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グッラブ!  作者: 中川 健司
第3話 想い
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第3話 想い P.6

健斗は鼻歌を歌いながら、神乃崎商店街へと自転車のまま入っていった。


いつも賑やかだここは……相変わらず、今日も活気である


途中八百屋のおじさんや、魚屋のおばさんなどと挨拶を交わしながら、健斗は奥の方へと進んでいった



そして、とある喫茶店の前に自転車を止めた。ここが、健斗の働いてる喫茶店だ


「カフェレストランRyu」


これがこの喫茶店の名前だ。少し洒落た喫茶店で、ここの店長とは昔からながらの付き合いである


健斗は自転車を邪魔にならないように端に置くと、欠伸をしながら中へ入った


「ちわ〜す」


挨拶しながら中に入ると、中々賑やかな声が飛び交っていた


客も結構入ってて、家族連れや友達同士などが多かった


「あら健ちゃん」


入ってすぐ目の前席から、おばさんが話しかけてきた


もちろん知り合いだ。商店街の……


「こんにちわっす」


「今日もバイト?」


「ええ……まぁ」


「偉いわね〜」


と言いながら、おばさんはタバコをふかし、灰皿にトンッと灰を捨てた


「店長はどこか知ってますか?」


健斗が聞くと、おばさんは少し首をかしげた


「多分……あ、ほらカウンター席にいるわよ」


健斗はお礼を言うと、カウンター席に近づいた。


確かにそこには白いちょび髭を生やした50歳くらいのおじさんが、カウンター席の机をふいていた


健斗が近づくのに気がついて、店長はにっこりと笑った


「おう来たか」


「こんにちわっす」


健斗は挨拶をすると、鞄をカウンター席に置いた


この人がこの店の店長で、梶本竜平かしもとりゅうへいさん。年齢は今年で51歳、ちゃんと家族もいて、15年前からこの店を営んでいる。健斗とも幼いからの知り合いで、よくこの店に来たものだ。白いちょび髭を顎と鼻の下に生やしてるのが特徴的だ


「悪かったな。今日はちょっと忙しくなりそうなんだ」


店員は苦笑しながら言った


「いや、もう落ち着いてきたんで大丈夫です」


「そうか。何か食うか?食ってきてないんだろ?」


と店長は小さなオープンキッチンへと足を運んだ


健斗は恐縮そうに席に座った


「いつもすんません」


「何、これくらい……何食べる?」


「じゃあ……ナポリタンで」


健斗がそう言うと、店長は髭を寄せて笑った


「好きだなぁナポリタン」


「店長のは大好物です。昔から変わらないもんですから、店長の味は」


「ハッハッハ」


と店長は声を上げながら笑った


健斗は店を見渡した


「今日は結構いますね」


「だろ?特に学生が増えてきたよ」


と言って、店長は指指した。確かにその方向には、学生がいた


多分、神乃高の人だ。でも顔は知らない。


学生の多くは勉強をしていた


「こうやって、彼らの勉強してる姿を見るのもいいものだ」


と言って、店長は軽く笑った


「どうだ最近。その女の子……えっと……」


「麗奈です」


「ああ、そうだ。如何せん、最近物忘れが酷くなってきたよ」


「そんな、まだそんな歳じゃないでしょ」


健斗は可笑しそうに笑った。


「まぁな……しかしなんだ。見てみたいものだな〜……可愛いのか?」


健斗は少し苦笑いをした。


「う〜ん……可愛いことは可愛いんですけど……」


健斗は出された水を頂いた。ゆっくりと口に運ぶ。ふとあの可愛いらしい麗奈の笑顔を思い浮かべていた


「でも、何を考えてるのかまったく分からないようなやつです」


と健斗はそう言った。すると、店長は笑いながらナポリタンを健斗に出してきた


「女なんてそんなもんさ。逆にまたしかり……ってな。それが面白いんじゃないか」


「そうっすかね?……でも、結構意外な面もあるんですよね」


健斗は出されたナポリタンをフォークを使って丁寧に食べた


うん……マジで美味い。


店長は少し興味が湧いたのか、健斗にその話について聞いてきた


健斗はナポリタンを食べながら、今までの麗奈のことを話した


特に、あの自転車のことを詳しく店長に話した。


全てを聞いた店長はお皿を拭きながら、感心するように言ってきた。


「いい子じゃないか」


「まぁ……でも、あいつはあいつなりに、色々考えてるんだなって思うと……何かスゲー申し訳ない気がしました」


「お前らしいな」


「でも、まだ麗奈のことよく分からないんですよね」


健斗はそう言いながらため息をついた


「あいつ、たまに寂しい表情をするんですよね。今はそれが気になってるんです」


あの寂しそうな表情には何が隠れてるのか……何を考えてるのか、それがずっと気になっていた


店長はしばらく黙り込んでいると、不意に訊いてきた


「その子、東京から来たんだっけ?」


「ええ……まぁ」


「色々あったんじゃないか?前の学校とか、家族の間でとか」


その言葉に、健斗は残り少ないナポリタンを食べる手をとめた


「色々って?」


「さぁ?色々だよ。もしかしたら、その頃麗奈ちゃんにとって辛いことがあったのかもしれん」


「あいつに?」


健斗が聞き返すと店長は手際良くコップや皿を拭いていく


「人間は誰しもそうさ。過去に何か辛いことを経験した人間は、その傷が癒えるまで心の底から笑えなくなったりする。それを、一生気にしていく人間だっているんだ」


健斗は麗奈の顔を浮かべた……たまにあいつは、寂しそうな表情を浮かべたり、苦笑したり……でもほとんどは笑っている


その笑顔は……麗奈の本当の笑顔なのだろうか?


麗奈は毎日、心の底から笑っているのだろうか……健斗はそれが気になって仕方がなかった


「……まぁ仮にそうだったとしたら、麗奈ちゃんの傷をを癒してあげるのは、お前だぞ」


店長はそう言いながら、笑いかけた


「人は人に助けられるもんなんだからな」


健斗は少し首をかしげた。店長の言ってる言葉は全部正しいと思う。けど……それが想像できなかったのだ


本当に麗奈は……


「それに……」


店長はしばらく手を止めた。そして、健斗を見つめて静かに言った


「お前だって、そうだろう?」





健斗はその言葉を聞いて、思考を停止した。何も考えたくなかった。今何かを考えると、あの日のことが思い出されてしまうからだった。その代わり、残り少ないナポリタンを一気に口に運び、水を飲み干した


「ごちそうさまっ」


健斗は皿を店長に渡すと、ゆっくりと立ち上がった


「俺、着替えてきます」


健斗はそう言うと、鞄を持って店の奥へと歩いていった


店の奥で、健斗はポロシャツに手をかけて手を止めた


あの日……少しでも忘れようとした自分がいた。自分の人生の中で最も悲しい日だったと思う。思い出したくない。思い出したくない。そうやって弱くなるのはいつも自分ひとりだった。


そんな自分が少し嫌だった……健斗はむしゃくしゃし、ポロシャツを一気に脱いだ……





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