第3話 想い P.5
それからしばらくが経ち、約束時間の15分くらい過ぎたときに、健斗たちのもとに母さんと父さんが戻ってきた
特に大きな荷物とかはなく、父さんが右手に袋を持っていた
「すまんすまん。待ってたか?」
父さんがそう訊いてきた。でも健斗はそんなことは気にせず、別のことを訊いた
「机は?あとベッドやタンスとか……」
すると母さんがよっこらせと座りながら答えた
「机はもう車。ベッドやタンスとかは、運んでくれるって」
「ふぅ〜ん……」
「腹減ったか?何か食うか」
と父さんが麗奈に訊いた。すると母さんがすぐに健斗を見た
「あんたはどうするの?」
「俺は……あっちで多分食うと思う」
「あらそう。麗奈ちゃんはどうする?」
母さんも麗奈に訊いてきた。麗奈は少し微笑みながら答えた
「私も、お家に帰ってからでいいです」
「そう。じゃあ、帰りましょっか」
と母さんが言ったので、健斗たちはフードコーナーを後にした
そして健斗たちは駐車場に戻り、今度は麗奈が真ん中、健斗が左端。そして最初から乗っていたゴンタは右端だった。
ゴンタは麗奈が乗ってくるにすぐに甘えてきて、麗奈はゴンタの頭をゆっくりと撫でてやった
健斗はその様子を見て、可笑しさが込み上げてきた
机は確かに車のトランクの中に置かれていた。かなりギリギリの状態で……この車が軽自動車じゃなく、ヴァンで本当によかったと思う……
そして、山中家の車は駐車場をあとにして、また一時間をかけて神乃崎に戻るのだ
「麗奈ちゃんどんな服買ったの?」
母さんが助手席からそう訊いてきた。麗奈は躊躇うこともなく笑って答えた
「ワンピです」
と言って、母さんに例のワンピを渡した。母さんは例のワンピを受け取り、袋から出すと口に手を当てて感嘆するように言った
「素敵っ!!夏にはいいわね〜?デート用にもパーティー用にも使えそうね?」
「はいっ。でもちょっと派手じゃないですか?」
麗奈がそんなことを訊くと、母さんは首を横に振った
「全然いいわよ。きっと似合うと思うわ」
健斗は母さんの言葉を聞いて、うんうんと頷いた。
麗奈は照れながら、クスクスと笑っていた
「健斗くん」
「ん?」
麗奈が突然、健斗に話しかけてきた
「このワンピ、健斗くんとデート用にするからね」
「はっ!?何で……」
「だって〜、初めて男の子と買った服だもん。何かいい記念じゃん?」
と無邪気に笑う麗奈を見て、健斗はため息をつくしかなかった
「別に大した記念じゃねぇだろ」
つーかさっきの言葉は本気かよ……
健斗はもたれかかるように、座席を少し低くした。なんか……こいつに付き合わされたら、疲れてしまった
健斗はゆっくりと目を閉じて、しばらくの間目を閉じた……
夢を見た。
あれは寝ていても分かる。夢だった
健斗は家の近くの川原で寝そべって、空を見ていた。
するとだった。遠くから声が聞こえた
「健斗く〜ん!!」
ふと声のする方を見ると、そこには麦藁帽子を被り、白いワンピースを来た小学校に上がる前くらいの小さな女の子が、健斗に手を振っていた
そしてだんだんと近づいてくると、それは……見覚えのある女の子になっていた
健斗は驚いて跳ね起きてしまった
「れい……!?」
「健斗くんってば〜」
健斗はゆっくりと目を開けた。目の前にはいつもの麗奈の顔があった。困った表情を浮かべて呆れていた
「もう。家に着いたよ。早く起きなよ」
「あ……うん」
健斗は少し頭がぼやーとしていたが、ゆっくりと頷いて、車から降りた
確かに目の前には我が家がある。健斗はう〜んっと背を伸ばした
「健斗」
ふと父さんに呼ばて、健斗は振り向いた
「もうバイトに行かんとまずいか?」
健斗はケータイをポケットから取り出し時間を確認した
「うん……でも別にいいよ」
健斗がそう言うと、父さんは謙譲するように言った
「いやいいよ。帰ってからで」
「分かった」
健斗は家に入り、自分の部屋へと向かった。そして、そこの喫茶店の制服一式を、クローゼットの中から取り出し、少し洒落た鞄の中に入れた
そして、髪型を整え鞄を持って、また外へと出た
自転車を塀の外まで運び、自転車に股がると麗奈が近づいてきた
「あ〜あ、健斗くんいなくなると暇だな」
と麗奈はつまらなそうにわざと声をあげて言った。その様子が可笑しくって、健斗は軽く微笑んだ
「残念だったな。まぁ6時くらいには帰るから」
健斗はそう言い、自転車を漕ぎ始めて商店街へと向かった
「いってらっしゃ〜い」
麗奈が手を振りながらそう言うのを聞いて、健斗は何も言わず手を挙げてそれに応えた
少し暑い、真昼間の中、風が心地よいのを充分感じながら、健斗はいつもの道を漕いでいた
川の流れる音が健斗の心を癒すようだった
……ふと、さっきの夢を思い出した
あの小さな女の子……多分あれは間違いなく麗奈だと思う
確かに、あんな子に前会ったことのあるようなそんな気がしていた。それにしても、未だに驚いている
麗奈とは前々から接点があっただなんて……
それを知らなかった自分が少し悲しかった……
「あんなやつと……なぁ」
健斗は深くため息をついた。
そして久しぶりに乗る一人での自転車を、ただ長い一本道を漕いでいた