第3話 想い P.7
ふと自分で気づいたんですけど、第3話の題名「想い」ってぴったりです
この「想い」というのは決して早川への想いだけじゃなく、ちょこちょこ気にする麗奈への素直じゃない想いや、健斗の言っていた「あの日」への「想い」とか、他にも色んな「想い」をここで感じてるんですよね〜……
あ、それとユニークアクセス数が5000人を越えました
本当にありがとうございます
毎日400人以上の人が読んでくれているわけです
なのに……感想や評価が一件しかないのは何故?
もし疑問に思ったことやアドバイス、気に入らない部分があればぜひ書いてください
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励みになりますので、どうかよろしくお願いします
「いらっしゃい」
店に客が入ってくると店長が声をかけた
制服を着た健斗は、入ってくる客に席を喫煙席と禁煙席かを訊く
つーか……この店に入ってくるのはほとんど知り合いだった
商店街のおばさん、おじさん……
「あら健ちゃんこんにちわ」
「いらっしゃいおばさん」
「まぁ、あんたが着るとこの制服もかっこいいわね」
おばさんが健斗の背中を叩きながら笑った
それを聞いて店長はコーヒーを入れながら苦笑して言った
「おいおい、そりゃうちの制服はダサいと言いたいのかい」
「アハハ。どうかしらね〜」
「タバコ吸うよねおばさん。あの席にどうぞ。何頼みます?」
「あらどうも。暖かいレモンティーお願いね」
「はい。店長、ホットのレモンティー、1つ」
「はいよ」
店長は笑いながら、コーヒーをカウンター席に出す
「健斗、カフェモカ二つ入ったぞ」
「はい」
健斗は店長からコーヒーを受け取ると、ゆっくりと溢さないように小さい女の子を連れた若い夫婦にコーヒーを運んだ
「カフェモカです。暑いので気をつけてください」
若い夫婦はお礼を言いながら、健斗に笑いかけた
どっちも知らない人だ……けど女の人がゆっくりとわらいかけてきた
「いつもご苦労様」
「ありがとうございます」
「いいとこだね〜ここ」
と、男の人が見渡しながらそう言ってきた
健斗は一回お辞儀をすると、連れの女の子を見た
健斗をじ〜っと見ていた
「こんにちわ」
健斗が微笑みながらそう言うと、女の子はペコッと頭を下げた
「お名前何て言うの?」
健斗がその女の子に訊くと、女の子はまだ慣れてない喋り方でゆっくりと話した
「きりしまれい」
「れいちゃんか……」
健斗はそう呟くと、女の人ににっこりと微笑んだ
「可愛いですね。何歳ですか?」
健斗が訊くと、女の人がその女の子を撫でながら答えた
「3歳です」
「へぇ〜……あ、れいちゃんこれあげるね」
と言って健斗は制服のポケットから飴を取り出し、れいちゃんにあげた
「ありがと」
健斗はにっこりと笑って、れいちゃんの頭を撫でてやった
ふと店長から呼びかける声がした
「健斗、ホットドッグとアメリカン入ったぞ」
健斗は振り向き、返事をした
この店で働き始め、まだ約二ヶ月程度……高校に入る前の春休みから、店長からのお誘いで働いていた
幼いころから、この店は大好きだった。店長は人が良くて、とても居心地のよい場所だとずっと感じていた
店長は健斗の事情を知っていた。高校ではサッカーを止めると聞いたとき、もしよかったらここで働いてみないかと心良く誘ってくれたのだ
本当に感謝していた
いつか恩返しをしたいと思っている。血は繋がってはいないけど、もう一人の父親だ
健斗はふと手を止めた……
ゆっくりと目を閉じてあの日の後悔を身にしみていた
「健斗」
ふと店長に呼ばれて健斗はまた振り返った
「ほら、ナポリタンだ。摘まみ食いするなよ?」
「しませんよ」
健斗は笑うとまた仕事に戻っていった
それから時は経ち、客足も少なくなっていたころだった
知り合いのおじさんたちと笑いながら話していた。
「健斗」
店長に呼ばれ健斗は振り返った。店長は皿を拭きながら言った
「今日はもう上がっていいぞ?」
健斗は時計を見た。時計は五時半少し過ぎていた
「いいんですか?」
「あぁ。そろそろ客足も少なくなってきたしな。麗奈ちゃん一人にさせるのも寂しいだろ」
さすがは店長だった。何て言うか……人の心を見透かすような人だった
「じゃあ俺先上がります」
と言って、健斗は店の奥へと進み、また制服を着替えた
着替え終わると、とりあえず店長の元に行く
「明日は定休日で……火曜日空いてるか?」
「あ、はい」
「じゃあ火曜日にまた来てくれ」
「はい。じゃあ先に失礼します」
健斗はお辞儀をして、さらにおじさんたちにもお辞儀をして、店を後にした
商店街は人が減っていた。昼よりは活気が少なくなっている。中にはもう店を閉めるとこもあった
何だか寂しいような気分になりながらも健斗は自転車に股がって、活気の少ない商店街を通っていった……
帰り道の一本道、色んな想いを健斗は背負っていた
時折、店長の言葉を思い浮かべる。
麗奈の寂しい表情の裏には何か過去に辛い思い出があるのだろうか……もしそうなら、自分にはよく分かる
俺だって同じだ。
麗奈は心の底からちゃんと笑えてるのだろうか……すごく気になった。
また、健斗はあの日のことを振り返っていた。
……もしあの日、いつもの平常な日々だったのなら、俺は今とは違う生活を送っていたのかな……
大好きなサッカーを続けて、あいつといっしょに……
ふと寂しい想いになり、健斗は自転車を止めた
また思い出してしまった。一人になり、こんな風に夕暮れのような寂しい雰囲気になるといつもこんな風になってしまう
あの日が来なければよかったのに……神様っていうのは、残酷なものだと思う。
幸せな日々を送る人と不幸な日々を送る人とで分けるんだから……
健斗は再び、自転車を漕ぎ始めた。唇を噛み締めながら、寂しさに堪えていた
それから10分程度、漕いでいると家が見えてきた
目を凝らすと、誰かが家の目の前から走ってくる。
あれは麗奈だ……次第に麗奈は健斗に近づいてきた。
はっきり見えたとき、健斗はびっくりして思わず自転車を止めてしまった。そしてゆっくりと自転車から降りた
「お帰りっ!!」
「お前っ……」
健斗は麗奈の恰好をよく目を凝らして見た
麦藁帽子を被っていて、白いTシャツと青い短パンは泥まみれになっていた。手や足……顔も泥まみれで、いつもの綺麗になびく栗色の髪はところどころ跳ねていて、ボサボサになっていた
「お前、どうしたんだよっ!!ドロドロじゃんか」
健斗が驚きを隠せないまま訊いてみたが、麗奈は嬉しそうに微笑んでいた
「今日ね、お父さんといっしょに畑仕事を手伝ったんだ。すっごく楽しかったよ♪」
と言って子供みたいにはしゃいでいた。
健斗は納得するようにため息をついた
健斗の家には確かに畑がある。家から1kmくらい離れた山の中にだ。
そこには野菜畑などがあり、この季節は畑を耕して種を撒く時期だった。
麗奈のドロドロな姿からして、相当頑張ったんだと思う……
本当に……変わってると思う
「ったく……まぁお疲れさま」
「健斗くんもね。……あっ、もうすぐご飯だよ。早く家に帰ろ」
と言って、麗奈は微笑むと楽しそうに家に戻ろうとした
健斗はその笑顔を見て、少し寂しくなってしまった
だから、ふと口から出た言葉があった……
「麗奈……」
健斗が呼ぶと、麗奈は足を止めて振り返った。そしてにっこりと笑った
「どしたの?」
健斗は目を合わせず呟くように訊いた
「お前……さ、今……楽しいか?」
「え?」
麗奈はキョトンとして、健斗を見つめた。不思議そうな表情を浮かべていた
「どしたの急に?」
麗奈は可笑しそうに笑ったけど、健斗は笑わず、苦悶の表情を浮かべていた
麗奈はそんな健斗を見つめて、またにっこりと微笑んだ
「うんっ!!すごく楽しいよ!?毎日がスッゴク」
その麗奈の言葉を聞いて、少し安心するように口元が自然と緩んだ
「そっか……ならいいや」
健斗はそう言い頷くとまたゆっくりと自転車を押していった
麗奈はそんな健斗の表情を見て少し心配するように訊いてきた
「何かあったの?」
「いや、別に」
健斗は何も言わず、ゆっくりと家まで自転車を押しながら麗奈と並んで帰っていった
自転車を庭へ置くと、深くため息を吐いて家の中へと入っていった。
すると、突然びっくりしてしまった……
何と玄関に泥だらけの足を濡れタオルで拭いてる、泥だらけ汗まみれのヒロがいたからである
ヒロは健斗を見ると声をかけてきた
「よっす。バイトお疲れ」
「何でいるんだよ……」
健斗がそういうとヒロは顔をしかめた
「失礼だな〜。麗奈ちゃんのベッドやタンスや机を運んだの誰だと思う?」
なるほど、と健斗は納得した
「悪かったな。サンキュー」
「分かればよろしい」
ヒロはそう頷くと、また足を丁寧に拭き始めた
「畑仕事だったのか」
「そっ。麗奈ちゃんといっしょにな」
ヒロん家の畑は、隣だからな……
「そっか……風呂入ってけよ」
「そうさせてもらうわ。サンキュー」
健斗は振り返って、麗奈に言った
「お前も足を拭いて、先風呂入れよ」
健斗がそういうと麗奈はゆっくりと頷いた
「分かったぁ」
「言っとくけどちゃんと拭けよ?」
「分かってるって」
すると奥から母さんが水の入った洗面器とタオルを持って玄関までやってきた
「あら、お帰り」
「ただいま」
母さんはそう言うと、麗奈に笑いかけた
「麗奈ちゃんこれで足拭いてね。あとヒロくん今日はありがとうね?」
「いや、これくらいいいっすよ。長い付き合いじゃないですか」
とヒロは愉快そうに笑った。母さんはクスッと笑うと微笑みながら言った
「よかったらご飯食べてく?もうすぐだから」
「マジっすか?じゃあいただきます」
健斗としては何の悪い気はしなかった。別にヒロだし……何の問題もない。
健斗は靴を脱いで、自分の部屋へ戻り、息を吐きながらベッドに横になった
今日も疲れたなぁ〜……ケータイを見る。メールは一件もない……
健斗はケータイを放り投げ、ゆっくりと目を閉じた
それから麗奈、ヒロ、健斗の順番で風呂に入り、結局飯を食うのは7時半になっていた
今日はヒロも加わったということで、焼肉だった
「焼肉久しぶりっす」
とヒロはルンルン気分で肉を食っていた
「今日お前部活なかったのか?」
健斗も肉を食いながら、ヒロに話しかけた
ヒロは肉の旨味を充分に感じながらゆっくりと頷いた
「んあぁ……今日は定休日だからな」
「そっか」
「今日は畑仕事をやれって親から言われててさ、お前もいんのかな?って思ったら麗奈ちゃんだけでちょっとびっくりした」
「こいつちゃんと出来てたか?」
健斗はちょっとバカにするような感じで言った
「失礼なっ!!私は私なりで頑張ったもん」
「でも、何回も転んでたよな」
とヒロは可笑しそうに笑った。それを聞いて、父さんも母さんも健斗も吹き出して笑った。
「鍬を使ったことがないらしくて、最初はすごく危なっかしかったよ」
「ちょっとヒロくん〜……恥ずかしいから言わないでよ」
と言って、麗奈は恥ずかそうに頬を赤くして、膨らませていた
「かっかっか。でも、麗奈ちゃん頑張ってたよな」
と父さんがビールを飲みながら笑ってそう言った
「明日は筋肉痛になるぞ〜?」
「あ〜確かに……もう身体中がガッタガタですぅ」
と言って、足とかを自分で触っていた
確かに、きっと明日は筋肉痛でほとんど動けないと思う
畑仕事って思うより大変だから……
「でもスイカが楽しみです」
と麗奈は嬉しそうに笑った
健斗ん家の畑は、スイカや人参、じゃがいもなどを育てている
特に夏はスイカがメインだった。夏には出来るスイカを冷たい川で冷やして食べるのがたまらない
夏の楽しみの一つだった
「じゃあスイカを頑張って育てろよ」
と健斗は笑いながらそう言った
「健斗くんも手伝ってよ」
「分かってるよ」
「今日バイトどうだった?」
母さんがご飯を口にしながら訊いてきた
「今日は……いつもより人が多かった」
「そう。結構繁盛してるのね竜平さんも」
「まぁね」
そんなことを話しながら、健斗たちは夕食を楽しんだ
何か分からないけど……いつも以上に楽しい夕食だった
けど健斗は複雑な想いだった。本当に色んな想いが飛び交っていて、自分でもよく分からない……変な気分だった。