと揺らした


何でいつもこう消極的な考えしかできないかな俺は……


俺だって男だ、いざとなったら早川を奪い取ってやるっ!!


「ま、あのサッカー部の主将とかだったら勝目なんてなさそうだけど」


と、一人でそんなことを思って笑っていた


予鈴が鳴ったのを見て、健斗は少し急いで昇降口へ向かおうとした



……と、するとだった……


校門を見ると、人生史上最悪な光景をこの目に写してしまった……


信じたくないけど、見てしまったのだ


健斗はあまりに驚きでそこでたたずんでいた


校門から、早川が歩いてきたのが見えたのだ。けど……その横には……


あの、サッカー部の主将がいた……


相変わらず爽やかさを放っていて、背も高く、速水もこみち並みのイケメン……


その主将が、早川といっしょに歩いて、楽しそうに笑っていた


早川も頬を赤くして、主将と楽しそうに会話をしていた


他人から見れば、他人から見れば……あれは幸せそうな、校内一のベストカップルに見えた


すると、サッカー部主将は、早川に手を振りながら2年、3年専用の昇降口に……早川は嬉しそうに笑うと1年専用の昇降口へと入っていった


最初は夢じゃないかと思った……


多分、よく似た人が主将と歩いていただけだと思った


けど、本鈴が鳴っても、健斗は教室に行こうとはしなかった












「ふぁ〜……う〜ん……」


1時間目……麗奈は未だに眠そうに欠伸をして、机に伏せるように眠ろうとした。


国語の時間、芥川龍之介の代表作である「羅生門」。何て言うか、つまらない小説だ……


「……ん?」


麗奈は健斗を見ると、健斗は何とも言えない雰囲気を漂わせていた。


健斗も机に伏せながら、ぼーっと景色を眺めていた


間違いなく、落ち込んでいるというのが分かった


「……健斗くん?」


麗奈が健斗の様子を見て、不思議そうに話しかけきた


しかし健斗は反応しなかった


「何か……あった?」


「……何にもないよ……何にもないよ……見てねぇよ俺は」


「……健斗くん?泣いてるの?」


麗奈はちょっと笑いながらそう言った


「分かった。結衣ちゃんと何かあったんでしょ?」


麗奈は可笑しそうにそう言った。図星をつかれた健斗は何も言わず、麗奈を見た


麗奈はそんな健斗を見て、ゆっくりため息をついた


「……俺ってさ、魅力ねぇ意気地なしで、どうしようもないくそったれな女々しいやつだよな……」


「な、何?」


麗奈は少し引き気味で健斗を見た


健斗はそれ以上何も言わなかった


そのかわり、ふと早川を見る


何事もないように、早川は真面目に授業を受けていた


早川は……早川は本当にあの主将が好きなのかな……


あの主将と付き合っているのか?




健斗はそれ以上、考えるのをやめた。


もう何にも考えたくなかったから、ただ早川を見ていただけだった。




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