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グッラブ!  作者: 中川 健司
第3話 想い
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第3話 想い P.4

「ありがとうございました~」


店員からのお決まりの挨拶をされ、健斗と麗奈は店を後にした


麗奈はご機嫌そうに、ビニール袋に入れたさっきのワンピを持っていた。


健斗はその様子を、見つめながら麗奈の一個後ろで離れて歩いていた


ったく……バカみたいにはしゃぎやがってって感じだ……



でも……本当は未だにドキドキしていた


早川とは違う、胸の高鳴りだった。


また、麗奈に対し嫌悪感も抱いていた……


何が俺とのデート用だよ……バカにしやがって……


「健斗くん」


麗奈は不意に振り返ってきた


「何だよ」


「これからどこか行く?」


「……いや、俺はお前についていくだけだし」


「そっか。じゃあ、これから本屋行こうよ」


「……何で?」


「教科書。買いたいからさ」


健斗は納得するように頷くとケータイの時計を見た。そして見てかなりびっくりした


もう11時だ。あんなところに、1時間以上もいたのかと思うと驚きだった


「健斗くん?」


「ん?あ、ああ。分かってるよ」


健斗は麗奈と並んで再び歩き始めた。


このショッピングモールにはもちろん本屋はある。書店が5階に……健斗たちはエスカレーターで5階に行くつもりだった


「ねぇねぇ」


「ん~?」


麗奈を見ると麗奈は少し照れながら健斗に言ってきた


「私もね、男の子と買い物するの初めてなんだよ」


「……だから?」


「初めてが健斗くんだなんて、ちょっと複雑ぅ~」


と麗奈は少し不満そうに健斗に言ってきた


その表情を見て、健斗はふんっと顔を剃らした


「俺で悪かったな」


健斗がそんな風に言うと、麗奈はクスッと笑った


「冗談だよぉ~。健斗くんでよかったなぁ」


と健斗の背中を叩いてきた。健斗は背中を擦りながら、少し顔をしかめた


「絶対お前付き合った人1人って嘘だろ」


健斗がそういうと麗奈は不思議そうに訊いてきた


「どうして?」


「そんな風には見えない……」


よくいるじゃないか。軽い女として見られたくないから、自分の本性を隠すようなやつ……


「嘘じゃないって。っていうか私そんなに軽そう?」

「さぁな……じゃあそいつどういうやつだったんだ?」


健斗がそんなことを訊くと、麗奈は少し考えるような仕草を見せてきた


「そうだなぁ~……分かんない」


と言ってえへへっと笑った。健斗はそれを聞いて、鼻でため息を吐いた


「やっぱし嘘なんじゃねぇかよ」


「だって本当に好きな人のことなんて分からないものでしょ?」


と麗奈がにっこりと笑ってきた。


「そうかあ?」


「そうだよ。健斗くんは結衣ちゃんをどんな人だと思ってる?」


麗奈はエスカレーターに乗りながら、そんなことを訊いてきた。健斗はそれを聞いて、少し考えた


早川が……どんな人か?そりゃあ……優しくって……可愛いくて……性格のいい人……


だけど、それは本当に早川というそのものなのだろうか?


もっと俺の知らないところにひょっとしたら早川がいるのかもしれない


そう思うと分からない……


「ね?分からないでしょ?」


エスカレーターをさらに上っていく。麗奈は笑いながら穏やかに言った


「人はね、その人を本当に好きなった理由も、何も分からないもんなんだよ。なのに人は人を好きになるの」


「……よく分かんねぇ」


健斗は麗奈の言っていることが本当に理解できなかった


けど、何か上から物を言われてるみたいで少し嫌悪感を感じた


「健斗くんにはまだ早いかぁ」


「うるせぇ。お前だってたかが一人なんだろ」


健斗はそう言ったけども、健斗を見下すようにフフンと笑った


そして5階に着くと、すぐ目の前には書店があった。


「予約してるんだけど……どこで受け取るのかな?」


健斗にそう訊いてきた


「控えみたいのは持ってるの?」


麗奈は財布からそれらしきものを持っていた。控えとレシートだった


「それをレジに出せばいいんだよ」


健斗は麗奈にそう促すと、麗奈は健斗に言われるままレジへと向かった……










麗奈はどうやら前払いをしたようだった。レジに出すとすぐに教科書が積み上げられた


サインをして、紙袋に入れられた教科書を麗奈は持とうとした


けど、知ってる?教科書って束になると意外に重いんだぜ?


女の子の麗奈には持ち上げるのがやっとで歩くことはままらなかった


健斗はため息をつくと、麗奈の教科書を持ってやった


「わぁ、力持ちっ!!」


「てめぇが非力なんだよ」


と健斗はそう言い捨てると、さっさと書店を後にした


時計を見ると11時10分だった。別に行くとこなんてないし、フードコーナーに行くか……


「麗奈、もう行くとこないんだろ?」


「うん」


「じゃあもうフードコーナー行くぞ」

と言って、健斗はさらにエスカレーターに乗った。





あの日以来、健斗と麗奈は少しずつ距離が縮まっていた。


そして日常にも変化が起こった。健斗は麗奈を名前で呼ぶようになっていた


自発的に呼んだわけじゃない。あのとき、ついつい興奮して麗奈を名前で呼んだことから、麗奈は自分のことを名前で呼んで欲しいと言い始めたのだ


「名前で呼んでくれないなら、私だって“山中くん”って呼んじゃうからねっ」


と訳の分からないことを言ってきた


でも最初は拒否した


名前で呼び合うなんて、付き合ってるって誤解がさらに進んでしまう


だから絶対呼びたくない……


けど、麗奈はしつこかった。健斗が名前で呼ばないといちいち口を出してきた


仕方がないから、みんなの前では大森で、二人や家では名前で呼ぶことにしようとしたのだが……


何だか麗奈と言う名前が案外呼びやすいことに気がついてしまい、最近じゃまったく気にすることなく名前で呼ぶようになってしまった



ヒロや早川、佐藤は最初二人が付き合い始めたんじゃないかって怪しんできた


けど健斗が熱心に事情を説明することで、何とか誤解は解いていた。


早川に誤解されたまんまだなんて、死んでも死にきれないからだ


でも早川はにっこりと笑って納得した。本当に優しい子だと思う……


佐藤は未だに怪しんでる。ヒロは信じたくないみたいだ


でもあいつだって麗奈のこと名前で呼んでるよな?




それから、麗奈とは関係ないのだが、この前めちゃくちゃ嬉しいことがあった


何と……早川のメルアドと番号をゲットしてしまったのだ!!



時を遡ること二日前……弁当の時間……きっかけはヒロの言葉だった


「ねぇ麗奈ちゃん」


ヒロは弁当を食べながら麗奈に話しかけた


「なぁに?」


相変わらず甘い声で麗奈は答える


「あのさ、俺とメルアド交換しない?」


健斗はそれを聞いて、軽く息がつまりむせてしまった


びっくりしたのだ。とんでもないアッタクだなぁと思った……


でも麗奈は能天気に、頷いた


「うん。いいよ〜♪」


「麗奈……やめとけ。あとで後悔するぞ」


と麗奈に言うと、ヒロは顔をしかめた


「あ、ねぇ、みんなでメルアド交換しようよ♪」


と佐藤がこれぞ名案だと言わんばかり、そう言ってきた


すると早川もそれに賛成するように急にテンションが上がった


「いいね〜、私ヒロ君のは知ってるけど、山中くんの知らなかった♪」


「え……」


「山中くん教えてもらってもいい?」


健斗は早川の笑顔に戸惑っていた。


あまりに突然の喜劇に、動揺を隠せなかったのだ




何度夢見たことだろう……早川のメルアドをゲットすることを……それが、それがついに叶ったのだ


健斗はあまりの喜びに我を忘れていた


だからそれ以上のことは覚えてない……










健斗たちは、7階のフードコーナーに向かった。フードコーナーは少し混んでいる。当然だろう。けど、いくつか席は空いてるから、健斗は四人席に座った。


「……少しまだ時間あるな~」


健斗はケータイを見ながらそう言った


「何か食べる?」


健斗は麗奈の言葉を聞いて少し考えていた。多分、母さんがここに集合をかけたのはご飯を食べるためだと思う。


だからちょっと早めに食べても、別にいいか……


でも……


「俺はいいや。お前何か食ってこいよ」

健斗はそう言うと、麗奈は首を横に振った


「健斗くん食べないんなら、私もいいや」


「そっか?俺は、バイト先で食うからいらないだけだぞ?」


健斗がそう言うと、麗奈は少し戸惑いながら言った


「今日バイトなんだ」


「今日から……またな」


「でも最近、バイト出てなかったみたいだね」


麗奈がそう言うと、健斗はゆっくりと頷いた。そして何も言わずにゆっくりと立ち上がった


「何か飲むか?」


「うん」


「何飲む?」


「じゃあ私は……クリームソーダ」


と言って、麗奈はファーストフード店を指して言った


健斗は了解すると、そのファーストフード店へと向かった……










「ほらよ」

クリームソーダを買って健斗は一つ麗奈に渡した


何か……スゲーオレラ付き合ってるみたい……周りからもそう思われてんのかな?


「ありがと。おごってもらっちゃった」


「別に」


「ねぇ、健斗くん今日からまたバイト行くんだよね?」


「あぁ。今までは、店長に休みをもらってたんだ」


健斗がそう言うと、麗奈は不思議そうな表情を浮かべた


「お前が居候に来て、何かと色々あるだろ?とりあえず落ち着くまでって……店長に事情話したら、すんなりオッケーされた」


「そっかぁ……」


「別にお前のためじゃねぇし。気にすんなよ」


と健斗はクリームソーダを飲みながらそう言った


「お前は昼から何か予定でもあんのか?」


健斗が訊くと、麗奈もクリームソーダを飲みながら首を横に振った


「そっか……暇だな」


「うん。何しよっかなぁ……」


「早川らと約束でもしたら?」


「結衣ちゃんもマナも、今日は昼から夕方まで部活だって」


「じゃあヒロは?」


「健斗くんいないと無理だよ~……」


と麗奈は寂しそうな表情を浮かべた


「……まぁ、今日は俺バイト6時までだから……相手してやれないから」


「別に相手してもらわなくってもいいもん」


と麗奈は子供みたいに顔を剃らした。健斗はそれを見て可笑しそうにクスッと笑った。


「部活やったら?」


「……う~ん……」


「まだ悩んでんの?」


健斗が聞くと、麗奈は少し答えたくなさそうな表情を浮かべた


「だってさぁ……」


「気にすることないって。母さんも言ってただろ?高校生活なんて一度しかないんだから……自分のやりたいことをやれよ」


「……健斗くんは部活には入らないの?」


麗奈にそう聞かれて、健斗は甘いクリームソーダの堪能しながら答えた。


「ん~……まぁな」


「え~?何だかもったいなくない?」


「別に他にやりたいこととかねぇもん」


麗奈はそれを聞いて、ふぅ~んと言いながら、健斗と同じようにクリームソーダを飲んだ。アイスクリームが溶けて、メロンソーダの部分が黄緑色に染まった。


「健斗くんはサッカーやってたんだよね?」


麗奈にそう聞かれたとき、健斗はピクッと眉をひそめた。


「……それが何?」


麗奈は少し苦悶の表情を浮かべて悩んでるようだった。


「高校ではサッカー部に入らないの?」


麗奈にふとそう聞かれて、健斗はクリームソーダを飲む手を止めた


「……膝を痛めてるって嘘でしょ?」


「………」


健斗は何も答えなかった。その変わり、またクリームソーダを飲み始めた


「この前なんか言ってたじゃん。ちょっと事情あるって。事情って何?教えてよ~?」


「別にいいだろ?お前には関係ない。とにかく俺はサッカーは辞めたの」


麗奈はそれを聞くと、寂しそうな感じで言った


「……冷たいんだから」


「それよりもお前の話だろ。テニス部は?早川もいっしょだぞ」


健斗がそう言うと、麗奈は首をかしげた


「テニスやったことないもんなぁ」


「初心者歓迎らしいけど……」


「でもなぁ~」


健斗は悩んでいる麗奈を見て深く息を吐いた


「お前ちょっと悩み過ぎだろ?もっと楽観的に考えろよ。いつもみたいにさ」


「そうだな〜」


麗奈はまた考えるような仕草を見せた


別に深く考える必要なんてないのにな……と健斗はそう思った


でも、気持ちは分かるような気がした。部活ってスゲー悩むものだ。


俺は、もしあんなことがなかったら……迷わずサッカー部を選んでた。


でも、サッカー部を止めることを決めたとき、正直他の部活をやるかバイトがで悩んだ


でもサッカー以外に何かをやるだなんて……俺には考えられなかった


「何か……夢中になるものをやってけばいいさ……ゆっくり考えろよ」


健斗はそう言いながらまたクリームソーダを飲み始めた


麗奈はその言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた……


クリームソーダはすでにアイスが溶けて、メロンソーダと混ざっていた



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